First Previous |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
13 |
14 |
15 |
16 |
Next Last
リアクション
3――『入院している眼鏡の君と 〜異動(移動)、開始〜』
◆
カイナの絵は、着実に進んでいる。その間、沈黙を守っていたラナロックは少しずつではあるが、返事を返し始めていた。おそらく最初は、言葉もなかったのだろう。おそらく初めは、何も言う気などなかったのだろう。
しかし彼女は口を開いた。
「カイナさん……絵を描いてて、楽しい?」
「うん! すっごく楽しいぞ! だって上手にかけてるからな! 出来たらリャックにも見せてやるからな、もうちょっと待ってろよ!」
元気に返事を返したカイナは、しかしそこで静かに口を開いた。
「なぁ、リャック」
「……何かしら」
「初めて会ったとき、俺に言った事覚えてるか?」
「………」
再び彼女の返事は消える。
「『もっと早くに会ってたら――』リャック、そう言ったぞ」
「……えぇ、言ったわね」
「でもな――」
絵を描いているカイナの手は止まらない。
「でもな、それ、違うぞ」
「………」
「俺な、遊びたい時に遊ぶから、楽しいと思うんだ」
「…………」
「だからな、リャック。これだけは絶対に譲らないぞ。俺は好きな時に、リャックと遊ぶんだ」
「…………」
あぁ、そうなんだ。と、ラナロックはこのときに漸く気付く。自分の目の前で絵を描いている、カイナと言う存在に。
あぁ、そういう事か。と、彼女はしっかりとそこで、理解してしまった。そしてそれが故に、自身との隔たりを見出す。
それはもう、詰める事の出来ない壁であり、溝だった。だから彼女は自然、笑顔を浮かべる。自分は何故、目の前にいる彼女と同じ世界に生きているのか、と。何故自分は此処にいて、何故皆とであったのか、と。自問自答の類ではなく、それは完結している、いわば独白。
「だからリャック、そんな事言うな」
真っ白なのだ、と。自分にはない、自分には残されていない。寧ろ初めから持たさせられてなどいない、白なのだと。
「俺が遊ぶって決めたから遊ぶ。それでいい」
どこまでもお人好しで
「リャックもそうすればいい」
どこまでも優しくて
「皆もその方が嬉しいぞ。絶対に」
どこまでも――眩しい存在なのだと。
しかし、その事にカイナは気付くはずもなく、そして彼女の手は動き続ける。何の因果か、それは彼女の本当に望むべき姿だった。
ラナロックと言う存在が、望めど望めど手に入らないであろう、切望しても齎される事も、掴む事も、奪う事さえも出来ない、輝かしい場面だった。
真っ白な紙の中、随分と綺麗に描写されているラナロックは笑みがこぼれ、幸せに彩られている。そしてその周りには――。
「これはな、お前の近い未来の絵だ! 絶対に実現する未来の絵だ。だから、そんな顔するな」
カイナは笑った。それは本当の笑顔。
ラナロックは笑った。それは偽りの笑顔。
◇
むかしむかしの、ずっとむかし。
きらわれもののおとこのひとが、ひとりでくらしていました。
おとこのひとはいいました。
「独りは辛い。独りは悲しい」
けれども、おとこのひとはひとりぼっち。へんじはかえってきません。
おとこのひとはなきました。ずっとずっとなきました。そのときです。
「泣くのはおよし、泣くのはおよし」
きれいなおんなのひとがやってきて、そういいました。
おとこのひとはなきやんで、おんなのひとにいいました。
「独りは辛い。独りは悲しい」
「知っている、知っているとも。だからもう、泣くのはおよし」
そういって、おんなのひとはおとこのひととくらすようになりました。
おんなのひとがやってきてからは、ひとりぼっちではありません。
ちかくにすむひとたちがたくさんやってきました。おとこのひととおはなしをして、まいにちおまつりさわぎです。
おとこのひとはもう、ひとりぼっちではありません。
なかよくくらしていたおとこのひととおんなのひとでしたが、あるひおんなのひとはいいます。
「もう貴方は独りで 。だから しは、 とにしよう」
そういって、おんなのひとはおとこのひとのところからいなくなってしました。
おとこのひとはひとりぼっちではありません。
おとこのひとはひとりぼっちではありません。
けれど、おとこのひとはかなしくなって、ま きだ ました。
ずっとなきつづけるおとこのひとをしんぱいしたひとた は、 この をはげま ます。
おとこのひとは さんの 「ありがとう」 を い た 。
とは の 「 め 」を た 。
ひとを しんぱいした の ひとたちは 。
は しんぱいした の た を した。
おとこのひとは ―― に あいたかったのです。
お は、その て たく うを ました。
お に たお うを たくさ 、 た。
ま な、ま な、 い た ンギ ウ。
First Previous |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
13 |
14 |
15 |
16 |
Next Last