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 十三章 薔薇の細剣士 中編


 フローラがバーストダッシュを用い、屋内を所狭しと駆け回っていた。
 ベクトル制御が難しいといわれるそれを完全にコントロール。連続して用い目にも留まらぬ速度で翻弄する。

「それなら……リーラ!」
「はいよ〜」

 柊 真司(ひいらぎ・しんじ)が魔鎧として身に纏っているリーラ・タイルヒュン(りーら・たいるひゅん)に話しかける。
 リーラは雷術で真司の体内を巡る電気信号を操って、身体能力を限界レベルにまで底上げを行った。

「行くぞ……!」

 更に真司はゴットスピードで自身の速度を上げ同等の動きでフローラに迫る。
 携帯する九本の剣のうちの長剣二本を両手に持ち、フローラに切りかかった。

「ふむ、この速度についてくるか。けれど……!」

 別々の方向から肉薄する二つの刃をフローラはツインスラッシュで跳ね返す。
 刃の根元に正確無比に当てられ、二本の長剣が真司の手から離れた。

「ふん……!」

 フローラは一歩踏み込み、それを軸足として中段蹴りを放つ。
 真司は九本のうちの大剣を取り出し刀身の幅の広さを利用してこれを防御。
 フローラはそのまま大剣を構える真司にツインスラッシュを打ち込む。

「ぐ……ああっ!」

 剣圧を纏った攻撃は大剣に当たり真司を吹き飛ばした。

「まだまだ行くぞ――」
「そうはさせないわ!」

 追撃しようとするフローラをセレアナが槍で横薙ぎをして止める。
 意表を突かれた攻撃で姿勢を崩したフローラ。セレアナはそれを見て槍の刀身に雷を帯びさせた。
 技の名はライトニングランス。セレアナは素早く槍をふるい斬撃を打ち込んだ。

「流石だな、しかし――まだ遅い」

 フローラは崩れた体勢のまま無理やりバーストダッシュで間合いを詰める。
 振り下ろされる槍の柄を細剣で受け流し、そのままセレアナに切りかかった。

「セレアナ、退いて!」

 後方からのセレンフィリティの叫びにセレアナは無理やり横っ飛びをした。フローラの細剣が空を切る。
 セレアナの影に隠れていたセレンフィリティは擲弾銃バルバロスを両手で構え狙いをフローラに合わせた。

 引き金を振り絞り、小型の擲弾を発射する。

「飛び道具か、ならば……ッ!」

 フローラは発射された直後にソニックブレードで擲弾を切り裂いた。

 轟音。二人の中間で小規模な爆発が起こった。

 爆風と破片の刃がフローラを襲う。
 フローラはバーストダッシュで後方に飛び難を逃れた。

「――さて、付き合ってもらうよ」

 即座に煉がフローラに詰め寄り、無銘を振るった。
 それは、達人の域に及んだ洗練された剣閃。煉はフローラと互角の剣戟を繰り広げる。

「ほう、中々の太刀筋だな、貴公」
「……お褒めに預かり嬉しい――よッ!」

 煉が後方に下がると同時。
 横から、エヴァの覚醒型念動銃から念動力が発射された。

「オラオラッ、喰らいやがれ!」

 無数の念動力をフローラを中心に制圧射撃を行った。
 しかし、フローラは頭部を片手で守りながら、エヴァに向けて駆けた。

「その程度では私は止まらぬ……!」
「うおっ!? マジかよ!」

 フローラはエヴァに接近し、細剣を振り下ろした。
 エヴァはその一撃を、パイルバンカー内蔵シールドでどうにか受け止める。

「しまった――っ!」

 同時に慌てすぎたせいか、銃を落としてしまった。
 エヴァは右手を伸ばし銃を掴もうと――。


 フローラの細剣に右手が触れた。

 
 無意識的に発動したサイコメトリ。フローラの過去の一部がエヴァの頭に流れ込んでくる。


 ◆


 そこは草原だった。風がなびき、背の高い草を揺らす美しい草原。
 そこで、一人の女性と一人の少女が木製の剣で稽古をしていた。
 少し小柄な大人の女性はフローラ。まだ幼い少女は――小さい頃のエリス。

「やぁああ!」

 エリスの渾身の力を込めた一撃はあっけなく空を切り、代わりにフローラが放つ一撃が、少女が手に持つ剣を飛ばす。

「勝負アリ……だな」
「……また、負けてしまいました」

 肩を落とし落胆するエリスの頭を、フローラは優しく撫でた。
 くすぐったそうにエリスは小さく笑った。

「そんなことはない。今のはかなりいい線だった」
「――本当ですか!?」

 エリスは瞳を爛々と輝かせ、フローラを見る。
 フローラは柔らかく笑いながら本当だよ、と付け加えた。

「さぁ、少し休憩にしようじゃないか。疲れただろう、エリス」
「……いえ、もう一戦お願いします。私はもっと強くならないと――」
「エリス」

 フローラがエリスの頭をもう一度撫でた。
 それは年の離れた姉が妹を慈しむように、優しい手つきをしていた。

「そんなに慌てなくてもいい。焦っても、いきなり強くなれるわけではないのだからな」
「……そんなもの、でしょうか」

 エリスの言葉にフローラはまた柔らかく笑った。

「ああ、焦らなくても貴公は強くなれる。私が保障をしよう」


 ◆

「……エヴァ! エヴァ!」
「えっ?」

 エリスが肩を揺さぶり、大きな声で呼びかける。
 エヴァは目を開けると、真っ先に飛び込んできたのは煉とエリスだった。

「エヴァこそ何やってんのよ! 戦闘中に気を失うなんて、煉さんが助けに入らなかったら――」
「まぁまぁ、エリーそこまで怒らなくても」

 憤慨するエリスを煉が必死に宥める。
 エヴァは申し訳なさそうな顔をして、二人にあることを話し始めた。

「……悪かった。けど、ちょっと二人に聞いて欲しいことがあるんだぜ……」
 
 自分が覗き見た、フローラの過去の話を――。