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花換えましょう

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花換えましょう
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 ■ 桜舞う神社 ■
 
 
 
 春の日が暮れてゆく。
 空京神社ではまだ花換えをしている人がいるようだけれど、福神社には静かな時間が戻ってきていた。
「もう巫女の仕事も終わりかしらね」
 暇になった牛皮消アルコリアは、境内に咲いているひかえめな風情のアオイスミレを手折ると、七瀬歩の髪に挿した。
 歩は照れたように花に触れた後、そうだ、とアルコリアに言う。
「あたしたちも花換えしておきません? もしかしたら、神様から頑張ったご褒美もらえるかもしれませんよ」
 いたずらっぽく笑う歩に、アルコリアも頷く。
「花換えか。うん、しよっか」
 私はもう十分にご褒美貰ってるけど、とアルコリアは小さく笑うと、桜の小枝を持ってきて歩と花換えをした。
「去年よりは参拝客が少なかったですけれど、トラブルも起きなかったようですし、今年も大成功でしょうか。裏方中心で花換えできなかった人は、此処で交換なんていかがでしょう?」
 柊美鈴は余った桜の小枝を手伝いの皆に配ると、花換えましょう、と呼びかけた。
 去年よりも人出は減ってしまったけれど、来てくれた人が楽しく小枝を交換してくれたのなら、祭りは成功だったと言って良いだろう。
 これまでは参拝客の福を祈って働いた皆も、今は自分の願いをかけて小枝を交わしあう。
 まだ福娘の恰好のまま白雪牡丹は小枝を手に取った。
 福娘がやってみたいと言った牡丹の為、椿は今日1日ずっと近くで助けてくれていた。そんな椿がいてくれたからこそ、牡丹は緊張しながらも福娘の仕事を全うできたのだと思う。
「椿……あの……椿がこれから先の未来でも、ずっとずっと幸せであれますように……」
 感謝と願いをこめて、牡丹は椿に枝を渡した。
「牡丹……ありがとう、ございます……とても……綺麗ですね」
 誰が作った枝なのだろう。小枝には淡いピンクの桜、小さな朱色のお守り袋、ミニチュアの絵馬がバランス良くつけられている。
「はい……綺麗なのです……」
 牡丹は椿の言葉を繰り返すと、ふわりと緊張を解いた笑みを浮かべた。
 
「布紅おねえちゃんが悲しくならないように、きれいにするですよ〜♪」
「後片づけまでがお祭りですわよね」
 ヴァーナーと神代夕菜は境内の掃除に取りかかった。花換えの時に落ちたのか、造花の花びらや屋台で出たゴミが落ちているのを、箒で集める。
 花換えまつりの間ほとんど姿を見せなかった琴子も、飾り付けを外したり境内の様子を見て回ったりと後片づけを手伝った。
 それまでは社にこもっていた布紅も、外に出てきて片づけものをする。普段から自分で神社を掃除しているだけあって、慣れた手つきだ。その様子をじっと見ていた夕菜は、思い切って声をかけてみた。
「あの……布紅さん?」
「はい、何でしょう?」
 布紅のことが気になるけれど、様子だけを見に来るとは言い難く、かといって巫女として働かせてくれとも言い辛い。考えた末、夕菜はこう尋ねてみた。
「これからも福神社をたまに一緒にお掃除させてもらっても良いでしょうか?」
「掃除でなくても、いつでもどうぞ」
 福神社の主である布紅は、常にここにいる。休みも出掛けることもないから、いつ来てくれても良いのだと布紅は快く頷いた。
 そんな布紅を眺めて、琴子は小さくほっと息を吐く。
 良かった。口には出さずとも雄弁な微笑を浮かべて。
 
 
 祭りの後始末をしている人、着替えを終えてきた巫女たち、花換えの余韻にひたる人。まだその場に残っている人たちに志位大地は呼びかけた。
「皆さんお疲れさまでした。お茶でも飲んで休憩して下さいね」
 春は寒暖の差が激しいから、周囲は急速に冷えてきている。だから温かい茶を淹れ手作りの菓子を添えて、大地は皆に勧めた。
「余っちゃったから桜餅もどうぞ。たくさんは無いから早い者勝ちだよ」
 布袋佳奈子が長命寺風桜餅を盆に載せて、一緒にどうぞと大地の菓子の隣に置いた。少し余ってしまったけれど、桜餅の売り上げは佳奈子のお小遣いの足しに十分なってくれた。労働の甲斐があったというものだ。
 片づけを終えた者から集まってきて、茶と菓子を楽しむ。
 茶と菓子を囲んで、桜に負けぬ話の花がそこここに開いた。
 
 
 
 花換えまつりは終わったけれど、桜の見頃はまだしばらく続く。
 真新しい箒目のついた福神社の境内に、春風が桜の花を舞い散らす。
 寂しい地面を優しさの花びらで覆い尽くそうとでもいうように――。
 
 
 

担当マスターより

▼担当マスター

桜月うさぎ

▼マスターコメント

 
大幅な遅延、申し訳ありません……。

今年も皆様のおかげで、無事に福神社でも花換えまつりが開催できました。
準備を手伝ってくれた方も、当日お手伝いいただいた方も、お祭りに参加して下さった方も、
ありがとうございました。