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茸狩りへ行きましょうその3

「瑛菜さんと美緒さんに頼まれましたから、行くのはやぶさかじゃあないんですが……

 何で私まで美緒さんと同じくサキュバスの格好までさせられるんですか?」

佐倉 紅音(さくら・あかね)重装機晶姫 ブルド(じゅうそうきしょうき・ぶるど)にこぼす。無論そんなことを提案するのは房内に決まっている。

「そこはまあ、形から入るというやつではないですか?」

「眼鏡まで外されちゃってるから目が疲れるし……」

紅音は視力が異常に良い。目が悪くて見づらければ目が疲れるものだが、良すぎれば良すぎたで遠距離の動くものまで逐一目に入ってしまい、やはり疲れる。そこで普段彼女は視力を抑制する為に眼鏡を掛けているのであった。

「まあ、わたくしとお揃いですのね」

ゲートに近寄ると、美緒が嬉しそうに声をかけてきた。お互い好きでその格好でいるわけではないのだが。転送がすむと、紅音はブルドに言った。

「茸探すにも茸取るにもまず蜂が邪魔。しかし手荒な真似はしたくないですね。

 というわけでブルドさん、お願いします」

「確かに自分はモロにロボットでありますし、ご自慢の装甲は蜂の針程度じゃ傷の心配もありません。

 毒もロボだから恐くはありませんが……。 自分はあんまり細かい作業は得意じゃない方なんで……」

「大丈夫。防護服代わりに乗り込みますから」

「細かい操作は紅音殿が自分に乗り込んで操作するのでありますか……」

アイデアは良かったが、いかんせんブルドのサイズでは全身巣穴には入れない。平たくなって伸び、うつ伏せで寝そべるような格好で捜索する。巣穴いっぱいにブルドが詰まっている格好である。これではハチが帰ってきても、巣穴に入ることすら適わない。目的の茸は少し取れたが、巣穴から這い出すのに一苦労である。周囲を巣の主であるメアービーが戸惑ったように飛び回っていた。

「すこしだけ茸をいただきました」

ブルドは礼儀正しくハチに言ってから泥だらけのボディを見下ろし、ため息をついたのだった。


 ミュリエル・クロンティリス(みゅりえる・くろんてぃりす)アドルフィーネ・ウインドリィ(あどるふぃーね・ういんどりぃ)らと買い物にきた帰りに、エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)は美緒に助けてほしいと依頼されたのであった。

「う……ムシか……」

詳細な話を聞いて彼は呻いた。そう。彼は虫が非常にニガテなのである。

「だがミュリエルの同族に近い存在、か……放っておくわけにはいかないよな」

ミュリエルが言う。

「夢魔さんでしたら、アリスのお仲間さんですから、お手伝いするのは当然です!」

アドルフィーネはメアベルに言った。

「そんなに悩むこととは思えないけどね ……それが仕事なんだから割り切っちゃえば。

 まぁでも、優秀な人ほどそういう傾向がある、なんて話を何かで読んだような気がするわ」

「気持ちが優しいところがあるのだろうな」

メアベルが頷く。

「でも私、戦ったりはむりかなぁ……」

ミュリエルが言うと、アドルフィーネが言った。

「あたしはとりあえず、荷物番をしてるわ。でね、ミュリエル。

 あなたはメアテネルって人を励ましてあげたらいいわ」

「それなら私でもできそうです!」

単身エヴァルトは夢世界へ行くことにした。

「虫は嫌いだから、倒して強行突破はムリムリ!!! ……留守にした時に忍び込もう。

 ただ持ち帰っても匂いでバレる可能性もあるし、買い物袋を持てるだけ持って行くか」

「準備はよろしいですか?」

(イヤ美緒さん、その格好はだな……)

問いかける美緒からあえて視線をはずし、エヴァルトは頷いた。
森に着くと、ハチの様子を観察し、確実に留守となった巣へすばやく潜り込んだ。この巣にはかなりの数の夢幻茸があったが、エヴァルトはそのうちの数本を選び、匂いが外に漏れないようにと手にした袋に一本ずつ封入して行く。

(いくら虫嫌いとはいえ、俺は食料全部持って行くほど薄情じゃない)

首尾は上々。

「さーてあとは瑛菜さんに連絡して、こんな虫だらけの場所からはおさらばだ!」

そのころ、公園ではアドルフィーネが真剣な表情のミュリエルに向かって説いていた。

「いいこと? まず下から見上げるようにして、両手を握って胸の前に!

 励ます言葉の最後に『お兄ちゃん』と呼びかけて、笑顔になって体をちょっとだけ横に傾ける!

 これで完璧よ」

「美緒さんみたいな格好は、恥ずかしいからしなくてもいい?

 お兄ちゃんにも怒られちゃいそうだし」

真っ赤になる美緒。アドルフィーネはきっぱりと言った。

「そこまでは要求しません」

そこへ空間ににじみが生じ、買い物袋をいくつも提げたエヴァルトが公園に実体化した。

メアテネルの水晶のそばへミュリエルは微笑を浮かべて近づいた。オープンユアハートを使いつつ、優しく声をかける。

「そんなに落ち込むことはないですよ、元気を出してください!

 私でよければ、お話も聞きますし。

 一人で抱え込まくても大丈夫ですよ、『お兄ちゃん』!」

アドルフィーネに教えられたとおりのポーズをとり、『お兄ちゃん』の呼びかけと同時に花のような微笑を浮かべる。メアテネルが微かに嘆息した。

「……かたじけない」
 
その様子を見つつ、アドルフィーネがメアベルに言った。

「男なんて、あんな風に可愛らしい仕草をしてみせたり、頼りにしてるみたいに言えば、イチコロよ?

 ……って何かに書いてあったわね」

「……そなた」

メアベルは奇妙な表情でアドルフィーネを見つめた。
ミュリエルの『お兄ちゃん』の呼びかけに、思わず袋を取り落としそうになったエヴァルト。

「い、いや。他の人を『お兄ちゃん』と呼ぼうが……。

 元気づけたい気持ちは本物だろうし、そもそも俺はそこまでシスコンじゃないからな。

 ……あ、違う!

『そこまで』はいらない!俺はシスコンじゃない!!」

ヘンに力説するエヴァルトを見、メアベルがふっと笑った。

「これで必要なだけの茸はそろったようだ。

 煎じさせてもらうとするよ。皆さんありがとう」

集まった夢幻茸を軽く洗うと、メアベルは薬湯の鍋に次々と入れていった。