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【第四話】海と火砲と機動兵器

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【第四話】海と火砲と機動兵器

リアクション

 同時刻 海京近海 海上
 
 “ヴルカーン”部隊と“フリューゲルbis”が迅竜、そして天御柱学院のイコン部隊と戦いを繰り広げている頃。
 ガネットに乗った漆黒の“ドンナー”は“斬像刀”を背負い、別ルートで海京を目指していた。
 水飛沫を上げて海上を走るガネット。
 海京はもう、すぐ目の前だ。
 まさに上陸という所まで迫った時、その進路上に何かが割り込んでくる。
 同じく水飛沫を上げて走るガネットに乗った一機のイコン。
 漆黒“ドンナー”の乗り手たる“鼬”はその機体に見覚えがあった。
 過日の戦いで刃を交えた九校連の機体――剣竜。
 塗装色こそ違うが、今、自らの眼前にいるのは間違いなくその機体だった。
 背負った“斬像刀”を反射的に抜く“ドンナーbis”に向けて、剣竜は通信を入れてきた。
『久しぶりだな。“鼬”』
 その声は過日の戦いで刃を交えた時のパイロットではない。
 同じく過日に刃を交えた別の機体にして、一度は“ドンナーbis”の“斬像刀”を断ち折った乗り手。
『――紫月唯斗。貴方でしたか』
 相手が誰であるかを“鼬”が理解すると、“ドンナーbis”は“斬像刀”を構える。
『いかにも。海京も天学も貴様にやらせはせんよ』
 唯斗が言うと、剣竜は唯一の武装である弐〇式高周波振動刀剣に手をかけた。
 背中にマウントされた弐〇式高周波振動刀剣を抜き放つ剣竜。
 それとともに唯斗は堂々と言い放った。
『“鼬”、今こそ貴様を超える!』
 唯斗の叫びに呼応するように、剣竜の足元でガネットが動いた。
『よっし! よく言ったぜ唯斗! 水中の方はオレに任せときな!』
 唯斗を乗せてきたガネット――オルタナティヴ13/Gのパイロットであるシリウスは敵ガネットに向けて魚雷を惜しげもなく発射する。
 当然ながら敵ガネットもそれに応戦する。
 回避行動を取りつつ、同じように魚雷を発射してオルタナティヴ13/Gの放った魚雷を迎撃する。
 たて続けに上がる何本もの水柱。
 魚雷は完全に相殺されてしまったようで、敵ガネットにダメージらしいダメージはない。
 だが、ここからがシリウスの本当の狙いだった。
 魚雷はあくまで牽制。
 本命はソニックブラスターだ。
 音の伝わる速度は大気中よりも水中の方が格段に高くなる。
 それを利用し、音波攻撃を仕掛けるオルタナティヴ13/G。
 音波による攻撃が開始されると同時に、付近の水中から水面にかけて細かな白い水泡が大量に発生する。
 その水泡が弾けて消えていった後、平常に戻った水面には敵ガネットの無事な姿があった。
 機体周辺の水が退けられているのを見るに、バリアの類を張っていたのだろう。
『やっぱ一筋縄じゃいかねえか……!』
 腹立たしげなシリウスに対し、サビクは冷静だ。
『足場としての使用が想定されているのだから、これぐらいの防備をしてくるのは当然だよ。なら、こちらは次の作戦に移るまで』
 そう告げながら、操縦を担当するサビクは卓越したコントロールで敵ガネットとの彼我距離を調整していく。
『シリウス、周囲に“ドンナーbis”とガネット以外の機体はいるかい? 具体的には対空砲火してきそうな奴だ』
『いんや。いるのはオレたちだけだ。剣竜も“ドンナーbis”も近接格闘専用と割りきった機体だからな、対空砲火の心配はないぜ』
『なら大丈夫だね。対空砲火の心配が大丈夫そうなら例のアレ、やるかい?』
 オルタナティヴ13/Gを操縦しながらサビクは、シリウスと唯斗の二人へと同時に問いかける。
『え……? マジでやるのか……?』
『応ッ! 無論だ!』
 困惑気味のシリウスと、一瞬の迷いもなく答える唯斗。
