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ガラクタ屋敷攻略大作戦!

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ガラクタ屋敷攻略大作戦!

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「よぅし、降ろすよー」
 清泉 北都(いずみ・ほくと)ルドュテのマニピュレーターをゆっくりと、そして精密に操る。
 彼のイコンが手にしているのは大型の機材である。しかも下手に扱えば、爆発もなくはないシロモノである。
 慎重にガラクタをトラックの荷台に積む。
 あとは地上にいる人員が固定して、受け入れ業者へ送るだけであった。
「ふぅ……なんとかうまくいったねぇ」
「お見事です、北都様」
 サブの操縦席に座るクナイ・アヤシ(くない・あやし)は小さく拍手を送る。
 北都は「ありがとう」と返答すると、軽く体を伸ばした。
「早く終らせてお茶飲みたいねぇ。今日はタシガンの美味しい珈琲を持ってきてるんだよ」
「それは楽しみでございますね」
 クナイはふふ、と笑う。
 そして通信機のランプが点滅していることに気づくと、彼はスイッチを入れた。
「はい、こちらルドュテ。クナイ・アヤシでございます」
『あー、クナイか?広明だ』
 通信をしてきたのは長曽禰広明のようである。同時に外のカメラを動かし、彼の姿をとらえた。
『このコンテナも一杯になってきたから業者へ持って行って……っと!』
「……?どうしましたか?」
『いや、なんでもない……』
 そう言う広明の様子はどこかおかしかった。
 頻繁に右足で地面を擦ったり、靴裏を覗いている。
 と、
『まいったな、張り付いて取れやしねえ……おーいゴ……』
「わかりました!任せてくださいませ、中佐!」
 クナイは急いで通信を切った。
「長曽禰中佐はなんだって、クナイ?」
「ゴミでコンテナが一杯になったので、持って行ってくださいということです。行きましょう、北都様」
「?」
 急かすように告げるクナイを不思議に思いながらも、北都はコンテナを持ち上げた。
(危なかったですね……中佐も、もう少し考えて行動していただきたいものです)
 清泉北都は虫が苦手だ。
 彼自身それがわかっているからこそ遭遇する危険性の高い片付けより、イコンによる運搬作業を選んだのである。
 だからこそ、パートナーとしてGの存在を彼に知らしめるわけにはいかない。
(あれは逃げずに向ってきますからね……黒い悪魔の異名は伊達ではありません)
 こうして北都はパートナーの機転によって、Gの名前にすら遭遇することも無く無事、運搬作業を行うことができたのであった。

「それをすてるなんて、とんでもないです!」
 そう言って水無月 睡蓮(みなづき・すいれん)は自らのイコンスズカの荷台に積まれた不用品からガラクタを抜き取る。
 そして睡蓮の新堂の手を握り、その瞳を輝かせた。
「一見ガラクタに思えるものを組み合わせて何かを作るのが楽しいんですよね……そうですよね、新堂さん!」
 新堂も新堂で同じ考えを持つ「同士」として「ええ、そうですとも!」と固い握手を交わすのであった。
「この部品だってここをいじればまだ使えそうですのに、廃棄だなんてもったいないですよ」
 睡蓮の言葉に、新堂は頭を掻きながら、
「俺もそう思ってはいるんです。これだってほら、ここを修理して配線をいじくれば機晶ロボットの材料として使うことは可能なんですよ」
 そこまで答えると彼は「ただ……」と暗く俯いてしまう。
「……それを言い出すと他のガラクタについてもキリが無いというかなんというか……長曽禰中佐からも『こんなの他で代用できるんだから捨てろ』と言われてしまいまして」
「それは残念ですね……一見ダメな風に見えても、やろうと思えば色んな表情を見せてくれて、ちゃんとそれぞれに価値があって……そう思うとどうしても捨てられなくなっちゃうんですよね、わかります」
「わかってくれるだけでもありがたいです。あと、これとか……」
 と新堂が興に乗ってあれこれ引きだそうとしたところで、
「ねえ、サナグ?」
「はっ!」
 佐那具の背後に、依那子が近寄った。
 その顔は眩いばかりの笑顔が張り付いている。
 もう、眩しすぎて直視できないくらいに。
「お楽しみのところ悪いんだけど、ちょっと来てくれるかなー?」
「ちょ、待ってイナコ!襟首つかまれると痛いって……ちょ、アーッ!」
 こうして佐那具は室内に連れ込まれていったのであった。
「あらら……ヤキモチ焼かせちゃったかな?」
 睡蓮は気を取り直し、お持ち帰りするガラクタを選んでいった。
 その横で、
「……」
 黙々と不用品をスズカに乗せる鉄 九頭切丸(くろがね・くずきりまる)
 九頭切丸は『自動車殴り』をするように思い機材を持ち上げると、そのまま不用品置き場に運んでいった。
 と、
「あ、ちょっと待ってください九頭切丸」
 睡蓮は唐突に九頭切丸を呼び止めた。
 彼女の言葉に、九頭切丸は機材を降ろす。
「これはまだ使えそうですね……お持ち帰りするので、そこのスペースに置いておいてください」
「……」
 九頭切丸はその言葉に従って、トラックの一部スペースに機材を固定する。
「簡単に廃棄するんじゃなくて、ちゃんと再利用しないといけませんよね」
 そこには睡蓮が持ち帰るために寄せておいたガラクタが溜まっていた。
 
