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【神劇の旋律・間奏曲】空賊の矜持

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【神劇の旋律・間奏曲】空賊の矜持
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〜 第五楽章 slargando 〜
 
 
場所は再び峡谷のとある空島に戻る
数時間前にアルテッツァ・ゾディアック(あるてっつぁ・ぞでぃあっく)率いる物騒な楽士一行により
修羅場と化した酒場も幾分落着き、破損個所を残しながらも賑わいを取り戻している

それでもやや剣呑な空気を漂わせている客の空気を嗅ぎ取りながら
柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)は眉をひそめて独りごちた

 「……こりゃすっかり燻ってるな、どっから手を付けてわかんねぇぞ?」
 「ひと悶着あった後なんだ、殺気立つのも無理はないだろう?
  逆に好都合じゃないか、今なら一番単純なやり方で話をつけやすいんだからな」

恭也の言葉に愉快そうに言葉を返したのはフォルゼド・シュトライル(ふぉるぜど・しゅとらいる)
その隣でパートナーの奏輝 優奈(かなて・ゆうな)も面白そうに言葉に続く

 「せやな〜
  こんだけ荒れてると組織の規律なんか糞くらえやろ?
  しかもしっかりアンチは追い出した後だから上機嫌なことこの上ない、イジリがいがあるってもんや
  思いついた事はやっとかんと……ほな、いこか♪」

そう言いながら真っ黒な怪しいローブのフードを目深に被り、意気揚々と進む彼女にフォルゼド達も続いた


アルテッツァ達の情報の収穫と引き換えに起こった騒ぎは、それなりに島に影響を残したらしい
彼らと関わった空賊の一団……ガイナスに【ストラトスの楽器や楽譜】の奪取を依頼した一行
彼等が喧嘩を始めたのを皮切りに、酒場内にいた【ガイナスを支持する者】と【そうでない者】に分かれ
完全な派閥戦争に近い争いが店の中で行われ……結果、支持派が勝利し
店の平穏を破った件の一団達は店を追い出されたのだという

結果、酒場の中はガイナス一派(?)が堂々と居座り、勝利の美酒に酔いしれていた
支持派とは言っても、酒の勢いで敵味方についた連中も多いので
今は無礼講な中、束の間共に手を取り合った者同士で改めて賑わっているわけで
その中に混ざって、最もガイナスに縁のある輩にコンタクトを取るには十分である

そんなわけで一番盛り上がっているテーブルに3人は足を運ぶ
囲んでいる一団の一番偉そうな男に、恭也は酒を持って話しかけた

 「よ、盛り上がってるじゃないか?
  聞いたぜ、結構な暴れっぷりだったそうだな?そんなにガイナスに入れ込んでいるのかい?」

一瞬現れた見も知らぬ一行に、談笑していた男の動きが止まる
だが景気良く目の前に置かれた酒と、小気味良い恭也の言葉に、すぐに男は上機嫌になった

 「おうよ!最近あそこも景気が良くってな、色々上り調子だ
  付き合っていて損はねぇ、あんた等も仲良くしたらどうだ?何なら俺が口を利いてやってもいいぜ?」
 「話がわかって助かるよ。しかし、あんた達そんなに縁があるのか……それなら話が早いな
  こっちはちょっとワケありでね、彼らとお近づきになりたくてツテを探してた所なんだ
  酒の席ついでに知ってたら教えて欲しいことがあるんだ、どうかな?」
 「おうおう!奢ってもらって景気の悪いこたぁ言わねぇよ!言いな言いな!」

ますます上機嫌に話す男に、ニヤリと笑って恭也は質問を投げかけた

 「近々あるっていう噂の【魔獣ショー】……アレを是非見てみたい、知ってるかい?」
 「な……!?テメェどこでそれを!?」

表情一変、警戒の色を露わにし、立ち上がろうとした男の動きが止まる
理由はテーブルの下からコツコツと何かが当たる音……
見れば恭也の【マシンピストル】が男にテーブルの下から銃口をさりげなく向けていた
とっさに不穏な空気を察した仲間も、フォルゼドに阻まれる
その手にはすでに【魔銃カルネイジ】が握られていたからだ

 「………あんた達、何もんだ?」

最小限の手で完全に動きを抑え込まれた事態に男が質問をする
恭也の代わりに立っていたフォルゼドがその問いに返答をした

 「なに、ただのしがない強盗団さ。話題のフリューネ・ロスヴァイセに恨みのある……ね」
 「うふふふ、フリューネ、いつか殺す……殺してやるぅぅぅぅぅ!」

フォルゼドの言葉に同意するかの様に、傍らの優奈が不気味極まりない声で恨みの言葉を放つ
何やら隣では物々しい鎧男……ディエル・ブリガント(でぃえる・ぶりがんと)が黙って槍を片手に立っている
その怪しげな雰囲気に男の仲間が戦々恐々とする中、フォルゼドの言葉は続いた

 「……と、この様に殺すなど生ぬるい事程に彼女に縁がある訳だ
  本当ならこの手で捕まえて手足に穴でも空けながら、長く楽しみたいものだが
  どうやらガイナスが捕まえたらしいじゃないか?ならせめてこの目でその様を楽しみたくてね
  是非とも件のイベントの場所を教えてほしいわけだ」
 「多少の金額なら出して、情報もらってもええよ〜くくくくくくく」

実に本人や縁のあるものが聞いたら怒りかねない言葉に内心苦笑する恭也
だが言ってもフォルゼドあたりはどうせ彼女に興味などないと言うに違いない
どうせ彼のそれも演技かどうか定かでないどころか、半分以上【素】であるかもしれないのだ

一方の男と仲間達は、その不可解な黒いオーラに戸惑いながら
それでも一転して握られてしまった主導権を取り戻そうと画策している様子だった

 「く……だったら尚の事、安い情報量じゃ答えられねぇなぁ……あんた達がどう恨みがあろうが
  情報を知ってるのは俺……」
「ふざけてないで、いいから教えなさいよォ!ぶっ殺すよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

これまた一転して大声で叫ぶ優奈、そのノリに乗った容姿に反したドスの利いた声と手から出た召喚の炎に
主導権を取り戻そうと伸ばした手すらもぎ取られる
よく見れば隣の鎧男〜ディエル〜も槍をガッチャンガッチャン鳴らせて立っている
こっちはこっちで黙ってる分、不気味さが増すことこの上ない
そこに追い打ちのフォルゼドの言葉が放たれた

 「情報を渡さないのなら、フリューネの代わりに貴様を血祭りにあげてやろうか?
  …………もちろん、殺しはしないがな?」

もはや勝負の程は明白なのであるが、すっかり縮み上がり
情報を吐く吐かない以前に、取り乱して聞けるものも聞けないんじゃないか……と案じ
再び恭也がグラスに酒を注ぎ始めた

 「ま、まぁうちの頭の言う事も最もなんだがな
  別に一時でも仲良くさせて貰えれば問題ないのさ、とりあえず落ち着こうぜ
  教えてくれるのはその後でいいさ、悪かったな」

若干最初の空気に戻り、安堵する男達
図らずも成立した【飴と鞭】の効果に、恭也自身も安堵する

(こっちは何とかなったか……残るはもう一方だな)

密かに客として陰に紛れ込んでいる【密偵】に目で合図を送り
恭也はその【密偵】の主が行っている方のミッションを案じるのだった