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遅咲き桜と花祭り~in2022~

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遅咲き桜と花祭り~in2022~

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●第2章 花で作ろう

「あ、美緒とラナだ!」
 花祭りの会場を歩いていて、通りの先に2人の姿を見かけた小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は、声を掛ける。
「こんにちは、美緒さん、ラナさん。お2人も、お祭りの見物ですか?」
 美羽のパートナーのベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)も、近付いて挨拶しながら、問い掛けた。
「ええ。お姉様と一緒に、お花を楽しもうと思いまして」
 美緒が頷きながら応える。
「お2人も……ですよね?」
 ラナが美羽とベアトリーチェの2人を見てから、軽く首を傾げた。
「そうなの」
「私たち、これからアクセサリーを作りに行くんです。よろしければ、お2人も一緒にいかがですか?」
 ラナへと頷き返す美羽の隣から、ベアトリーチェがそう訊ねてきた。
「楽しそうですわ。お姉様、わたくしたちもご一緒させてもらいましょう?」
 美緒はラナの返事を窺うように彼女の方へと視線を向ける。ラナは、1つ頷いて、4人は連れ立って、作成コーナーへと歩き出した。
 作成コーナーは子どもから大人まで賑わっていて、それぞれが思い思いのアクセサリーなどを作っている。
 美羽たちも早速材料を選んで、手順などをスタッフから教わりながら、作り出した。

「ねえ、よかったら作ったアクセサリーを交換しない?」
 作り終えた白百合のネックレスを手に、美羽が美緒へと問い掛ける。
「わたくしの作ったものでよろしければ……」
 告げながら、美緒は日々草のネックレスを差し出す。
「ラナさん、私たちも交換してくれますか?」
「ええ」
 2人の様子を眺めているラナへと、ベアトリーチェが訊ねれば、彼女も快く、花冠を交換してくれた。



「花でアクセサリーを作ってみませんか?」
 恋人と共に、食べ歩きながら鉢植えの花や、花で作った雑貨などを見て回っていたセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)は、売り子にそう声を掛けられ、足を止めた。
(へぇ、去年は食べる方に夢中だったから気づなかったけど……)
「面白そうね」
 売り子にそう答えるセレンフィリティの様子をセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)は、珍獣でも見るかのような目で見る。
(セレンでも興味あるんだ……)
 そうして、ふと去年も同じようなことをしていたな、と苦笑が漏れた。
「セレアナ?」
「ううん、何でもないわ。作るのなら、行こう」
 突然、苦笑を浮かべたセレアナに対して、セレンフィリティは首を傾げながら、声を掛ける。
 そんな彼女に、セレアナは軽く首を横に振って、先を行こうとする売り子の後に着いていこうと促した。
 様々な花のペンダントトップや造花などが並び、質問が多いのか、365日の誕生花一覧が立てかけてある。
(12月17日はフリージア……花言葉は無邪気、清香、慈愛、親愛の情などねぇ。『無邪気』はともかく『親愛の情』を示すという意味でなら丁度いいかしら?)
 そう考えたセレンフィリティは、フリージアを手に取った。作るのはコサージュだ。
(1月29日はラナンキュラスね。魅力的、可愛らしさ、晴れやかな魅力、移り気など……移り気は困るけれど)
 苦笑しつつ、セレアナはラナンキュラスを選んで、ネックレスを作り始める。
 大雑把で細かい作業が苦手はセレンフィリティは、担当の人に教えてもらいながら、作っていくのだけれど、針で指先を突いたり、作業が雑で変に歪んだりと悪戦苦闘しながら、それでも、恋人への自分の想いを形にしようと、懸命に、集中力を発揮して、作っていくと、次第に作業は丁寧さが出てきていた。
 対するセレアナは、器用にネックレスを作り上げ、余った分で花冠をも作り上げる。
 一息ついて横を見てみれば、悪戦苦闘中のセレンフィリティの様子に苦笑が漏れた。けれども、その懸命な姿が、自分への想いを込めて作っているのだということが伝わってくるだけに、胸の奥から温かいものが込み上げてくる気がした。
 共に出来上がると、作成コーナーを離れて、近くのベンチへと座ると互いに見せ合う。そして、それぞれを付け合った。
「ありがとう……大切に使うわ」
 先ほどのセレンフィリティの一生懸命な姿を思い出しながら、セレアナが言う。
「疲れたー」
 セレンフィリティは1つ頷いてから、そう告げて、セレアナへと寄りかかった。
 セレアナは彼女を受け止めて、2人は暫し、ベンチの傍に咲く遅咲きの桜を楽しんだ。



