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リアクション
第5章 リア充なんて大嫌い、リア充、地獄へ落ちろ! Story3
「ルイ姉。エリシアさんたちに待ってもらっている場所って…、町の中心部だったわね?」
和輝にエリシアとコンタクトを取ってもらい、教えてもらった場所を思い出しながら探す。
「えぇ、そこに露天があるはずですよ」
「見つけたわ!」
そこには真宵たちの姿もあった。
「お待たせ。そっちは何か情報をつかんだの?」
「いいえ、捜査中に連絡をもらったから、まだですわ」
「私たちはさっきまで、被害者を救護している人のとこで待機してたの。だから、まだ何も調べていないわ」
「この露天辺りで、聞き込みをするんですか?」
「えぇ。聞き込み中に、グラッジが襲ってくるかもしれませんもの。到着するまで待っていましたの」
不可視の者を見ることが出来る、フレデリカたちと合流するまで待機してた。
「まばらだけど買い物客もいるみたいだし…、聞いてみましょう。…ねぇ、そこの人たち。少しだけ話を聞きたいんだけど!」
友達同士で遊んでいる人に聞こうと、大きな声で呼び止める。
「この辺りで普段は優しかったのに、急に乱暴な性格になったり、悲観的な行動ばかりとったりしている人を見かけなかった?」
「いるよ。あのパスタ屋さんがそうだね。いつもは元気なのに、今はなんだか落ち込んでるみたい…」
「そうなる前に、何か変わった行動とかしてなかった?」
「ううん。別に普段通りだったと思うけど。おかしくなる前は、知り合いも皆…いつもの通り過ごしていただけっぽいし」
「(憑依されておかしくなる前の行動に、共通点はないみたい。憑依していない者に対しての、行動を操作する力はないってことね)」
共通行動まであるのは、ごく稀なのか…。
そこまでやる能力があるのなら、呪いのたぐいに分類されるのかもしれない。
「なぁ、この町での風習とかあるのか?」
正体不明の魔性について調べようと、ラルク・アントゥルース(らるく・あんとぅるーす)も住人に質問する。
「風習?そうだなぁ、海に行って…独りで浜辺にいる女の人に発見されるとね。その人によくない災いが起こるって聞いたこがあるかも」
「それって異形な感じだったりしないか?」
「発見された時は、暗い雰囲気の女の人ってくらいで。女の人が“海を楽しむやつらなんて、大嫌い”って言うと、水のように透明になって、消えちゃうんだってさ」
「海で楽しんでるやつらばっかり、狙われるんだな」
風習に登場する魔性もどこかグラッジと同類な匂いがした。
「わたしのおじいちゃんが言うには、そんな感じかなぁ」
「最近ここらでは見ない生き物を見たり、夜と昼で何か変わったことはありましたかな?」
「そーゆう珍しいものは見てないなぁー。時間帯別で特にへんなこもなかったし」
町娘はかぶりを振り、ガイ・アントゥルース(がい・あんとぅるーす)に答える。
「身の回りで、不幸な出来事はあったりはしませんでしたの?」
「ん〜…わたしはこれといってないけどー。ここ数日間、嫌な出来事ばかりだって言う人が多いかも」
エリシアの問いかけにかぶりを振ったが、知り合いにはそれらしいことがあったと話す。
「アタシは家の鍵をなくしちゃったり、何もないところで転んだりとかー。人ン家の2階から、植木鉢が落っこちたりしたよ。彼氏と遊ぶ約束していた日に、寝坊しちゃったりとかさぁ」
「それはいつ頃ですの?」
「確かねぇ、皆と遊びに行って〜。んで、家に帰ったら、鍵をなくしちゃったのよねぇ。どこ探しても見つからないから、鍵屋に頼んで変えちゃったけど。ねぇ、ちょっと聞いてよ!目覚まし5個もセットしておいたのに、全部故障しちゃってたのよ。ちょー最悪じゃない?」
「―…そんなにセットしておいて、妙ですわね…」
「ふむ…。不幸な目に遭った人の性格が、変わってしまったことは?」
