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夏の終わりのフェスティバル

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夏の終わりのフェスティバル
夏の終わりのフェスティバル 夏の終わりのフェスティバル

リアクション

「……なんで桃花までメイド服着なければならないのですか?」
 キッチンから、秋月 桃花(あきづき・とうか)の声が聞こえてきた。
「わたし達だけが目を楽しませるのは不公平じゃない? 桃花にはわたし達の目を楽しませる義務があるんだわ」
 芦原 郁乃(あはら・いくの)がそう答えると、荀 灌(じゅん・かん)も頷いた。
「私も恥ずかしいです。でも、やるからにはしっかり働かなきゃです」
「でも、それってフロアの方だけでは……」
「いい? メイドデーはお客様を効果的に楽しませる計画なの。それがわたし達の仕事だというのなら、フロアだけじゃいけないんじゃない?」
 郁乃の迫力に押され、逆らっても無駄だと悟った桃花は諦めて自らネコ耳をつけた。
「うんうん! わたしたちも接客に戻りましょ!」


 ホールに出た郁乃と灌に目をつけたのは、眼鏡かけて変装をした五十嵐 理沙(いがらし・りさ)だった。
「メイド喫茶のオーナーとしては、これは経営努力の一環なのよ。決してメイドちゃん達に目がくらんでる訳じゃないのよ〜」
 誰にともなく理沙は言い訳を呟くが、内心「眼福!」とばかりにによによとしている。
 注文したケーキと紅茶にも手を付けず、男女問わずスタッフの姿を目で追っている。
「あんまりお店の子に迷惑掛けないであげて欲しいですわ」
 セレスティア・エンジュ(せれすてぃあ・えんじゅ)はそっと声をかけるも、メイド観察に全力を注ぎつつカメラを取り出す理沙に、その声は届かない。
「撮影させてもらうのも、後学のためなのよ。後で眺めてデレデレする為じゃないのよ、セレスティアなら判ってくれるわよね!」
「理沙、貴女の趣味全開なだけのような気がしますわ……」
 セレスティアは呆れ顔である。
「わたくしも新メニュー開拓に色々な所の喫茶店には足を運びたいですから、多めに見ますけれどね」

「ちょっといいかしら」
 呼び止められた郁乃は、急いで理沙のテーブルへと向かう。
「お呼びですか、お嬢様!」
「お伺いしたいんだけれど、お店の紹介と一緒にお料理の写真をブログに載せてもいいかしら?」
 理沙はカメラを郁乃に見せて、尋ねる。
「はい、大丈夫ですよ! もしよろしければ、後でブログのアドレスを教えて頂けませんか?」
「ええ、もちろん。それと、できることなら店員さんと一緒に写真を撮りたいのだけれど……こちらの撮影は禁止かしら?」
「個人的な写真撮影でしたら、私は構いませんよ! 盗撮とかはもちろんダメですけど」
 近くにいたスタッフたちを呼んで、理沙たちは写真を撮り始めた。
 それを微笑んで眺めるセレスティア。
「撮影の後で構わないので、もしよろしければレシピの工夫など教えていただけるかしら」
 なんだかんだで、二人とも楽しそうだ。


「私も負けられないです」
 灌は、そんな郁乃の様子を見ながらフロアを飛び回る。
 そこに、柚木 桂輔(ゆずき・けいすけ)が入店してきた。
「おかえりなさいませ、ご主人様ぁ〜♪」
「初めまして、可愛いメイドさん」
 桂輔は、テーブルにつくなり灌を口説き始める。
 可愛い女の子との出会いを求めて、桂輔はこのロシアンカフェに訪れたのだった。
「今日終わった後、時間ある? もし良ければ、俺と祭りに行かない?」
「え? えーと……」
 灌は予想外だったのか、目を丸くする。
「ご主人様、困りますにゃん♪」
 ホールを飛び回っていたシャにゃんが、桂輔のナンパに気付いた。
「いやあ、女の子に迫られるのは嬉しいけど、そんな不埒なこと考えてたわけじゃ……」
「簡易更衣室、空いてますよ……」
 ぼそっと呟いて、桂輔の背後をとったのはエレナだ。
「ちょ、ま、別に俺はいやらしいこととか考えてたわけじゃなく――う、うわああああああ!!!

 ――十数分後。ナンパしているであろう桂輔を連れ戻しに来たアルマ・ライラック(あるま・らいらっく)の目に映ったのは、
 メイド服を着せられて店の入り口に立つ桂輔だった。ティーにつけられたうさ耳がふるふると揺れている。
「……何をしているのですか? 桂輔」
「何って、メイドにしか見えないだろ?」
「…………」
「…………」
 二人の間に微妙な間が流れる。アルマはひとつため息をついて、店の中に桂輔を引きずり込んだ。
「着替えてきて下さい。メイド服は持ってくること。私は店の方に謝っていますから、すぐに戻ってきてくださいね」
 そう言って、アルマは桂輔を更衣室へと追い立てた。
「どうも、ウチの桂輔がお騒がせしました。ちゃんと洗濯してお返ししますので――」


 そんなこんなをしている間に、ティーはウサ耳作戦を終えようとしていた。
「これでそろそろネコさんに逆転するはずです! ――あれ?」
 ホール内に見えたは、思い思いの耳をつけて楽しむスタッフたちと歓声を上げる客たち。
 確かに先ほどよりウサ耳は増えたが、いつの間にやらタヌキ耳やキツネ耳、ネズミ耳など、他の種類のケモ耳が増えていた。


 * * *


「――ということなのです!」
「いや、『ということなのです』と言われても」
 鉄心はティーとイコナの話を聞き、頭を抱える。
「猫と兎じゃどっちもどっちだと思うが……まぁ、喧嘩は良くないぞ」
「え? 別に、喧嘩なんてしてないですよ。ね、イコナちゃ…」
 ティーが振り返った先には、涙目のイコナがいた。
「……ごめんね」
「大丈夫ですの」
 二人は無事、仲直りをしたようだった。
「仲直りもしたことだし、二人で演奏をしましょう!」
 そう言うが早いか、ティーは店の隅に置かれたハープの元へ向かった。イコナは控え室からフルートを取ってくると、ティーの側に立った。
 ティーの合図で二人の演奏が始まると、さきほどまで歓声を上げていた客たちも静かに聞き惚れる。
「午後は私たちでパフォーマンスしましょうか。海音☆シャにゃん&あさにゃんの猫耳メイドルユニット『猫娘娘』のミニライブ!」
 シャにゃんはそう言って、あさにゃんにパチンとウインクをしてみせた。