 花の展示を存分に楽しんだ後、香奈は、作成コーナーへと足を向けていた。
「ネックレスや花冠、他にも花を使ったアクセサリーなど様々なものを作れますよ。そこの恋人さんたち! 彼女、彼氏へのプレゼントとして、作っていきませんかー?」
 道行く人々に向かって声を張り上げている売り子に、突然、ピックアップされて声を掛けられる。
「え、あ、俺たち?」
 突然のことに一瞬驚くけれど、忍は、今日の思い出に、互いのネックレスを作ろうと思いついて、香奈へとどうかと訊ねた。
「うん、いいね」
 香奈も賛成して、早速、作成コーナーのテントへと入る。
 今日の思い出なのだから、と花は桜の花を選んで、ネックレス用の鎖を受け取った。
 手順を確認した忍は、香奈へと教えながら、ネックレスを作っていく。
「出来たよ」
「俺も完成だ。つけてあげるよ、香奈」
 己の作った桜の花のネックレスを忍は香奈の後ろに回って、付ける。
「私のはしーちゃんに、だね」
 付けられて、首元を彩るネックレスに喜びながら、香奈は己の作った分を忍へと渡した。



(それにしても、懐かしいな……全然変わってないぜ)
 昨年も花祭りへと訪れた健闘 勇刃(けんとう・ゆうじん)は、変わらぬ作成コーナーの様子に、苦笑を漏らした。
 それから、昨年作ったネックレスを思い出しつつ、今年は何のネックレスにしようかとトップの並ぶテーブルの前で悩む。
(えっと、今回はどの花にしましょうか……)
 共に来た、パートナーの天鐘 咲夜(あまがね・さきや)も並ぶ花型のペンダントトップを眺めて、考え込んでいた。
(よし、今回は桜草にしよう。……そういえば、咲夜のこのリボンも桜草で作ったんだっけ)
 眺めていた花の中から桜草のトップを手にした勇刃は、傍らのパートナーの身に付けるリボンへと、ふと視線を送った。
 思い出したとおり、そのリボンにも桜草の花があしらわれている。
(あ、そうでした! 確か健闘くんが、ジャスミンが好きって言ってましたね! それじゃ、これにしますか!)
 見られていることに気付かない咲夜は、1つ手を打つと、ジャスミンのトップを手にする。
 それぞれが花を選ぶと、鎖を受け取って、作業テーブルへと向かう。
 作成自体は簡単なため、あっという間に作り終えた勇刃は折角だからラッピングも施そうと、リボンや包装紙が並べられたテーブルを見て回る。
「あ、美緒さん! お久しぶりです!」
 探し物をしていた勇刃は、咲夜のそんな声にふと視線を上げた。
 美緒たちが作成コーナーへと歩いてきている。
「また会ったね。今日もお花見?」
「はい。健闘様たちもお花見ですか?」
 訊ね返す彼女に、1つ頷いてからふと彼女の隣の女性――ラナへと視線を向けた。
「そちらは……」
「えっと、そちらの銀色の髪の人は、美緒さんのお姉さんですか?」
 勇刃の言葉を遮って、咲夜がずばりと訊ねにくいことを訊ねる。
「あ、お姉様とは初めてでしょうか。こちらは……」
「美緒のパートナーの、ラナ・リゼットと申します。お2人とも、よろしくお願いしますね」
 美緒の言葉に続くように、ラナが告げる。
「あ、美緒さんのお姉さんか。これはこれは失礼。初めまして、健闘勇刃と申します。いつも美緒さんにお世話になりました」
「よろしくお願いします! 実は私、この前に離れ離れになっていたセレアお姉さんに会いました!」
 挨拶と共に咲夜が告げると、美緒は「それは良かったですわ」と微笑む。
 他愛無い会話をしてから2人と分かれると、咲夜がネックレスが出来たと告げた。
「はい、健闘くん、どうぞ!」
「どれどれ……うん、いい香りだ。よく覚えてるな、俺がジャスミンが好きってことを。ありがとう」
 差し出されたネックレスの出来栄えを確認して、それがジャスミンであることを知れば、勇刃は嬉しく思う。
「俺もできたぞ。咲夜ほど上手じゃないけど……」
 そして、お返しにとラッピングも施した桜草のネックレスを渡した。
「ありがとうございます! そんなことありませんよ! 健闘くんも、うまくできてますよ!」
 咲夜も嬉しそうに微笑んで、それを受け取るのであった。