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水晶の花に願いをこめて……

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水晶の花に願いをこめて……
水晶の花に願いをこめて…… 水晶の花に願いをこめて……

リアクション

 
〜 二日目・午前6時 〜
 
 
突然カーンカーンと小気味のいい音に、仮眠を取っていた意識を呼び覚まされ
ぼんやりと目を瞑りながら雅羅はその音に聞き入る
やがてその音が石を金属で叩き削る音だと気がつき、あわてて寝袋から飛び出した

 「ちょっと!帝王や紬達は一体何して……る……の?」

音が音ゆえに侵入者の一人が祭壇を削っているのかと思い
起きているはずのほかの警護役に文句を言おうとしたはずが……逆に言葉がとまってしまう

目の前にあった光景、それは自分の前にならぶ上半身ほどの大きさの水晶の塊であった
気がつけば、それを剣で削りだそうと叩いている人影がひとつあり、先ほどから聞こえる音はその叩く音だったようだ
起き抜けに思わず呼んでしまった呼んだ警護担当の者達
ヴァル・ゴライオン(う゛ぁる・ごらいおん)杜守 柚(ともり・ゆず)杜守 三月(ともり・みつき)の三人も
どうやら傍らでずっとそれを眺めていたらしい

 (アルセーネは……そっか、食事の準備で早くから出るって言ってたっけ)

仮眠のつもりが短くも深く眠り込んでいたらしく、急に飛び起きてやや頭痛のする頭を振っていると
興味深そうに覗き込んでいた柚が、そんな自分に気がついて声をかけてきた

 「あ、おはようございます雅羅ちゃん。予定より早く起きましたけど大丈夫ですか?」
 「うん平気……でもこれは一体?」

柚に呼び聞かけた雅羅だったが、水晶を削っている者も作業の傍ら様子を伺っていたらしく
彼女〜奏輝 優奈(かなて・ゆうな)がその手を休めて雅羅の方に振り向いた

 「悪いなぁ、今日ここでやりたい事があってな、今からやらんと間に合わんから始めさせてもろてんねん
  あ、わかってると思うけど、これここの遺跡から盗ったもんじゃないねんて
  【常世の森】から持ってきたもんやから心配せんといて…………おりゃっ!」

がちゃーん、とひときわ大きい音が言葉と共に森にこだまし、強い風が遺跡を凪いだ
普通の剣戟だと埒が明かないと踏んで、最小限に放った【真空波】が見事ヒットし、塊の半分を砕く
キラキラと散らばる、細かくなった水晶の欠片が自分の傍まで来るのを見ながら、雅羅は再び疑問を口にした

 「今やってることは、なんとなくわかったけど……どうするの、この水晶」
 「ん?お土産作ろ思ってんけど?」
 「………はい?」
 「や、不思議な水晶でできた花があるんやって聞いてなぁ……よいせっと」

次から次へと予測不能な返答に戸惑うが、飄々と語りつつも優奈は欠片を拾い集めて、一つをガリガリと削り始める
その様子にある種の真剣さと誠実さは感じられ、雅羅は彼女の話を黙って聞き続ける

 「そこの花が実際に願いが叶えるかどうかよりも
  人によっては、心の支え?……みたいになっとる人もおったと思うんや
  そういう理由でここに足を運ぶ人達に何か渡せないかと思て、水晶花の模造品を作って配ってみようってね
  単に作ってみたいだけとか、そういうわけとちゃうんやで!絶対ちゃうからな!」

セルフ突っ込みもセットで作業しながら話を続ける優奈だが、その手は決して休みはしない
興味深げに柚や三月が覗き込む中、試作品なのか粗削りだが彼女の手の中で水晶がスイレンの形を作り始める

 「あぁ、やっぱり彫刻刀とか持ってきた方がええかな?とりあえず一作目完成っと、ててーん!……どや?」

目の前に出された試作一号を見ながら、雅羅は今さっきの彼女の作業している姿と
昨日の夕暮れに願いをしに来たアリス・クリムローゼ(ありす・くりむろーぜ)が重なっていくのを感じる
願いとの向き合い方は様々だ、ほんの些細な提案から広がっていく予想外のものに楽しみを見出しながら
雅羅は優奈に微笑みながら感想を述べた

 「……いいんじゃない?でもやっぱり精度を上げたほうが人にあげる物としてはいいかもね?
  彫刻等が必要ならアルセーネに持ってきてもらうから待ってて」
 「へぇ、なにやら朝早くから賑やかだと思ったら、ずいぶん楽しそうな事やってるね」
 「エース、それにリリアも……どうしたのこんな朝早く」

そんな雅羅達のやり取りを物珍しそうに聞きながら、どうやら新たな来訪者が現れたようだ
たどり着くなり、優奈の手の水晶をひょいと手にとって朝靄に輝く柔らかい日差しに翳しながら
来訪者・エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)は雅羅の問いに答えた

 「もちろん、俺達が色々奔走してる話題の水晶の花を一目見に来ようと思ってね
  水晶材質とは言え、花を模したものの美しさというのは比べ物にならない価値がある
  それを堪能するのは今くらいの光が丁度いいんだよ、人気も今なら絶対にないしね」
 「そういえば、お前は祭壇の保存と移動の交渉をしているんだったな」
 「ああ、こういった多くの人に見てもらうべき物が日の目を見なくなるかも……なんて、やっぱり可哀想だからね」

