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この中に多分一人はリア充がいる!

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この中に多分一人はリア充がいる!

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「ぐっ……ぐぉぉぉぉぉぉぉ……!」
 キロスの頭蓋骨が軋む。
「ねぇキロス、確認したいんだけどさ?」
 何者か――宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)がキロスの頭をヘッドロックで捕らえつつ語りかける。ちなみに【金剛力】によってキロスと言えども中々抜け出せないようであった。
「私一応恋人いるのよね。ちゃーんと指輪なんかもあるわよ? でもね、もう一年以上音信不通なわけよ。パラミタがこういう状態なわけじゃない? ただの音信不通じゃなくて生死すら定かじゃないのよ? それでも私をリア充って言うの? ねぇどうなのよ?」
 ギリギリと締め上げながら祥子が問いかける。勿論キロスに応える余裕なんて物は無い。駄目押しに【怪力の篭手】なんて物も装備している為、一般人なら頭蓋骨が割れる圧力がキロスの頭にかけられている。
 もがこうとも腕力も手伝い、ヘッドロックからは逃れられない。痛め技のイメージが強いが、実は頭を押さえつける事により抜けにくく、腕力次第では相手をギブアップに追い込むことも可能である技である。
「あー凹むわー。心配だっていうのにこんな風に誤解までされてマジ凹むわー。私の心がズタズタだわー」
 全く傷ついた様子など見せず、祥子が独り呟く。ちなみにキロスはそろそろヤバそうである。
「こんだけ凹むと独り身って辛いって実感するわねー。今夜も独り寝かー……寂しいわよねー……?」
 徐々に体の力が抜けてくるキロスを見て、祥子が何か思いついたように笑みを浮かべた。
「……よし、こいつお持ち帰りしよう」
「んぐぉぉぉぉぉぉぉ!」
 その言葉を聞いて落ちかけた意識を取り戻したのか、キロスが抵抗するように体に力を込める。
「あらなにアンタ、ナンパするくせに逆ナンは拒否するとか何贅沢言ってんの? つべこべ四の五の言わず! 大人しくお持ち帰りされなさいッ!」
 そう言って祥子が力を込める。が、
「ぐぉらっしゃぁッ! 好き勝手させられてたまるかぁッ!」
ヘッドロックを極められたまま、キロスはそれに対抗するのではなく、祥子の身体をクラッチするとそのまま持ち上げる。そして後方へと頭からコンクリの地面に叩きつける。
 教科書通りのヘッドロックを返すバックドロップである。これでもしこのヘッドロックからグラウンドに押し倒されたりしていたら、また結果は違っていただろう。
「へ? ――あぐッ!」
 バックドロップで叩きつけられ、祥子の頭から何やら鈍い音がする。流石にコンクリに頭を叩きつけられ、流石に無事では済まず祥子は大の字で気を失うのであった。
「ぜー……ぜー……あ、あぶねー……」
 絞めつけられ、痛む頭を押さえつつキロスが呟く。
「てぇりゃあッ!」
 そんなキロスの背後から、鳴神 裁(なるかみ・さい)が殴り掛かってきた。
「あぶねぇッ!? な、何しやがる!?」
 辛うじて避けたキロスが裁に怒鳴りつける。
「ってなんでお前泣いてるんだよ!?」
「ほっといて! いいから殴り愛☆しようぜっ! そして友情育もうぜぇっ! 拳を交わした友人、略して拳友同士になろうぜぇッ!」
 滝の様な涙を流しつつ、裁がそう言って拳を握りしめる。

――裁は考えていた。
(強い人が殺る気満々だというのにそれを回避するだなんてとんでもない! ここはあえてリア充アピールして挑発してやんよw)
 そんな草が生えるようなことを考えていたのだが、肝心のアピールに関しては、
(えーっと……彼氏……なんてそもそも存在したことないから置いといて……他には仲間の連中が暴走してそのしわ寄せで後始末おしつけられ……ってこれもちげぇーー!)
と本人以外が草を生やしそうな物しか浮かんでこない。
(そ、そう! リア充なんだから愉しい事! えーなんだ、蒼汁作製愉しいよ? ……ち、違う……ボクが求めていたのはこんな微妙な物じゃないんだ……)
 どうあがいても微妙な物しか出て来ない裁は、

(――よし、殴り愛☆しよう。そして友情を育もう)