「そーゆう人もいるけど、そうじゃない人もいるよ。少なくともアタシは変わってないし、過ぎたことはあまり気にしないからねぇ」
ガイの問いに町娘はポジティブに答える。
呪いをかけられても、元々幸せを手にしている人なら狙われる対象になってしまうようだ。
「エリシアおねーちゃん。もしかしたら、この人…呪いにかかってるんじゃないかな?」
相手に聞こえないように、ノーンは小さな声音でエリシアに言う。
「そうかもしれませんわね」
鍵をなくして他人に拾われでもしたら強盗に入られる危険があるし、転んで打ち所が悪ければ病院行き。
植木鉢なんて頭に直撃したら瀕死状態になりかねない。
目覚ましが5個、全て同時に故障するのも明らかにおかしな現象だ。
立て続けに起きているのだとすれば、この娘はすでに呪いをかけられてしまっているのだろう。
「まるで不幸のフルコースね」
娘の不幸な出来事を聞き、真宵は楽しげに言う。
「真宵、その顔…邪悪です。やっぱり、犯人として通報を…」
「わたくしのどこが、なんですってぇえ?」
「イタタッ!!やめてください真宵。冗談、冗談ですからっ」
頭をぐりぐりされたテスタメントはたまらず悲鳴を上げた。
「でさ、あなた海に行ったんでしょ。その女って、どんな姿をしてたの?」
「アタシが見たのは若い女だったわ」
「ふ〜ん…。そいつになんか言われた?」
「確か…“海に入れるの?いいわね、ムカツク…。あんたなんか不幸の海に沈んでしまえ”って言われたよ。ちょーむかついたから文句言おうと思ったら、走って逃げていっちゃった」
「フレデリカ・レヴィ。呪いを解除してやっては?」
「このままにはしておけないものね、エリシアさん。他の人の目を逸らせてもらえる?見られると説明が大変だから…」
「分かりましたわ。…あなた方は露天でお菓子を買ったりしますの?」
ひそひそ声で話し、呪術を解除しているところを見られないように露天へ誘う。
「買うこともあるね」
「ノーンが美味しいお菓子を買いたいと言ってますの」
「いいよ、案内してあげる」
「買ってくれるの?やったー」
ノーンは嬉しそうに町娘たちについていく。
「アタシも行くー」
「待って。あなたはここにいてちょうだい」
「どうして?」
「それは…あなたによくない気が流れているからよ」
「何、それ」
「―…えっと、それのせいで不幸なことが起きてるの。でも、その気を取り除けば、不幸なことも起こらなくなるわ」
「わかった!キミって霊媒師かなんかでしょ!?」
不思議現象に興味心身な娘は、目をキラキラと輝かせる。
「んん〜……。そういうのとは違うかも…。とにかく、悪い気を取り除かないと不幸が続いてしまうの」
「真夏の“あなたの知らない世界”もので、そいう系ってあるよね。ボクはある意味、知ってるけど。ていうかフリッカ、ごまかすのヘタだね」
「レスリーは黙ってて…。……で、解除するまでの間は、絶対に目を閉じててね」
「えぇ〜見てみたい!こんなチャンス、滅多にないもん」
「閉じてなさいっ。…ルイ姉、レスリー、お願い」
フレデリカは娘の背後に回り、両手で目隠しをする。
彼女の友達が戻ってこないうちに、ルイーザ・レイシュタイン(るいーざ・れいしゅたいん)とスクリプト・ヴィルフリーゼ(すくりぷと・う゛ぃるふりーぜ)はホーリーソウルに祈りを込める。
身体に潜む非物質の影が、娘の首の表面に姿を現す。
それは締め付けようとするかのように、ぐねぐねと徘徊する。
甲高い声を発したかと思うと、聖なる光の中へ消え去っていく。
上手く聞き取れなかったがその声は明らかに、娘を一方的に恨んでいるような叫び声だった。
「え、今の何!?」
「さ…さぁ、何かしらね…。これでもう、不幸なことは起きないはずよ」
「ありがとう!!なんだか凄い人に会えたし、不幸になってみるもんね」
「冗談言わないで…。しばらく、海には近づかないほうがいいわ。お友達にも、そう伝えといてね」
「は〜い♪」
