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【新歓】みんなで真・魔法少女大戦!?

リアクション公開中!

【新歓】みんなで真・魔法少女大戦!?
【新歓】みんなで真・魔法少女大戦!? 【新歓】みんなで真・魔法少女大戦!?

リアクション

「おっ、ヤル気だね、いいぜ、相手になってやるよ!」

 鬼神令嬢マキ☆ラクシャシー(鬼道 真姫(きどう・まき))は、向かってきた小型サイズになった≪機動型動力炉S≫に拳を構える。
 ≪機動型動力炉S≫は≪起動式バイオタンク一号≫の潰れた楕円形をした中央部分から次々と生み出されてくる。
 フィーア・四条(ふぃーあ・しじょう)も自分の手のひらに拳を打ちつけて、やる気満々だった。

「相手が機械だと関節技はきかねぇかもしれねいが、最悪ぶっ壊して終わりだ!」

 すると、機晶妖精のトゥルーデちゃんになったヴァルトルート・フィーア・ケスラー(う゛ぁるとるーと・ふぃーあけすらー)がフィーアの腕を小突く。

「ねぇねぇ、フィーア。あの人の胸、なかなか良さそうだよ。
 引き締まった身体に乗るあの
 あんまり他人に触られたことないだろうから、なかなか揉み応えはあると思う」
「ほほぅ」

 ニヤケながら見つめるフィーアの視線に、マキ☆ラクシャシーが背筋に悪寒を感じた。

 そこから少し離れた所で、魔法少女ろざりぃぬ(九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず))が戦う手を止めてマキ☆ラクシャシーとフィーアを見ていた。
 魔法少女マジカルレイヤー海音☆シャナ(富永 佐那(とみなが・さな))が話しかけてくる。

「ろざりぃぬさん、どうかしました?」
「あ、いや、ちょっと魔法少女ってなんなのかなぁって、思ったりなんかしちゃったりして……」

 ろざりぃぬは頭をかきながら苦笑いを浮かべて答えていた。

「ほら、海音☆シャナもそうだけど、私もフィーア達も、魔法少女になったけど魔法なんて全然使ってないじゃん。
 だから、無理して魔法を使おうかなって思った私は間違いなんじゃないかな……って思ったんだよね」
「そういうことですか。つまりろざりぃぬさんは魔法少女なのだから魔法で戦うべきなのではないかと考えたわけですね」

 ろざりぃぬが頷く。

「ですけど、魔法が使えるから必ず魔法少女だということではないと、私は思いますよ。魔法で戦う職業は他にもありますから。
 むしろ、本当の魔法少女というのはその心にあるのではないでしょうか?」
「心?」
「そうです。ろざりぃぬさんの中に魔法を使う以外にそう言った魔法少女のイメージはありませんか?」
「私の考える魔法少女イメージ……」

 ろざりぃぬは腕を組んで悩んだ。
 頭の中がぐにゃぐにゃもやもやする。
 そして出てきた答えが――

夢や目標の為に頑張るその心が魔法少女なんだー!!

 ――だった。
 突然ろざりぃぬが両手を上げて叫んだので海音☆シャナを目を丸くしていた。

「っと、思うんだけどどうかな?」
「……い、いいんじゃないですか? 
 とても素敵な答えだと思います」
「そ、そうかな……」

 照れるろざりぃぬ。

「よし、スッキリした所で派手に暴れようかな!」

 その表情から迷いが消えていた。

「おい、君達! いい加減、戦闘に戻ってくれないか!?
 こっちは敵が増えて大変なんだぞ!」

 フィーアが叫ぶ。
 戦艦から脱出してきた乗組員達が襲いかかってきたため、生徒達は対応におわれていた。
 フィーアは向かってきた乗組員を首を脇の下で挟むと、絞めるようにして首を痛めつける。

「リリカルギロチンチョーク!!」

 敵が気を失いダラリと手をぶら下げると、フィーアはニヤリと笑って拘束の手をやめた。

「では私もいきますよ!」

 海音☆シャナは向かってきた敵の武器を弾き、取っ組み合いを始める。
 相手の拳を交わし背後に回る海音☆シャナ。
 すると、後ろから相手の二の腕を抱えるように捕まえ、無理やり自分と一緒に反転させた。
 相手の頭が海音☆シャナの背中にくっつく。腕を抱えられたままの敵はこの密着状態から離れられない。

