蒼空学園へ

イルミンスール魔法学校

校長室

シャンバラ教導団へ

終身名誉魔法少女豊美ちゃん! 4(終)『ありがとう、母さん』

リアクション公開中!

終身名誉魔法少女豊美ちゃん! 4(終)『ありがとう、母さん』

リアクション

「色々ありましたが、今でもイルミンスールは私の母校です。
 その母校を襲う輩は、生きている価値などない。全員叩き潰します」
 志方 綾乃(しかた・あやの)の生み出した雷鳥や炎霊が、姫子を取り囲むべく躍動する。
「召喚されたモノでも、関係ありませんよね? どうぞ、あちらの観客席へ」
 アルコリアが弓の弦を弾けば、生命の流れを逆転するとされる波動が生じ、召喚獣をまとめて始末する。出鼻を挫かれた格好になった綾乃だが、決して退くことなく当初の予定だった、一撃必殺魔法による敵の殲滅を実行に移す。合わせた両手から放たれる魔力の奔流、しかしそれも同じく放たれたナコトの奔流に相殺される。
「魔力比べでしたら負けませんわよ?」
 二手を封じられ、流石に次の攻撃への間が空いた隙を、シーマとラズンが突く。
「退け……!」
「きゃはは☆ 死人に口なしー、あ、もう死んでるか」
 シーマの突き出した槍が綾乃を貫き、ラズンの放ったヘルハウンドの群れが止めを刺す。そのあまりに残酷なやり方に、場の雰囲気が決して魔法少女のそれではないものに移り変わっていく。
「豊美ちゃん。申し訳ありませんが、今度は触手だのカメラだの遊びは抜きです。
 彼女のささやかな願いの為に、全力で倒させて貰います」
 綾乃を戦闘不能に葬ったアルコリア一行が、今度は豊美ちゃんに標的を定める。
「豊美ちゃんが姫子ちゃんのことで決着をつけるまで、豊美ちゃんをやらせはしないよっ!
 愛と正義の突撃魔法少女、リリカルあおい! さあ、いっくよー!」
「姫子さんのしたことは許し難い、だけど、それでも、姫子さんを救ってこそ、魔法少女がヒーローになるための選択!
 魔法少女ガーディアン☆めぐむ! みんなを守るためただいま参上!
 取り巻きに付いていた魔族を退け、『愛と正義の突撃魔法少女リリカルあおい』秋月 葵(あきづき・あおい)と、『魔法少女ガーディアン☆めぐむ』松本 恵(まつもと・めぐむ)が豊美ちゃんの援護に入る。
「きゃははは☆ 君たちもヘルハウンドの餌になるといいよ☆」
 ラズンの命令を受けて、数体のヘルハウンドが鋭い牙を剥き出しにしながら迫ってくる。
『こ、怖いですぅ〜〜〜!!』
 既に恐怖で魔鎧として葵に纏われていた魔装書 アル・アジフ(まそうしょ・あるあじふ)の悲鳴を聞きながら、葵自身も鳥肌が立っていくのを感じる。魔族相手にはなんとかなったが、今度の相手は相当の実力者であったはずの綾乃を戦闘不能に葬った。
(一撃必殺の魔法の直撃で、なんとかダメージを通せるかどうか……でも、そんな時間なんて――)
 彼女らを相手に、大火力の魔法を放つだけの時間が作れるとも葵は思えなかった。同じく戦場に立った恵も、相手との力量の違いを痛感しているようだった。
「葵さん、恵さん、私が前に出て盾になります、お二人は魔法の準備を」
 すると豊美ちゃんが前に出、『ヒノ』を掲げる。
「大物が出てきた、さあ、食いつけー☆」
 ラズンの楽しげな声を受けて、ヘルハウンドが一斉に豊美ちゃんを喰らわんと飛び掛かる。だが直後、強烈な接触音が響いたかと思うとヘルハウンドたちが弾き飛ばされ、悶えた後に力尽き、姿を消す。
「凄い……! あれだけのヘルハウンドを寄せ付けず、弾き飛ばすなんて……!」
 驚く恵の前で、『ヒノ』を明滅させ、強力なシールドを張る豊美ちゃん。直線系、誘導系の攻撃魔法の他、角型、球型の防御魔法も使いこなせるようであった。
「きゃふふふ☆ じゃあその盾、ぶち抜いてあげるっ」
 巨大な剣でもあり、またレーザーキャノンでもある武器を構え、砲撃を見舞うラズン。しかしそれでも、豊美ちゃんの張る盾を貫けない。二撃、三撃と撃っても、シールドは極太のレーザーを受け切る。
「ラズン、一旦退くぞ。背後で魔法少女二名が大規模魔法を詠唱している、直撃を受ければお前とてただではすまないぞ」
「ちぇー、残念だね、臓物をぶちまける光景を見せたかったのに――あれ?」
 ヒュン、ワイヤーがラズンを絡め取り、傍にあった柱にくくりつけてしまう。
「油断したな! 今だ、ぶちかませ!」
 ワイヤーを投擲したエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)の掛け声を起動トリガーとするように、詠唱を完了した葵と恵がそれぞれの杖を高々と掲げる。
「ミリオンボルトスター!」
「続いて行くよ! 名付けて、ツイン・シューティングスター!」
 天空から降り注ぐ隕石が二発、柱にくくりつけられたラズン目掛けて落下する。大きな衝撃音と地鳴りが響き、粉塵が晴れた先には無数の瓦礫が散乱していた。
『や、やりましたですか……?』
「あっ、ダメだよアル、それは言っちゃダメなんだってば!」
 故人曰く、攻撃を浴びせた後で「やったか!?」と叫ぶと、もれなくナラカに送られてしまうのだという。ましてや相手がアルコリアのパートナー、平然と「きゃははは☆ ちょーっといたかったかなー」と出てくることは容易に想像できた。