娘は元気よく返事をすると、友達の元へ駆けていった。
「彼氏…か。今頃、どうしてるかしら…」
ルイーサとスクリプトによって、呪いから開放された娘を見送りつつ、フレデリカは月雫石のロケットペンダントに入れた恋人の写真を見つめてニヤける。
「(フリッカったら、あんなに幸せそうにニコニコして大丈夫でしょうか? あれでは狙ってくださいと言っているようなものじゃないですか)」
眩しいほどリア充オーラを放つパートナーの姿に、ルイーザは不安げな顔をする。
「大丈夫だよ、ルイ姉」
「何がですか?」
「ボクたちも立派なリア充だから!」
「え、えぇえっ?」
「こうやって学ぶ日々が充実してるってことは、リアルが充実してるってことなんだよ。恋人がいる人だけ、狙われるってことじゃないと思うんだよね。標的はフリッカだけじゃないから大丈夫!」
いらないフラグをへらへらと笑いながら立てる。
「レスリー、こっちにまで呼び寄せるようなこと言わないでください…っ」
「えー?だってグラッジを見つけるんだったら、的は多いほうがいいじゃん」
「ぁぁ…あはは……そうですね」
お気楽に言い放つ彼女に、もはや笑うしかなかった。
「なんにしても、フッリカはあからさまに危ないですよ。念のため、憑依されないように気をつけてくださいね」
「ぅ…っ、分かってるわよ」
ルイーザに自分の身くらいちゃんと守りなさいと言われ、フレデリカはフレアソウルの炎を纏う。
「ね、ねぇ。あの角からフリッカのこと、ガン見してるよ」
アークソウルの範囲外であったが、エアロソウルの力で得体の知れない人型の者の姿を発見した。
「こっちの隙を狙っているんでしょうね」
人通りが少ないとはいえ、一般人がいる前では目立つ術の行使はなるべく避けたい。
「そこにいるんですのね?」
「えぇ。はっきりとした身体があるっていうよりも、少し透けて見える感じね」
嫉ましい視線を送ってきた者は、黒いの半透明の人型。
淀んだ灰色の目で睨み殺してきそうなほど、ずっとこちらを睨みつけていた。
近づいていくとグラッジは身体をゆらりと揺らして離れていく。
角を曲がるとその先に、同じ姿の者を発見した。
おそらく余計な邪魔が入らないように、人気のないところへ誘っているのだろう。
フレデリカは誘いにのってやり魔性の後を追う。
街灯の明かりが消えかかっている路地までくると、グラッジはぴたりと止まった。
「あなた…私たちの言葉を、少しは理解出来るのよね。だったら私と少し、話さない?」
「ナイ、ナニ…モ。ハナシ…ナイッ」
「お願いだから聞いて!」
「ォマェ、コイビトイル。ジー ウンアンゲネーム ダムドーッ!(お前なんか嫌い、地獄へ落ちろッ!)」
怨念のような闇、エンドレス・ナイトメアによる暗闇がフレデリカたちへ迫る。
大地の魔力を秘めた宝石がペンダントから強い光を発し、アンバー色の光の壁となって術を緩和する。
「―…ぅっ!」
「ビバーチェ、わたくしたちを守りなさい」
エリシアの声に赤いドレスを纏った女が頷く。
赤々とした鮮やかな花びらを舞い散らせ、グラッジが放つ闇を阻む。
「フリッカ、グラッジが街灯に憑依しちゃったよ。うわっ、こっちに来る!」
魔性はスクリプトたちの身の丈以上ある物質体を、器として得てしまった。
「聞く耳持たない感じだな」
「大人しくさせるしかありませんな」
ガイは異型化した街灯を目掛け、裁きの章による酸の雨を浴びせる。
教師の話ではすばしっこく動くという情報はなかったため、その通りたいした素早さもなく的が大きい分狙いやすい。
「清らかな魔道具よ…我が精神と共にその力を具現し悪しき魔性を払う力となれ!」
ラルクは虫の足のように変形した部分へ、光の波を伸ばし螺旋状に巻きつかせ、染み込むように浸透させていく。
「ァアァ…ァアアッ。―…〜〜っ。ォマェノ…タマシイ、ケガシテ…ヤルッ」
物質体から離れたグラッジはフレデリカを嫉むのを止めず、彼女の身体を奪ってやろうと迫った。