「いきます! リップル・スランバー(Ripple Slumber)!!」

 海音☆シャナは背中から倒れ込んで、上から体重をかけて押しつぶす。敵は顔面から地面にぶつかった。
 敵が鼻を押さえて仰向けに転がる。

「トドメはもらった♪」

 さらにフィーアが【リリカルソング♪】を歌いながら、相手の右足を取って両足で挟むと、ねじるようにして足を痛みつけ始めた。
 
「リリカルスピニング・トーホールド!!」

 敵は鼻を押さえながら、もう片方でフィーアが両足で挟んでいる右足に手を伸ばしていた。
 

 一方、フレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)は、無慈悲に攻撃をしかけてくる≪機動型動力炉S≫から捕まっていた人達を必死に守っていた。
 数の多い≪機動型動力炉S≫に、忍野 ポチの助(おしの・ぽちのすけ)は弱気になっている。

「ご、ご主人様っ! 数が多すぎます!」
「弱音を吐いては駄目です。
 私達の後ろには守らなくてはならない人達がいるんですから」
「そ、そんなこと言っても……」

 ≪機動型動力炉S≫に飛び乗り、回路を確実に忍刀で切断していくフレンディス。噴き出たオイルがせっかくの魔法少女衣装を茶色く染めていく。
 ≪機動型動力炉S≫がフレンディスに向けてレーザーを放つ。
 空中に飛んで避けるフレンディス。だが、レーザーの抜けた先には捕まっていた人達と一緒にいた崎島 奈月(さきしま・なつき)の姿があった。

「しまった!」

 フレンディスは後悔するが、空中ではどうしようない。
 レーザーが迫り、奈月が頭を抱える。
 その時、目の前に≪ケルベロスの幼体≫が飛び出し、その身体でレーザーを受け止めた。

 眩しい閃光が黒い球体に弾かれ周囲に飛び散る。

 ≪機動型動力炉S≫のレーザーが止み、煙をあげながら地面に落下する≪ケルベロスの幼体≫。
 奈月は手の皮が焼けそうになるのも気にせず、≪ケルベロスの幼体≫を抱きしめた。

「わんこ!? わんこしっかりぃ!?
 だれか! ……だれかぁ……助けてよぉ……」

 ピクリとも動かない≪ケルベロスの幼体≫。
 ボロボロ涙を流しながら、俯く奈月。

「大丈夫……」

 するとアデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)が近づき、≪ケルベロスの幼体≫に触れた。

「大きな外傷はない……気絶してるだけ……ですよ」

 アデリーヌが【命のうねり】を発動し、優しい光が≪ケルベロスの幼体≫を包む。

「よかった……よかったよぉ~」

 さらに大きな雫が奈月の瞳から零れ落ちた。

 離れた場所でフレンディスもホッと胸を撫で下ろす。
 
「後方にも注意しませんと……」

 フレンディスは集中する。
 すると隣に立ったレッサーパンダになっているアリッサ・ブランド(ありっさ・ぶらんど)が怒りだした。

「もうっ、こんな大変な時にベルクちゃんはどこで何してるかなぁ!?
 ほんと、役に立たないだからっ!」
「マスター……」

 行方不明になっているベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)を心配するフレンディス。
 アリッサは面倒になってどこかでサボっていると言っていたが、何も告げずに立ち去ったことが疑問だった。

「ご主人様!!」

 ポチの助の声にハッとなり、顔をあげるフレンディス。
 するといつの間に複数体の≪機動型動力炉S≫達が横一列に並んでいた。
 一斉に脚を地面にしっかり固定して、レーザーを発射しようとする≪機動型動力炉S≫。
 フレンディスは武器を構えるが、これだけの数から守りきることは不可能だと感じた。
 今から助けを呼んでも、他の生徒は間に合わない。
 こめかみをじわりと汗が流れる。
 その時――

「機械にはやっぱりこいつだ! サンダーブラスト!!」

 突如聞こえた声と同時に稲妻が次々と≪機動型動力炉S≫に降り注ぐ。
 激しい電流にやられ、痙攣したような動きを見せた≪機動型動力炉S≫が音を立てて黒い煙を吐き出す。
 空から【サンダーブラスト】を放った本人である蝙蝠姿のベルクがフレンディスの傍に降りてくる。

