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第三章 ハンス
 「……やはり、氷結晶までは壊せないようですね」
「ハンスか」
 エース達のいる洞窟へとハンスは戻ってきていた。
「ハンス、少し話しをしたい」
「……なんでしょう?」
 シャーレットはハンスを盗み見た。
(疲労している……。やはりそうなのね……)

 「他の奴らが来ていることを何故俺達に言わなかった?」
「何の事です?」
「それは――」
「私が居るからよ!」
 洞窟の入り口で大きな声が聞こえた。
「香菜さん……」
 ハンスの顔は入り口で仁王立ちする香菜を見つめていた。
「どうやって……」
 「某と加夜達がもう一つあった洞窟を見つけていた。そこで雪人形に始末させる心算だったんだろうが、如何せん相手が悪かったな」
「だけど、どうやって連絡を?」

 「……我が行った」
 コアトルがするするとローグの腕の中へと収まっていく。
「武器が……」
 ハンスは目を剥いた。この世界に無い現象を見たかのようだ。
「ギフトって言うんだよ」 

 「君が雪人形で代役をさせていた村人達は他の仲間が護衛している。手出ししようと無駄だよ」
「くっ……」
 悔しそうに拳を握り締める。
「どうして――」
「どうして本当の理由を言わなかったの?」
 香菜がハンスへと詰め寄っていた。
「香菜、離れておけ。そいつは!」
「どうして……?」
 心配する優しい瞳で香菜はハンスを見ていた。
「村の奴らが彼女を裏切ったんだ……。彼女が村を救ったのに……誰も助けてくれなかった……」
 搾り出すようにハンスは声を出した。
「……貴方達も村人と同じだと思っていた……きっと助けてくれない」

 「ふん、素直にそう言えば良いものを」
 ローグはやっとかという表情をしていた。
「え?」
「俺は構わないよ。ねえ、メシエ?」
「……ああ」

「貴方達に……出来るのですか?」
 ハンスが氷結晶へと触れた。氷結晶は如何なる攻撃、魔法も受け付けなかった。
「それは――セレアナさんが説明してくれる」
「ええ」
「エース、御願い」
「分かった」
 エースは氷結晶へと触れると体内の魔力を氷結晶へと注ぎ込み始めた。氷結晶が青く光を灯す。氷結晶から魔力の燐光が零れ、氷結晶に水滴が出来始めていた。
「……地球人の体内の魔力が唯一、氷結晶に干渉する事が出来る。だから、貴方は香菜達をこちらの世界へと呼び込んだのでしょう?」
「はい……」
「これから地球人全員で魔力を一気に氷結晶に注ぎ込んで、氷結晶が溶解する限界値を突破するわ」

 「お待たせしました」
 村人を送り届けた一寿達がこの洞窟へ来たようだった。
「御願いします……彼女を……」
「ええ、任せてください」

 そっと氷結晶へと手を重ねていく。
「一気に突破する……」
 ローグの合図で全員が氷結晶へと体内の魔力を氷結晶へと注ぎ込んだ。
「いくぞ!」

 氷結晶が眩い青光に呑み込まれる。刹那だった、パシャっと氷結晶が液体へと変化し消え去った。
「ファミリア!」
 横たわる女性、ファミリアをハンスは抱き寄せた。
「……ファミリア」
 愛おしく頬を彼女の撫でる。
「……ハン……ス?」
 弱々しく目を開いた彼女はハンスを抱きしめた。
「……良かった」