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サクラサク?

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サクラサク?
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第3章

 それより少し前の女湯では、医心方 房内(いしんぼう・ぼうない)が、鬼龍 白羽(きりゅう・しらは)に説教していた。
「何じゃ! 温泉に水着とは! どこぞの温泉プールとかいうのなら、話はまだわかるのじゃが、ここは温泉宿じゃぞ!! 本来は、マッパが正装じゃ!」
「だって、エロ本が、イヤラシイ目つきでボクのこと見るから……」
 服を着ていると男に見える白羽は、実は、隠れ巨乳なのだ。今日は、混浴でなはないから、男性の目がないのは助かるが、その分、エロ本と呼んでいる房内の、舐めまわすような視線が気になる。
「一億万歩譲って、タオルは認めてやらないこともない! じゃが、水着、テメーは駄目じゃ!!」
「えー、タオルって、マナー違反だよ。でも、温泉入りたいし……仕方ないから、ギリギリまで、この恰好で……」
 イヤイヤながら水着を脱ぎ、しっかりとタオルを巻いて洗い場へ向かうと、早速、房内が、まとわりついてきた。
「マッサージしてやるぞ、わらわのマッサージは、豊乳マッサージじゃ」
「必要ないよ!」
「冷たいのう……では、ガードが緩むまで、他の子の身体を堪能するかの。ほう、あの子なぞ、なかなか……」
 房内の視線の先にいたのは、シベレー・ウィンチェスター(しべれー・うぃんちぇすたー)。パートナーで恋人のアクロと離れ、フィンラン・サイフィス(ふぃんらん・さいふぃす)ルカーディア・バックライ(るかーでぃあ・ばっくらい)と一緒に女湯にやってきたが、何やら気になることがあるようだ。
「ルカーディア母様……男性の風呂場の方角をじっと見つめている……」
 ぼんやりと、男湯と女湯を隔てる塀を見つめているルカーディアの頭にあるのは、母親
代わりをつとめてきたアクロのこと。
「今日は……みんなで……露天風呂に……入る……けど……。むぅ……、アクロくんと……入れないなんて……。彼の地球での中学生時代のように……一緒に……入りたかったよ……」
 アクロの前で、その気持ちを口に出すことはできなかった。
「度が過ぎれば……逆に……説教……食らうから……」
「ルカーディア母様……」
 どことなく寂しそうな彼女に、シベレーが声を掛けようとしたとき。
「シベレーちゃんは、私より1つ年下なのに羨ましいぞー!!」
 などと叫びながら、サイフィスが、豊かな白い胸にタッチ!
「フィン様!」
「シベレーちゃんや、ルカ母さんのスタイルが……なんだか妬ましい……」
「羨ましいからって、人の身体を触るの、やめてください!」
 洗い場で石鹸だらけになりながらジャレる若いふたりを、ルカーディアが見守る。
「しかし……フィンちゃんも過激だね……シベレーちゃんのスタイルが……フィンちゃんよりいいから…って……壁の向こうの……アクロくんに……聞かれてるかも……しれないのにね……」
「そうです、もし、アクロ様や、他の男性方に聞こえたら、流石に恥ずかしいです! うぅ、もしかしたら、夜の山桜を見るどころじゃ……ないかもしれないです……」
 露天風呂に浸かる笠置 生駒(かさぎ・いこま)は、泡だらけのそんな騒ぎも耳に入らない様子で、パートナーのジョージのことを心配していた。
「大丈夫かな……一見、チンパンジーに見えるから、男湯に入るの断られたりして……いや、さすがに、それはないか……」
 風呂上がりのコーヒー牛乳は、一緒に飲もう。
 でも、それは、後のこと。
 今は、ただ、のんびり、ゆったり。
 ちゃぷちゃぷしている生駒に見られないように背を向け、景色を眺めるふりを装う宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)が、さりげなく、イオテス・サイフォード(いおてす・さいふぉーど)の肩に触れる。
「冬に来た時には、えらい目にあったけど、ここの温泉、いいのよね……中庭の桜があの有様なのは、ちょっと残念だけど、山桜を眺めながら、のんびりと露天風呂をたのしみましょ」
「ええ、お休みを使っての旅行も、いいものですね。ここでしたら、比較的きやすいですし、いい場所ですわ」
