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THE 合戦 ~ハイナが鎧に着替えたら~

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THE 合戦 ~ハイナが鎧に着替えたら~

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8ターン目:信なgの野望・ばくしん

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「……」
 信長の本陣がある東の山を、一人の男が進んでいた。
【隠行の術】で姿を隠しながら森を進み、信長の元へと急いでいるのは、忍者の紫月 唯斗(しづき・ゆいと)だ。
 ハイナから分け与えてもらっていた自軍の兵士たちは全て預け、単独での潜入を試みようとしていたのだ。
 山の麓から中腹、そして本陣に至るまで、信長軍は多くの部隊を配置死していた。それらに感づかれないよう、なるべく戦闘は避け、静かに行動する唯斗。
【不可視の糸】で結界を張り周囲の索敵も細かく行いながら、慎重に先を進む。
 なにしろ、あのハイナのためだ。絶対に失敗は許されない。
 真っ先に敵陣に乗り込み、首尾よく信長を倒して手柄を上げる。そして、ハイナをこの世界から救い出す。それこそが、ハイナの一番の子分を自認する唯斗の忠誠の示し方だろう。
(向こうもトラップくらいは用意してるだろうしなー。注意して行こう……)
 唯斗は信長を目指す。
 こうして、バグ信長討伐は始まるのであった。