「入れるものなら入ってみなさい!」
ゴゥウウッ。
赤々と燃え盛る炎に阻まれ、グラッジは小さく“ギャッ!”と声を発して退く。
「そろそろ、話を聞いてもえるかしら?」
「イ…ヤダ」
「ごねられる状況じゃねぇぜ」
フレデリカに注意が向いている隙に、灰色の重力場でグラッジと捕らえる。
抵抗する体力を失った魔性はようやく停止して項垂れる。
「 人の幸福を妬む暇があったら少しでも自分が幸せになれるように努力すべきだと思うの。…そんな考え方してると何時までも幸せになれないわよ?」
「ニクイ…、ォマェタチ、ニクイ…」
魔性は反省の色を見せず、ぶつぶつと文句を言う。
「諦めなければきっといい結果になるし、たとえいい結果にならなくてもきっと納得できるんじゃないかしら?それが幸せの近道だと私は思うの」
しかしフリッカはそれを叱ることなく、他人の幸せを壊すことをやめさせようと言葉を続けた。
「シアワセ…チカ…ミチ?…ワカラナイ…ワカラナイ……」
「近道なんて、誰にも分からないの。でも、それを見つけるのは自分自身よ?」
「―…ドウヤ…ッテ?ワカラナイ……」
グラッジは力なく呟きながら飛び去ってしまった。
「あらら〜。フリッカ、どうする?追いかけたほうがいいかな」
「ううん、その必要はないわレスリー」
幸せを見つけられるのは自分だけ。
それを自分たちが探してやることは出来ない。
「テスタメント、他にもいるみたいよ」
「祓うのですね、任せてください!」
「まー、たくさんいるっぽいけど。あららぁ、あっちに一般人のカップルがいるわ」
幸せそうな恋人たちの姿を発見した真宵が、わざとらしく声を上げた。
「向こうにいちゃったわ。これは大変なことになるかもしれないわねぇ」
「ずいぶんと邪悪なオーラが漂っていますね」
テスタメントはぼそりと呟き、幸せの歌を歌う。
「歌で精神を落ち着かせるのです、真宵」
―…と言いつつ…本当は真宵の心のハッピーにして、リア充度と高めて悪霊が寄ってきやすくするためだった。
「なんだか心がぽかぽかしてきたわ…」
グラッジたちがいっせいに、真宵のほうへ振り返る。
「ぇ、ぇえ?なぜか真宵さんのほうに寄ってきていますよ?」
「あのカップルよりもリア充に見えたんじゃないかな」
「皆さん、アイデア術で祓いましょう!」
「ビバーチェ、いったん戻りなさい」
「ルルディちゃん、花嵐を使いたいからもう1度呼び出すね」
エリシアとノーンはクローリスを帰還させた。
テスタメントたちの詠唱に合わせ、再び召喚する。
「真宵さんのすぐ傍まで迫っています」
「ルイーザ・レイシュタインが示すポイントへ!」
「お願い、ルルディちゃん」
ビバーチェとルルディの白い花びらが空へ舞う。
2人は白い雲のように舞う花びらたちを操作し、ルイーザの視界の先へ白き雨を降らせる。
『ゥグゥ〜…グリュックリッヒ ダムドッ!!』
グラッジたちは悔し紛れに叫び、壁を通り抜けて逃げてしまった。
「こんなこともあろうかと、空と飛ぶ魔法が使えるんだよね」
スクリプトは仲間たちに浮力を与え、逃げていく魔性を追う。
「こらぁ〜、待て待てぇえ」
「フッリカ、人が見てますね…」
さきほどの露天が並ぶ広場で、何事かと住人や観光客がこちらを見上げている。
「もう、人目を気にしている場合じゃないわね」
「グラッジはどの方向にいますの?」
「店の人を狙っているわ」
「了解ですわ。…2人とも、花嵐の雨を!」
エリシアは2人その位置を知らせ、花びらたちを先回りさせる。
白き雨を浴びたグラッジたちはよろけ、憑依する力を失い地面に倒れていく。
フレデリカは最初に遭遇した悪霊に聞かせたことを、彼らにも話して説得を試みる。
彼らもソレをどう見つけていいか分からなかったが、幸せを壊すのをやめる様子を見せ、去っていった。
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