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【神劇の旋律・間奏曲】空賊の矜持

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【神劇の旋律・間奏曲】空賊の矜持
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〜 第十楽章 con forza 〜
 
   
コロッセウムでの予想外のカードに混乱する中
予定通り作戦の合図を出したダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)の英断は素晴らしかったと言える

ショーが始まって間もなく作戦通り緋山 政敏(ひやま・まさとし)を中心とする【積荷回収班】は
パフューム・ディオニウス(ぱふゅーむ・でぃおにうす)を連れてアジトに突入していた
先行した風森 巽(かぜもり・たつみ)清泉 北都(いずみ・ほくと)達が残したデーターとマーカーを辿り
予定通りの倉庫に侵入を試みる

それぞれの倉庫の積み荷を確認しながら、巽達が確認できず保留にしたエリアに移動する
商船から受け取った貨物データーと照合させるに、奥の監視が厳重な一角が『宝物庫』と判断し
全員でそこに移動する
先行したカチェア・ニムロッド(かちぇあ・にむろっど)を発見した見張りが【アーミーショットガン】を放つ

 「今回は真面目に行きます…いつもこんな感じなら嬉しいですけどね!」

長期戦は無用と【ライド・オブ・ヴァルキリー】で瞬時に接近し
すかさず照準を見張りが合わせようとするのを確認すると上空に跳躍した
スキルの勢いもあり、天高く舞い上がった体で放った【タービュランス】が土煙を上げる
照準も合わせられず見張りが困惑する中、着地した彼女の【乱撃ソニックブレード】が炸裂し
成す術もなく男たちは崩れ落ちた……その一人に剣を突き付け確認する

 「商人から奪った積荷はこの奥ですか?」


 『位置確認しました【宝物庫】はこの奥です、私はこのまま出入り口を守ります』
 「頼む!脱出の援護も期待するよ」
 『政敏が真面目ですから嬉しいです♪』

カチェアが戦闘している間に中に突入した政敏に彼女の通信が入る
相手の拿捕の処理に追われた彼女が通信を切ってすぐに
建物の中から事態を聞きつけた男たちが次々と追いかけてくるのが見えた

 「ここは俺が迎撃する、すぐに行くから先にお嬢さんをつれて進んでくれ!」
 「わかった、いくぞ二人とも!」

政敏の提案に同意し佐野 和輝(さの・かずき)が奥に進む
アニス・パラス(あにす・ぱらす)に連れられ、パフュームも彼に続き
匿名 某(とくな・なにがし)フェイ・カーライズ(ふぇい・かーらいど)が後方を確認しながら追いかけた

 「人として矜持には報いたいよね……でも野郎相手には遠慮はしない」

追跡者が全員出揃うのにあわせ、言葉と共に印を結ぶ
途端に発動した【忍法・呪い影】が多くの影分身を作り、彼らを幻惑する
混乱した男達が手の武器を構えた刹那、一気にすべての武装が音を立てて破壊され
そのまま全員斬撃に吹っ飛んだ

 「【疾風迅雷】からの武器破壊の【霞斬り】ってね
  まぁちょっと当たっちゃったみたいだけど……峰打ちってことで」

愛用の刀を収めて後を追う政敏であった
  

場所は先に移動して目的の『宝物庫』の前に辿り着く
流石に商売に長けている空賊ゆえか、予想以上の見張りの戦力に前に進めないパフューム達であった

 「この数はやっかいだなどうするんだ?フェイ」
 「決まってわ……適材適所ってやつ。パフューム……援護お願い!」
 「は、はいっ!!」

パフュームが援護する中、フェイが意気揚々と無勢の戦場に踊り出る
【奈落の鉄鎖】で僅かに鈍った男たちの体にすかさず【武術】を叩き込み
止めの【銃舞】によるで銃底の一撃をこめかみ付近連続で叩き込んだ
次々に男たちが倒れる中、自慢の髪をふぁさっとなびかせる髪フェチが一人
本当はその髪を自慢したかったのだが、すかさず奥からパフュームの声が聞こえる

 「フェイさん!まだ新手が来てる!髪なんかで遊んでる場合じゃないよ!!」
 「?……大丈夫じゃない?だってそろそろ……ほら」

悠然と佇む彼女に銃口を合わせる新手の男達……しかし自分たち以上の騒々しい声に気が付き
隠れていたパフューム達共々、その音の方向を見て一気に顔が青ざめる
そこには少数部隊なんて意味がないほどの【飛装兵】と【親衛隊員】の姿があった
彼らが迅速にフェイの脇をすり抜け、男達の鎮圧に入る中

その上空でアニスの【空飛ぶ箒ファルケ】に乗った和輝の姿があった

 「もう面倒くさいから【指揮官】のなんとやらを使わせてもらったよ
  優先されるべきは君の安全だからね、パフューム」
 「……お礼を言いたいのはヤマヤマだけど、大げさすぎるんじゃ……」
「「何を言う!!」」

なぜかフェイまで和輝の声にユニゾンしてパフュームに抗議する中
最後の意地なのか、鎮圧された男の一人がパフュームに対して発砲した
誰も反応できず、銃弾が彼女にあたる……かに見えたが、直前で柔らかいものに阻まれる

