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リアクション
まくら
「さて、それではここでアピールタイムです。皆さんに自己アピールをお願いします!!」
真っ先に我に帰った、元司会者が声を張り上げる。
「さて一番手は乙川 七ッ音さんです!」
乙川がおずおずといった感じで進み出てくる。
「あ、えと、チーム、シンフォニアの乙川 七ッ音です。
私『クラリネットをこわしちゃった』を吹きますっ!」
手にしたクラリネットから、誰もが知る曲が流れ出す。本人はとにかく一生懸命で、周囲の様子まで気が回っていない感じだがそれがかえって初々しい。
「あの、皆さんは大切にしてくださいね。……楽器」
吹き終わると、もじもじしながら一礼して言う。そのさまがまた、少女っぽく可愛らしい。一途な少女系アイドルに、異様な熱気が一部男性から上がる。
「続くは久世 沙幸さんや」
日下部がのほほんとした声で続け、和服姿の久世が進み出る。
「チームさゆきち、久世 沙幸です! がんばりまーす!」
次の瞬間、来ていた和服を流れるような一動作で脱ぎ捨てると、会場からどよめきが上がる。和服の下は、現代パビリオンのセクシーなコンパニオンコスチュームだ。和装とは打って変わった元気のよさで、その場でくるっと一回転して見せる。日下部が感心したような声を出す。
「おおー、これは早変わり! 見事ですなー」
「あー、次はヴァーナー・ヴォネガットちゃんだ!」
龍牙が叫ぶ。ヴァーナーがチョコチョコと進み出る。
「えーっと〜。チーム、りらくぜ〜しょんのヴァーナー・ヴォネガットです〜。
みんながほんわかするようなゆるスターが、いろ〜んなキグルミを着たがる、かわいさの歌を歌います」
幼い少女といった雰囲気だが、さすが歌姫スキルを持つだけのことはある。
「……なんか幸せな気分になったぜ!」
歌が終わると龍牙が言い、ヴァーナーがにっこり笑って一礼した。
「こちらは打って変わって、大人の女の魅力いっぱいといった感じのネル・マイヤーズさんですね!」
元司会者が言うと、続いてネル・マイヤーズがすっと進み出た。スタイルのよさもさながら、成熟した大人の魅力も持ち合わせている。
「チーム名、お手柔らかにお願いします、の、ネル・マイヤーズです。
せっかくゲストに呼んでもらえたんだし、やるだけやってみます」
「うーん、アイドルなのに控えめですねー」
元司会者の言葉に、ネルは表情を曇らせ、ボソっと言った。
「アイドルは止めて。年齢を考えて頂戴」
「うーん、十分お若いと思いますが……」
それには答えずに、鍛え抜かれた肉体で、次々セクシーなポージングを披露するネル。会場は熱気に包まれた。
続いて進み出た若松。司会が何かする暇もなく、茅野瀬 衿栖(ちのせ・えりす)がマイクを奪い取った。
「皆さんこんにちわー!846プロの茅野瀬衿栖ですー!
今日は同じユニットの仲間で、私の親友! 若松 未散ちゃんのインタビューにやってきました!」
衿栖とそろいのフリル付きミニスカートのユニット衣装に身を包んだ若松が進み出る。
「皆さんこんにちは! 若松プロデュースの若松 未散です!」
若松の背後にはなぜか、ハル・オールストローム(はる・おーるすとろーむ)が控えている。ハルは一人考えていた。
(未散くんの晴れ舞台! わたくしが一生懸命応援しサポートしなければ!)
司会に取って代わった衿栖がインタビューを始めた。
「落語のネタはどんな場所で考えてるの? たとえば〜、部屋とか喫茶店とか?」
若松が答えるより早く、ハルがすかさず答える。
「未散くんはいつも自室でネタを考えていますぞ! お供のミルクティーはかかせませんな。
それでですな……」
長々と続くだらだらとした解説を聞きながら、根回しでさりげなく会場に入り込み、音響係として調整を行っていたレオン・カシミール(れおん・かしみーる)は、つぶやいた。
「ハルのヤツ……。気持ちは分からんでもないが暴走しすぎだ……」
延々と続きそうなハルのボソボソした呟きを衿栖がさえぎった。若松のほうへマイクを差し伸べる。
「えっと、ではですね、今後の芸能活動での目標は?」
気を取り直して進み出る若松を、またもさえぎり、ハルがぼそぼそと答える。
「それはもちろんパラミタ一の落語家でございます! 未散くんはですね……」
ぷっち〜〜ん。若松の中で何かが切れた。
「……てめえなに先に答えてんだよ! しかもつまんない回答を! せめてウケを狙えよ!」
叫ぶやハルにとび蹴りが炸裂する。ハルは前のめりに昏倒した。そのハルにつまずき、若松が盛大にこける。短いスカートがふわりと翻る。
「ナイスキック! って未散ちゃんいろんな意味であぶなーい!」
人形師でもある衿栖が人形を操りパンチラをすばやくガードする。一瞬見えたか見えないか。 ……呻くようなどよめきが会場を満たした。ここぞとばかりにレオンが、アナウンサーからマイクを借り受け、叫ぶ。
「K・O!! ハル・オールストローム退場!」
スタッフとともに、ひっくり返ったハルを舞台上から引っ張り出す。
「まったくお前は心配しすぎだ。これで少しは頭を冷やせ」
舞台にぶつけた額に、大きなこぶのできたハルを観客席最後列の床に転がすと、その額に保冷剤をべたりと貼り付けるレオン。合わせてさりげなく客席のチケットを、転がったハルの腹の上にぽんと置く。
「いい席を押さえてある。思う存分応援してやるといい」
舞台上では衿栖があわてて若松を助け起こして服を調えてやっていた。
「ええ、思ってもいないハプニングがありましたが……未散ちゃんありがとうございましたー!」
そう言ってインタビューを終了し、元司会者の手ににマイクは戻った。
「さて、ここで大喜利前のダイスゲームの時間です!
