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リアクション
第4章
正午をやや過ぎた。高く日が昇っている。
ダウンタウンの一角。昼でも不思議と暗い建物群。複雑につなぎ合わせ、要塞のように作り上げたアジト。その一角で、無法者をまとめ上げるボス、“有情の”ジャンゴが葉巻を吐き捨てた。
「あとはここにサンダラーをおびき寄せる。この方向感覚がきかねえアジトの中で四方八方から集中砲火されりゃあ、さすがの連中もいちころだろう」
「じゃあ、問題はどうやってサンダラーをここに誘い込むかってことよねぇ?」
ジャンゴにしなだれ掛かりながら、雷霆 リナリエッタ(らいてい・りなりえった)が聞く。ジャンゴは大雑把な作りの顔をしかめ、
「ああ。そうだな。あいつを追い回すか、追いかけさせるかして……」
「だったら、俺様に考えがあるぜぇ」
ゲドー・ジャドウ(げどー・じゃどう)が、ゆらりと影から起き上がる。暗い場所がよく似合う。にたりと口を吊り上げた。
「あん? どうやって……」
「なーに、任せとけって」
高笑いとともに、静止も聞かずにゲドーが外へ向かっていく。一方、リナリエッタは口に手を当ててあくびを漏らした。
「私も、ちょっといいこと思いついたわぁ。アジトで少しお昼寝してるわねぇ」
そう言って、奥へと引っ込んでいく。契約者たちのわがままで奔放な行動に、ジャンゴは肩をすくめた。
朝からの失格者は、そのほとんどをサンダラーが撃ち殺している状況だ。さもなくば、実力不足を悟ったガンマンたちは逃げ出している。
ッターン!
長く尾を引く銃声に乗って、雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)は向かい合ったガンマンの銃を弾き飛ばした。
ガンマンはがくがくと頷いて、降参を示す。雅羅が銃で行けと示すと、おそるおそる逃げていった。
「うわあ、さすが……すごいな、雅羅さんは」
それを陰から見守っていた想詠 夢悠(おもなが・ゆめちか)が、大きく息を吐いた。
「あまり声を立てないの。雅羅ちゃんに気づかれちゃうわよ」
夢悠に指を立てて、想詠 瑠兎子(おもなが・るうね)が『しーっ』とやる。夢悠はこくこく頷いて、二人して雅羅を影から見守る。
「……気づいてるわよ、ったく」
ぼそっと口の中で呟き、雅羅は銃に弾を込め直す。
と、その前方をすうっと白い影が滑る。
「いっ……!?」
思わず声を上げる夢悠。視線を向ける先、どう見ても幽霊らしきものがゆっくりと移動している。さらにその近くにスケルトン、グール、リビングアーマー……
「な、何あれ!?」
「どう見ても、アンデッドでしょ!
影から見守っている体を忘れて声を上げてしまう夢悠に、雅羅が叫び返す。
「たぶん、契約者の誰かが大会の妨害のために放ったんだわ」
「……卑怯者め!」
きっと眉を吊り上げた雅羅が叫ぶ。バントラインスペシャルの銃弾がスケルトンの頭を砕くと、他のアンデッドが雅羅を振り返り、ゆらりと後ろに下がる。
「待ちなさい!」
「ちょ、ちょっと雅羅さん!」
駆け出す雅羅に声をかける夢悠だが、頭に血が上った雅羅は止まらない。アンデッドを追いかけるうち、迷路のようなダウンタウンに迷い込む。
「ま、待ってって! きっとこれは罠よ!」
ようやく瑠兎子が追いつく頃には、ぽっかりと開いた一角だ。その頭上に、ふっと影が見えた。
「なんだ、サンダラーじゃねえじゃねえか。ったく、手間ぁかけさせやがって」
ゲドーが建物の屋根に脚をかけ、足下に唾を吐く。雅羅は苛立ったように、銃口を向けた。
「卑怯な手で大会に勝つつもり!?」
「俺様ぁ別に、優勝だなんだなんて興味ねえよ。不死身だなんだって生意気なサンダラーって連中、見てみたいと思ってな」
「だったら、邪魔しないでちょうだい。正々堂々、一番強いガンマンを決める大会でしょう!?」
告げる雅羅に、ゲドーはさらに唾を吐いた。
「一応、ジャンゴに協力してるってことになってるんでな。そういうわけにも……」
と、ゲドーが手をかざそうとしたとき。
「助けて、誰かっ!」
路地に飛び出してくる女。リナリエッタだ。
「あなた……大丈夫?」
ゲドーに銃を向けたまま、雅羅が問いかける。その様子に気づいた夢悠と瑠兎子がリナリエッタをかばうように彼女を招く。
「ジャンゴの隙を突こうと思ったんだけど、返り討ちに……」
髪を乱したリナリエッタが呻く。にやっとゲドーが笑った。
「足手まといがいて、俺様と戦うつもりかあ?」
「こいつ……!」
がちりと雅羅が撃鉄を起こした時。不意に雅羅の目の前が霞んだ。
「何、魔力を無駄遣いすることはないよ」
ゲドーの隣にベファーナ・ディ・カルボーネ(べふぁーな・でぃかるぼーね)が進み出て、涼しい笑顔を浮かべている。ふと、瑠兎子は風が向こうから吹いていることに気づいた。
「まさか、毒を!?」
「ご名答。ジャンゴのところまで行かせたくはないのでね」
「卑怯者……!」
リナリエッタをかばうように、震える手で銃を構える雅羅。が……
「えぇー。卑怯なのはここからなのにぃ」
その声は後ろから聞こえてきた。
はっと振り返るよりもはやく、リナリエッタの背からどす黒いフラワシが現れて、夢悠と瑠兎子をはね飛ばす。そして、その手から闇が噴き出し、3人の体を包む。
「く、ぁ……!?」
背後を突かれた雅羅が叫びを上げる。
ばたばたと倒れ込む3人を見下ろして、リナリエッタは満足げに目を細めた。
「か弱い私がサンダラーとバチバチ戦うなんて無理でしょ? だからこうやって、露払いくらいはしてあげようと思ったのぉ」
見事に計略にはまった3人を見下ろして、リナリエッタが肩をすくめる。
「それじゃあ、夕方までそうして転がっててねぇ。ジャンゴが、サンダラーと決着を付ける・ま・で」
ひらひらと手を振ってリナリエッタが背を向ける。ひゅう、とゲドーが唇を吹いた。
「大した悪党だなあ。ま、おかげで俺様は楽ができたぜ」
「感謝してくれなくてもいいわよぉ。あなた、私のタイプじゃないもん」
「ちなみに私のタイプでもないな」
ベファーナが撒いた病原菌にかかる前にと、ふたりは引き上げていく。ゲドーはふたりの背中に中指を立て、やりようのない怒りをサンダラーにぶつけることを誓った。
「う……う」
彼らが去った後、夢悠は猛烈な頭痛を抑えながら、肘をついて体を起こす。
「なんとか……しないと。雅羅さんを助けなきゃ……」
呼吸が美味くできない。汗がぼたぼたと地面に落ちてシミを作る。
夢悠は抱えた麻袋の口を開いた。顔を出すのは、小さめの猫とカラス……彼の使い魔だ。
「みんなに、この場所を伝えて……ジャンゴが、罠を張ってる……」
麻袋に封じられていたおかげで、彼らには病原菌は伝わっていない。ぱっと走り出し、あるいは飛び立っていった。
彼らが視界から消え去る前に、夢悠は再び、ばたりと倒れ込んだ。
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