 「QB、アニスやパフューム達の“綿の盾”となるのだ♪」
『……訳が分からないよ』

アニスの声に応えるようにパフュームの目の前で式神化した【キュゥべえのぬいぐるみ】が喋る
守ってくれたとはいえ、蜂の巣気味になっている白いぬいぐるみを見て複雑な心境のパフュームである
そして気がつけばフェイも発砲した男を再起不能なまでに撃沈し、痛めつけ終わっていた

 「当然の報いだ下衆が……彼女は貴重な結いっ子候補だからな
  低俗かつ下劣な屑野郎共が触れていい相手じゃない……万死の報いを思い知れ」
 「……こんなの絶対おかしいよ、あんまりだよ」

呻いきながらフェイに踏まれて事切れた男の頭を、白い式神がぽんぽんと前足で叩いていた
 
 
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図らずも警備の全てを一掃し、無人となった『宝物庫』の扉を開ける
盗品売買としては上級とも言える物が厳重に保管されている中を、政敏はリスト片手に確認する
カモフラージュのオークションが行われているとはいえ
大きな商売は件のイベントが終わってから……としていたのか殆どの積荷が無事なのを知り、安堵する

 「良かった、何とか商船側の依頼は果せそうだ
  救出に手助けしてくれた義理は返せそうだ、人情っていいよね」

回収の物をチェックし、残りは教導団に確認する為のリストアップをしつつ
積荷を回収するようテキパキとカチェアに指示していく
よっぽどその姿が珍しいのか、嬉しそうに指示に従い彼女が動く中
目的の物の所在を求めてパフュームと和輝達は倉庫の中を探索していた

 「事件解決後だと盗品は全て回収されるだろうからな、確認するなら今だ」
 「わかってるんだけど……それらしいものがないよ」

一通り和輝とパフュームが捜索を終えて首を傾げている所で、不意にアニスの手が止まる
その様子に和輝も気がついた

 「どうした?何か気がついたのか?」
 「うん……この鞄【トレジャーセンス】に何かひっ掛かったんだよね……何だろう?」

彼女が見つめる小さくて薄い鞄を和輝がそっと開けてみる……だが中身は空であった
ちょっとした失意の中、ふとパフュームが片隅にとあるものを見つける
取り出してみると……それは古びた紙片だった

 「紙切れ……本でも入っていたのかな」
 「………ううん、良く見てこの破れたあたり……線がある」

アニスと共に覗き込んでいた和輝が見つけた部分を覗くと……それは五つ狭く線が並んでいた

 「これ……五線譜だ……もしかして楽譜の切れ端じゃ……」
 「もしかしたら探していた【楽譜(フルスコア)】かも知れないってことか、パフューム」
 「どうした、何か見つかったのか?」

そのまま紙片を覗き込む3人に気がつき、政敏が近づいてきた
その箱をリストと照らし合わせ、データーを照合する

 「これも積荷の一つだな。楽譜コレクターの演奏家の所有物らしいな
  中身が無いということは、売られたか……ちょっと待ててくれ」

鞄と紙片……そしてそれがあった場所を政敏が丹念に【サイコメトリ】をする
程無くして、集中していた彼の口が開いた

 「……何度かここから出し入れされた記憶が残っている
  しかし商売の感じがしない……趣味で持ち出されたイメージだ……最後に触れてから日が浅い
  もしかしたらまだこの島のどこかにあるかもしれないな」
 「じゃあ探せばもしかしたら……」

パフュームの目が期待に輝く……だがそれに水を差すように通信機から声が聞こえた

 『こちらダリル、そっちはどうなってる!?
  先行の救出組のタイミングがそろそろギリギリになる、悪いが援護を頼みたい!
  フリューネ達もそろそろ限界だ!』

通信の内容に和輝はパフュームのほうを見た
言いたい事はわかっている、十分貨物の方は確保し、回収の目処はついた
全面的な救出作戦に入ると、ますます求めていたものの所在は掴みにくくなるだろう
だがここでの積荷処理、そして駆けつけてくるかもしれない空賊の増援の可能性……その対応を考えると
ここからダリルたちの援護の為に動く人間は限られる

パフュームも本来なら早く探し物を見つけ、フリューネを助けに行きたいのだ
……むしろ彼女が自分にしてくれた事を考えれば、そっちを優先すべきな所を
ディミーア・ネフィリム(でぃみーあ・ねふぃりむ)が直前で気を利かせてくれたから、ここまで確認できた
その行為に甘えるのももう限界なのは理解している

手の紙片を見つめ、堅く握り締めた後……意を決してパフュームは通信機を和輝から受け取った

 「こちらは大丈夫、全力でフリューネさんの救出をお願いします!
  あたしも……すぐに行きますからっ!」
 『了解した、そちらも無茶はするなよ』

いつもの幼さの残る口調でなく、毅然とダリルに言葉を伝えた後
パフュームは出口の方向に向かって走り出す
すれ違い様、彼女から通信機を受け取った和輝が彼女の後姿に声をかけた

 「俺たちもできるだけ探してみる、フリューネの事よろしくな!」
 「うん!」

立ち去るパフュームの姿を見ながら、フェイが和輝をからかうように寄って来た

 「随分そっちも入れ込んでいる様子じゃない?ナイト通り越してお兄さんに見えるんだけど?」
 「否定はしないよ、まぁ何というかほうって置けなくなるんだよな、多分アレだ」

そう言って和輝は傍らのアニスの頭に手を置く
きょとんと見返す彼女を見て言いかけた言葉を続けた

 「……こいつみたいに見えるんだよ、だから仕方ないのさ」