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【蒼空ジャンボリー】 春のSSシナリオ

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【蒼空ジャンボリー】 春のSSシナリオ
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リアクション


・生徒会執行部の日常 交流編


「これで全部……っと。それにしても、この学院って公認だけでこんなに部と同好会あったんだね」
 十七夜 リオ(かなき・りお)は生徒会の仕事をひと通り終え、生徒会室に戻ろうとしていた。
「……監査委員のチェックが入る前は、もっと多かったっていうから驚き」
「まあ、今年度から新規で公認されたのもあるから、結果的にはそんなに減ってないんじゃないかな」
 囁くフェルクレールト・フリューゲル(ふぇるくれーると・ふりゅーげる)に、リオは応じた。業務が忙しいときは、パートナーである彼女に手伝ってもらうことも少なくない。
「ん、あれは……」
 ふと前を見ると、天学の女子制服に身を包んだドミニクマルグリットのルルー姉妹の姿があった。
「あ、リオっち先輩にフェル先輩」
 先に声を発したのはドミニクだ。次いで隣のマルグリットが会釈する。
「やぁ、お二人さん。こっちの生活にはもう慣れた?」
「う〜ん……一人で困らない程度には、ってところかな」
「まぁ、ヒュムーン探索だなんだで慣れるほど海京に留まってないか」
 ルルー姉妹の留学は2月の生徒会執行部と聖カテリーナアカデミーの『聖歌隊』との顔合わせ時点で発表されていたことである。しかし、留学直後ヒュムーン調査隊のリーダーに抜擢されたため、学業よりもそっちで忙しいようだ。
「石版の解読作業中はこっちにいられるんだけどね。にしても、ほんと頭の固い連中は困るよ」
「なんかあったのかい?」
「ちょっとね。次のヒュムーンの在処は分かってるんだけど、そこら一帯を取り仕切ってるのがめんどくさい人たちでさ。アタシたちだけだとらちが明かないから、イルミンスール魔法学校とそのバックのミスティルテイン騎士団に、間に入ってもらえるよう頼みに行ったんだよ」
 シボラのヒュムーン探索に彼女たちが行けなかったのは、そのためだった。
「あー、もう! 未開のジャングルなんて最高に冒険心をくすぐるじゃないっ! ほんと、行きたかったよ」
「まあでも、行ったら行ったらであっちも大変だったけどね。最後は原住民に神だとか英雄だとかで崇められる始末だったし」
 リオとフェルクレールトはヒュムーン調査隊に入ってシボラへ赴いている。もっとも、生徒会業務もあるため、調査隊の中心にいるわけではないが。
「そいえば、リオっち先輩たちは何してんの?」
「僕ら? ああ、生徒会のお仕事。部活動・同好会活動の予算申請書集めだよ。提出期限ギリギリになっても出さないとこもあるからねぇ、どことは言わないけど。会計のセラ君が『期限までに出さないところは予算カットで公認解除ね』って、前もって伝えてたこともあるから、結構すんなりと集まったよ」
 あとは、生徒会室で改めて書類不備がないか確認するだけだ。
「おかげで助かったけどね。こっちはヒュムーン探索で生徒会業務を任せっきりだったから、人のことあまり強く言えないしねぇ」
「やっぱり生徒会業務って大変?」
「まぁね。うちは今年度から完全に新体制に移行したこともあって、やることが多いし。もっともそれは、会長の山葉君をはじめ、他の役員のみんなも学院のことを考えて一生懸命だからなんだけどさ」
「なーるほど。この学院の雰囲気がいいのは、そうやって上の人たちが頑張ってるからみたいだね」
「学院のためってのもあるけど、それ以前に自分でやりたくてやってることだからね。高校時代あまり学生らしいことをしてなかった分、今楽しませてもらってるってところかな」
 それを聞いたドミニクが首を傾げるが、すぐに納得したように唸った。
「そっか、イコンが実用化されてからまだ二年しか経ってなかったんだね。それならイコンを学ぶために改めて、ってのも別におかしくないか」
「うちの高等部はイコンや超能力に特化してることもあって、一般的な高校よりは専門学校や大学に近いからね。僕も、地元の高校卒業後にこっちに来たんだよ」
「熱心だねー。ってことはそれだけイコンっていう新しい技術に魅かれるものがあった……ってことかな?」
「宇宙工学に興味があってさ。イコン技術を使えば宇宙船を造れるかもしれない、いや、その技術を使って宇宙船を造ってやる、って思ってこの学院に入学したんだ。だけど、気づいたらイコンで宇宙戦するわ、月まで行くわ、あげく機動要塞は大気圏離脱かますわ……」
 あくまでパラミタにおける宇宙空間のようなもの……とはいえああもあっさりやられると複雑な気分である。
「なんだか、パラミタってイメージしてたよりずっと無茶苦茶なところみたいだね……。まあ、楽しみではあるんだけどさ」
「こうなったら、もう外宇宙航行できる機体でも作るしかないかねー」
 イコン開発に携わる司城 雪姫によれば、宇宙用イコンのプラヴァー・スペース(仮)の仕様は決まったらしい。だが、ニルヴァーナへいかにしてイコンを持ち込むかについての目途が立っていないため、着手できないということである。
 パーツをバラして持ち込めばいいという意見が多いものの、それを組み立て整備するにはそれ相応の施設がニルヴァーナになければならない。そのため、簡単にはいかないというのが現状らしい。
「ヒュムーン探索の鍵を握ってる石版が発見されたのは月なんだし、宇宙用の機体があるにこしたことはないよね。もちろん、こっちの世界の宇宙空間に対応ってことだよ。宇宙に出れば敵が攻めてこない、なんて限らないしね」
 ドミニクが苦笑した。
 ふとリオの視界にフェルクレールトとマルグリットの二人の姿が入った。自分たちは会話が盛り上がっていたが、向こうの二人は向かいあったままに見える。
「ところで……あっちの無口コンビはあれで会話が成り立っているのか?」
「多分大丈夫じゃないかな? マルちゃん、話すのが苦手なだけで人と接するのが嫌いなわけじゃなから」