「あら、イオテス。随分凝ってるんじゃない?」
 普段は、空京で留守を守ってくれているイオテスに、パートナー孝行というか、肩もみなどしてあげる、というのは、祥子の旅行の目的のひとつでもあった。
 スキンシップというわけではないが、前の騒動では、ずいぶん好きにしてくれたことももあるし、ちょっとだけ、お返ししたいという気持ちもある。
「また、大きくなったのかしら?」
 とりあえず、軽く胸のあたりまで揉んでおく。
「ヴァイシャリーでがんばってる祥子さんですから、私も軽いマッサージを……少しは、疲れをとってもらいましょ」
 と、自分も、祥子の肩をほぐそうとしたイオテスだったが、揉んだり揉まれたりしているうちに受け手になって、素直に、身体を預けはじめた。

 斎藤 ハツネ(さいとう・はつね)は、今回の温泉旅行を、ずっと楽しみにしていた。
「でも、残念なの。せっかく、さくらちゃんの為に、花見が出来る時に来たのに、中庭の桜、まだ咲いてないの。保護者役ができるように、頑張って大人らしく振る舞ったのに」
普段は「キリングドール」と呼ばれている暗殺者な壊し屋凶悪ロリだが、伏見 さくら(ふしみ・さくら)の前では人並みの無邪気な少女。そんなハツネが、大きなため息で、露天風呂の湯を揺らす。
「……名物の桜が、まだ咲いてないのは残念だけど、誰かと一緒に旅行できるだけで嬉しいよ。ありがとう、ハツネちゃん」
 親友の本性を知らないが故に、自然体で接するさくらの無邪気な笑顔は、ハツネの心の清涼剤だ。
「……まあ、風船屋の有名な露天風呂に入って、ゆっくり気長に待つの」
 老木の桜を咲かせるために、コンダクターたちが集まっているようだから、待っているうちに、なんとかなるかもしれない。
 山桜は露天風呂からも見えるし。
「山桜、可愛いね」
 浴場の戸をガラリと開けた途端、さくらが、感心したように呟く。美的センスの悪いさくらは、大抵のものを「可愛い」というが、今回は、ハツネも異存はない。
「山桜もいいけど、まずは、体の洗いっことかするの」
 洗い場にさくらを連れて行ったハツネが、さくらの身体をこする。
「さくらちゃん、普段から頑張り屋さんだから、汚れてる所も多いけど、髪もお肌も、すべすべの触り心地抜群なの」
「ハツネちゃんこそ……大人っぽくなったハツネちゃんって、すごい色っぽい……特にお胸が」
 スポンジでハツネをこすっていたさくらが、つい、指でつついてみたくなって……、
 つんつん。
「あん……」
「あっ、可愛い声で恥ずかしがってる♪ もっとやっちゃえ♪」
 洗いっこに夢中なふたりも、他の者たちも気付いていなかったが、このとき、女湯には、悪の魔の手が伸びようとしていた。
「今日も、女体の神秘を求めるでござる」
 特技を駆使して姿を消し、高い塀の上に跨がったのは、姿は美少女くノ一だが、中身は変態忍者の望月 半蔵(もちづき・はんぞう)。女体に並々ならぬ情熱を捧げた結果、東方に伝わるくノ一という存在に感銘を受け、擬態した元男性ポータラカ人である。
 そこによじ登ってきたのは、瀬乃 和深(せの・かずみ)。大胆きわまりない手口だが、隠形の術を使っているせいか、それとも捨て身の覚悟を決めているせいか、まだ、誰にも気付かれていない。
「露天風呂といえば、やっぱり覗きだよな。忍者のあんた、そっちのカメラの調子はどうだ?」
「ビデオカメラもカメラも顕微眼も、すべてばっちりでござる。ビデオカメラとカメラで盗撮……もとい記録を撮り、顕微眼で覗き……もとい記憶するでござる」
「俺の好みは、長身巨乳だ。上手く撮れたら、あんたのもTV局に売り込んでやるぜ」
 和深の狙いは、露天風呂の撮影だけでなく、覗き企画の売り込みでもあるらしい。
「拙者、女体ならロリから熟女までイケるでござる」
 自慢にもならないことで胸を張る半蔵の目が、シャボンまみれの洗い場に吸い寄せられた。
「おおっ! 胸とか幼女の絡みは最高でござる!! みなぎってきたー!」
「うお! 俺の好みからは外れているが、いかにも売れそうな素材だぜ!」
 ハツネとさくらの姿を、半蔵と和深のカメラがくっきりと捕らえようとしたそのとき。
 バサッ! バキッ! ドスンッ!
 あちこちの枝に捕まっては、それらを容赦なく折りながら、ふたりめがけて落ちてきたのは……、
「誰かと思えば、平清盛ちゃん! 狙っていたんだぜ!」
 しかし、和深がカメラを構える間もなく、ふたりを巻き込んだ清盛の小さな身体は、女湯の露天風呂へドボンッ!
