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1章 空を飛ぶ者、陸を走る者

 鐘の音と共に空へと舞い上がった参加者達は、ヒラニプラを目指して各自乗り物を飛ばす。
「冬の空にハンデとは言え、ペットとほうきってきつい物がある気がするのだけど」
「え? セレアナ、何か言った?」
 パートナーのセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)がぼそりと言った言葉は、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)の耳には届かなかった。
普通の空飛ぶほうきにまたがり並走しているので声の断片は届く気がするのだが、冬の冷たい風という壁は声さえも奪うのかと思うとセレアナはため息をついただけであった。
なんでもない。と言いたそうに軽く首を振ると、前を向いた。
 セレアナとセレンペアの後方では、サンタ服に身を包み、パートナーの芦原 揺花(あはら・ゆりあ)芦原 郁乃(あはら・いくの)がソリに乗り、ペットのトナカイを手綱で操作しながら空を飛んでいる。
 そんな二つの組の背中を見ながら、ゲブー・オブイン(げぶー・おぶいん)はサンタのほうきにまたがり空を飛んでいた。
(……くそっあいつらめ、空の上だからっていちゃいちゃしやがって!)
 セレンも郁乃も別にパートナーといちゃいちゃするために参加したわけではないと思うのだが、傍から見るとそう見えてしまっている事には気が付いていないようだ。
 ゲブーとしても、二人にわざわざ注意しに行く気はないのだがこうもいちゃいちゃされてると逆にゲブー自身がイライラとしてしまう。
「あら、あんたまだこんな所なの?」
 ふいに後ろから来たエリスがゲブーに声を掛けた。
「うるせぇ。俺様はレースに集中してるんだよ。気が散る事言ったらお前の胸揉んでやるぜぇ」
 ゲブーはそう言い切ると、エリスの胸を揉みたそうに両手をわきわきと動かした。
「奇遇ね。あたしもよ。ってセクハラはやめてほしいわね」
半眼でエリスがゲブーを睨むと、ゲブーのほうきが一瞬下へと下がる。
「おわっ」っと言いながらゲブーは慌てて両手でほうきを掴むと、軽くため息をついた。
「あんたもそんななりで慌てる事があるんだ。へぇー知らなかった」
 ゲブーの意外な一面が見れた。と笑いながらエリスは自分が乗っているシュワルベの速度を上げて、先頭集団の方へと移動し始める。
「俺様だって負けてられねぇんだよ」
 そう言うと、ゲブーもエリスに追いつこうとほうきの速度を上げたのだった。