「ラズンの仇……などと言うつもりはありませんが。
 こちらも準備完了しましたので。大丈夫です、抵抗しなければ苦しまずに逝けます」


 膨れ上がる魔力を察知した時には既に遅し、弓を引き絞ったアルコリアが豊美ちゃんへ微笑むと、魔力を開放する。
「念のため、追い撃たせてもらいますわ。……これに耐えるようなら、わたくしの本気でお相手いたします」
 通り過ぎた空間を絶対零度に凍らせる奔流の先端が豊美ちゃんのシールドに届くタイミングで、ナコトが天空から降り注ぐ炎流を見舞う。

「「「きゃあああああぁぁぁぁぁ!!」」」

 魔法少女の悲鳴が、生じた衝撃音に掻き消える――。


「クソッ、こんなことになるならより、ロノウェさんの力を借りられたらと思うな!」
 叫び、エヴァルトがシーマの繰り出す槍を回避し、踏み込んでの双剣の一撃を見舞うも、シーマは盾で受け止め、距離を取る。エヴァルトとゲルヴィーン・シュラック(げるう゛ぃーん・しゅらっく)はメイシュロット+に乗り込む前、イナテミスにロノウェが来ていることを知り、協力を願っていた。

「ロノウェさん、ギルガメッシュの装甲と電装系を軽く破壊する力、それを今一度、平和の為に貸してはくれまいか?」
「……なんか、言い方が引っ掛かるわね。行けないわけじゃないけど、ごめんなさい、他でやることが出来てしまったの。
 そういえば――」
 ちら、視線を向けられたゲルヴィーンがあからさまに挙動不審な素振りを見せる。
(マジでロノウェ様いたとかもうネ! きっと昼間のことも見られてたに違いないネ!
 ここは誤魔化して切り抜けるしかないネ!)
 そう心に決めたゲルヴィーンが、唐突な意見を口にする。
「ろ、ロノウェ様ー、一つお訊きしたい事が。あの、疑うわけじゃないんですけど、ホントに怪力なのかな、と。
 もしかしたら、強烈な電撃で局所的に電荷を加えて、その反発力でハンマーを振るってるんじゃないかな、と……まぁ、うちのパートナーが気にしてたことですが」
 ゲルヴィーンの言葉を受けて、今度はエヴァルトの方を見るロノウェ。
「おまえ、こんな時に何言っている! 関係ないだろ!?」
「だって、確かに前そう言っていたじゃナイカ――え?」
 エヴァルトに反論しかけた所で、ゲルヴィーンは頭を締め付けられるような感覚に声をあげる。
「魔力で補佐をしているのは確かよ。でも、ある程度力は持っているつもりよ。そうじゃなきゃ満足に扱えないから」
「痛いイタイギャーーー!! ロノウェ様頭、アタマ割れチャウーーー!!」
 ミシミシ、と頭蓋骨が軋む音を聞きながら、ゲルヴィーンは悲鳴をあげる。
「……まあ、このくらいにしておいてあげるわ。
