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●して、せんせぇ

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●して、せんせぇ

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「今迄の講義を受けてどう思った?」
 紫月 唯斗は、唐突にバニーに問うた。
「あい。えらい為になりましたえ」
「そうか」
 素直に答えるバニーに、唯斗は眠たげな顔のまま、話を続ける。
 しかしバニーを見るその瞳は、優しいものだった。
「なあ、面白いだろう?」
「何が、どすか?」
「知らない事を知る事、未知を生み続ける人、道の可能性に溢れている生命。そのどれもが」
「せんせぇがそう言いはるんなら、そうかもしれまへんなぁ」
「俺が言うから、じゃ駄目だ。バニーは、どう思う。今までの授業を受けてきて」
「……あい、面白かったどす」
「そうだろう」
 我が意を得たとばかりに、唯斗はバニーに詰め寄る。
「この大陸のどこか、たとえ人がいない場所だったとしてもそこに突然何かが生まれるかもしれない。そんな面白い環境を、面白い生命を消滅させるなんて勿体無い事極まりないだろ?」
「そうどすか?」
 首を傾げるバニー。
「その通りだ!」
 力強く肯定したのは、柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)だった。
「唯斗も言っていたが、この世界にはまだまだ面白い事が眠ってるんだぜ」
 バニーの、未知に対する興味を煽ろうと画策していた恭也にとって唯斗の授業はまさに渡りに船。
 唯斗の意見を肯定しつつ、更に捕捉する。
「最近だと、ニルヴァーナなんかにも色々発見があるしな」
「ああ。世界は、お前の知らない面白い事で満ちているんだよ」
「そうどすか」
 二人の言葉に、バニーは静かに頷く。
 ぽん。
 バニーの頭に手が置かれた。
 不思議そうな表情で、頭に置かれた手を、そして置いた人物……恭也を見るバニー。
 恭也はにやりと笑うと、バニーに告げる。
「見てみたくねぇか? そんな世界を」
「そうどすなぁ」
 熱い恭也に対し、どこか曖昧に頷くバニー。
「もしお前さんが興味を惹かれたんならな。色々案内してやるよ、素晴らしい未開拓地をな」
「……」
 無言、だった。
 それでも、恭也は返って来ない返事を待つ。
「なあ、だからさ」
 沈黙を破ったのは、唯斗だった。
 彼には、最も伝えたかった、伝えなければいけない言葉があったから。
「だから、消滅させるなんて、やめとけよ」
「……」
 再びの、無言。
 あい、ともそうどすか、とも言わなかった。
 ただ、黙ったまま唯斗を見上げた。
 まるで意外なものでも見るかのように。

 しかし後で分かることとなる。
 彼女にとっての意外な物は、唯斗以外の全てだったことに。

   ◇◇◇

「よっし、んじゃこれから一緒に『酒』を飲むぞ」
 すべての授業が終わってから。
 朝霧 垂は、酒(と、酒に似た飲むと陽気になる液体)を取り出した。
「おまえ等もみんな、授業は終わったんだろ? なら飲め飲め!」
 垂の言葉によって、周囲を巻き込んで宴会モードスイッチオン。
「酒ってのはな、皆で飲めば飲む程楽しいものなんだぜ」
「そうどすか」
 垂から注がれた液体を素直に受け、口にするバニー。
 その様子は、特にこれといって楽しそうにも美味しそうにも見えない。
(あー、違う違う。それは、もっと楽しそうに飲まなくっちゃ!)
 そう言いたいのを、ぐっと堪える。
 “楽しい”は、強要しても始まらない。
 バニー自身が楽しさを感じるようにならなければ。
「そんじゃ、授業もやっておこうかね」
「あい」
 バニーの持つコップに液体を注ぎながら、語り出す。
 今のところ、一番バニーが興味を持って聞いてくれそうな内容を。
「飲みながらでいいから聞いてくれ。今俺が飲んでるのは、日本酒。こっちが純米酒でこっちが吟醸酒。純米酒ってのはな……」
 酒の、授業。
「ほんじゃ、味見だ。それぞれ一口ずついってみな」
「あい」
 先程よりも多少興味深そうに、液体を口にするバニー。
「……分かるか?」
「あい。こちらの方が飲み口はスッキリしとります」
「やるじゃねえか!」
 ばしばしとバニーの背中を叩く。
「ね、バニー、どうだった?」
 宴会に加わっていたルカルカが、声をかけた。
「皆の授業で、この世界の素晴らしさ、分かってくれた?」
「あい」
「よかった! ね、世界は愛に満ちているのよ。バニーだって、この世界に受け入れられた存在なんだからね」
「そうどすか」
 ルカルカからも液体をコップに注がれながら、バニーは素直に頷く。
 それをくいと飲み干すと、バニーはとん、とコップを置いた。
「ほな、せんせぇ方の授業はもう終わりどすね」
 そして立ち上がると宣言した。
「ほんなら、大陸の破壊、はじめても構いまへんか?」