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【ぷりかる】祖国の危機

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【ぷりかる】祖国の危機

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第四章

「こんにちは〜。ボクは吟遊詩人なのです〜。怖そうなお城ですので、なにか伝わっていることとかあったら教えてほしいです〜」
 幽霊城の正面でヴァーナーは見張りの兵に声をかけた。
「また何か来たぞ」
「この忙しいときに……」
 兵士二人が頭を抱える。
「ボクのほかにも吟遊詩人が来たですか? しょうばいがたきですね〜」
「いや、違う」
「そうなんですか〜?」
「ああ、急に来て協力するとかなんとか……」
「おい」
「あ、ああ……」
 ヴァーナーの雰囲気に飲まれ思わず口を滑らせた兵士が気まずそうな顔になる。
「とにかく、面白い話なんてないからさっさと帰ってくれ」
「残念です〜。でも、しょうばいがたきにもお話しないでくださいです〜」
「しないから安心しろ!!」
 怪しまれないことを優先し、ヴァーナーはすぐに引き下がると、幽霊城偵察組の仲間たちに兵士たちとの会話を伝えた。
「僕たちの他にも、動いている人がいるみたいだねぇ。でも、兵と接触を図ったっていうことは、別の目的なのかな?」
「協力する、ってのが気にはなるな」
 話を聞いた清泉 北都(いずみ・ほくと)ソーマ・アルジェント(そーま・あるじぇんと)は顔を見合わせて首を傾げる。
 二人は飛行翼で幽霊城周辺まで移動していた。
「すぐにでも様子を探りたいけど、オリカさんを幽閉している以上、敵は当然ソフィアさんが乗り込んでくる事も想定しているだろうからね。警備も厳重になっているだろうから、近付きすぎるのは危険だね」
「とにかく、暗くなるのを待つしかないだろうな」
 森に囲まれ、元々太陽の光の届きにくい幽霊城は、夕方過ぎには闇に落ちた。
 北都は機晶ゴーグルにHCを接続してモニターすると、まずは遠くから全体像を撮影し、図面化すると、仲間の情報を逐次入力していく。
 ソーマはダークビジョンを使い、暗闇をものともせず行動を開始した。
「敵がどこにいるか分からないし、俺は『ディテクトエビル』で警戒するから、北都は無機物の警戒よろしく。機械には殺気がないからな」
「分かった」
 周辺の地形を打ちこみながら、北都が頷く。
「敵が美形なら、惑わして情報引き出してやるんだけどな」
「出来れば選好みせずに情報収集して貰いたいんだけど……まあ仕方ないか。まだちゃんと仕事しようとしてるだけマシだよね。敵の数が少なければ、一人二人減るだけでも気づかれるかもしれないから、とにかく見つからないようにしないと」
「まどろっこしいが……仕方ないな」
 二人は幽霊城周辺の夜の警備兵たちの情報を一通り収集すると、仲間たちに伝えた。

