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≪猫耳メイドの機晶姫≫の失われた記憶

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≪猫耳メイドの機晶姫≫の失われた記憶

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9.『お別れ会』

 パーティーが開催される。

 リングを囲むように用意されたテーブルに、紅守 友見(くれす・ともみ)清泉 北都(いずみ・ほくと)が飲み物を、想詠 夢悠(おもなが・ゆめちか)想詠 瑠兎子(おもなが・るうね)がメイドロボを連れて料理を運ぶこむ。
 
 キリエは騨から許可を得て、あゆむに過去を話した。
 家族が既にこの世にはいないこと。
 実験台にされ、機晶石に記憶を移されているため、身体を失っていること。
 そして、元≪首なしの豪傑騎士≫レイゼルが兄であり、キリエが二人に仕えていたメイドであったこと。
 それらについてあゆむはいっぺんに聞かされた。
「そうですか……」
 話を聞き終わったあゆむは沈んだ声で答え、俯いた。
 レイゼルがあゆむに近づき、両親について聞きたいか尋ねね。
 するとあゆむは大きく首を横に振った。
「大丈夫です。今のあゆむには本当の家族みたいなに接してくれる優しい人達がいますから……」
 あゆむはレイゼルに抱きつく。
「今まであゆむのことを守ってくれてありがとうございます……お兄ちゃん」
 レイゼルはあゆむの背中に金属でできた手を回して強く抱きしめる。
 あゆむは溢れだす涙を堪えるように、冷たい鎧に顔を押し付けていた。


「もうちょっとうまくできると思ったんだけどな……」
 林田 樹(はやしだ・いつき)が、かまどで焼いた少し焼きすぎ感のあるピザを持って大広間にやってきた。
 納得いかない様子の樹が持つ皿から、キリエがピザを取り上げ口にした。
「おいしいちょよ、よ?」
「どうも、ありがとな」
 樹は苦笑いを浮かべた。
 すると、飲み物を持ったエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)がやってくる。
「飲み物はいるか」
「ありが――って何ちょよか!?」
「ああ、人手が足らんからな」
 驚くキリエに対して、頭と両手にお盆を乗せたエヴァルトは当然のように答えていた。
 エヴァルトはしゃがんで頭の上のキリエが指定した飲み物を取らせると、他の生徒に飲み物を配りに行く。
「樹さんは、よかったちょよか?」
「ん、ああ」
 樹は自分の作ったピザを難しそうな顔で見つめる。
「う~ん。やっぱりジーナに作ってもらえば……って、あれ、ジーナは?」
 大広間を見渡す樹だったが、ジーナ・フロイライン(じいな・ふろいらいん)を見つけることはできなかった。

 その頃、かまどの前で新谷 衛(しんたに・まもる)は一人椅子に座っていた。
「ヘクシュ……」
 タンクトップ姿の衛はぶるぶると身体を震わす。
 水を全身に浴びた衛は、唇が紫になっていた。
「やべっ、風邪ひいたかな」
「そう思うならもう少し暖かそうな恰好をしてくださいな」
 独り言をつぶやく衛の頭に布が覆いかぶさる。
 衛が慌てて布をどかすと、隣にジーナが立っていた。
 衛はジーナに投げつけられた、不要になった布きれで作った上着を羽織る。
「これ、ピザですわ」
「おっ、ちゃんと動いたのか。直したかいがあったな」
 衛は自身が修理に手をかしたかまどが動いたことを嬉しく思いつつ、ピザの乗った皿を受け取った。
 すると、ジーナがどこからか椅子を持ってくる。
「隣、失礼しますわ」
「え?」
 衛とジーナはかまどの前に並んで暖を取り始めた。
 妙な緊張に、衛はピザを口の前まで運んだ所で硬直し、何も言い出せないでいた。
 どうにか言葉を絞り出す。
「これピザだな」
「何、当たり前のこと言ってるですか? バカも休み休み言いやがれでございます」
「……すんません」
 衛が戻ってくるまで、二人の間には沈黙が流れていた。


