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第11章 コンサート 練習

「――で、大量の女の子たちの息の合ったダンスと歌で人気が出てきたのが、このKKY108なんだよ」
「なるほど、そんなに有名なアイドルだったんじゃのう」
「あぁ、そう。それは凄いもので」
 イリア・ヘラーがルファン・グルーガにKKY108の説明をしている。
 ルファンはふむふむと耳を傾けているが、一緒について来た長尾 顕景の興味なさげな態度で台無しだ。
「それじゃあ、イリアも練習に行ってきます!」
「ああ、がんばるんじゃぞ」

「雅羅さん、かなり疲れてるようだけど大丈夫? この振付さえ覚えれば後はなんとかなるから、見ていてね」
「ありがとう……あら」
 聞き覚えのある声に、雅羅は顔を上げる。
 そこにいたのは、想詠 夢悠(おもなが・ゆめちか)
 ここは、アイドルの楽屋。
 姉の想詠 瑠兎子(おもなが・るうね)ではなく、夢悠がここにいるということは……
「その、オレもアイドルの身代わりなんだ。天応 春音っていう子がオレと似ているからって、強引に……」
「そう、あなたも大変ね」
「うん、でも困っている人は助けてあげたいし、それに……」
 雅羅さんと一緒だし、と続けようとした言葉を雅羅が遮った。
「そうね。その恰好、似合っているものね」
「いやそうじゃなくて!」
 肝心な所がいつも伝わらない夢悠だった。

 携帯プレイヤーに、KKY108のコンサート動画が映る。
 リリア・オーランソートはそれを見ながら一生懸命手足を動かしている。
「一緒に……いいかな?」
「ええ、もちろん」
 おどおどと隣にやって来たのは、ネーブル・スノーレイン。
「あなたも、身代わり?」
「うん。でも……休んでみたくなる気持ち、少しだけ分かるから」
 リリアの言葉に、ネーブルは僅かに微笑む。
「あの子の居場所を護るために、戻ってくるときに居やすい場所になってるように……練習、頑張らなくちゃ」
「そうよね。一日くらい、ね」
 アリアンナ・コッソットが割って入る。
 どこかたどたどしいネーブルの動きに比べ、歌と踊りが好きなアリアンナの動きはなかなか本格的だ。
「俺も混ぜてくれないか?」
 別の場所で着替えを済ませてきた月美里 九十九も隣に並ぶ。
「俺の失敗は彼女の失敗になってしまうんだ。歌も振りも、完璧にしておかなきゃな」
 自分にそっくりだった少女の姿を思い浮かべ、どこか倒錯した不思議な気持ちになる九十九。
「それでも、こうやってみんなとチームを組んでダンスをするのって、なんだか楽しいね」
 笑顔で素直な気持ちを述べるのは、赤城 花音。
 シンガーソングライターの彼女は、団体行動は苦手だった。
 しかし、こうやって気持を同じくする仲間と一緒に行動し、練習するのは悪くない。
 初めての体験に、心が浮き立つのを感じていた。
「ち……チャンス。アイドルデビューの、チャンス……!」
 今まで歌やダンスの経験はあったものの、こうやって大きな公の舞台に出るのは初めての綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)は、自分でも僅かに緊張しているのを感じていた。
(握手会や体育祭とはまた違った空気があるのね……)
 ぴりぴりと伝わってくる本番の空気。
 それが、呼吸するたびに彼女の体内に蓄積されていく。
 ぽん、と花音がさゆみの肩を叩く。
「ん……」
 ふう、と息を吐く。
 と、同時に肩の力が抜ける。
 花音は何も言わない。
 ただ笑顔を向けただけ。
 さゆみも、無言で笑顔を返すと再び練習を始める。
 気づけばリリアの周囲には、練習する少女たちの輪ができていた。

 その輪を少し外れた場所で。
 乙川 七ッ音(おとかわ・なつね)は、ひとり歌の練習をしていた。
 彼女には、伝えたい歌があった。
(こんな事が一度起きたらこの後何回も起きそうな気がします。でもお休みだって必要です)
 アイドルの少女たち。
 疲れ切った少女たちのために、歌いたい曲があるから。

「どこにでも、同じ事を考える子はいるもんだな」
 真面目な顔をして歌う七ッ音の歌詞を聞き、シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)は苦笑いのような表情を浮かべる。
 しかし、その口調はどこか嬉しそうでもある。
「そうですわね。わたくしたちも、わたくしたちなりのやり方で応援して差し上げましょう」
 シリウスの隣に立つリーブラ・オルタナティヴ(りーぶら・おるたなてぃぶ)も、七ッ音たちを見て笑顔を浮かべている。
「ああ。KKY108の持ち歌の中で、応援歌っぽいのっていったらズバリ、これだな」
「それでは、練習を始めましょう」

「何を聞いていたんですか。手の動きが反テンポ遅い! リリアは足の動きが間違っています」
 踊る少女たちの前で、鋭く間違いの指摘をするのはメシエ・ヒューヴェリアル。
 最初はリリアの練習に付き合っていただけなのだが、彼女の周りに練習する少女たちが増えたので、いつの間にか全員のコーチのような立場になってしまっていた。
「やあ、みんなお疲れ様。一息ついたらどうだい?」
 薔薇の花の香りと共に控室に入ってきたのは、エース・ラグランツ。
 頑張る少女たちのために、プチブーケとクッキーの差し入れを持って来た。
「ああ、さすがに可愛いお嬢さん方ばかりだね。リリアが迷惑かけてないかな」
「ううん。一緒に練習してくれて、嬉しい、よ」
「ああ。助かってる」
 ネーブルと九十九の言葉に、エースの顔が綻んだ。
「コンサートが大成功するといいね」
「うん!」
「もちろん」
「あったりまえでしょ!」
 少女たちの声が響いた。