リアクション
日の光をふんだんに取り入れた美しいデザインの建物。
中庭の広場に出て鼻孔をくすぐるのは、露天で売られているクレープの甘い香り。
行き交う人々の足元を飾る花壇の花々は皆の目を楽しませ、それを囲む芝生は数センチの違いも無く整然と整えられている。
「綺麗ね……」
噴水に向かうように作られた真新しいベンチに座りながら、杜守柚は小さく呟いた。
その日、将軍ランドで救出とコンピュータの停止に関わったもの達は、跡地に完成したショッピングモールに招待されていた。
今日一日は手にしている特別なカードで好きなものを買っていい、という謝礼らしい。
「柚、欲しいもの決まった?」
三月の問いに、柚は首を振ってこたえる。
「だよね、僕も」
暫くの間言葉無くその場に座っていると、ふと三月が立ちあがり「僕ちょっとあっち見てきていいかな」と館内の方へ消えていく。
どうしよう。もう帰ろうか。
柚が考えていると、彼女を呼ぶ声がした。
「お帰り三月ちゃ……
海くん!」
声をかけたのは高円寺 海だった。
近くまでやってきても立ったままの彼に柚は内心苦笑し、自分の隣を掌で示す。
「どうぞ」
やっと座った高円寺と暫く噴水を見ていた柚だが、そのうちどちらからともなく話しだしていた。
「他の連中もきてるらしい」
「はい。私もさっき何人か合いました」
「……そうか」
「はい……」
再び長い沈黙が訪れる。
本当に話したい事を、二人は避けていたのだ。
やがて柚が沈黙を破った。
「町人ロボットの皆、どうなったんでしょうか」
「ここの会社はエコ推進を謳ってるからな。一部は権利元から買い取って別の施設に再利用の為回されたそうだ。
新しいプログラムをインストールされて、こういうモールの入口の案内や子供向けの遊戯施設なんかキャラクターロボに使うらしい」
「そうですか。
……吉刃羅さん、きっと喜びますね」
「ああ」
柚は何かをこらえるように手を握り締める。
「この広場。
天守前の広場ががあった所なんですね。
お花も、噴水もとても綺麗で皆楽しそうで……ここに作りかけの遊園地があったなんて思えないくらいで……、
誰も知らなくて」
高円寺は震える彼女の手を上から握っていた。
何故そうしたのか、彼自信にも分からない。
そう思った瞬間ロボットの若干いびつな声が頭の中に響いた気がした。
『不思議か高円寺。だがこの吉刃羅にも理解出来ぬノダ』
「(機晶ロボットのくせにあいつ俺より先にこんな思いを、心を持ってたのか)」
江戸の暴れん坊ロボット将軍、吉刃羅。
悪趣味な着物を着た、滅茶苦茶なプログラムキャラクターを持った心を持たないはずのロボット。
「だけどオレは覚えてる」
「……私も、きっと皆も忘れない。ここであった事、吉刃羅さんの事
忘れません」
誓い合うように、二人は言葉を交わしていた。
目の前に広がる記憶の中の江戸城の天守を見つめて。
ここまで読んでくださって本当に有難うございました。
爆府らしく爆発しているような内容にしてみました。
如何でしたでしょうか。
それでは、またお会いできると嬉しいです。