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学園に潜む闇

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学園に潜む闇

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 その夜。
 リース・エンデルフィア(りーす・えんでるふぃあ)は寮の自室で寮長の見回りを待ち構えていた。
 ゲオルクを捕まえる為に、マーガレット・アップルリング(まーがれっと・あっぷるりんぐ)が寮を抜け出したことを、バレないようにしなくてはならないのだ。
 リースは、事前にマーガレットの返事の声を携帯電話に録音しておいた。
 寮長とのやりとりを頭の中でシミュレーションしていると、コンコン、とノックの音が響いた。
「は、はい」
「エンデルフィアさん?」
「はい」
「アップルリングさん?」
 リースはすかさず携帯電話から音声を再生する。
「はーい」
「あら? 声が小さいですね。アップルリングさん?」
 リースは慌ててドアに近づくと、もう一度再生ボタンを押す。
「はーい」
「アップルリングさん、そんな声でしたっけ? ちょっと、ドア開けていただけますか?」
「え、えっと……」
 リースは深呼吸すると、考えていた言い訳をできるだけだるそうな声で伝える。
「すみません寮長さん、実は、ちょっと、体調が優れなくて……慣れない学校生活で疲れてしまって、早く寝たいんです。実はもう二人とも布団に入ってしまっているので……できれば、このまま寝かせてもらえませんか?」
「あら、そうだったのね。気がつかなくてごめんなさい。何か不安なこととかがあれば、いつでも相談してくださいね」
「あ、はい。ありがとうございます」
 遠ざかっていく足音を聞いて、リースははあーっとため息をついた。
「人間を実験材料にするなんて最低、最低、最っ低ッ! 皆をあたしと同じ目に遭わせたりなんて絶対にさせないんだからっ!」
 一方のマーガレットは、妖精のジュースを飲んだ上で、布に包んだ護身剣を持って、ナディムからの情報を元に森の中でゲオルクを探して歩いていた。
「あれは……!」
 と、暗がりに鬼の姿を見つける。
 密かに後を追うと、学園の校門をくぐり、校庭の中央付近の穴に消えていくのが見えた。
「ここかっ!!」
 マーガレットは迷わず穴に飛び込む。
 ぽっかりと空いた広い空間に、大きな祭壇のようなものが置かれており、その正面に立っているゲオルクの姿があった。
 マーガレットは護身剣を包んでいた布を解きほどきながらゲオルクに走り寄り、ソニックブレードでゲオルクの肩口を思いっきり斬り付けようとする。
 が、ゲオルクは薄い笑みを浮かべひらりと避ける。
「一人で飛び込み何ができると?」
 馬鹿にしたように笑うと、すっと手を挙げ魔法を発動しようとする。
 その瞬間にマーガレットは火術をゲオルクの顔の前に瞬間的に燃え上がらせる。
 一瞬ゲオルクの目が眩んだ隙に護身剣で再度斬りかかるがすんでのところで避ける。
「今のうちですっ!!」
 その瞬間、さらわれていたアルテミスがわざと声を上げて洞窟の奥へと走りだす。
「くっ、くくくくくっ。逃げられるとでも?」
 ゲオルクは罠にかかったネズミを追い詰めるように、ゆっくりとアルテミスが進んだ方向に歩いていく。
 行き止まりで慌てているアルテミスに手を伸ばした瞬間。
「かかったね!」
 ルカルカの声が響いた。
「何!?」
 見回すと、ゲオルクの周囲は完全に囲まれていた。
「ほぅ、二人では敵わぬと知り、人数を集めたか」
 ゲオルクは馬鹿にしたようにフェンリルに問う。
「ああ。今度は逃がさない」
 挑発に乗ることもなく、フェンリルが冷静に返す。
