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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 6

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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 6

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第2章 ジャタの森・捜索開始

「―…カサハリ、まだ到着しないのか…」
 林田 樹(はやしだ・いつき)は少しイラついた様子で顔を顰める。
「バカ息子、ちゃんと連絡したんだろうな?」
「え、お袋も傍で聞いてたじゃないか!」
 “お袋!牙竜に連絡取っといたぜ、すぐ来るってさ!”と、樹に告げてからだいぶ経っている。
「皆、もう村を出る寸前だが?」
「うぅー…。あっ、来た!」
「遅いぞカサハリッ」
「いやいやいやっ。林の姐さん、これでも全速力で来たんだって!」
 樹に顔面スレスレに拳を向けられ、武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)は顔中から冷や汗を流した。
「セイニィを守る覚悟はあるか?」
「当たり前だ…」
「カサハリよ、お主には獅子座の乙女の説得を頼む」
 牙竜の覚悟を知った樹は、その拳で彼の肩をトンッと叩き、必ず思い人を守れと気合を入れてやる。
「彼女自身しか知り得ないであろう情報は、魔性と対峙したときに用いるが良い…判別のためにな。それと、単独行動は厳禁だ。1人になれば、魔性に魅入られるぞ」
 歩きながら話そうと樹は仲間たちの後に続き歩き出す。
「とはいえ、我々も学び始めたばかりであるからな。 …正直魔性は見えん、いる方向を判別するだけだ。行動は国軍流で行くぞ、アキラ、バカ息子!」
「OK樹ちゃん、撤退の見極めは僕の方で行うよ」
「索敵は私、攻撃はアキラと…お前は出来るのか、バカ息子」
「んあ?攻撃できるさ、哀切の章の使い方が分かったし。吹っ飛ばせば良いんだろーが吹っ飛ばせば!俺だってハイリヒ・バイベル使えるようになってるんだし!」
 まるで役に立たなさそうだと言われた緒方 太壱(おがた・たいち)は、自慢げにスペルブックを開き、樹に見せつけた。
「バカ者、説得が上手く行かない場合に、力ずくで祓うようにすべきだ」
 死者を発見したわけでもないのに、ろくに話もせず滅するな!とバカ息子を鉄拳で殴る。
「お袋もすぐ殴るなよ…」
「何だ、バカ息子。文句でもあるのか?」
「うぐ…っ。(お袋の言うこときかなきゃ魔性を祓うどころか、俺が先に殴り倒されそう…)」
 ダブルアイスは嫌だと太壱は黙ってしまった。
「樹ちゃん、見える人について行こうよ」
「それもそうだな。…おい、そこの蒼学のいじられ男!」
「陣くん陣くーん、呼ばれてるよ」
「―…知らんっ」
 裾を引っ張るリーズ・ディライド(りーず・でぃらいど)の手を払い退け、七枷 陣(ななかせ・じん)は樹の方に振り向こうとしない。
「ねぇ、蒼学のいじられ男って、陣くんのことだよね?」
「そのつもりだが?外見で言おうにも、黒髪の男は複数いるからな」
 しかも所属も同じなため、本人を特定して言うにはそれしか思いつかなかった。
「ぱっと分かる特徴って言ったら、それしかないかもね♪」
「オ、オレだって炎熱と光輝を好んで使うっていう、特徴が…っ」
「え〜?そんなの、陣くんのことよく知ってる人しか分かんないよ」
「マジ酷くないか?オレの彼女ならもっとこう…なんかないんか!?」
「今はどうでもいいこと考えてる暇ないしー♪」
 樹にまでイメージが定着しないように焦る彼に対して、リーズはにゃははっ♪と笑う。
「あ、そうそう。陣くんになんか話があるんじゃなかったの?」
「私たちは不可視の魔性が見えないんでな。それを見えるようになる手段はないか?」
「ん?あぁ、それならエアロソウルやね。オレのペンダントの中に入ってる、黄緑色の宝石や。通常の視覚内のみやけどね」
「ふむ…。宝石はかなり種類が豊富なのか」
 陣の話を聞きつつペンダントの中の宝石をじっと眺めた。
「そうやね、元々サポートが主みたいやし。オレらは今回、ルカルカさんらのサポが中心やから、呪いの治療とかは涼介さんたちが引き受けるんかな」
「役割分担する必要があるというわけか。―…カサハリ、呪いは言葉による精神侵食タイプらしい。獅子座の乙女も、この呪術にかけられているだろう。魔性は私たちと会話が可能ということは、私たちが口にした言葉もある程度は理解出来るはず。カサハリ、…この意味が分かるな?」
 樹は牙竜に顔を向け、得た情報を彼に伝える。
 “安易に獅子座の乙女の名を口にするな”ということなのだろうと理解し、彼は黙って頷いた。
「(世話になりっぱなしだな…。何処かで恩返しできればいいが…、今はセイニィことに集中しよう)」
 ケルピーに自分がセイニィ・アルギエバ(せいにぃ・あるぎえば)に関わりある者だと知れたら、やつらはそこを必ず利用してくるかもしれない。
 助けにきたはずが呪いにかかってしまっては、かっこ悪いにもほどがある。
「(授業でてれば、もう少し踏み込めたが…後悔先に立たずだな。魔性を祓うのは他の人に任せて…助力ができるようにがんばるか)」
 すでに魔祓術を学んでいる緒方 章(おがた・あきら)たちの背を眺めた。
 今更後悔しても遅いが、“餌場”から逃げ出せないセイニィのために、自分が出来ることを命がけでやるだけだ。
「(待ってろよ…生きてろよ…セイニィ!)」
 身体も精神も呪いに支配されながらも、彼女の魂は必死に助けを求めているはず…。



