校長室
年忘れ恋活祭2022 ~絆~
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リンネの案内が終わったのは、雪に包まれた夜景広がる展望台だった。 「おお〜、凄いですね」 「でしょう」 博季の驚き顔を見て満足そうににんまりするリンネ。 「……リンネさんと一緒にこんな素敵な光景が見られるなんて幸せです」 感動に充ち満ちている博季。今日がこの世で最高の日と言わんばかりの感じ。 「ふふ」 リンネは感動に呆けている博季の頬を力一杯つねった。 「ちょ、痛いですよ」 あまりの痛さに声を上げ、繋がっていない方の手でさすった。 「幸せだから本当かなって思って定番の方法で確かめようかと思って」 リンネは悪戯っ子のように笑いながら言った。 「自分ので確認して下さいよ。うう〜」 まだじんじんして痛い頬を何度も何度も撫でる。 「あはは、ごめんごめん」 笑ってリンネは悪戯のお詫びとばかりに博季の唇にキスをする。 「……」 まさかキスが来るとは思わなかった博季はさする手を止めて驚いたが、すぐに痛い顔になってしまった。リンネがつねっていない方の頬をつねったから。 「ちょっと、二回もしないで下さいよ!! 元に戻らなくなったらどうするんですかー」 「念のためだよ。それに何にも心配無いよ、どんな顔の博季ちゃんでも愛せるから〜」 ニヒヒと笑いながら逃げ始めるリンネ。 「ちょ、リンネさん! 待ってー」 博季は慌ててリンネを追いかけた。 なぜだか追いかけっこをしながら博季とリンネは近くの茂みに入ってしまう。 夜で暗いためか博季は何かにつまずき、バランスを崩して転んでしまった。 「うわっ!?」 「ひゃぁ!?」 先に声を上げて転んだ博季の上にリンネが覆い被さる形で転んだ。 「ん〜、リンネさん、怪我はありませんか?」 「博季ちゃん、鐘の音だよ」 博季の言葉が耳に入っていないリンネは博季の上に乗ったまま聞こえて来た鐘の音に注意を向けていた。 「本当だ」 博季はそのままの状態で数多の星が輝く頭上を見上げた。 「……綺麗な星空に鐘の音とても贅沢ですね。リンネさん、本当に有り難う。今日はとっても幸せですよ。少し痛かったですけど」 博季は改めてリンネに礼を言った。まだ両頬に痛みを感じながら。 「あはは」 リンネは笑いながら博季の隣に寝転がった。 「リンネさん、寒くないですか」 そう言いながらリンネを自分の方に引き寄せたかと思うと博季は両頬の仇とばかりにリンネの唇を奪い、しばらくの間そのままだった。 「……さっきのお返しです」 唇を離した博季はしてやったりと悪戯っ子の笑みを浮かべた。 「ん〜、ずるいよ。もぅ」 リンネは顔を赤くし、顔を逸らした。 「愛してますよ、リンネさん」 博季は顔を逸らしたリンネに愛を囁いた。 「大好きだよ、博季ちゃん」 リンネは博季の方に顔を戻した。 二人はまたキスを交わした。 展望台。 「ここまで鐘の音が聞こえるんだな」 「うん。雪でもっと綺麗になった夜景を見ながら鐘の音を聞くって大人な気分だねっ」 雪降る夜景を楽しみながら鐘の音を聞く翔と理知。 「……ん、翔くん、何か奥の茂みに行く人が沢山いるね。何かあるのかな?」 ふと理知はいそいそと茂みの奥に行くカップルが気になり思わず翔に聞く。 「……理知」 理由に察しがついている翔は思わず顔を赤くするが、答えない。その代わりごそごそとズボンのポケットを探る。 「翔くん?」 理知は首を傾げながら翔の様子を見守っている。 ようやく、目的の物を手にしたのか翔はポケットから包みを取り出し、 「今日、誘ってくれたお礼だ」 理知に差し出した。負けず嫌いな翔は自分も何かして理知を楽しませたかったために散策中に内緒で買った物。ただものぐさなのであれこれ考えるのがしんどくプレゼントは単純な物なのだが。 「わぁ、いつの間に買ったの? 嬉しいよ。開けてもいい?」 予想外の贈り物に理知はすっかり茂みの事を忘れた。 「……あぁ」 翔の言葉を聞くなり理知は包みを開けた。中には淡いピンク色のリボンが入っていた。 「リボンだ。ありがとう! 似合うかな?」 理知は早速付け、可愛らしい笑顔を翔に向けた。 「あぁ、とっても」 翔はあまりにも可愛い理知に視線を逸らした。