「シャンバラ軍が平原での戦いで頑張ってくれているだけあって、ここは比較的手薄ですね」
 鋼鉄の白狼騎士団【筆頭番隊「白狼のトゥーハンディッドソード」】を率いるセフィー・グローリィア(せふぃー・ぐろーりぃあ)は、信長の居城が見える東の山の麓まで兵を進めてきていた。
 木々や茂み、岩に隠れながら気配を消してじりじりと本陣に近付き、目的地に辿り着いたオルフィナは慎重に周囲を見渡す。
 兵力差に物を言わせてシャンバラ軍を押しつぶしてやろうと、信長軍が大勢平原の戦場に出張っているため、城の付近は駐屯している兵力が少なくなっているのがわかった。
「平原の大軍が戻ってくる前に、奇襲でこの城を落とします」
「それはいいんだけどさ。ハイナの本陣で何があったのさ? 戦う前から包帯巻いてるじゃん」
 鋼鉄の白狼騎士団【一番隊「黒狼のクレイモア」】を率いて共にやってきたオルフィナ・ランディ(おるふぃな・らんでぃ)が、セフィーの姿を見てため息をつく。
 大体想像は出来ていたが。ハイナにちょっかいをだして取り巻きに軽くシメられたってところだろう。
「気持ちはわかるけどさ、相手選ぼうよ。ハイナくらいになると、周りの人間が黙ってないんだからさ」
「我が人生に悔いなし! 少々睨まれたって、懲りるつもりはありません」
 目を輝かせながら、満足げな表情のセフィー。おかげで精気も吸入できたし、元気充実でヤル気満々になっていた。
「いい気なものですね、全く……。私など呂布に逃げられて欲求不満の塊ですよ。この怒りをぶつけないと夜も眠れませんよ」
 不機嫌な表情で言ったのは、セフィーのパートナーで、鋼鉄の白狼騎士団【二番隊「翼狼のハルバード」】を率いるエリザベータ・ブリュメール(えりざべーた・ぶりゅめーる)だ。
 彼女は呂布を狙って平原の戦いに赴いていたのだが、乱戦に次ぐ乱戦で進撃が遅れ、ようやく呂布の軍団に追いついたときには、すでに勝負は終わっていたのだ。
 もてあましたエリザベータは、結局こちらの作戦に参加することになったのだが、今だに名残惜しそうだ。
「いや、おかげで助かりますよ、エリザベータ。やはり兵数は多いほうがいいですから」
 セフィーは慰めるように言ってから、信長の居城へ視線を移す。
「必ず勝つって約束もしましたからね、ハイナと。……一気に勝負を決めてしまいましょう」
 セフィーはオルフィナとエリザベータに言ってから、配下の兵士たちに手で合図する。
 全員白狼の毛皮の外套を着用したセフィーの虎の子の精鋭部隊は、物陰に巧みに姿を隠しながら無言で山を登り始めた。山とはいえ、大して高度はなく距離はさほど離れていない。敵部隊に遭遇するまでさほど時間はかからないだろう。その後に一般兵たちも訓練どおり山へと入っていった。
「……」
 ルフィナも自慢の黒狼の毛皮の外套を着用した部隊を先頭にそろりと敵本陣へ接近する。
 全員統一色の白銀の甲冑と外套を着用した兵士たちと共に山を登ってきたエリザベータが、居城に近付くにつれて信長軍の兵士が大勢詰め掛けているのを見つけて、オルフィナに視線を向けた。二人は頷く。攻撃の合図だ。
 ドッ! とオルフィナとエリザベータの兵士たちが走った。セフィーは同時に別方向へと回りこむ。
「……!」
 セフィーに不意打ちされた見張り兵は声を上げるより先に地面に倒れていた。一斉に部隊の兵が信長軍に襲い掛かる。
「うわ、奇襲d」
「静かに」
 オルフィナはにこやかに微笑みながら、周囲の兵士たちを蹴散らし始める。残虐無慈悲な駆逐殲滅部隊の名の通り、容赦なく血しぶきを振りまいた。
 あっという間に周辺は騒然となり、悲鳴と怒号と攻撃の音が響き渡る。
(ふふ……、上手くいきましたね)
 セフィーは配下たちを敵陣に突っ込ませておいて、自分は本陣へと急いだ。迫り来る敵を捻り潰し、一気に信長の首を……。
「……!?」
 不意に、殺気を感じ取ってセフィーは振り返った。その視線の先に。
「敵、勢力を確認。排除します」
 待ち構えていたのは、バグにより悲劇の英雄にして鎌倉幕府最強の武将【源義経】に成ったヒルデガルド・ブリュンヒルデ(ひるでがるど・ぶりゅんひるで)だった。
 彼女は、藤原頼長である幸祐に使える忠実な家臣であり、呂布や本多忠勝に並ぶ戦国最強の駒であった。今回の作戦の重要人物でもある。
「え……?」
 セフィーが驚くより先に、源義経は攻撃を仕掛けてくる。完全に不意をつかれてセフィーは吹っ飛んだ。
 そこへ、シャンバラ軍の奇襲部隊を狙っていた【戦国遊撃武士団】が一気に突入してくる。藤原頼長の指示で緩やかな崖の上から麓の伏兵達に奇襲をしかける機会を待っていたのだ。兵数は1000人で、兵力的には互角だが勢いが違った。
 自分たちは奇襲する側で、逆に奇襲されると思っていなかったセフィーやオルフィナの部隊の兵士たちは、脆くも大混乱になった。
「せっかくの楽しいパーティーを台無しにしてくれるなんて、覚悟は出来てるんでしょうねぇ」
 すぐさまオルフィナが駆けつけてくる。予想外の攻撃に驚いたセフィーもすぐに体勢を立て直して戻ってきた。強力な敵武将を放置しておいては作戦の成功などありえない。行動をキャンセルして真っ先にヒルデガルドに攻撃を向ける。
「敵、主力要員が参戦。優先的に対応します」
 ヒルデガルドが、スキルからアイテムまでフル活用で応戦してきた。セフィーがリーダーと見て取った彼女は、すれ違いざまに兵士たちを斬り倒しながら、しつこくセフィーに攻撃を繰り出す。
「喧嘩の仕方、知ってるじゃないか。だが、あまり私たちを甘く見ないほうがいい」
 セフィーは怒りを込めた口調で言うと、本気で反撃に出た。
「こちらは任せておいてください」
 エリザベータは、ヒルデガルドのことは二人に任せておいて、混乱していた部隊を立て直す。兵士たちも動揺から立ち直りさえすれば、強さは互角だ。だが……。
 外で戦闘が始ったのに気付き、信長の居城から部隊が応援に出陣してきた。平原で戦っていた部隊の一部も、奇襲に気付きすぐさま引き返してくる。
「……失敗しましたね」
 エリザベータはすぐに悟った。この奇襲は予想されていたのだ。もはやセフィーたちの部隊は敵に取り囲まれて身動きの取れない袋のネズミ。退却するか、それとも……。
「……参ったね。これで部隊はもう終わりだ。……セフィーは一人で先に行ってくれ。こいつは、せめて俺たちが必ず倒す」
 オルフィナは手柄をセフィーに託すと、エリザベータと二人がかりでヒルデガルドと戦うことにする。セフィーは、頷くと何も言わずに先を急いだ。
「これだけ邪魔してくれたんだ。ただじゃすまないよ、お前」
「全て殲滅します」
 オルフィナたちとヒルデガルドの全力戦闘が始った。