「(今は普段通りのレイナじゃな…)」
 アルマンデル・グリモワール(あるまんでる・ぐりもわーる)は大人しくモニターを眺めるパートナーの様子に、ひとまず勉学に支障はなさそうだと息をついた。
「(ふむ…、前回の質疑から色々考えておるようじゃが…。うーむ…他のことが若干疎かになになっておるの」
 祓魔術を学ぶ者たちが現場で、魔道具を使っている様子をノートに書いたりしているが、度々レイナの表と裏が入れ替わっているため、モニターで見逃してしまった場面がかなり多い。
 それに加え、自分たちは他の者に比べて魔性について、理解しきれていないところもたくさんある。
「(まぁ、そこをフォローしてやるのがパートナというものかの。今回は情報を整理して魔性と相対するそうじゃからな…。見逃し、書き漏らしなどあったらあとであやつ相当へこむじゃろ)」
 これ以上、学ぶ時間を無駄にしないためにも、アルマンデルはモニターから視線を離さない。
 レイナ・ミルトリア(れいな・みるとりあ)のために、勉学に熱中しているアルマンデルに対して、彼女の頭の中は“あの子”のことでいっぱいだった。
 質問と教師たちの言葉で、“あの子”は魔性ではないということは分かった。
 だが、これからどう付き合えばよいのか、どう語りかければ“あの子”に届くのか分からない。
「(―…頭の中で念じてみるのでしょうか?それとも自身に語りかけるのがわかりやすいように鏡に向かって話す?…何かしっくりきませんね)」
 ノートに書きながら考えてみるが、まったくよいアイデアが浮かばない。
「む…っ、コテージに残っているのは、わしらだけかのぅ…。…レイナ?」
 2人の教師や自分たち以外にも、コテージに残っている者はいるのだろうか…と、周りを見渡すが4人だけだった。
 レイナがまた入れ替わったりしていないか気になり、ふとパートナーの方へ顔を向けると、彼女はペンを握ったままノートをじっと見つめている。
「…は……、はい」
 モニターの音声も耳に入らないほど、“あの子”のとの付き合い方を考えていたレイナだったが、結局アイデアは浮かばず…悩みすぎて思考が停止していたようだ。
「ふむ、いつものおぬしか」
「―…またいつ、あの子が現れるか分かりませんが…」
 黙り込んで思考を停止させいで、入れ替わったのかと思われたレイナは、かぶりを振った。
「(…っと、考えに没頭しすぎですよね…。今回は皆さん実戦らしいですから…。怪我などなさらないように願っておきましょう…)」
 魔道具が扱えないレイナは、実戦をモニターで見て学ぶことしか出来ない。
 “祈りくらいならば、人並みにはできますからね…。”
 …心の中でそう呟き、皆が無事に帰還するように……、モニターを眺めながら祈った。



「あまり森に慣れていない者は、俺が通った道を歩くといい」
 樹月 刀真(きづき・とうま)は平地を歩くように、ジャタの森を進んでいく。
 森の近くに住んでいる者や、こういった道を歩き慣れない者でもないと、躓いたり転んだりしそうな道ばかりだ。
「刀真、そっちじゃない。川がある方角は…、こっちだな」
 グラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)は羅針盤を手に、刀真の隣を歩きながら川を発見した方角を教える。
「あなたは午前中、モニターで見ていたんだったな」
 それぞれ現場で得た情報を、刀真もモニター越しで聞いていたはずだが、川までの道順まではコテージで話していなかった。
「地図とかないのか?」
「そこまでは用意出来なかった。細かい地図を描いていると、救助に行く時間が遅くなってしまう…」
「あぁ、今回の魔性は人を食べようと攫ったらしいからな」
「最初は全員で、川までいくから…なくても問題はないと思ったんだ。それに、森で調査していた俺たちの誰かと一緒にいれば、道に迷う心配もない」
「そうだな。同じような場所ばかりだから、逸れないように気をつけないとな」
 刀真はグラキエスが指差す方向に進みつつ時々、全員ついてきているか後ろを見る。
「―…水の匂いがする。もうすぐで川に到着するね」
 清泉 北都(いずみ・ほくと)は鼻をひくつかせ、超感覚で川が近いと感じる。
「攫われた人は無事だろうか…」
「血の匂いはしないから、大丈夫だと思うよグラキエスさん。…魔性の気配のほうはどう?」
「他の生き物に混ざって反応するから判断が難しいな。不可視化して近くにいるとすれば、見える誰かが教えてくれるはずだ」
 アークソウルは輝きを示しているが、森には小さな生き物もいるため、そこに魔性がいると確定は出来ない。
 そこにいるのなら、不可視化した魔性を見る能力があるエアロソウルを扱う者が、ケルピーを発見したと言うだろう。
 だが、斉民たちが何も言わないため、ケルピーはそこにいないのだ。
「うん、分かった。…あ、水の音が聞こえる……!」
 北都は黒い犬耳を動かし、さらさらと流れる水音を聞く。
「これじゃ、どこに攫った者たちを隠しているのか分かりづらいな。 …生きていれば、反応があるはずだ」
 川沿いも見通しが悪く、刀真は銃型HC弐式の電源を入れて川沿いを歩き、被害者の捜索を始めた。