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太古の昔に埋没した魔列車…エリザベート&静香 2

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太古の昔に埋没した魔列車…エリザベート&静香 2

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第3章 まだまだ残っている埋没した客車 story1

「月夜、撮影を始めますよ。バッテリーの残量とか大丈夫ですか?」
 樹月 刀真(きづき・とうま)はデジタルビデオカメラにしている漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)に顔を向け、撮影の準備が出来ているか確認する。
「えぇ、ばっちりよ」
 こくりと頷いた月夜は…。

 …3

 …2

 …1!!

 と、彼に指サインを送る。
「再びパラミタ内海へやってきたのですが、今回も発掘現場の方からインタビューさせていただきましょう!」
「フフフッ、さっそく撮影しにいらっしゃいましたわね。好きなだけ映していただいて構いませんわ!」
 赤いビキニ姿の神皇 魅華星(しんおう・みかほ)は顔にかかっている銀色の髪を、さらりと片手で退けて言う。
「(放送ギリギリな鎧貝もいいけど、あのビキニの人魚姿も私の活力になりそうだ!)」
 蠱惑的な笑みを浮かべる魅華星を泰宏が、ぼー…っと眺める。
「そこ、車輪に傷がつきますわよっ!」
 匠のシャベルを手から滑り落とそうとしている泰宏に、メテオブレイカーを向ける。
「あぁっ!?すまないっ」
 彼女の声にハッと我に返った彼は、匠のシャベルの柄を慌てて握る。
「5000年も朽ち果てず残っているものですから、そう簡単には傷つかないと思いますけど…。万が一のこともありますもの」
 修理担当の者の仕事を増やさないようにと、彼を注意する。
「わ、分かった…」
 怒った表情も気高い美しさがあり、またもやぼーっとし始める。
「フッ、分かっていただければよろしいですわ。―……っ!?」
 泰宏の全身を直視した魅華星は、危険生物でも発見したかのように、一瞬顔を強張らせる。
 ぅっ、と小さく呻き顔を背けてしまう。
「(うぅ、やっぱりドン引きされてるし!!)」
 彼女に顔を顰められた原因は、頭のヤシの木ヘッドライトだけではない。
 パートナーの企みにより、いつか放送事故を起こしそうな鎧貝を着た姿の怪しさが、顔につけているポータラカマスクのせいで増し、全身から変態オーラを放っている。
「(変わったファッションセンスですね…。というか、今回も許可は出ないのでしょうか?)」
 月夜に泰宏へカメラのレンズを向けさせていいものかどうか、刀真は首を傾げて考え込む。
「本人が気にするなら、編集でスミベタして隠しちゃうとか?」
「それもなんだか怪しい気がしますよ、月夜」
 そんな編集をすれば、いったいそこに何があるのか、見てはいけないものでも映してしまったのかように思えるだろう。
「私は気にしないから平気よ。もちろん、やっちゃんの姿も映像で流してくれて構わないわ」
「えっ、でも小さな子供とかにはちょっと…」
「これも1つの記念よ、いいわよね?やっちゃん」
「―…ぁ…あぁ」
 抗議の言葉を芽美にあっさりと削除された泰宏は頷くしかなかった。
 いっきにテンションが沈みかかったが…。
「(うぉおおおぉお、燃えてきたぁああ!!)」
 これまたお子様が見られるか分からない鎧貝姿の芽美をガン見し、テンションを上げて作業に戻る。
「奥の方の車輪は、まだ少し埋まっているようね。機晶爆弾でも仕掛けて、崩そうかしら」
「お待たせ、芽美ちゃん!」
「透乃ちゃん、そっちはいいの?」
「うーん…ニャ〜ンズも見当たらないし、少し手伝おうかなーってね」
「それじゃあ、ハンマーの先で印をつけるから。そこに穴を掘ってちょうだい」
「おっけー♪」
 芽美がつけた目印に透乃は、素手で頑丈な岩の床に穴を掘る。
 硬い岩も彼女の手にかかれば、ただの砂のようだ。
「あー…あー…ちゃんと聞こえてるか?」
 閃崎 静麻(せんざき・しずま)はマスクと1体化したマイクのスイッチを入れ、自分の声が聞こえるか試す。
 マイクは水中ライトに接続され、彼が喋るとそれが水中ライトに伝わる仕組みだ。
「ちゃんと聞こえてるぞ!」
 彼の光波は獅子神 刹那(ししがみ・せつな)のスピーカーに届き、受信した者にだけ骨伝導スピーカーによって声が聞こえる。
「何人かに話しかける時は、ライトの明りを調節すればよさそうだな」
 彼が使っているマスクとマイクが1体化したものは、可視光を受信機で受けた光波から声を取り出し、骨伝導スピーカーで声を認識するものなのだが…。
「(これをつけてない人にも伝わるのか?まぁ、離れている相手には指サインを送るか)」
 それをつけてない者には聞こえづらいだろうと、念のためジャスチャーで伝えることにした。
「(片側だけ崩れると重みで傾くきそうだから、向こう側にもセットしておくな)」
「(えぇ、お願いするわ)」
 芽美は車体の向こう側に向かって指差す静麻に頷くと、後部車両の両側の地面に、機晶爆弾を破壊工作で仕掛け、テロルチョコおもちをどこにセットしようか辺りを見回す。
「おもちの方は、それほど威力はさそうだから穴を掘らなくてもよさそうね」
 6両目となる車体の後ろの壁に、それをベタッとくっつける。
「さすがにちょっと冷えてきたわね…」
 初冬の寒さにセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)は、腕を手で擦り温める。
「こんなもの、寒さのうちに入らないわよ?」
 教導団の訓練に比べたら、まだまだ序の口だとセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が嘆息する。
「来た時に比べたらちょーっと冷えたかなー…って思っただけよ」
「訓練でなくても、まだ耐えられる温度よ。というか、喋ってないで作業を手伝いなさい」
 口よりも手を動かしなさい、と軽く睨む。
 頑張って加工したんでしょ?と、防水加工された小型爆弾をセレンフィリティにポンッと手渡す。
「そのために用意してきたんだから、ちゃんと使わなきゃね?」
「はぁ〜い…。―…んー、威力が小さめなものを、もうちょっと仕掛けたほうが発掘しやすいかしら」
 少しだけ頬を膨らませるものの、作業に取り掛かるとすぐさま真剣な表情へと変わった。