「悪い、遅くなったな」
「マスター……」

 フレンディスの表情に自然と優しい笑みが生まれる。
 アリッサがベルクに近づいてくる。

「もうっ、ベルクちゃんおそいぃ!!
 もうすぐこっちが真っ黒焦げになる所だったじゃん!」
「おい、コラ狸もどき。
 いったい誰のせいでこうなったと思ってやがる!!」

 蝙蝠とレッサーパンダが喧嘩していた。
 その間にも次の敵がフレンディス達に迫る。

「ご主人様、次が来ます!」
「わかっています。いきますよ、マスター!!」
「ちぃ、しかたねぇ。仕返しは後だ。
 今はこっちを先に片づけるぜ!」

 ベルクは嬉しそうにフレンディスの援護を開始した。
 

「おお!! 見てください、リカインさん!」
「ん、なによ、トモちゃん。今、いそが――え?」

 【咆哮】を放つアライグマ姿のリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)は、中原 鞆絵(なかはら・ともえ)の姿を見て目を丸くしていた。
 そこにいたのは老女などではなく、若いというより幼い鞆絵がだった。その姿は小学生低学年と言われれば納得するような見た目だった。
 【ヒロイックアサルト】を発動するば若返るが、ここまで幼くなることはなかった。

「一応聞いてみるけど、ヒロイックアサルトの影響なの?」
「そうなんですよ。
 発動してみたら、なにやらいつもと違う感じがしまして……」
「いつもと違う感じ?」
「なんといいますか、あたしを応援してくれる『心』、みたいなものでしょうか?」

 それは生徒達に降り注いだ魔法少女を応援してくれる人達の光だった。
 その想いが鞆絵に影響を与えたのだった。

「そうなの……でもなんでこんな子供になるのよ。
 まったくその『心』は何を期待していたのかしらね……」

 リカインは深いため息を吐いていた。

 そこへ、アルフェリカ・エテールネ(あるふぇりか・えてーるね)がやってくる。 

「どうやら、おぬしものようだな。
 わしもコスチュームチェンジをしたらこのありさまなのだよ。
 まさか、こんな子供姿になるとは……」
「そうかぁ? 俺にはいつも通りのロリババァに見えるぞ」

 黒毛の猿のマスコットになっている瀬乃 和深(せの・かずみ)は鼻で笑いながらつっこむ。
 すると、アルフェリカも鼻で笑い返してくる。

「それなら言うなら、おぬしこそいつも通りの面白い顔だぞ」
「なっ、誰が猿だ! 俺は人間だっての!」

 アルフェリカの言葉に顔を赤くして怒る和深。
 そんな二人のやり取りを見て、鞆絵が口元に手を当てて笑っていた。

「でも、この姿はとても力はみなぎってきますよね」
「そうなのだよ。だから、まぁ多少の見た目の難は、許すとするしかあるまい」
「なんだろう。見た目に反して会話に違和感が……」

 ぼやく和深を無視して、アルフェリカと鞆絵が一歩前に出るとアイコンタクトをとって名乗りをあげる。

「魔法少女アルフィ!」
「同じく、魔法少女トモエ!」

「覚悟はいいか!?」「参ります!!」

 二人は武器を手に走り出す。
 まるで風のような速さで戦場をかける、見た目が小学生低学年くらいになってしまった二人。
 長い髪をお団子にしてかんざしでとめたトモエがアルフィを首だけで振り返る。