「フハハハ!我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクター・ハデス! クーデターは、まさに悪の王道! ククク、おそらく反抗勢力が、この城塞を取り戻すために動くことだろう。今こそ、我らオリュンポスが、この城塞の防衛を手伝ってやろう!」
「うるさいぞ、新入り!」
「ほぅほぅ、このドクター・ハデスに意見するとは、さすがクーデターを起こすだけのことはあるな!」
 兵士に怒鳴られながらも、どこ吹く風で、ドクター・ハデス(どくたー・はです)は勝手に協力を申し出た反抗勢力のもとで、勝手に幽霊城の防衛に参加していた。
「まずは、この城塞の防備を固めねばな! さあ、ゆくのだ!」
「了解シマシタ、侵入者掃除機能ヲ起動シマス」
「りょうかーい、警備なら、この自宅警備員のデメテールちゃんにお任せなのだっ! ちゃんと、ご褒美のお菓子を忘れないでよねっ」
 ハデスの命令にハデスの 発明品(はですの・はつめいひん)デメテール・テスモポリス(でめてーる・てすもぽりす)が応えると、戦闘員たちとともに見回りを開始した。
 デメテールは、部下の下忍と共に幽霊城の警備に付くと、殺気看破や壁抜けの術などを駆使して、神出鬼没な警備を行う。
 それを見た兵士たちは感心しつつも、より一層デメテールやハデスへの警戒を強めた。
「おいおいおいおいおい」
「独り言にしては声が大きいですね。学者先生?」
 自然学者のフリをして幽霊城の敷地内を調査していたエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)は、城の警備兵を見て思わず声を上げた。
 周辺で隠密活動を行っていた紫月 唯斗(しづき・ゆいと)が、その声に姿を現す。
「いや、警備兵の中に、どう考えても知ってるヤツがいるんだが」
「……そんな馬鹿な」
「と、思うだろ? 見てみろって、あそこで一人で笑ってるヤツ!」
 まさか、という表情をする唯斗に、エヴァルトが示した。
「……あれ?」
「な、どう考えても蒼空の……」
「そう、ですね……」
 唖然とした顔でドクター・ハデスを見る二人の耳に、兵士たちの疲れ切った会話が飛び込んできた。
「まったく、何なんだあいつは……」
「この大事な時に……テミストクレス様も、なぜすぐに処分なさらないんだろうな」
「戦力は一人でも多く欲しいんだろうな。まともにぶつかって勝てる相手じゃないんだ」
「……そうだな。まあ、信用はしていないから、あんな目立つ場所の警備に置いてらっしゃるんだろうしな」
 エヴァルトと唯斗は息を殺したまま思わず顔を見合わせる。
 兵士たちの足音が完全に遠ざかると、伏せていた身体をゆっくりと起こした。
「ほぅ。思ったより口の軽い連中のようですね。こんなに早く首謀者が分かるとは。ヴァイシャリーに伝えてきます」
「ああ、俺はもう少しこの辺りの地理を調べてみるぜ」
 唯斗が音もなく姿を消すと、エヴァルトは再び周辺の地理を調べ始めた。
 ひととおり侵入・退却に使える獣道、手軽に罠を仕掛けられそうな場所などを調べると、わざと目立つようにガサガサ音を立てて歩きはじめた。
「ここで何をしている!?」
「あ、ああ、すみません。珍しい植物があったもので……」
「植物だと?」
「はい。これはシャンバラではほぼ見られないものでして。あなたはもしや、この付近で生活されている方ですか? この草は、この地方では一般的なものなのでしょうか? それともこの一帯独特のものなのですか?」 
「ああ? 今それどころじゃないんだ、この敷地から一刻も早く出ろ。まったく、どうやって入ったんだ……」
「あのー……」
「なんだ?」
「すみません、草を探して下ばかり見て歩いていたもので……敷地から出ようにも、ここはどこなのでしょうか……?」
「はぁ。まったく……ついてこい!」
「はい、ありがとうございます」
 そう答えながら、エヴァルトはさりげなくレキに連絡を取った。
 エヴァルトのおどおどとした仕草に、あきれ果てた兵士は苛立った風にエヴァルトを敷地の外まで連れ出すと、ずかずかと中へ戻っていった。
「なるほど、これが警備兵たちが通常使う経路ってわけか」
 そう呟きながら空を見上げたエヴァルトの目には、小型飛行艇が遠ざかっていくのがわずかに見えた。
 
