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リアクション
「……う、ううん?」
ぐるぐる回る景色の中、衿栖は目が覚めた。
見渡す限りの湿原、濁った灰色の空に鼻を突く腐った臭い、遠く菩提樹……世界樹アガスティアが見える。
彼女ははっと息を飲む。そう、どこか見覚えのあるこの景色は、冥府ナラカの風景だ。
「ええと、たしかトリニティさんを追いかける途中で……そう、穴に落っこちたんでしたね……」
ふと、カレー臭が鼻をくすぐった。
見れば、湿原のまっただ中にテーブル。それを囲むように見覚えのある人物が座っている。
パープルとピンクの縞シャツを着た冥王【ガネーシャ・マハラシュトラ】。
間違いなくカレーが入っているだろう寸胴鍋をかき混ぜている。
そして、白猿大将【ハヌマーン・ヴァーユ】。
何故だか野球帽をかぶって、若干イライラしている。
それから、龍王【タクシャカ・ナーガラージャ】だ。
筆者の気がたしかなら、本編でサックリ死んだ気がするが……何故か、ここでは十二単を着て色気を振りまいている。
「さっさと座らんか、小娘。何をボーッとしている」
いきなり言われ、衿栖は戸惑った。
「え、ええと、その……この集まりはなんなんですか?」
「見てわからんとは愚かな娘だ。このチェシャ猫の主催するマッドカレーパーティーに決まっておるだろうが」
「ま、マッドカレーパーティー!?」
マッドティーパーティーなら聞いたことはあるが、カレーパーティーとはなんとも高カロリーな集いである。
「……って言うか、チェシャ猫!? ガネーシャさんですよね??」
「何を言っておる。このパープル&ピンクな出で立ち、どう見てもかわゆいチェシャ猫であろう」
長い鼻をぶらぶらさせる様は、完全に象である……が、面倒なのでスルーしよう。
不思議の国に迷い込んだアリスさながら、ナラカの国に迷い込んだエリスは流されるまま席に着いた。
とそこへ先ほどのウサ耳トリニティがやってきた。
「来たか」
「遅れてしまい、まことに申し訳ございません。つきましては、また日をあらためましてお詫びに参ります」
「相変わらずかた苦しいヤツめ……。いいから座れ」
「クソ……」
ポツリとハヌマーンがこぼした。
「なんで今回、こんな設定なんだよ。帽子屋ってなんなんだよ、どう言うキャラなんだよ」
「黙れ、イカレ帽子屋」
「誰がイカレ帽子屋だ、このカマ野郎!」
帽子を地面に叩き付け、テーブルに足をかけると、タクシャカをビシィと指差す。
「大体、テメーこそなんだそのふざけた格好は!」
「今日のわらわは三月兎役じゃ。三月と言えば女子の祭典、ひな祭り、着物姿もよぉく似合うとるじゃろう?」
「どこが女子だボケッ! つか、テメーもキャラ設定よくわかってねぇじゃねぇか!」
「原作自体、どんな話なのかよくわからんし、登場人物のキャラもサッパリじゃ。アレンジしても支障あるまい」
まぁ筆者もよく覚えてないし。
「……まぁ設定はさておくとして、死んだヤツが普通に出てくるってのは問題あるんじゃねぇのかよ!?」
「お主のような不人気キャラと違って、わらわは死して尚出演オファーが来る人気者なのじゃよ」
「ハァ!? 人気ありますぅー! シボラシナリオでもネタで使われましたー、どこに目ぇ付けてやがる!」
テーブルの上でバチバチと火花が散る。
胸ぐらを掴み合う両雄……しかし、先に怒りを爆発させたのは、他ならぬガネーシャだった。
「この無礼者どもがぁ! 黙ってメシのひとつも喰えんのかぁ!!」
「うるせー、デブ! テメーともいつか決着着けなきゃと思ってたんだ、上等だ、コラァ!」
「本編では雌雄を決すること叶わなかったが、ちょうどよい機会じゃ。場外乱闘で白黒ハッキリさせようかえ?」
「図に乗るな、ゴミどもが!」
衿栖は殺気剥き出しの3人に戦慄しつつ、平然とカレーを食べているトリニティに声をかけた。
彼女はカレーは全部混ぜてからとんかつソースをかけて食べる派らしく若干食べ方が汚い。
「あ、あの……どうしましょう? 止めたほうがいいんでしょうか……?」
「申し訳ありませんが、今日はトリニティではなく白兎役ですので、荒事はNGでございます」
「さ、さっきから皆さん、設定がとかなんなんですかぁ……??」
「天からの注文でございます」
その時である。どこからともなく飛んできた黒い波動が、テーブルを粉々に吹き飛ばした。
「きゃあああああ!!!」
悲鳴を上げる衿栖。開戦寸前だった3人も目をパチクリ。
巻き起こる土煙の向こう、ゴーストナイトをずらり従え、あらわれたのは縦ロールの地雷女。
「……まったく、あなたがたがウダウダしてると、わたくしの登場シーンがなかなか来ないじゃありませんの!」
そう。滅びの森の女王【カーリー・ユーガ】である。
その時、ふと衿栖は気付いた。白兎に続き、チェシャ猫、イカレ帽子屋に三月兎、とくれば……。
「も、もしかして、カーリーさんが……ハートの女王さま!?」
「あら、よくご存知ですこと」
「あの、カーリーさんはハートの女王さまのキャラはご存知なんですか?」
「なにやら横暴な方と聞いてますわ。わたくしとは真逆のキャラですが、頑張って暴れさせて頂きますわね」
「真逆……?」
まこと自分のことほどよく見えないものである。
「貴様ァ……!」
ガネーシャはゆらりと立ち上がった。
ひっくり返った鍋を前に、瞳に燃えたぎる哀しみの炎、彼の念動力で大気が震え始める。
「ンマッ! なんですの、この安そうな食べ物は! わたくしの傍に原価の安い物は置かないで下さらない?」
「ものの価値もわからん虫けらがっ! 何日寝かせたと思っておる! 八つ裂きにしてカレーにしてやる……!!」
「あーら、神にも匹敵するわたくしに歯向かおうなんてナイス度胸ですわ」
「い、イヤな予感が……」
ジリっ……と後ずさる衿栖。
刹那、ぶつかりあうカタクリズムとナラカの闘技『大帰滅(マハープララヤ)』が全てを吹き飛ばす……!!
「いやあああああ!!!」