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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 4

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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 4

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第9章 3時間目・実技

「他に質問などないみたいなので、実技を行ってもらいますねぇ〜。エリシア・ボックさん、ノーン・クリスタリアさん、クリストファー・モーガン、クリスティー・モーガンさん。こちらへ集まってください!」
「おねーちゃん、呼ばれたよ」
「えぇ、行きますわよ、ノーン」
 エリシアたちはニュンフェグラールを抱え、教壇の前へ行く。
「どんな姿なんだろうな…」
「楽しみだね」
「呼び出し方は、進化させても変りません〜♪」
「そうなんだ…?」
 クリストファーはエリシアたちが呼び出している様子を観察する。
「クローリスちゃん、こんにちは!」
「こんにちは…、ノーン」
「会えてうれしいよ!」
「えぇ、私も嬉しいです…」
 ノーンの笑顔にクローリスは、口元を綻ばせて僅かに微笑みを返す。
「あら。今日は教室で授業を行うのね?」
「そうですわ、今日も頼みますわよ」
 花のクッションの上に座っている赤いドレスを纏った女を、エリシアが見上げて言う。
「俺たちも呼び出してみよう。まずは地面か紙に、魔法円を描くんだったけ…」
「言葉を数字に変えて、模様っぽく描いてみようか」
 クリスティーたちは紙に魔法円を描き、花びらが舞い散るイメージで、模様のような数字を描く。
 ニュンフェグラーをかかげて祈りを捧げ、聖杯に零れ堕ちた涙と一滴の血を混ぜ、紙の上に落とした。
 用紙の中央から緑色の茎が伸び、大きな薔薇のつぼみをつけ、人の形になっていく
 クリストファーが呼び出したクローリスは、ピンク色のワンピースを着た小さな少女の姿だ。
 ワンピースの袖と裾には白いフリルがついて、ウェーブのかかった肩まで伸びた髪と瞳は、薄いピンク色をしている。
 メーデン・スブラッシュという薔薇のような女の子だ。
「おにーちゃんが、うちの主?」
「そうだよ」
「ふぅーん…。せいぜいうちのこと、大事にすることね!」
 彼の方に飛び乗り、足をぱたつかせる。
「まぁ、たまにならー。助けてあげてもいいけどぉー」
「それはありがたいな」
「…そ、そんなえがおで言われても、しょっちゅー助けてあげるとは限らないからね!」
 クローリスはプイッとそっぽを向いてしまう。
「ツンツンしすぎると、かわいさが減ってしまうよ?」
「か…かわいいだなんて、思われたくないもん。そーんなの、別に…うれしくないしーっ」
 雰囲気的には気まぐれな感じがするが、素直になれないだけのようだ。
 18世紀にイギリスで作出された薔薇はトゲが少ないのだが、それに反してツンとした態度を取っている。
「進化したクローリスは、呪いにかかりにくくしてくれる香りを出すみたいだけど。やってみてもらえるかな?」
「どーしよーかなー」
「お願い」
「…そこまで言うなら仕方ないね」
 相変わらずムスッとした顔をしているが、クリストファーのために、虚空に小さなつぼみを作り出す。
 パチンッと指を鳴らすとつぼみが弾け、ピンクと白の粉のようなものが漂う。
「上品な香りがするね…」
「ふふーん、そうでしょー?」
「粉雪みたいな不思議な感じがする…。あっ」
 触れてみると粒は消えてしまった。
「人が使う、香水みたいな感じよ」
「そうなんだね…」
 この状態では加工出来そうにないが、クローリスに対しての理解を深めれば、いずれ香水も作れるのかな…と考える。
 白つぼみは小さな少女のような姿になり、白いミニのワンピースを着ている。
 服と同じ色の長いポニーテールには、白薔薇の髪飾りがつけられている。
 このクローリスは、クリスティーが呼び出した使い魔だ。
 アルバ・マキシマという白薔薇の雰囲気の女の子は、まん丸の白色の目で彼を見上げる。
「ねぇねぇ、キミがぼくの主かなぁ?」
「うん、よろしくね」
「よろしくなのらぁー!クリスティーくん、ボクとあそぶのりぃ♪」
「今は授業中だから、遊んであげられないんだ」
「ぅうー、そんなのつまーんなぁーい」
 どちらのクローリスも薔薇の優雅さが感じられない。
 黙ってじっとしていれば…そう見えなくもないが、口を開いてはしゃぐ姿は元気なお子様のような感じだ。
「…うーん。あ、そうだ。クローリスさんの香りが…、どんな感じか知りたいな」
「うん、わかったぁ!」
 少女が楽しげにダンスを踊ると、その袖からふわりと華やかな香りが漂う。
「素敵な香りだね」
「ほんとー?うれしーのらぁ♪」
 クローリスがクリスティーの背中に飛びついた。