『よし。まずはシリウス、例の信管抜いたミサイル』
『……どうなってもしらねーぞ!』
 まだ困惑気味ながらもどこか楽しそうに言うと、シリウスは信管を抜いたミサイルを発射する。
 そしてなんと、剣竜は発射されたミサイルを足場として跳躍したのだ。
 張り付く訳でも無く、純粋に蹴って足場とするだけだが、確かに剣竜はミサイルを足場に跳躍していた。
『体術がそのまま使えるなら……異常なまでの精度だからこそできる事が有る!』
 自分に言い聞かせるように言う唯斗。
 それに呼応し、剣竜は二発目のミサイルを再び蹴って更に跳躍する。
『凄い機体だ……生身でないと出来ない芸当だったが、コイツなら重心移動からタイミングまで完璧にトーレス出来る!』
 唯斗は剣竜に搭載されたマスタースレイブシステムの性能に驚嘆していた。
 三発目のミサイルを蹴って三段跳躍を果たすと、剣竜は弐〇式高周波振動刀剣を逆手に持って“ドンナーbis”へと斬りかかる。
『……ッ!』
 咄嗟に“斬像刀”で弐〇式高周波振動刀剣を受け止める“ドンナーbis”。
 その時、“鼬”は唯斗の構えや動きの変化に気付いた。
『その動き――まさか忍者』
『ああ。鬼鎧を操縦する際の武技は剣術だが、生身での戦いは忍術を使うのでな』
 “ドンナーbis”の乗るガネットの上に着地し、いわば相乗りの状態となる剣竜。
 刀を振るえないほどの至近距離まで相手と肉迫した剣竜は弐〇式高周波振動刀剣を納刀する。
 直後、忍術をベースにした徒手格闘を繰り出す。
『忍術とは格闘技でもある。見事な技です。ですが――』
 称賛の言葉を贈りながら、“ドンナーbis”は防戦一方となる。
 しかし、剣竜の攻撃をしのぎながら自らも納刀すると、“ドンナーbis”も徒手格闘を繰り出した。
『……!』
 驚愕する唯斗に向けて、“鼬”は言う。
『過日の戦いで申し上げた通り、“名伏流”は唯一絶対の武術流派となることを目指して技を磨き続ける武術にして実戦での使用を念頭に置いた武技。ならば――』
『――ならば無手での戦いも修めるべき当然のものとして心得ている、か』
 剣竜が忍術を思わせる体術に対し、“ドンナーbis”は古武術を思わせる体術だ。
 武術の達人同士の戦いが、ガネットの背中の上という極めて狭い空間で繰り広げられる。
『くっ……!』
 唯斗の忍術は見事なものだが、“鼬”の繰り出す古武術を前にじょじょに押されていく。
 その時だった。
 波飛沫を上げながら、一機の小型イコンがこちらに向かってくる。
 どうやら、海京の沿岸部にいたイコンのようだ。
『ッ! 貴方は先程の!』
 驚く“鼬”に向けて小型イコン――フェオンのパイロットである裁は言う。
『ごにゃ〜ぽ! さっきはよくもやってくれたんだよ!』
 フェオンは『武侠』の名に相応しく、やはり武技のような動きで、二機の戦いに割って入る。
 イコンの中でも特に小型の機体サイズと、スピード重視の調整がなされた機体は、裁の技量もあって足場の少なさを苦と感じさせない戦いぶりだ。
 剣竜とフェオンは連携によって“ドンナーbis”を圧倒していく。
 しかし、戦いの途中で“鼬”は二機に向けて告げた。
『お二人とも、なかなかにお見事な技です。ですが、どうやら今回はタイムリミットのようです――』
 そう告げるとともに“ドンナーbis”は足腰のバネを活かして高らかに跳躍。
 そのまま飛行機能を発動してどこかへと飛び去っていく。
『このままだとぶつかるんだよ!』
 裁は“鼬”の言葉の意味を理解したようだ。
 海上を高速で走るガネットは既に海京の至近距離まで接近していた。
 だが、減速する気配はない。
『うむ!』
 唯斗の動きをトレースした剣竜は文字通り頷く。
 それに続いてガネットの背中から飛び降りる二機。
 直後、ガネットは海京の沿岸部に激突する。
 ガネットにも機密保持用の自爆装置が組み込まれていたようで、激突と同時に大爆発を起きて沿岸部の一部が破壊される。
『どうにか奴を退けたか』
 海京に上がり、唯斗は呟いた。