 ゲルヴィーン、あなたが彼に付いて『メイシュロット+』へ行き、相応の働きをしたとみなせれば、あなたが呟いていた件、考えておいてあげる」
「イタタ……た、確かにロノウェ様は怪力デシタ――え? ロノウェ様、今何と?」
 自分が呟いていたことは、まさか『ロンウェルで地上文化理解部署に就きたい』ということだろうか、確認するためにゲルヴィーンが問うと、ロノウェは頷いて答える。
「さあ、早く行きなさい。夜明けまで時間がないわよ」
「は、ハイ!」

「ロノウェ様からチャンスをいただいたネ! このチャンスは必ずモノにしてみせるネ!」
 ゲルヴィーンの放った弾丸が、シーマの気を一瞬削ぐ。そこにエヴァルトが踏み込み、連続で斬撃を浴びせかけてくる。防いだ盾を持つ手が痺れを訴えてくるのを感じながら、シーマは相手の力量を推し量る。
(悪魔の方はともかくとして、こっちの方は相当の熟練者だな。大きな隙は晒せない)
 さりとて、いつまでもエヴァルトの相手をしているわけにはいかない。豊美ちゃんと魔法少女二名は、アルコリアとナコトの連続魔法で吹き飛ばしたようだが、いつまた他の魔法少女や契約者が来るとも限らない。ラズンを戦闘不能に葬られた以上、自分が二人の盾とならなければならない。
(少々危険だが、誘うしかないか。まったく、ボクらしくもない)
 方針を定めたシーマが、構えていた盾を外した上で、先に踏み込む。後から踏み出すエヴァルトの意識は、盾を外した側へ向かう。
「腕の一本くらいは、落とさせてもらう!」
 振り抜いた双剣が、シーマの左腕を斬り落とす。
「腕の一本でよければ、くれてやる。しかし代わりは、もらい受ける!」
 攻撃を受けてもなお変わらぬ動作のまま、シーマはエヴァルトの腹に槍を突き刺し、苦痛に歪む顔を蹴り飛ばす。機晶姫は人間と違い、機晶石を破壊されない限りは、首を落とされようと活動できる。
(その分、回復に時間がかかるのが難点だがな。今回のはまさに、非常の策だった)
 息をついたシーマは振り返り、先程大きな爆発があった地点を見る。大きな穴の中に、ボロ雑巾になった四人の姿が見える。もしかしたら死んだかもしれない、アルは本気だったから――。
(もし生きていたとしても、もう起きないでくれ……)
 自分なら起きるだろうな、そう思ったシーマの視界の端で、杖を支えにして一人の魔法少女が立ち上がる。
「……まだ、勝負はついていないぞ」
 そして背後から聞こえる声に、少しの驚きを含んでシーマが振り返る。
「普通の身体してないんでな。大分効いたが、動けないほどじゃない」
「……ボクと同じと言いたいのか」
 人間とは何故こうも、時に機械以上に頑丈なのか、その答えにシーマは半ば気付きつつ、片方になった手で槍を持ち、身構える。