幸せ過ぎて堪らない。 しかし、いつまでもそうはしておらず、 「……愛してるよ、理知」 「私も」 逸らしていた視線を理知に向け、理知も翔の視線を受け止め、ゆっくりと幸せに満ちたキスを交わした。 展望台。 「とても綺麗」 「そうですね」 雪の中、フレデリカとフィリップは静かに展望台から広がる夜景を眺める。 しばらくして、時計塔の鐘が鳴り始めた。 「……ずっとフィル君の事を追いかけてた時、もうこれ以上ないぐらいにフィル君の事が大好きだと思ってた。でも、実際にこうやってフィル君と恋人になって一緒に時間を過ごしていると言葉に出来ないほど好きになって」 鐘が鳴り響く中、フレデリカは隣のフィリップを愛おしそうに見つめ、想いを綴った。 「……フリッカさん、僕も愛してます」 フィリップは緊張しつつも今の想いを言葉にしたかと思ったらそっとフレデリカの唇にキスをした。まだウブなカップルらしく少々ぎこちないが、気持ちはたっぷりこもっている。 「……!!」 いきなりのキスにフレデリカは嬉しさで顔を赤くし、言葉が出ない。 「……体、冷えてしまいますから、どこか暖かい所に行きましょう」 フレデリカを真っ赤にさせた本人も顔を赤くするもエスコートしなければとフレデリカの手を引いて喫茶店に食事をしに行った。 「……行こうか」 「……うん」 成田 樹彦(なりた・たつひこ)は仁科 姫月(にしな・ひめき)の手を握って雪の中ある場所へと案内し始めた。賑やかな祭りの中、二人の表情は硬かった。姫月は樹彦から顔を逸らし、樹彦も進むべき道を見ているばかり。この状況は、先日から続いている事。原因は暴走した姫月が樹彦にキスをし、更に外的要因で暴走した欲望に支配された樹彦が公衆でお返しに情熱的なキスをした出来事だ。ちなみに二人は恋人であり兄妹だったりする。 「…………(せっかく誘ってくれたのに何を言っていいか分からないよ)」 樹彦に誘われて嬉しいのに先日の事を思い出して恥ずかしさで顔が火照って言葉が出ない。 時計塔の前を通ると 「展望台から見る夜景は素晴らしいと有名でな、この時計塔の鐘の音も聞こえるらしい」 樹彦がこれから案内する場所をについて話す。姫月の方には振り返らず。 今日誘ったのは先日のお詫びだ。 「……そう」 何か言葉を発しなければと思った姫月の口から出たのはあまりにも素っ気ないもの。 樹彦は気にせず、しっかり姫月の手を握り、案内を続けている。 そして、辿り着いた。 展望台。 「……うわぁ」 姫月は広がる夜景に声を上げた。すっかり恥ずかしさを忘れていた。 地上には祭りの明かり、空には星の明かり。降り注ぐ雪。 「……」 樹彦は静かに寄り添いながら景色を楽しむ姫月の様子を眺めている。ほのかに口元をゆるませながら。 「……綺麗」 姫月は一言だけ感想を口にした。 「……寒くないか」 樹彦は寄り添う姫月に言葉少なに訊ねた。 「……大丈夫」 姫月はそう答え、ぼんやりと雪と夜景を眺める。時折、樹彦の体に猫のように顔を擦り付ける。樹彦はそんな可愛い姫月の頭を撫で撫で。 しばらくして時計台の鐘が鳴り響いた。 「……鐘の音」 「いい音だな」 澄んだ音に耳を傾ける姫月と樹彦。 音が消えて随分経ってから 「…………兄貴、今日はありがとう」 小さな声で姫月が今日のお礼を言葉にした。 「……あぁ」 樹彦はうなずき、姫月の頭を優しく撫でた。 あまり会話らしい会話はしなかったが、姫月と樹彦にとって充実した一日だった。 後日、 「兄貴、どこかに遊びに行こう!」 「……あぁ」 いつも通りの元気な姫月に戻っており、樹彦は安心し、姫月はこうでなければと思っていた。 展望台。 メシエとリリアは雪が降る中、夜景を見るためにやって来た。人混みから少し離れた場所で二人きりで眺めていると時計台の鐘の音が聞こえてきた。 「……綺麗、満点の星空ね……時計台の鐘の音も素敵だわ」 リリアは雪に包まれた美しい夜景から星で溢れる空へ視線を動かし、感動していた。 「……」 メシエははしゃぐリリアをしばらく見つめていたが、ぎゅっと抱き締め、 「……今日は楽しかった」 と一言つぶやいた。 「……私も」 リリアは抱き締められながら答えた。 二人はしばらくの間そのままだった。