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【第四話】海と火砲と機動兵器

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【第四話】海と火砲と機動兵器

リアクション

 同日 某時刻 エッシェンバッハ派 秘密格納庫
 
 帰還して一息を吐く漆黒の機体のパイロット達。
 今回出撃した“鳥”や“鼬”、そして“蛇”はもちろん、機体の調整に訪れていた“蛍”――来里人もいる。
 この格納庫には、今、実に五人ものパイロットが揃っているのだった。
 そんな中、格納庫を訪れたスミスは彩羽に問いかける。
「“シュピンネ”の乗り心地はいかでしたか?」
「ええ。上々よ。マスティマの技術も使われているだけあって、初めて乗ったばかりの機体とは思えなかったわ」
「それはようございました」
 だが、彩羽は浮かない顔だ。
「どうなさいました?」
「現行機を凌駕する電子戦性能を持ちながら、結果は押し負けた上に機体も損傷を受けたわ。私の失策よ……」
 いつも自信たっぷりな彩羽にしては珍しく弱気だ。
「もしかしたら、電子戦で反撃を受けた際にこちらの情報をかすめ取られたかもしれない……だとすれば、更に失態だわ」
 座り込んで俯く彩羽。
 そして、その場を取り成したのは意外な人物だった。
「戦闘記録によれば、相手にもウィザード級がいた上に、複数の相手から同時に反撃を受けたらしいな。ならば仕方のないことだ。そもそも不測の事態というのは問題ないと思える状態でこそ起こるから不測の事態だ。それに戦闘というのは、双方にとって不測の事態を起こし合う為に攻撃し合っているとも言える」
 彩羽を擁護するように喋り出したのが来里人であったことに、当の彩羽本人も驚いていた。
「それと、戦闘で機体が損傷するのは当然のことだ。大破ならともかく、まだ自立が可能な程度の中破なら、それほど気に病む事でもない」
 彩羽が顔を上げたのを見逃さず、スミスも言う。
「来里人君の言う通りです。それに、先程調べた結果、かすめ取られた情報は、方々に多数存在する拠点の一つが判明するかもしれない程度のものです。この程度の損害なら、想定の範囲内です。むしろ、今回の戦闘で“シュピンネ”のデータが大量に得られました。おかげで予定より早く“シュピンネ”も“グリューネタイプ”の製造が可能となりそうです」
 そこで一拍置くと、強調するようにスミスは言う。
「これからも頼りにしていますよ、彩羽さん」
 その言葉に“鳥”はサムズアップしてみせる。
「おうよ! 頼りにしてるぜ、パソコン嬢ちゃん」
 隣では“鼬”も頷いている。
「ええ。彩羽さんと“シュピンネ”は貴重な戦力ですからね」
 そして“蛇”も犬歯を牙のように覗かせて笑ってみせる。
「ま、オレの“カノーネ”ほどじゃねえケドよ」
 彼等を順繰りに見て、彩羽は小さな声で呟く。
「みんな……ありがとう」
 その後、スミスとパイロットたちは三々五々、格納庫を去っていく。
 ややあって格納庫に残されたのは彩羽と来里人の二人だ。
 私室に戻れば、休んでいるスベシアと、スミスにもらったエッシェンバッハ・インダストリー製まくらで熟睡している夜愚 素十素(よぐ・そとうす)の二人がいるのだが、不思議と彩羽は格納庫に残って来里人に話しかけていた。
「さっきはありがとう。まさか貴方が擁護してくれるとは思わなかったわ」
 それに対し、来里人はリフトに乗って機体をチェックしながら振り返りもせずに答える。
「同じ目的の為に行動する者同士である以上、協調するのは当然だ」
 ややあって調整を終えて降りてきた来里人。
 彼を見た彩羽はあることに気付く。
「あら、三つ編みがほつれてるわね。私が直してあげる。さ、そこに座って」
 小さなコンテナの一つに来里人を座らせると、彩羽は一本の三つ編みにした来里人の長い黒髪にそっと手を触れる。
 そして、それを束ねている煤けた鈴の付いたリボンをそっと解いた。
「貴方は何のために戦っているの?」
 三つ編みを直しながら彩羽はふと問いかける。
「大切なもののためだ。お前は違うのか――」
 答え、問い返す来里人。
 それに彩羽は即答する。
「もちろんよ」
 そして、直し終えた三つ編みの先端に彩羽は煤けた鈴の付いたリボンを結び直した。
「――はい。これで良し」
 立ち上がると、来里人は彩羽に向き直った。
「次の戦いは俺も出る。丁度、“ユーバツィア”も幾つか完成していることだしな。それに、“シュピンネ”を護衛する機体も必要になるだろう」