「向こうでも始ったみたいだな」
 信長の居城のある反対側の山の麓では、桜葉 忍(さくらば・しのぶ)が兵を率いて進軍を始めていた。信長軍の慌しい動きで、シャンバラ軍の友軍もこちらに向かってきているのがわかった。
 バグ信長を倒すために東の山にやってきたのだが、案の定といおうか、本陣は大軍が守っているようだった。接近するためには、相当敵を倒さなければならないだろう。
「正面から行くぞ。ニセモノに遠慮なぞいらぬわ」
 シャンバラ軍として兵を率いているのは織田 信長(おだ・のぶなが)であった。
 言っておくが、こちらはパラミタで英霊をやっている信長だ。今後、紛らわしいので信長と太字表記しよう。
「たとえバグのコアとなった私のデータだろうと、誰かに討たれる姿を見るのは我慢ならん! 私自ら倒してやる!」
 信長は、バグの信長が誰かに討たれるくらいなら己自身の手で倒そうと思ってやってきたのであった。その心中お察しする次第である。
【アーマードユニコーン】に乗り【妖精の領土】で機動力を上げた信長は、敵軍勢のひしめく中、一気呵成に兵を進める。
 たちまちにして、敵軍が襲い掛かってきた。
「すごい数だな。でも、どんなに数が多くても負けるわけにはいかないからな!」
 忍は、装備しているイコン第六天魔王の能力をいきなり発動させた。
【嵐の儀式】により竜巻を発生させ敵軍を蹴散らすと、信長の居城へむけて奥へ奥へと斬り進んでいく。【海神の刀】を使い、超神速の剣技で敵を切り裂いていく戦い方で、相手に脅威を与えるのに十分だ。
 その戦闘力を脅威と見て取った敵軍は、数で押しつぶす作戦に出てきた。
 忍を何重にも取り囲み、長い槍の部隊が攻撃してきた。
「……一旦さがろう」
 ちょうどいい頃合だ。これはたまらんとばかりに忍は部隊を後退させる。それをチャンスと見て敵軍は突進してきた。
「うおおおおお!」
「今よ!」
 不意に横合いから合図の声が聞こえた。
 深追いしてくる敵部隊を、待ち構えていた伏兵が四方八方から攻撃を仕掛けてくる。
 思い切った奇襲を仕掛けてきたのは、忍の配偶者の桜葉 香奈(さくらば・かな)だった。
「戦うのは好きじゃないけど、私もみんなの力になりたいから」
 戦を早く終わらせたいと願う香奈の思いが、大胆な作戦に通じるのだ。
 忍は、視線だけで香奈に礼を言うと、再び神速の刀で敵陣を切り開いていく。
「うん、今日は調子がいいぞ。大剣も得意だけど刀の方がもっと得意なんでね!」
「ほう……、この俺を前にしてそんなことが言っていられるかな?」
 兵士たちが次から次へとやられていくのにたまりかねたか、この部隊のモブNPC武将が進み出てくる。忍を斬って一気に決着をつけようという腹積もりらしい。
「柳生十兵衛である。そんな大口は、この俺を倒してからにしてもらおうか」
 忍は、信長にチラリと視線をやった。彼女は頷き返してくる。
「いいね、一度名のある剣豪とやってみたかったんだ」
 忍が【海神の刀】を構えると、十兵衛もすらりと剣を抜いた。
 緊迫した空気が張り詰める。一拍の呼吸を置いて、二人は同時に斬りかかった。
 しばし……上質な殺陣を見ているような鮮やかな刀さばきが繰り広げられる。
「うぬ、やるなおぬし。何者だ……」
「さすがに強いな……」
 十兵衛と忍は、刀を軋ませながら対峙する。更に何合か打ち合った後、二人は間合いを取って離れた。
「……」
「……」
 向かい合ったまま、数秒……。次の瞬間、忍と十兵衛は同時に接敵した。二人の攻撃が交差する。
「……くっ!」
 忍の肩口が切り裂かれ、血が吹きだした。
「ふふ……」
 十兵衛は満足げに笑みを浮かべた。そして、そのまま前へ倒れていく。
「よくぞ俺を倒した……。天下無双を名乗るがいい……」
 そう言うと十兵衛は絶命した。
 戦いを中断して固唾を呑んで見守っていた兵士たちが歓声を上げる。
 十兵衛が負けた……。彼の率いていた兵士たちは忍を恐れ、あっという間にどこかに逃げていってしまった。
「天下無双などただの言葉。……そんな漫画があったな」
 忍はほっと息を一つつくと、戦いを再開する。信長の居城から、まだまだ敵がたくさんやってくるのが見えた。
「……」
 香奈は敵部隊を更に動揺させるために【煙幕ファウンデーション】で狼煙を上げた。わかる者にしかわからない合図でもあった。
 あとは……。他の人たちにも任せよう……。