やがてまともに考える事を止めた。

「殴り愛ってなんだよお前!? そんなんで友情育めるわけねーだろ! てか何で泣いてるんだよ!?」
「その辺りは本当にスルーでお願いします! お願いだから戦ってください! ほら、少年漫画とかでよくある二本の線引いてそこにたってノーガードで殴り合うってやつ、あ、あれやろうぜ! ナイフ地面に刺してさ!」
「んなのどこぞの酔っ払いとかにでも任せとけ!」
 涙を流しつつ殴り掛かる裁を躱すキロス。
「腐腐腐! すきありぃーっ!」
「今度はなんだぁッ!?」
 飛び掛かってきたアリス・セカンドカラー(ありす・せかんどからー)をキロスが躱す。「あん、惜しい♪」というアリスの手には、何故か女性物の服が握られていた。
「お前は何だってんだ!? ってかなんでんな服持ってるんだよ!?」
「腐腐腐、人の事冤罪で血祭りにしようというのだから、それなりの覚悟はできてるわよね☆ いい機会だから『キロスきゅん女装化計画』をこの場で実行してあ・げ・る♪」
「何だその誰も得しねぇ計画は!?」
「アリス得だもん! 大丈夫大丈夫、無駄な筋肉が無くてよく引き締まってる割りに細身だし、美形だから化粧はよく映えそうだし、長身もスレンダー美女の方向にもってくには素質充分よ☆ さぁ、わたしのHPが削りきられるのが先か、魔王様☆を女装させきるのが先か、勝負だわ☆」
「変態かお前は!?」
「訓練された変態ですけどなにか!?」
 堂々とアリスが言いきった。腐ってやがる。どうしてこんなになるまで放っておいたんだ。
「ふふ、アリスのペットに大人しくなるがいいわ☆ ついでに【淫獣】もけしかけておこうっと☆ 【淫獣】に乱暴されちゃう女装キロスきゅんとか何それ薄い本が更に薄くなるわね!
「オレにはお前が何を言っているか全く理解できん!」
 キロスには理解できないだろうが、大体の人には理解できると信じている。というか薄くしてどうする。

「あーらら、物凄いカオスになってきたわね……」
 アルマー・ジェフェリア(あるまー・じぇふぇりあ)が暴れまわるキロス達を見て呟く。
「これで矛先が完全にどこか行ってくれるといいんだけど……ってみのり、何してるの?」
 アルマーが菊花 みのり(きくばな・みのり)を見ると、彼女は拳を握りしめ不格好ながらファイティングポーズを取っていた。
「……あの……人……こ……これで……友情を……深める……って……だ……だから……ワタシも……キロス君と……友情……深めたい……と……」
 紫色の瞳でアルマーを見据えながらか細い声でみのりが言う。そもそもリア充が何かもわからず、考えても何をしていいかわからないみのりであったが、裁の一言でチャンスと思ったのだろう。ぐっと拳を握りしめた。
「そんなことしても友情は深まらないからやめなさい」
 アルマーが言うと、みのりはしゅんと項垂れる。
「それにしてもみのりまで疑うとは酷い話よねぇ……グレンを疑うならともかく」
「……おい、今のはどういう意味だ?」
 グレン・フォルカニアス(ぐれん・ふぉるかにあす)が声に怒りを孕ませる。それに対してアルマーは「深い意味はないわよ」と答えるが、グレンの額には青筋が走り、その表情は怒りを隠そうともしていない。
「……もう我慢できん!」
 そう叫ぶと、グレンは立ち上がりキロスへと向かっていく。
「俺がリア充だとかお前は全くわかっちゃいねぇ!」
 そして、キロスに向かって叫ぶ。
「今度は何だ今度は!?」
 目の前に現れたグレンに対し、キロスが身構える。ちなみに足元には裁やアリスがひどい目(フルボッコ)に遭って転がされているのだが、この辺りは諸事情(めんどい)により割愛。
「うるせぇ! お前に俺の何がわかるって言うんだ!」
 そう言うと、グレンはその体をわなわなと振るわせる。
「いいか!? 俺達ヴァルキリーにとってリア充とは主君、大切な人と常に共に居続けて、守る事だ! それが、どうだ! 俺の主君であるみのりは百合園女学院所属だ! あそこは男が入る事は許されていない! その間の俺はヴァルキリーじゃない……落ちた男! 敗北者だ! 己の成すべき事も成す事が出来ない、充実もくそったれも無い俺の気持ちが解るのか!? そんな俺を! お前はリア充なんて言うのか! それがどれだけ屈辱なのか……分かって言ってんのか! あぁ!?」
 グレンは身を震わせ、拳を固く握りしめてキロスに向かって吼える。その吐き出した言葉には怒り、そして哀しみが込められていた。が、
「うるせぇ!」
「ごふぁッ!?」
キロスの答えはグレンの顔面へのグーパンチだった。これは酷い。けど仕方ないね。
「あーあ、まぁこうなるわよね……」
 その結果を予測していたのか、大の字になるグレンを見てアルマーが苦笑する。
「……友情……?」
「違うから」
 グレンを指さすみのりに、アルマーが手を横に振って否定した。