ヴァルの問いに答えながら
すでに祭壇とその前にいる仲間〜リリア・オーランソート(りりあ・おーらんそーと)〜を見てエースは言葉を続ける

 「個人的にはこの台座を含めて美術的価値に着目したいんだ
  だいぶ装飾は風化してるけど、台座と光の当たり具合に技巧的工夫があるから
  水晶以上の輝きを感じるようにうまく作られているんだよね。ちゃんと研究しないと、この技術、失われちゃうよ?
  できればこの輝きをそのまま別の場所で再現できればもっといい」
 「もう、エースったら来るなりそんな話しない!その前にやるべきことがあるでしょう?」

視線を感じたのか、それともずっと話は聞いていたのか
一向にパートナーが来ない様子に焦れてリリアがエースの方に顔を向けてふくれっ面で声をかけてきた

 「移転の話は賛成だし、協力もするけどやっぱりお願いをしてあげないと
  自分達でできる事をやるのも大事だけど、このスイレンちゃん自身のこともお願いして祈ってあげるのも大事よ」
 「はいはい、リリアはこういうおまじない系好きだからなぁ」

輝きがあと一歩だね……といいながら、手に持っていた優奈製のスイレンを本人の手に戻し、祭壇に向かうエース

 「スイレンちゃん、あなたが何時までもこうやって皆に愛されて咲き続けられますように……」
 「じゃあ俺も、君がそのままの姿で在り続けられますように」

そういって花にお願いしてる二人の姿を見ながら、その一人に大層創作意欲を挑発された優奈である
ぽーいと試作品を柚に投げると、鼻息荒くエースたちが祈り終わった祭壇の方に向かう
水晶を投げられた事も含め、驚いた柚があわてて声をかけた

 「ゆ、優奈さん?一体何を??」
 「ああまで言われたんやから、きっちりできるだけ再現せんと職人の血が泣くわ!
  研磨まではまぁ簡単やろけど……輝いてるっていうのがイマイチ光術ぐらいしか思い浮かばなないねん
  水晶花本体を【サイコメトリ】してみたら、この光の秘密、何かわかる思てな〜」
 「昨日、色々スキル試した人がいたけど、何もなかったって言ってたぞ?」

優奈の行動に、昨日の黒崎 天音(くろさき・あまね)の事を思い出しながら杜守 三月(ともり・みつき)が呼びかける
もちろん、彼以外にも色々チャレンジしてる生徒も見ているので結果ももう何度も見ている彼等である
……当然、その中にはこういう言葉でも挑戦をあきらめないリアクションも含まれている

 「そやかて、やってみないとわからんもんね〜」

案の定、そのまま止まる事無く、花を手に取り【サイコメトリ】を発動する優奈
だがその反応もやっぱり三月の予想通りだったようである

 「う〜ん、やっぱり何も感じられんか」
 「そりゃそうだって、結構な生徒がそれやってたぞ。スキルの修練ができてる連中も何もなかったってさ」
 「そっか、そんならしゃあないか………ひゃぁ!?」
 「ど、どうしたの優奈さん!?」

三月の言葉にそのまま花を戻す為に、その手を祭壇の水面に沈める優奈だがその瞬間声を上げてしまい柚が驚く
祭壇に伸ばしていた手を引っ込めた姿で、優奈があははと苦笑していた

 「あ、いやゴメン、水が冷たかったもんでつい」
 「……花取るときだって手を突っ込んでいたじゃん」
 「そりゃそうねんけど、スキル発動で集中したたもんでうっかり忘れててん」

三月の突っ込みに、あはは〜と謝る優奈
そこにアルセーネとの連絡が終わった雅羅が戻ってきたようで、みんなに声をかける

 「彫刻等の件、了解したって
  さ、もう少しでアルセーネも戻ってくるから朝食にしましょう
  今日は昨日よりいっぱい人が来るかもしれないから、頑張って警護組もよろしくね」

は〜いと返答し、簡易の野営場所に戻るヴァルや柚達
改めてエースやリリアと会話を始める雅羅を見ながら、優奈は先ほど祭壇から引っ込めた手をしげしげと眺めて呟いた

 (なんや、さっき一瞬何かビビッと来た瞬間があった気がしたんやけど)

【サイコメトリ】を早々に終わらせ、水面に花を戻した瞬間、何かがフラッシュバックした気がした
スキル特有の感知できる残留思念とも違う、強烈でいて混沌としたイメージ
思わず、手を引っ込めてしまったがその暖かいような切ないような熱が何となく残っていてやや胸がドキドキしている
もう一度その感覚を確かめようと手を伸ばそうとしたが……一瞬の逡巡の後、その手を静かに戻した

 (あかん、これ以上は無粋っちゅうもんや、やめとこ)

自分がここに来た目的を思い出し、再び別の欠片を拾って握り締める

 「……光ってなくても思い出の品には十分やろ!多分!」

呟いて、再び作業に戻る優奈


二日目の朝は始まったばかりであった