「首謀者はテミストクレス。クーデター犯たちから見ても、アントニヌス帝というのは直接対決で勝てる相手ではないようですね。あとは、なぜかドクター・ハデスが混ざっています」
「うん、最後の情報は伝えるべきかどうか迷うよね」
 唯斗から情報を聞きながら、レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)は頭を抱えた。
「エヴァルトのほうはどうでした?」
「あ、さっき無事幽霊城の外に連れ出されたよ。ルートは上から観察してばっちり記録したからね」
 エヴァルトから連絡を受けたレキは、光学迷彩で姿を隠しながら夜の闇に紛れ、小型飛行艇で幽霊城敷地内に侵入し、エヴァルトが兵士に案内された道筋を上空から記録していたのだった。
「他はどうです?」
「周辺調査組とも話したけど、街の人たちはクーデターのことまったく知らないみたい」
「世に知らしめなければクーデターの意味がないでしょうに……まだ何か企んでいるか、まだ完全にアントニヌス帝を抑え込めていないか、ですね」
「そこらへんの感触も含めていったんリーブラたちに伝えるよ。作戦会議組に検討してもらおう。ソフィアさんに伝えちゃうと即行動しちゃう可能性があるからね」
「ああ、そういえば。どうやら少し前にアントニヌス帝は一度ペルムを離れていたらしい」
「どういうこと?」
「アスコルド大帝が崩御し、選帝神の何人かが帝都に出向いていたらしい。その中にアントニヌス帝もいたそうだ」
「なるほどね。それも伝えとくよ」
 レキの言葉に唯斗は頷くと再び夜の闇に消える。
 レキはヴァイシャリーで待機しているチムチム・リー(ちむちむ・りー)にすぐさま連絡を取った。 
「わかったアル。ちょうどみのりちゃんたちから、もうすぐソフィアちゃんたちがヴァイシャリーに到着しそうと連絡があったところアル。ソフィアちゃんが戻る前に伝えておくアル」
 チムチムはレキからの情報を記録しつつ、ヴァイシャリーの状況をレキに伝えた。
 そのまま、ヴァイシャリーに残った菊花 みのり(きくばな・みのり)たちの元へ向かうと、レキからの情報を伝達する。
「たぶん、全部をそのまま伝えると、ソフィアちゃんが混乱しちゃうアル。先にみんなでまとめてから伝えてほしいアル」
「えっと……」
「たしかにそうね。一度情報を整理しましょう」
 みのりの隣でアルマー・ジェフェリア(あるまー・じぇふぇりあ)が頷いた。
「今戻った。飛び出して悪かったな」
 そこに、ソフィアの声がかかる。
「あ、ソフィアちゃん、おかえりアル〜」
 ペルムまで同行していたメンバーも揃うと、現時点で集まった情報を基に会議を再開する。
「首謀者はテミストクレスという名のようだわ」
「あの男か……!」
 アルマーの言葉に、ソフィアが声を上げた。
「重要なことを思い出したら教えてほしいアル。すぐにレキたちに伝えるアル」
「ああ、助かる」
「どんな人なの?」
「それなりに実力のある龍騎士だ。口がうまかったな……慕われているわけではないのに、周りを囲む者は多かったように思う」
「えっと……それって、ちょっと……不思議、ですね……」
 思い出しつつ語るソフィアに、みのりが珍しく言葉を挟む。
「ああ。人を惹きつける何かがあるわけでもなさそうだったしな」
「計算高いのかしら」
 アルマーが分析する。
 リーブラは、ペルムから伝えられる情報や、ソフィアの言葉を静かにメモしながら、内容ごとにまとめていった。
 あまり関係ないと思われる情報も、漏らさないように記録していく。
「それから、少し前にアントニヌス帝が少しペルム地方を離れていたことがあったみたいよ」
「父上が? ……アスコルド大帝か!」
「そう。すぐ戻られたみたいだけれど」
「その隙に母上を連れ出したということか。しかし、父上がいなければ、母上は常以上に警戒をするはず……」
「想定外の何かがあった可能性が高いわね」
 アルマーの言葉にソフィアは頷いた。
「念のため、みんなに伝えるアル」
「そういえば……子供の頃幽霊城に忍び込んだことがあるんだ。かなり複雑な造りになっていて、からくりが多かったように思う。とにかく深追いはせず、細心の注意を払ってほしいと伝えてもらえるか?」
「分かったアル」
 チムチムはすぐに状況とソフィアからの伝言をレキに伝える。
 レキは文字通り飛び回り、それをペルム地方で行動する仲間たちに伝えた。