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亡き城主のための叙事詩 前編

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 十四章 二人の門番 後編

 破壊された門の前で激闘を繰り広げる契約者たち。
 グレントレインを切り離すことには成功していたが、二人の門番は時間が経つにつれ、お互いに近づき連携を取り戻そうとしていた。
 せっかく引き寄せていた戦いの流れは、今にも崩れそうになっていたとき。少し引いた立ち位置から遠距離射撃を行っていたクレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)が動いた。

「みんな、聞け! 他部隊が城内に侵入した!!」

 クレアが叫んだこの情報はもちろん嘘。しかし、グレンとレインは驚愕し戦いを止め、クレアに目を向ける。
 予定通りの反応だ、とクレアはまず第一の関門を突破したことに充足を感じつつ、次の策にうってでた。

「他部隊が確保した突入口からぞくぞくと侵入が成功している。私たちの目的はここでこの門番を足止めすることに変わった!」

 クレアはあえて全員に指示を出す。これは二人の門番が城内に引っ込まないようにする措置。
 この門番は強い。だからこそ、クレアは後の戦いで関わらないよう、ここで倒しておきたいと考えたからだった。
 そして、この一連のクレアの行動にはもう一つの効果を生み出すことができる。
 それは門番が城内のようす、物音などを気にすれば、多少なりとも注意が散漫になるからだ。

「……くそ、どうやって進入した」

 苛々としたレインのその発言に、クレアは策が上手く成功したことを感じた。
 そして、三つ目の最後の策を行う機会をうかがう。その好機は幸いにもすぐにやって来た。

「騙されるな、バカ野郎! この刻命城は、この門以外からはほとんど入れないはず。
 敵意を持った者が屋根から侵入すれば、城内の従士に気づかれるはずだろう……!」

 グレンはクレアをキッと睨み、別々で戦っているレインに向かってそう叫んだ。
 それと同時にクレアが無線を取り、連絡をする振りをする。そして、二人がやっと聞こえるぐらいの声量で呟いた。

「……ええ、上手く行きました。門番の一人が僅かながら協力してくれたおかげで」

 二人の門番が驚愕し、目を見開ける。
 互いに嘘だ、と思う。いけ好かない奴だが亡き主を裏切るような行為はしないはずだ、とも。
 しかし、心の中に小さいけれど生まれてしまった疑問は消すことが出来ず、二人の門番を疑心暗鬼に陥れる。
 よって、二人は連携をするのを諦め、また個人個人で戦うことに専念した。
 クレアの嘘は、戦いの流れをもう一度こちらへ引き込んだのだ。

 ――――――――――

「斥候としては門衛の排除による間接的援護は栄誉なことだわ。行くわよ、菊媛」

 ゴッドスピードをかけたローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)が、上杉 菊(うえすぎ・きく)と共にグレンに向かう。
 二丁の曙光銃エルドリッジの狙いをレインに定め、朱の飛沫を発動。着弾と共に炎を発する魔力を込められた二発の強烈な光の弾丸がレインに飛来。

「ほう……貴様も同じ魔銃士か。面白い」

 レインはその弾丸を拳銃で弾き、同じく朱の飛沫を発動させた銃弾をローザマリアに飛翔させる。
 地獄の門により威力を増したその銃弾を、行動予測でローザマリアは避ける。その銃弾は地面に着弾すると同時に炎の柱を巻き起こした。

「それはどうかしら。魔銃士の技が使えるからって、魔銃士とは限らないわよ」

 ローザマリアはそう言うと、タービュランスを発動。
 レインの周囲に乱気流が起こり、飛行が不安定になり、やむなく地上に降り立つ。
 それと同時に菊は鬼払いの弓を引き絞り、サイドワインダーを放つ。二本の必中の矢が、レインの片腕を射る。
 しかし、レインは呻き声もなにも洩らさず、菊に向けて赤黒い魔法陣を展開。膨大な魔力を込めようとした。

「悪いけど、此方も招待された以上は通してもらわないと、ね……ごめんなさい、加減は出来ないわ」

 不意に、レインの背面にローザマリアが現れる。
 菊が攻撃を行ってレインの注意を引いている間に、ローザマリアは光学迷彩とブラックコートで姿と気配を消し去りレインの背面に回り込んでいたのだ。
 グルカナイフ型の光条兵器を構え、空賊の戦闘技能の集大成――エアリアルレイヴでレインの矢が刺さった腕を斬りつける。
 それと同時、菊は赤と青が入り混じった大きな魔法陣を流麗な仕草で描く。

「わたくしの魔技――出来れば使う事無く終わらせとうございました。致し方ありませぬ」

 菊が膨大な魔力を赤と青の魔法陣に込める。魔法陣は星のように神々しい輝きを放つ。
 その魔法陣の中心に菊は引き絞った矢を放つ。魔法陣を射抜き、その相反する力を十二分に受け止めた矢には、対消滅の力がこもる。
 菊の魔技。その極大の一撃を相手に叩き付ける――『龍虎双剋』だ。

「……ッ!?」

 レインの背筋に冷たいものがぞわりと這い上がり、禁猟区がけたたましい反応を告げる。
 この攻撃はどうしても避けろ、レインの本能がそう告げ、銃舞に全力をこめ、飛来する龍虎双剋を間一髪で回避。
 しかし、レインには息をつく暇もない。見れば、が破壊された門に向けて駆けている。

「……行かせるか……!」

 レインは光の翼を羽ばたかせ、低空飛翔。
 門に向かって駆ける桐ヶ谷 煉(きりがや・れん)の前に回りこみ、二丁の拳銃を発砲。しかし、菊とローザマリアに両腕を傷つけられたせいで動きが鈍い。
 普段とは違い鬼気迫る表情をした煉は、無銘を素早く抜刀。ウェポンマスタリーによって一太刀で二つの銃弾を斬り払う。

「邪魔をするな……」

 煉は刀を構え、味方をも震え上がらせる修羅の闘気を身にまとう。一瞬気圧されたレインの隙をつき流星のアンクレットによって加速、急接近。
 アンボーン・テクニックの魔力による身体強化、サイコキネシスで刀身を加速させる。
 雲耀之太刀による稲妻の如き速さの剣戟。アナイアレーションの剣技。二つの技を複合させた奥義、真・雲耀之太刀。
 雲耀の速度をも超える神速の技でレインを一刀両断。傷口から血が噴出され、返り血を浴びつつ、煉は門の先へと進む。