「はい。アンジェくん、『≪食人植物グルフ≫の球根カリカリ揚げ』ですよ」
「わぁ~ぃ♪ ご飯ご飯~♪」
 月詠 司(つくよみ・つかさ)強殖魔装鬼 キメラ・アンジェ(きょうしょくまそうき・きめらあんじぇ)に≪食人植物グルフ≫の球根を調理したものを運んできた。
 口に放り込んだ球根が、アンジェの舌の上で肉汁のような旨み成分を生み出していた。
 アンジュはその美味しさに目を輝かせ、次々と球根を口に運んでいた。
「あんな危険なものでも使い道があるもんなんですね」
 司は嬉しそうにアンジュを見守る。
 すると、視線の片隅で氷漬けにされた≪食人植物グルフ≫を抱えるシオン・エヴァンジェリウス(しおん・えう゛ぁんじぇりうす)を発見した。
 司は慌ててシオンに近づく。
「あ、あの、シオンくん。それをどうするつもりですか?」
「ん、これはねぇ~……」
 シオンは人差し指を顎に当てて悩んだ素振りをみせると、最後に「ヒ・ミ・ツ♪」と可愛らしく告げて立ち去った。
 立ち尽くす司は、不安でいっぱいだった。

 一方、緋柱 透乃(ひばしら・とうの)のもとにもイコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)が『≪食人植物グルフ≫の球根カリカリ揚げ』を運んで来ていた。
「はい。料理ができましたわ」
 透乃はさっそく目の前に出されたり料理を一つまみして、口の中に放り込んだ。
「おぉ、意外にも美味だねぇ♪」
「そうですね」
 透乃の隣で緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)も美味しそうに食べていた。
「ねぇ、陽子ちゃん花粉症は大丈夫なの?」
 テーブルに置かれたマスクを見て透乃が問いかける。
「ええ、優秀なマスクのおかげでなんともありません」
「そっか。マスクって色々あるもんね」
 透乃はニコニコ笑いながら話していた。
「そうだ! 今後、一緒に陽子ちゃんに似合う可愛いやつを探しに行こうか」
「はい。よろしくお願ー―」
「おススメはこれなのだ~!」
 陽子の言葉を遮って、屋良 黎明華(やら・れめか)がプロレスのフルマスクを勧めてきた。
 自身満々に勧める黎明華。花粉症の部分は聞いておらず、マスクという言葉に反応した感じだった。 
「1つ、どうなのだ?」
「い、いえ、遠慮しておきます」
「残念なのだ~」
 陽子が戸惑いながらも断ると、黎明華は肩を落としていた。


「おーい、妃美さん」
 弓彩 妃美がのんびりとくつろいでいると、コスプレから着替えた富永 佐那(とみなが・さな)が手を振りながらやってきた。
「ん、ジナイーダ・ドラゴ。あ、でも今は試合中じゃないから、佐那って呼んだ方がいいのかな?」
 妃美が苦笑いを浮かべていた。
「えっと、それで何か用?」
「はい。せっかく知り合ったので、今度一緒にコスプレでもどうかなと思って誘いにきたんです」
「コスプレ? やったことないよ?」
「大丈夫ですよ! 何事も最初は初めてですよ。それにほら、色んな経験を積むことは決して悪いことじゃないですよ。一度くらい挑戦してみたらどうですか?」
「う~ん、でもな……」
 なかなか踏み切れない妃美だったが、結局押し切られ、佐那が衣装を用意するという条件で挑戦してみることになった。

 すると、佐那と妃美のやり取りを遠くから見ていた、キリエが白雪 椿(しらゆき・つばき)に頼み込む。
「あいもプロレスの衣装が欲しいちょよ」
「えっ?」
 椿は突然のお願いに戸惑った。
 どうやらキリエは、試合を見てプロレスに興味を持ったようだ。
 すぐに答えの出せない椿に対して、近くにいたアニメ大百科 『カルミ』(あにめだいひゃっか・かるみ)はヤル気満々に答える。
「ステージ用衣装なら、可愛いことはもちろんのこと、多少お色気要素があってもいいはずなのです! だったら任せるのです!」
 カルミは一人で色々アイデアを思案し始める。
 椿は悩んだ末に、ため息を一つ吐いて答えた。
「……わかりました。頑張ってみます」