「前衛は任せてください!」
「いいだろう! 安心して進め!」

 走るたびにアルフィのリボンで腰のあたりで纏めた白髪が、おとぎの国のようなファンシーな衣装の上で跳ねる。
 アルフィが杖をかざして笑う。

「ふっはっは! かるいかるい! わしの身体も、おぬしらの装甲もなっ!」

 飛び跳ねるアルフィは、頭上から【レジェンドレイ】で≪機動型動力炉S≫を次々と破壊していく。

「邪魔です! どきなさい!」

 朝顔柄の丈の短い浴衣を着たトモエが、宙を回転しながら薙刀で切りつける。

「み、見え……げふっ!?」

 二人の活躍を腹ばいになって見つめていた和深は、リカインに思いっきり蹴りつけられていた。

「アルフィさん、脚を落とします!」
「あいよ!」

 トモエとアルフィは≪起動式バイオタンク一号≫に向かって走り出す。
 二人の突撃に気づいた≪起動式バイオタンク一号≫が、ミサイルを撃ってくる。

「させるかぁぁぁぁぁ!!」

 アルフィが両手を合わせると光が溢れだす。
 光は電流になり、ミサイルを迎撃いく。
 
 無数に起きる爆発。

 トモエが≪起動式バイオタンク一号≫の脚を間合いにとらえた。

「はぁぁぁぁぁあああああ――!!」

 気合と共に全身を使って薙ぎ払うトモエ。

 全力で斬り付けた刃は≪起動式バイオタンク一号≫の脚の一つを見事に斬り落とした。

 脚を切断された≪起動式バイオタンク一号≫が、バランスを崩して倒れ込みつつトモエ達に向けてレーザーを放ってくる。
 二人は距離をとってどうにか回避したが、集まって来た敵に足止めされてトドメをさすことができなくなってしまった。 
 
「だったら、私達がどうにかするしかないよねっ!
 行くよ! みんな!」

 代わりにトドメをさすべく、魔崩焼女ScarletPillar緋柱 透乃(ひばしら・とうの)が仲間と一緒に走り出す。
 
「だったら俺も援護する」

 全身黒ずくめのグラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)が闇色の長衣をはためかせながら、空中に飛び上がる。

「いけ! ファイアストーム!」

 グラキエスが≪機動型動力炉S≫に向けて炎を放つ。
 だが、耐性が高いらしく一撃ではやられてくれない。

「だったらこれで……どうだ!」

 グラキエスはネロアンジェロを広げて≪機動型動力炉S≫に隣接すると、装甲の隙間に手を突っ込み、【ファイアストーム】を発動した。
 内側からの炎で回路が焼けきれる≪機動型動力炉S≫。
 すると、今度はグラキエスの背後から武器を持った戦艦の乗組員が迫る。

「甘い!」

 グラキエスは手を吹き抜き、振り返りながら反対の手に持ったエクスキューショナーズサイズで薙ぎ払った。
 切り裂かれた乗組員は、そのまま仰向けに倒れた。
 後に続こうとしていた敵の足が止まる。
 
「どうした? こないならこちらから行かせてもらうぞ?」

 グラキエスは口角を吊り上げながら、【その身を蝕む妄執】で敵の動きを止めると、【ブリザード】で氷漬けにしていった。
 
 足止めをするグラキエスの横を通り過ぎて、透乃が先を目指す。

「!?」

 不意に目の前の≪機動型動力炉S≫が横に飛びのいたと思いきや、その背後に隠れていたもう一体がレーザーを撃ってきた。
 透乃は咄嗟に【龍鱗化】を発動し、両腕で顔を覆いながらそのまま突っ切る。
 そして、レーザーが途切れた所で煙をあげる拳を≪機動型動力炉S≫に叩き込んだ。

「まだまだ、これくらい……」

 倒した≪機動型動力炉S≫を脇に捨てて再度走り出そうとする透乃。
 すると、今度は大量の敵が四方から飛びつこうとしていた。

「くっ……」

 拳を腰に据えて構える透乃。
 その時、頭上に魔崩翔女ShootingStar月美 芽美(つきみ・めいみ)が舞いあがり、飛びかかろうとしていた≪機動型動力炉S≫を高速の蹴りで破壊していった。
 透乃の前に着地した芽美は黒髪を揺らして振り返る。

「私も手助けしていいわよね?」
「うん。ありがとう、芽美ちゃん」

 二人の前に≪起動式バイオタンク一号≫を守るかのように≪機動型動力炉S≫が大量に立ちふさがる。

「最終防衛線かな。
 陽子ちゃん、芽美ちゃん、やっちゃん、一気に決めよう!」
「わかりました。皆さん、行きますよ!」

 透乃の合図で緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)が【無量光】が発動する。

「開くは光の扉、そして地獄への道……」

「よしゃ、次は私だな。我が明日を照らす希望の光、Banish!」

 続いて霧雨 泰宏(きりさめ・やすひろ)が【バニッシュ】を発動する。

「私の番。その紅光が齎すものは零下の結末、ShiningLaser!!」
 
 透乃が梟雄斧【氷月】からレーザーを発射させた。
 三つの光は芽美が構えたノコギリに集まる。

「最後ね……私達の力を今一つに!
 安息の闇を断つ絶望の光――」

 芽美がノコギリを薙ぎ払う。

 聖 破 流 星 刃 !

