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【なななにおまかせ☆】あばよ! 今年の汚れ

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07.再び 食堂/お汁粉準備中


 甘味の贈り物 

 熱い蒸気が立ち上る。
 どこかほの甘い、もち米を蒸し上げる匂いが鼻をくすぐった。
 隣では小豆が鍋の中でことことと音を立てている。
 鍋を覗き込んで、焦がさないように木べらでかき混ぜているのは、廃棄品の回収で校内を回っている鉄心のパートナー
ティー・ティー(てぃー・てぃー)イコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)のちびっこ二人組だ。
 背の足りないイコナはどこからか持ってきた小さな踏み台の上で真剣な表情で二つの鍋を交互に見つめている。
 ティーは鍋の面倒というよりはイコナの面倒をみていた。
 台を踏み外さないように、何か物がいる時に下りなくてもいいように、そんな気遣いである。
 二つあるのは「甘党用」と「甘さ控えめ用」があるためだ。
 小豆は相談の結果満場一致でこしあんだ。
 実は当初は「団長は甘いもの苦手でしたわね……。でも、そんなの関係ねぇ――ですわ!」と甘物が苦手な人間への
配慮が欠片もなかったのは秘密だ。
「できたら、味見してもらわないとですわ」
「うん。でもイコナちゃんの料理はなんでも美味しいよ?」
 妹を可愛がるお姉さんよろしく、元が魔導書なくせに何故か料理本だったするイコナの腕をティーは褒めた。
「……最初はティーにお願いしますわ。でも、色んな人の意見が聞いてみたいのですわ」
「…色んな人…」
 と、二人は別行動中のパートナーを思い浮かべた。
(……鉄心。鉄心もティーと同じで何でも美味しいって……言いそうですわ……)
 あまり意味がなさそうな味見役の顔にイコナはがくりと肩を落とす。その隣では――
(鉄心――には、味見よりは長曽禰少佐を引っ張ってきてもらうのですわ! 主にファンサービスのために!!
 どこに向けてのサービスなのか。ティーの思考は徐々に明々後日へとスライドされていく。
(あ。……味見でした……どなたか……)
 さ迷う思考と視線が食堂の清掃班に辿り着いた。そこに清掃の指揮を執っているのだろう小暮 秀幸を見つけた。
 頼めば味見くらいはしてくれるだろう。
(……甘さはどうですか? って聞いたら、やっぱり%で答えるのかな……)
  
  * * *
 
 味噌にきなこ、醤油。誰が持ち込んだのか豆と昆布。調理台の上は食材がどっさりと積まれていた。
 並ぶ蒸篭に背を向けて、汁粉以外の支度をしているのは遠野 歌菜(とおの・かな)だ。
「勝ち栗、いい栗、甘〜い栗」
 パートナーの月崎 羽純(つきざき・はすみ)と二人。栗の渋皮を向いている真っ最中だ。
 甘さの調節のため栗の寒露煮をつくることになったのだ。
 口ずさむのは歌は即興で、彼女の機嫌の良さを現している。
 (ようやく、気持ちが切り替わったか……やれやれ)
 機嫌の良さそうな横顔を見つめて羽純はホッと胸を撫で下ろした。
 隣の少女は料理の腕は大したものだが、掃除だけはさせてはいけない魔手の持ち主だ。
 何がどうなってそうなるのか。その原因は未だに不明だが、壊滅的に掃除ができないのだ。
 いわゆる片付けられない女。それをを通り越して、散らかす女である。
 故に羽純が全力で止めて今に至る。
 少し前までは「うー私だって、少しくらいは役に立てると思うのに〜!」と八の字眉で訴えていたが、今は楽しそうだ。
「みんな考えることは同じですね。うふふ。なんだか、自分の意見が間違ってないみたいで嬉しいです」
「市販のものでも良かったんじゃないか?」
「うふふ。大掃除の人たちを労うお汁粉よ? 愛情いっぱいの手作り――が大事なの!」
 買出しに行くことも考えていた羽純が問えば、歌菜は指を唇に当てて微笑んだ。
「――そうか」
「あ。ねぇ? 羽純くんはお餅ついたことあるの?」
「……いいや。ないな――歌菜はあるのか?」
「うーん。こんなに大掛かりなのははじめてだけど、あるよ。せっかくだからお餅つきもやろうよ!」
 歌菜は幼い頃を思い出しながら、餅つきのやり方を話し出す。
 その様子に自然、羽純の顔にも笑みが浮かんだ。

  * * * 

「と、いうことなので味見をお願いできませんか」
 休憩中の小暮たちの元にティーが顔を出した。
 手には人数分の小さなカップを載せたトレーがあり、小豆色の液体が湯気を上げている。
 イコナはと言えば、厨房と食堂の境にある柱の影から、じっと様子を伺っている。目が逆三角形なのはご愛嬌だ。
「一足先にお嬢さんたちが作ったものを食べれるなんて光栄だな」
「小さな料理人さんのお手並み拝見」
 にこりと笑って まずはエースがカップに手を伸ばす。続いて、エオリア。
「……へぇ、これがお汁粉……」
「確か、日本――小暮と永谷の故郷の料理と聞いた」
 未知の食べ物を興味深そうに眺めるのはセリオスとクローラだ。
 聞かれた小暮と永谷が簡単に説明する。
「ああ。懐かしいな。自分も食べるのは随分と久しぶりだ」
「子供の頃に神社で餅つきをしたのが懐かしいな。体が暖まるし、疲れた時には丁度いいよ」
 全員がカップに口をつけるのを確認してティーは小暮を見上げた。
「小暮さん、甘さはどうですか?」
「…………好みにもよると思うが、90%だ。自分には丁度いい」
 と、クローラが叫んだ。
「!? 何だ? 小豆という豆のスープじゃないのか!? 甘いぞ!?」
 目を白黒させる姿に笑いが広がる。
 それを嬉しそうに見つめてから、イコナは厨房に駆け戻っていった。