「えええええいっ!!」
 マーガレットが斬りかかるのにあわせ、エースが魔法で援護を放つ。
 サンブーブラストや我は射す光の閃刀などを連続で放つエースを護るように、ソニックブレードを構えたエオリアが立つ。
 フレンディスも前線に飛び込み、ひるむことなく攻撃を行う。
 ベルクが完全にフォローに回り、フレンディスの死角を護りつつ、相手に隙ができれば攻撃にも転じてみせる。
「さらった人たちはどこにいるんです!?」
 加夜がゲオルクの先を読み先手を打って歴戦の魔術で攻撃しながら問い詰める。
「どこ? ふふふふっ。後ろにいるじゃないか」
「何ですって!?」
 皆が振り返ると、たくさんの鬼たちが迫ってくるところだった。
「なるほどな。さらった人間を手下にして使っていたわけだ」
 エースが苦々しく呟く。
「どうしたら元に戻るのか教えなさいっ!!」
 マーガレットが攻撃を加えながら問い詰めるが、ゲオルクはただ笑っている。
「くっ!!」
 鬼たちが徒党を組んで攻撃に転じてきた。
「生徒さんたちを斬りつけるわけには……」
 フレンディスも悔しそうに防戦に徹する。
「……あ!」
 そのとき、ルカルカの声が上がる。
「たぶん、大丈夫! 攻撃すれば戻るよ!!」
「しかし、攻撃するわけには!」
 鬼たちの攻撃を防ぎながら、フェンリルが叫ぶ。
 その隣で、ダリルが迷わず銃を構えると、鬼を撃った。
 鬼がうめき声を上げると、そのまま人間の姿に戻った。
 それを見た加夜とマーガレット、フレンディスが迷わずゲオルクに背を向けると、一斉に鬼たちに攻撃にかかった。
「……こういう時、女性の決断の早さってすごいよな」
「まったくだ」
 ゲオルクに攻撃を撃ちこみながら呟いたエースの一言に、ベルクが返す。
 と、鬼たちの背後から爆音が響き、ばたばたと鬼たちが倒れた。
 潜んでタイミングをうかがっていた恭也と吹雪が、背後から一気に鬼に攻撃を仕掛けたのだ。
 倒れた生徒たちを、二人が介抱していく。
「ぐぬぬぬぬぬ……!!! 折角儀式の準備が整ったというのに……!!」
 ゲオルクが怒りに任せてフェンリルたちに飛び掛った瞬間、生徒数人の声が響き渡った。
「先生! 行ってきます」
「あ……」
「こっちだ!」
「足元に気をつけるであります!」
 恭也と吹雪の誘導で、生徒たちが地下から走り出る。
 一瞬動きを止めたゲオルクに、フェンリルたちは一斉に攻撃を仕掛ける。
 突如上空から武器の聖化した裂神吹雪が降り注ぎ、ドクロが凄まじい勢いで飛んできた。
「ぐおおおおおおおおおお」
「オレは歴戦のスケルトン、その程度の実力じゃ勝てないネ」
 突如加わった朱鷺と第六式の攻撃にゲオルクは崩れ落ちた。
「音……が……」
 それだけを呟きゲオルクが力尽きると大きな音を立てて祭壇が崩れ始める。
「魔剣は、無理でしたか。悔しいですね……」
 朱鷺が即座に、ダークヴァルキリーの羽で離脱した。
「俺たちも外に出るぞ!」
 フェンリルの一声で、皆慌てて地上へと上がった。
 全員が校庭に飛び出し、地下へ続く穴を見ると、何も無かったかのように平面な地面に変わっていく。
「ゲオルクが作り出した空間だったわけか」
 エースが呟く。
「ルー。なぜ鬼を倒せばいいと分かった?」
 フェンリルが不思議そうに尋ねる。
「前教室に鬼が来た時、逃げ送れたのが1体いて。ウサギになったんだよね」
「そうだったのか」
「そ」
「魔剣はどうにもならなかったけど、とりあえず解決、ですね」
 加夜が安心したように周囲を見回す。
「みんな、間に合いますでしょうか……」
 フレンディスが不安そうに校門の外を見る。
「大丈夫だよ。恭也と吹雪がちゃんと引率してるんだもん」
 マーガレットの言葉に皆頷くと、すぐに各校から戻りの指示があるだろうと、教室に荷物の片付けに向かった。