「盛(盛り上がってる、お姉ちゃんたち)」
「……ん」
「休(久しぶりの休みだから、テンション上がってるのかも。困らせてないといいけど……)」
「……んー」
 フェルクレールトとしては、どうにも答えづらい。ただ、ドミニクが自分に絡んできたら間違いなく困っていただろう。
「慣(まあ、いつものことだからもう慣れてる)」
 その時、誰かの携帯の着信音が鳴った。ドミニクのものだ。
「あ、コス君? うーん……とりあえず、ゆっくり座れそうな店探しといて」
「喫茶店(西地区のカフェ希望。あそこのデザートメニューにあるバニラアイスが食べたい)」
 マルグリットが真顔でドミニクに視線を送った。さすがは双子というべきか、声は届いていないだろうに、ドミニクが察して頷く。
「じゃ、マルちゃんが行きたいってことで……」
「いや、海京でアイスと言えば、東地区の商店街にある個人経営店の方がおすすめ。抹茶味は絶品」
「!?(本当に? 抹茶……私、未体験。食べてみたい)」
「断言できる。絶対に満足するって」
「変更(お姉ちゃん、やっぱり変更。異論は認めない!)」
 マルグリットが目を見開いてドミニクにアピールした。
「じゃーコス君、東地区で合流ってことで。よろしくー」
 その様子を不思議そうに眺めていたのは、リオだ。
「あれで何が言いたいか分かるのか……」
「まあ、双子だからね。マルちゃんの言いたいことは目を見れば分かるよ」
 得意げになっているドミニクをよそに、マルグリットの目線はフェルクレールトの方に戻っていた。
「謝(教えてくれてありがとう)」
「……どういたしまして」
 微妙な雰囲気ながら、会話が再開した。
「手伝(それと、ヒュムーン探索も手伝ってくれて)」
「大変だけ、いろいろなところに行けるのは楽しい」
「良(それなら良かった)
 充実(私も、アカデミー以外の契約者の人と知り合えて充実してる)」
 それは、フェルクレールトとしても同じだ。ドミニクやマルグリットのような腕の立つパイロットが近くにいることで、刺激を受けることができる。
「エヴァン以外にも敵わない人が多い。あなたもそう」
「射撃(私は射撃以外はからっきし。お姉ちゃんは格闘バカ。単機では、『上の四組』には遠く及ばない)」
 マルグリットが言うには、この学院にも自分たちでは歯が立たないパイロットがいるとのことだ。
 案の定、それは予想通りのペアだった。七聖 賢吾と五艘 なつめ。後遺症による制約さえなければ、確実に四組目のライセンス取得者になっていると言われるほどの実力者だ。
「自分より上がいるってことは、それだけ自分にも伸び代があるということ。勉強になる」
「越壁(壁は越えるもの)」
 こちらも次第に盛り上がってきたが、いつの間にか結構な時間が過ぎていた。
「おっと、そろそろ行かなきゃ。それじゃ」
「……今度時間があるときに」
 二人はルルー姉妹と別れ、生徒会室へ歩を進めた。