 すると、ノコギリから四人の力を集めた光の一閃が放たれ、≪機動型動力炉S≫を一斉に真っ二つにした。
 鉄の塊になった≪機動型動力炉S≫から大量の煙があがり、焦げ臭い匂いが周囲に満ちる。

 立ち塞がる敵がなくなり、≪起動式バイオタンク一号≫への道が開かれた。

「よしっ! これで……」
「透乃ちゃん!」

 ガッツポーズをとっていた透乃は、陽子が指さした方向を見る。
 地面に倒れたままの≪起動式バイオタンク一号≫が、極太のレーザーを透乃に向けて撃とうしていた。
 泰宏が舌打ちした。

「ちぃ、一端、射線上から――」
「その前に終わらせればっ!」

 透乃が駆け出す。
 背後から制止する声が聞えるが、透乃はより早く足を動かして≪起動式バイオタンク一号≫につっこむ。
 ≪起動式バイオタンク一号≫の目の部分に光が集まる。
 レーザーが発射されればさすがの透乃もただではすまない。

 透乃が笑う。左に宿る炎が勢いを増して燃え盛る。
 緊張感がむしろ快感にさえ感じられる。

 敵がミサイルを撃ち込んでくる。
 だが、透乃はガードなどしなかった。
 ミサイルを全身で受け、煙に包まれる。

 服がボロボロになり、身体に傷が刻まれようと、気にせず突っ込む。
 透乃は地面を蹴って飛びかかると、左手を振り上げた。
 ≪起動式バイオタンク一号≫がフルに充電が完了していない状態でレーザーを放つ。

 透乃の燃え盛る拳と≪起動式バイオタンク一号≫のレーザーが激しく衝突した。

 レーザーをかき消す透乃の拳が、途中で止まる。
 両者の力が拮抗しているように見える。
 だが――

「しつこい! いい加減に――」

 透乃の左手の炎が肩まで伸び、龍の形を象る。
 炎の龍は大口を開けてレーザーを飲み込み大きくなっていく。
 透乃の拳は徐々に≪起動式バイオタンク一号≫に迫る。
 レーザーの勢いがなくなる。
 透乃は足を踏ん張り、渾身の一撃を叩きつけた。
 
おっちろぉぉぉぉぉぉぉぉ!!

 拳は目をつぶし、炎の龍が≪起動式バイオタンク一号≫を覆い尽くした。

 ≪起動式バイオタンク一号≫の動きが止まると、≪機動型動力炉S≫も一斉に停止していった。

 そして――紫の霧がはれ、≪シャドウレイヤー≫が消えていく。
 
 透乃は黒こげになった≪起動式バイオタンク一号≫から腕を引っこ抜くと、振り返って心配そうにしている陽子にブイサインを送った。

 立ち去ろうとする透乃。
 その時、カチッカチッと嫌な音がした。

 不審に思った透乃は≪起動式バイオタンク一号≫の装甲を無理やり剥がして中身をのぞきこむ。
 そこには――

「げっ、自爆装置!?」

 それは戦艦を動かすほどの動力を燃料を自爆装置だった。
 爆発すれば被害は甚大である。
 時間はそれほど残されていない。

「ここはボクがどうにかする! どいて!」

 透乃の声を聞いた高崎 朋美(たかさき・ともみ)が工具箱を持って割り込んできた。
 朋美は工具を取り出すと、外見を観察してから集中して解除作業を始めた。

 丁寧に、間違いがないように……

 近くに生徒達が集まってくる。
 事情を説明され慌てる者や、対応策を提案する者もいた。
 
 ふいに名前を呼ばれ、朋美の集中が一瞬途切れた。

「あっ、まずっ!」

 落とした工具が≪起動式バイオタンク一号≫の内部に零れ落ちそうになる。

「よっと!」

 それをウルスラーディ・シマック(うるすらーでぃ・しまっく)がギリギリの所でキャッチし、どうにか工具が無事に手元に戻ってきた。

「ありがとう」
「いいから集中しろ」
「う、うん」

 時間が迫る。
 生徒達が緊張の眼差しで見つめる中、朋美は自分に集中するように言い聞かせた。
 額にも手にも汗が大量に発生していた。

 集中していくうちに周囲の音が消えていく。
 あるのは見えているのは目の前の自爆装置だけ。

 今まで学んできたことを思い出せばいい。

 そして朋美は……解除に成功する。

「や、やった!」
「お疲れ様」

 ウルスラーディがタオルを朋美に渡していた。

 その時――

「そこまでだ!」

 生徒達は聞き覚えのある男の声に振り返る。
 そこには、ガタイのいい男一人。そして、その男の腕に首を絞められている魔法少女アウストラリス(アイリ・ファンブロウ(あいり・ふぁんぶろう))の姿があった。