2つの特製ダイスを皆さんに転がしていただき、その枚数の座布団をゲットして大喜利に望んでもらいますっ!」
5人がおのおのダイスを転がすと、トータルの目数は久世は7、乙川は8、ネルが同じく8、ヴァーナー7、若松は5となった。
「続いて、各々のチーム出場者の皆さんの登場です!」
ここでどよめきが走った。圧倒的に若松プロデュースのメンバー人数が多いのである。
「これは……」
アナウンサーが絶句する。
「おい、未散のチームが多すぎるぞ! 勝てるわけないじゃないか!
ここは若松チームVSで協力チームで行くぞ!」
久世、乙川、ネル、ヴァーナーのチームメイトらが、そこまでしなくても、といった反応のリーダーたちを差し置いて結束、アナウンサーに何事か告げた。
「思いがけない事態となりました!
若松プロデュースに対抗して、4人のアイドルグループがチーム若草を結成しましたー!!」
「ちょーっと待ったー!!」
それを聞きつけたハルが観客席からこぶを抑えてよろよろと立ち上がり、わめく。
「それでは4名分VS1人の持ち座布団数で勝負がついてしまう!!!」
ずいと若松が立ち上がり、啖呵を切った。
「ならこのダイスゲームの座布団をチャラにすりゃいいじゃねえか。 どっちにしろそんな運任せは気に入らねえ。
芸人は芸人らしく本編の大喜利のみで勝負だ!!!」
おお〜っというどよめきが観客席を駆け抜ける。なんと男らしい! ……女だが。
「波乱万丈の幕開けとなりましたこの番組!! 今後の成り行きに目が離せません!!!
それではここでいったんCMを挟みます! チャンネルはそのままにお待ちください」
CMタイムの間に、ざまざまな打ち合わせが簡易に行われた。アシスタントや座布団係なども待機場所で出番を待つ。
生真面目まっすぐな石部金吉である藍澤 黎(あいざわ・れい)のパートナーで、黎とはある意味非常に対照的なあい じゃわ(あい・じゃわ)は、その小さなぬいぐるみのような外見を生かし、アシスタント兼番組マスコットになれないかと考えていた。
「いろいろお手伝いして、番組ますこっとになれるようがんばるですよー!」
「……我は裏方の仕事で忙しいであろうから、一人でがんばってくるのだぞ」
黎がじゃわの頭に軽く手を乗せる。
「あい じゃわは『ただのマスコット』だけど……一生懸命に頑張る気持ちはアイドルさんにも負けないのです!」
風森 望(かぜもり・のぞみ)は、また別な野望を持っていた。
(座布団になってアイドルに座られるのを目指そう!
……ロリっ娘アイドルさんもいたしな〜! みなぎってきたー!)
座布団収納場所の奥。座布団っぽい着ぐるみを着こみ、額に『豪華な粗品』と書いた紙を貼ると、ひっそりとうずくまって待機することにした。ここぞ、というタイミングで、まんまとアイドルの座布団になってやる。
神崎 輝(かんざき・ひかる)は座布団係として、大喜利の舞台を間近に見ながらお笑いの勉強をかねてこっそり目立てたら……。などと考えていた。本当は同じ846プロアイドルの若松、乙川とともに大喜利に参加しようとも思ってはいのだが、そちらには自分は力不足と感じたため、裏方とはいえ舞台上に上がることになるこの役割を選んだのであった。
(こっそり目立つには、やっぱり座布団運びの仕方の工夫だよね!)
積んである座布団を見つつ、思案に暮れる神崎である。
赤城 花音(あかぎ・かのん)のパートナー、リュート・アコーディア(りゅーと・あこーでぃあ)は、生真面目に挨拶をして回っていた。
「僕は座布団係を務めさせて頂きますリュート・アコーディアです。
宜しくお願い致します」
コンテストに落選した花音が、乙川の応援として大喜利に参加すると決めたことを知り、リュート自らは座布団係として応募、応援の大喜利には申 公豹(しん・こうひょう)をたきつけたのだった。
「コンテストの落選で、花音のショックは大きいでしょう。
ですが花音は 『心までは腐りたくない!』、と……。
我々としては現状でできうる、ベストの仕事を各々務めるべきです!」
「何ですか? ……私も大喜利とやらで答えろと?」
はじめはしぶっていた公豹だが、
「回答者は多いほうが良い? ……まったく強かな事を。
……仕方がありませんね。姫の徳は…… 私にも徳なのですから」
リュートの決意の程に、協力することにしたのであった。
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