 彼女のように「もったいない精神」を発揮する者は他にもいる。斎賀 昌毅(さいが・まさき)達もその一人である。
 というより、彼らの場合……。
「んじゃ、これとこれとこれと……」
 昌毅は彼らの目から見て使えそうなものや売れそうなものを片っ端から選別していった。
 それを彼らのイコンヤリーロの背部に取り付けたコンテナや創世運輸トラックの荷台に載せていく。
「これで手間賃程度の収入にはなるかね。あとは……」
 そう言って彼は再び不用品となったガラクタの元へ向かった。
 そこには、
「う〜ん、この錆びたねじも鉄粉にすれば爆弾の材料に使えない事も……これとこれは溶かして鋳潰して……」
 売れそうなものをひたすら探して悩み続ける阿頼耶 那由他(あらや・なゆた)と、
「ふふふ〜ん、これとこれをまとめて完成なの!見て見て那由他ちゃん、昌毅さんがいつも遊んでる奴なの!」
 ガラクタを組み合わせて作った、小学生の自由工作のように歪んだ形のイコプラ(のようなもの?)を自慢げに掲げるキスクール・ドット・エクゼ(きすくーる・どっとえくぜ)の姿があった。
「おいお前ら、片付けはどうなってるんだ?」
「片付けなんてやってられないのだよ」
 那由他はスッパリと切り捨てるような口調で答えた。
「ガラクタばかりとは聞いていたけど、ここまで酷いとは思わなかったのだよ。『トレジャーセンス』にもビビッとこないし、正直がっかりなのだよ」
 那由他は両手を肩の辺りまであげ、「やれやれ」とでも言いたげに首を左右に振った。
「でも那由他は決してただでは起きないのだよ。ニルヴァーナは開発ラッシュだから材料は常に求めているはずだし、鉄とかならある程度まとまった量を鉄道王のでこちゃんに売ればあるいは……」
「まあ、何と言うか……がんばれ」
 昌毅は那由他を放置することにし、キスクールの隣に座った。
「で、キスクールはなにやってんだ?」
「ふふふ……自分の才能が恐ろしいの」
 そう自慢げに話すと、彼女は鼻息荒く地面に並べた複数のイコプラ(もどき?)を昌毅に見せ付けた。
「昌毅さんの真似をして、私もいろいろ作ってみたの!」
「……へぇ」
 昌毅は半ば呆れたような表情でそれを見つめる。
 あまり傷つけるようなことは言わないでおこう、と考えた彼はとりあえず「よくやったな」と褒めるのであった。
「えへへ、私ながらいい出来なの。持って帰っちゃおうと」
 そうしてキスクールはぽいぽい、とイコプラ(?)の群れをヤリーロのコンテナに放り込んでいく。
 しかし、
「あれ、私の本体がないの!」
「はあ!?」
 キスクールの叫びに、昌毅は非常に驚いた声をあげた。
 彼女の種族は魔導書である。
 つまり彼女の人型の姿は化身たる仮の姿であり、その本体はピンク色をしたフロッピーなのだ。
 それが、ない。
 ということは……。
「まさかガラクタに紛れたんじゃないだろうな?」
「あ、あれが捨てられると私の命の危機なの!」
「作業監督してるおやっさんなら、なんか知ってるかもしれないな……」
「仕方ないの。そのおやっさんっていう人にお願いして、トラックの中身しらべさせてもろうの」
 そう言うとキスクールは慌しく家の中へ入っていったのだった。
「しょうがねぇ奴だな……さて、俺もイコプラの改造に使えそうなもの探すか。この配線はまだ使えそうだな……」
 昌毅はさっきまでキスクールが作業していた場所に落ち着くと、使えそうなものを探していった。
「これは錆びてるから使えない、と。こっちのなんかの欠片……イコプラの装甲の飾りに使えるかな?う〜ん、このプラ版割れてるけどその箇所を上手く避ければまだまだ使えるな」
 そうしてしばらくガラクタを漁っていると、
「なんだなんだ。まったく、みんな遊んでばっかりでさっきから全然運んでいないではないか」
 室内からのっそりと出てきたカスケード・チェルノボグ(かすけーど・ちぇるのぼぐ)はガラクタに向き合う那由他と昌毅に向かって大仰に声を張りあげた。
「確かにこの中じゃわしが一番力があるから積極的に運ぶとは言ったがのう……」
「違うのだよカスケード君。那由他は輸送コストを黒字にするために頑張っているのだよ」
 那由他は名探偵が助手に呼びかけるように答える。
 昌毅も昌毅で「以下、同文」とそっけなく返事をするのであった。
「なんだそうか……しかし、まだまだ使えるものあるのに物を簡単に捨てる奴の気がしれんのう。ものはリユース、リデュース、リサイクルじゃ」
 そう言ってカスケードは担いでいた“荷物”を降ろし、見せ付けるようにパンパンと叩いてみせた。
「ほれ、このタンスとかこんなに綺麗でまだまだ使えそうではないか。これもゴミとして捨てるとは……そういえば冷蔵庫もあったのう。あれはさすがに重そうじゃ……あれもこれも、どこも壊れてなどいないように見えるんじゃが、全部捨てる気なのかのう」
 そんな風に疑問に首をかしげていると、家の中から「カスケードさーん」という声があがった。
 広小路依那子である。
「す、すいませんカスケードさん!あの、居間のタンス知りませ……」
 駆けつけた依那子はそこまで言うと、青い顔をして彼の横に置かれたタンスに抱きついた。
「こ、これは捨てるものじゃありません!」
「む、違うのか?一旦家の中全部綺麗にすると言っておったし、家にあるものは全部ゴミって事でいいんじゃよな?」
「違います!元の場所に戻してください!」
「なんだ、そうなのか。ハッハッハ!」
 豪快に笑うと、カスケードはタンスを抱えて家の中へ戻っていくのだった。
 それとすれ違いにキスクールが「あったー!あったよ昌毅さん!」と大喜びで出てくる。
 その手にはピンクのフロッピーが握られていた。