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謹賀新年。黄金の雨の降り注ぐ。

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謹賀新年。黄金の雨の降り注ぐ。

リアクション

「何と、女物の下着じゃ」
 ルファン・グルーガ(るふぁん・ぐるーが)は袋の中身を見て困惑する。
「わしは男だからつけるのは無理じゃな。そうじゃ。イリア、そなたにやろう」
「やったー!」
 イリア・ヘラー(いりあ・へらー)は福袋を受け取ると頬ずりした。
「ダーリンからプレゼント貰えるなんて、サイコーだもん!」
「……」
 ギャドル・アベロン(ぎゃどる・あべろん)は二人のやりとりにはあまり興味が無いのか、町の風景を見る事に余念がな
い。

 それから、ルファン達は葦原の街を見て回った。金平糖やおはじき飴の並ぶお菓子の店、かんざしや。巾着の並
ぶ和風の雑貨店。びいどろの売っている店。着物屋、魚河岸。よそとはひと味違う独特の情緒が漂っている町をゆ
っくりと歩いていく。
 ゆったりとした気持ちで散策していると、人だかりができ、なにやら騒ぎが起きているのに遭遇した。
 見ると、金持ち風の女が財布をすられたと騒いでいる。 

「スリだって?」
 イリアが言った。
「のようじゃな」
 ルファンも人ごみの輪の中で答える。
 と、その時、一人の女が人ごみをかき分けて、まっすぐこちらに向かって来た。
 どうも女にしては大柄だな。妙な奴じゃなとルファンが思っていると、女は、ドン! とルファンにぶつかって
いく。その刹那、怪しく笑ったような気がする。もしやと思い、懐を見てみたら武器がなくなっていた。
「どうしたの?」
 イリアが横から覗き込む。
「ああ。どうやら、あの女に盛夏の骨気をすられたようじゃ」
「なんですって?」
 イリアは驚いた。しかし、ルファンは「手際の良い技を持っておる」と呑気なものだ。
「呑気な事言っている場合じゃないよ! ダーリンから盗みをするなんて大観衆が許してもイリアが許さないも
ん!! さあ、追いかけるよ! ルファン、ギャドル!」
 二人はイリアに引きずられるようにして女の後を追い始めた。
 女は、追いかけて来る3人を見ると不敵に笑った。そして、一瞬にして変装を解き、ウサギの仮面をかぶった盗
賊の姿となる。
 その途端、いままで終始つまらないような感じでいたギャドルが声を上げた。
「おい! あの格好もしかして、さっきからあちこちで騒ぎになってるウサギ小僧って奴じゃねぇのか?」
「そのようじゃのう」
 ルファンがうなずく。
 ウサギ小僧は、さらに3人の前で姿を変えた。軽業師の格好になっている。そして、軽々と屋根の上に飛び乗り、
火の見櫓へと向かって行った。
「あのウサギやるじゃねぇか」
 ギャドルは楽しそうに言う。彼にとっては何が盗まれようがなんだろうが知ったことではないのだが、面白い相
手と戦えること自体が好きなので、鬼ごっこもまどろっこしいとは思いつつ嫌いではなかった。


 エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)は繁華街を張り込み、先ほどからスリを片っ端から捕まえていた。彼
の目的はウサギ小僧を捕まえる事である。こうして、スリを捕まえていけばその中にウサギ小僧が紛れ込んでいる
かもしれないと思ったからだ。
 とはいえ、実のところ、彼はウサギ小僧も菊屋のどちらも完全には信用していなかった。
 彼に言わせれば、そこらの連中(群衆)は、自分の言葉がウサギ小僧にも適用されると理解していないし……ま
ぁ、無償で金をバラまくなんて事をする方の味方になるのは仕方ないとも思うが……だが、十兵衛の言う通りなら、
菊屋の方がまだ信用できるだろうと思う。作品が良いなら、作り手も少なからず良いはずだからだ。何より……彼
はからくりというものが好きだから、千ゴルダもかけて作るからくりには、物凄く興味があった。
 それに、盗んだ側の評判のせいで立場が悪くなってるのも、ちょっと気に入らない。
 しかし、究極のところ、助ける・助けないは趣味基準で考える……つもりだ。
 いずれにしろ、スリを捕まえる事は、どう見ても人助けだし、そこにウサギ小僧が引っかかってこればさらに一
石二鳥である。そんなわけで、エヴァルトは次々にスリを捕らえていった。
「そいつを捕まえて! ウサギ小僧だよ!」
 その声に振り返ると、いかにも悪党面の男がこちらに向かって逃走してくるのが見える。その背後にはイリア達
の姿も見えた。
「ウサギ小僧だって?」
 エヴァルト耳を疑った。まさか、こんなに早く遭遇できるとは。
「まかせろ」
 エヴァルトはうなずくとウサギ小僧に突進していった。ウサギ小僧はひらりと躱し、屋根の上に逃げていく。
 エヴァルトは軽身功を使い屋根の上に駆け上がった。すると、ウサギ小僧は屋根から路地へと飛び降りる。エヴ
ァルトは同じく路地へと飛び降りウサギ小僧を追いかけていく。さらに、ウサギ小僧は材木置き場に立てかけてあ
る材木に飛び乗り、その上を器用に渡って逃げていった。
「無駄無駄無駄ァッ!!」
 エヴァルトはパスファインダーで足場の悪い材木の上を軽々と踏破していった。
 ウサギ小僧は屋根伝いに逃走し、再び路地に飛び降りた。その先は袋小路になっている。屋根の上に逃げると思
いきや、ウサギ小僧は突き当りの家の中に飛び込んでいった。
 エヴァルトも後を追い、家の中に飛び込んでいく。
 中に入るとウサギ小僧はこちらを向いて立っていた。逃げ場を失いあきらめたのか?
 エヴァルトはウサギ小僧に突進していった。ウサギ小僧は、盛夏の骨気を出して身構えた。エヴァルトは歴戦の
立ち回りで短刀を避け、背後からウサギ小僧を捕まえると、瞬間、脚に逆関節を極めた。ウサギ小僧は抵抗する。
エヴァルトは容赦なく骨を折った。
「うあああああ」
 ウサギ小僧は悲鳴をあげた。
 と、中から小男が飛び出して来る。
「てめえ! 三次の兄貴に何しやがる」
「三次の兄貴?」
 エヴァルトは訝しげにその小男を見た。
「ウサギ小僧じゃないのか?」
「はあ? 何寝ごと言ってるんだ?」
 そう言うと、小男は刀を持って襲いかかって来た。エヴァルトは、小男をあっさりと倒すと、三次と言われた男
に尋ねる。
「お前、ウサギ小僧じゃないのか?」
「知らねえよ。さっき、俺そっくりの奴がいきなり飛び込んで来てこいつを押し付けて逃げていったんだ」
 そう言って三次は盛夏の骨気を指差した。それは、先ほどルファンがウサギ小僧に採られたものだった。
「何だって?」
 その時、どこからか紙が舞いおりて来た。
 そこにはこう書いてあった。



『ごくろうさん。そいつは、連続強盗犯の『ましらの三次』だ。奉行所に突き出せば、賞金2000ゴルダはくだら
ねえ悪党だぜ』
 その最後には『卯』という文字が書かれている。
 どうやら、一杯食わされたようだ。