「……ハッ、視線! ……そこなの!!」
 びしょ濡れになりながらも、しぶとく姿を隠していた半蔵の居場所を、超感覚で察知したハツネが、咄嗟に匕首の光条兵器・桜花を投げる。
「さくら、光術!」
「えっ、ハツネちゃん!?」
 戸惑いつつも放った光術は、見事に和深に命中。
「……って痛ッ!」
「目が〜! 目が〜!」
「うおっ、何じゃ!?」
「男?!」
「え? ど、どうして……」
「チカンに決まってるよ! さあ、早く逃げて!」
「か……隠す……もの……」
「気をつけて!」
「大丈夫ですわ」
 房内、白羽、シベレー、フィンラン、ルカーディア、祥子、イオテスは、いきなり姿を見せた男ふたりに驚きつつも、声を掛けあい、お互いを庇いあうようにして、脱衣場へとすみやかに移動した。
「覗き? だったら、こうやって……ここをこうすれば……」
 生駒は、水しぶきをまともに浴びながらも、手近に落ちてきたカメラなどの機材を拾い集めた。
 チカンだか覗きだか知らないけど、一発で撃退できるものを作ろう。
 だが、急ごしらえの武器的なものは、最後のパーツをはめた途端に……、
 ドッカーン! バキバキーッ
「うおー?」
「今度は、女湯からの攻撃か?」
「ギャー!」
 生駒の作った何かが引き起こした盛大な爆発で、女湯と男湯の間の塀が壊れ、被害はさらに拡大。
 そして、混乱しまくった事態が収拾した後は……、
 半蔵と和深は、風船屋の浴衣をきっちりと着込んだ男女の前に引き出され、正座させられていた。
「これはさすがに、出るところに出てもらわないといけないわね」
 と、祥子が凄む。
 こんな男たちが、雪や氷の精霊を思わせるイオテスの肌を盗み見たなんて……!
「へヘッ……堪忍や! ポリ公には突きださんといてくれ! 一生のお願いや!」
 変な関西弁混じりの卑屈な態度で命乞いする半蔵の前に、ハツネが踏み出す。
「警察なんて甘い……ハツネ、変態忍者には、色々トラウマあるから……容赦せず壊して……」
 と、一気にトドメを刺そうとしたが、
「……ねぇ、ハツネちゃん、この忍者さん許してあげよう」
 さくらの言葉に、その手は、ピタリと止まった。
「……えっ、さくらちゃん許すの?」
「罪を憎んで人を憎まず……だよ」
「……さくらちゃんがそう言うなら……ハツネも、許すの」
「天使や……さくら殿にハツネ殿は、天使様や! これは天啓や! 拙者、一生付いて行くでござるよ!」
 これが、ハツネと半蔵の契約になった。
「そういうことなら、仕方ないわね。幸い、カメラの類は、全部、壊れたようだし」
 と、祥子が笑う。
「うんうん、いい話だぜ」
 なごやかな雰囲気の中で、和深も、半蔵の肩を叩いて笑ったが……、
「おまえが……」
「言うな〜っ!」
「うわあっ!」
 女性陣からの総攻撃に晒された和深を救ったのは、彼の前に飛び出した清盛だった。
「皆、すまなかった。この騒ぎの責任は、私にある……皆が楽しそうだったので、つい……いや、言い訳は、見苦しいな。とにかく、すまなかった。この者の代わりに、私を罰してくれ」
「まあ……健気ですわ……」
「清盛……ちゃん……」
 シベレーとルカ−ディアは、小さな少女の姿をした清盛の言葉に、母性を刺激されたようだ。
「ね、だったら、あなたへのお仕置きは、みんなで一緒にお風呂に入ることにしようよ! それで、どう?」
 フィンランが提案すると、男性陣、女性陣から、次々に賛成の声が上がった。
「清盛さんは、びしょ濡れですし。風邪をひかないように、よく温まった方がいいですね」
 と、アクロが、新しいタオルを差し出す。
「清盛……温泉の中で、話しを聞かせてよ」
 白羽が、清盛の手をとる。
「それなら、男湯と女湯の間の壁を、直さなきゃいけないね」
 工具を取り出した生駒に、爆発の原因を思い出した皆は、一瞬、凍り付いたが……、
「み……みんなで、手伝いましょう、大丈夫ですよ、みんなでがんばれば……その、覗きをした人には特にがんばってもらうことにして、一生懸命やれば、たぶん……いや、きっと、大丈夫です!」
 という貴仁のかけ声で、てきぱきと動き始めた。