 爆弾を包んでいるケースの中が破損していないか、セレンフィリティがチェックする。
「地上と違って、水圧がかかるから気をつけなきゃね」
「ヒビ割れとかなさそう?」
「えぇ、大丈夫よ」
 耐水性のハンドライトで小さなケースを照らし、パートナーの声に小さく頷いた。
「静麻、そっちはどう?」
「こっちも問題なさそうだ」
 セレンフィリティにもらった小さな小型爆を、透乃が掘った地面の窪みの中に入れた静麻は、弾柔らかい砂を被せてぽんぽんと軽く叩く。
「皆、外へ出るぞ」
 静麻は作業中の人もいったん出るように、洞窟の外へ指差す。
「(さて、残っているヤツはいないみたいだな)」
 奥の方へライトを向けて、中に誰も残っていないか確認すると自分もそこから出る。
 彼が洞窟の傍から離れていくのをちらりと見て、セレンフィリティは爆弾のスイッチを押す。
 爆発の騒音に驚いた海の生き物たちは、逃げるように去る。
 洞窟内に舞っている土が流されるのを待つこと数十分…。
「(もう戻ってもよさそうね)」
 土煙が舞ったままだと、ライトを点けても手元がよく見えなかったりするため、それくらいの待機時間は必要だ。
 発掘担当者たちに、作業に戻っても大丈夫そうよ、とセレンフィリティが入り口のところでライトをチカチカと照らす。
「私は崩れた土や岩を外へ出すから、セレンはその辺のゴミを袋に詰めてくれる?」
「了解よ」
 セレアナに頷くと、爆薬を包んでいた破片などを拾い集める。
「―…ふぅ、ちらばったものを回収するのも一苦労ね。あっ、そろそろタンクの交換に行って来なきゃ!」
「私のもよろしくね」
「えぇ。ついでに集めたゴミも浜辺に置いてくるわ」
 そう言うとセレンフィリティはゴミ袋を抱えて浜辺へ戻る。
 陸に上がった彼女は休憩所に行き、背にある酸素タンクを交換する。
「ゴミ袋は空っぽのタンクの傍にでも、置いておけばいいわね」
 セレアナの分のタンクを抱えると、再び作業現場へ戻っていた。
「俺たちもそろそろ交換しに行くか」
 洞窟へ入ると、静麻たちも交換しに陸へ向かう。
「ねぇ…。あれ?うーん…もうちょっと近くで言ったほうがいいのかしら」
 声が聞こえにくいのかも、と思ったセレンフィリティは陽子の傍へ行き話しかける。
「連結器の下の方を崩してくれる?」
「あ…、はい。穴に爆弾を仕掛けるくらいのサイズにしますか?」
「ううん、魅華星がいるから今回はセットしなくてよさそうよ。出来るだけたくさん空けてくれると助かるわ」
「分かりました」
 小さく頷くと陽子はぐりぐりと聖杭ブチコンダルの切っ先を、ガチガチに固まっている土に捩じ込む。
 ライフルの弾丸が通過したかのように、向こう側がくっきりと見えるくらい、いくつもの穴が開いた。
「もう1箇所は、ボクがやるね」
 4両目と5両目をつなぐ連結器の下にある岩を崩そうと、レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)はエイミングで狙いを定める。
 サイドワインダーで射抜かれたそれは、ぽっかりと穴が開いたものの、まったく崩れる気配はない。
「むっ、思ったよりも手強いね!頑丈そうに見えても、空洞だらけになれば粉々に砕けてしまうんだよ」
 なかなか崩れる気配のない岩に向かって言い、にやりと口元を笑わせ、頑丈な岩を射抜き蜂の巣状態にしてやる。
「後はたがねでちょこっと掘ればいいかな?」
 ゴッ、ガリッと掘ると、岩は連結器の下側だけボロボロと簡単に崩れた。
 しかし、車両をつないでいるそれには、石や砂利が詰まったままだ。
 自動でつながる造りではないため、その間に詰まっているものを取り除きながら外すとなると、かなり手間がかかる。
「その程度のものなら、わたくしのメテオ・ブレイカーで斬り払ってさしあげますわ」
「でも、それだと大変じゃないの?」
「フッ、心配ご無用ですわ!」
 魅華星は斬馬刀型の光条兵器を握り、その辺の凡人との差を見せ付けてやりますわ!と、邪魔な砂利などを薙ぎ払うように刃を振る。
「連結器の間にあったものが退かれていっていますね。これなら、外すまでの時間も短縮出来そうです!」
 刀真は魅華星にSPチャージしながら、TVの報道キャスターのように言う。
「ふぅ…。これで砂粒1つ、邪魔なものはないはずですわよ」
 そう言いつつ、月夜が手にしているカメラのレンズへ視線を向け、疲労の様子を見せず微笑する。