「アウストラリスちゃん!!」
「おっと動くんじゃねぇ」

 魔法少女ポラリス(遠藤 寿子(えんどう・ひさこ))が駆けつけようとすると、男がアウストラリスの頭に銃を当てていた。
 ポラリスを含め、生徒達は皆その場で動きを止めた。

「てめぇら、よくもやってくれたな。
 この仕返しはたっぷりさせてもらうかな!?」

 男の声は間違いなくスピーカーから聞こえていた戦艦の艦長のものだった。
 戦艦を潰され、作戦を台無しにされたことで相当頭にきているようだ。

「くっそっ、てめぇらのせいで200年ローンで買った代物が台無しよ!
 ええ!? どうしてくれんだよ、あぁ!?」

 男が生徒達を睨みつける。
 その時、アウストラリスが口を開いた。

「倒しなさい」
「は?」

 アウストラリスがポラリスを真っ直ぐ見つめている。

「私ごとこの男を倒してください!」
「てめぇ!」

 男が銃口を強く押し付けるがアウストラリスは怯まかった。

「契約する時に約束しましたよね! 
 未来を救ってくれるって、だからこんな所で――」
「黙れ!」
「アウストラリスちゃん!」
 
 怒った男がアウストラリスを銃で頭を殴りつけた。
 アウストラリスの頭から血が流れる。
 だが、それでもアウストラリスはポラリスの方を見て――

「倒してください」
 
 と口にした。
 男が顔を真っ赤にして、ポラリスの方へと視線を戻す。

「てめぇにオレが倒せるわけがねぇよな。
 見てたぜ、こいつはてめぇの大切なパートナーなんだろう。
 えぇ? そうなんだろう? だったら大人しく――」

 男が途中で言葉を飲み込む。
 ポラリスが杖を向けていた。
 余裕だった男が焦りの色を見せ始めた。

「お、おい。冗談だろう?」
「――――」

 ポラリスはゆっくりと呪文を唱え始め、徐々に魔力を集中させていく。
 真っ直ぐ男を見つめるポラリス。
 男が悔しそうに歯を噛みしめ、銃口をポラリスに向けた。

 次の瞬間――

「隙ありだよ!」
「なにっ――!?」

 九尾の狐姿の早乙女 蘭丸(さおとめ・らんまる)が横から男に飛びかかる。
 男がアウストラリスを殴りつけ視線を逸らした隙に、忍びの術で姿をくらましていたのだ
 蘭丸が走り込んでさらに体当たりを決めると、男はアウストラリスを離して吹き飛ばされた。

「ポラリスちゃん、今よ!」
「あ、はい!!」

 男が慌ててポラリスに銃口を向けるのと、魔法が放たれるのはほぼ同時だった。
 ポラリスが溜めていた魔力は、銃弾を飲ん込んで男に直撃した。
 大量の土煙と共に地表を揺れた。

 土煙が晴れると、出来上がったクレーターで男が気を失っていた。

 ポラリスは元気そうなアウストラリスを見てその場に崩れ落ちると、ポロポロと泣き出していた。

 アウストラリスが無事だったこと、傷つけずに済んだこと。それらが嬉しく仕方なかった。

「ポラリス……」


 それから……どれくらい泣いていたのかわからない。
 ただ泣き止む頃には、生徒達は座り込んで休息をとっていた。
 気付いたらポラリスの隣にはアウストラリスが座っていた。

 桐生 理知(きりゅう・りち)がスポーツドリンクとタオルを手に近づいてきた。

「はい。これ」
「……ありがとうございます」

 ポラリスは受け取った後、アウストラリスを見る。
 
「ん、なんですか?」
「アウストラリスも飲む?」
「それなら大丈夫です。私も持ってますから」

 そう言って持ち上げたアウストラリスのスポーツドリンクはまだ口をつけていない状態で、ポラリスを待っていたようだった。