「クローリスちゃんも、香りを出してみて」
「はい、承知致しました…」
 小さく頷いた少女は両腕を広げ、踊るようにくるくると回ると…。
 花びらが舞い飛び、宙を舞うそれは粉のようにさらさらと散り、香りを広げる。
「甘い感じがするね?」
 透き通った滑らかな蜂蜜よりも、爽やかな甘さの香りだ。
「きっと、それが呪いから守る香りなんですわ、ノーン」
「そうなの?なんだか成長前より、ずっとよくなった気がするよ」
「わたくしのクローリスはノーンのほうより、甘さは感じませんが…。気品のある穏やかな香りですわ」
「うん。どれも素敵な香りだね」
「次のメンバーを呼びますから、実技を終了させてください〜」
 術者たちが使い魔をあるべき場所へ帰したのを確認し、エリザベートは名簿を開いて選ぶ。
「五月葉 終夏さん、ロザリンド・セリナさん、中願寺 綾瀬さん。こちらへ集まってください〜」
「(スーちゃんに会うのは、5回目かな?)」
 早く会いたいな…と思いながら、終夏は木の聖杯を見つめる。
 手順を思い出しながら、さっそく呼び出す。
「こんばんはー、おりりん。あたらしーかおりをためしてみたいのー?」
「うん、お願いね」
「わかったー!」
 スーは蔓を伸ばし、白い花のつぼみをつける。
 ふわりとつぼみが開いたかと思うと、花がふわふわと浮かんだ。
「ぱぁあーっとひろげるのー」
 そう言うと花は舞い散り、白い光となってぱらぱらと落ちる。
「何かに触れると消えるんだね?」
 手の平に触れた光が、フッ…と消えてしまう。
「そうなのー」
「前の香りも好きだったけど、今のは優しい感じが強くなったね。他の人はどうかな…」
 終夏はスーを頭に乗せ、ロザリンドの方を見る。
「カメリアさん、こんばんは」
「こんばんは。私の香りを試したいのね?」
「はい、頼みます」
 ロザリンドはカメリアと軽く挨拶をかわし、強化した能力をさっそく試してみる。
 ドレスと同じ色の花びらが、粉粒のような光となり教室内を漂う。
 彼女から離れて確認すると、一度に広がる香りが少し広くなったようだ。
 カメリアのところへ戻ったロザリンドは…。
「守りの力は、どの程度あがりましたか?防御力を高めた私が前に立って、他の方の準備や祓いの用意ができるまで壁役になるとかどうでしょう?」
「そうね、魔法攻撃…っていう範囲なら闇黒系が中心ね。物理はポレヴィークほどないわ…。それも、あなたの精神力を消耗させることになるから。よく戦法を考えてね?」
「(私が無理をしてしまうのでは…、って思っているのかもしれませんね。能力を使う時は、状況によりけりということでしょうか)」
「他に確認したいことはないかしら?」
「いえ、今のところありません。ありがとうございました」
「カメリアさんだっけ?甘酸っぱい、いい香りだね」
「そちらのクローリスさんは…えっと……」
 なんという名前だっただろうか…、と終夏に肩車してもらっている少女を見る。
「スーちゃんだよー」
「…とても素敵な香りでしたよ」
「ありがとうー!」
 褒められたスーは嬉しそうに、足をぱたつかせキャッキャと喜んだ。
「綾瀬も呼び出してみるのね?」
 パートナーに装着している漆黒の ドレス(しっこくの・どれす)が言う。
「…えぇ」
 カッターの先を指に押し当て、聖杯にポタリと一滴落とし、その中にある涙と混ぜて陣の上に落とす。
 呼び出されたポレヴィークのリトルフロイラインは、元気に挨拶する。
「綾瀬様、こんばんは!」
「リトルフロイラインは腐敗毒を解除する薬草を出せるようになったんですのね」
「はいっ、ご命令とあらば、お出しします!」
「その時がきたら、お願いしますわ」
「実技が終わったようなので、そろそろ授業を終了しますぅ!次回は、強化合宿を行う予定ですからぁ。参加したい方は、覚えておいてくださいねぇ!」
 通常授業の時間が終わると…。
 自習を行う者たちが教室へ入ってきた。