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第三回葦原明倫館御前試合

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第三回葦原明倫館御前試合

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○第五試合
ニケ・ファインタック 対 夏侯 淵

「やぁ。私のこと、覚えてます?」
 試合前、平太を見かけたニケは声を掛けた。逃げられるかと思ったが、少年は怪訝そうな顔をするだけだ。表情から、これはあの少年ではないとニケにも分かった。
「奈落人……ですか」
「小僧に何か用か?」
「いえ、別に……あなたが――北門くんが、これに参加していて。……変な言い方ですが、よかったと思っただけです」
「分からんな」
「いいんです。分からなくても」
 ニケ・ファインタックには、この試合に参加する特別な理由がある。パートナーのメアリー・ノイジー(めありー・のいじー)が、どういった事情からか――メアリーは機晶姫であるので、プログラムや機晶石の不調から来る多重人格だとニケは考えている――人格が豹変、行方が分からなくなっているのである。
「妖怪の山」にいるという「何でも願い事を叶えてくれる神さま」の存在を聞き、馬鹿馬鹿しいと思いつつも、ニケは藁にも縋る気持ちだった。
 要はニケと平太は、よく似た立場だったのである。
「……まぁ、目的が同じですし、ついでに、戦闘は私だって苦手です。――“あなた”は得意なんでしょうが。北門くんに伝えてください。仲良くしましょうと。お互い頑張りましょう」
 ニケはにっこりと笑った。――傍からは不敵な笑みに見えたが。

 ニケ、淵ともに得物は遠距離攻撃を得意とする。従って二人の対戦は、他よりも間合いが大きくなった。
 淵の放った矢を見極め、ニケは一撃必殺を狙った。しかし、淵の一射目は陽動に過ぎなかった。
 二射目で、ニケの足元を狙い、機動力を奪った。
「ッ、てぇなぁちっくしょう!」
 慣れぬ痛みに逆ギレしたニケは、【ライトニングウェポン】で銃に帯電させた。しかし、その隙に三射目がニケの胸、心臓部にどんと当たる。
「ッ!?」
「よしっ」
 淵は小さくガッツポーズをした。
 ニケは呆然としている。藁が、速い流れで遠のいたような気がする。
「……やっぱりこういうの向いてない……とか、私が言ってちゃね、駄目でしたね。……チッ」
 舌打ちし、ニケはヘッドフォンを耳に当てた。喧騒が消え、それよりも激しいいつもの世界がニケを包んだ。

勝者:夏侯 淵


○第六試合
麻篭 由紀也 対 セレンフィリティ・シャーレット

 メタリックブルーのトライアングルビキニ、その上にロングコート。試合場に出たセレンフィリティは、羽織っていたコートを脱ぎ捨てた。ふわり、とコートは軽やかに、観客席のセレアナ・ミアキスの手元に落ちる。
 観客席からは、大歓迎の声や口笛が沸き上がった。
 由紀也は顔を赤らめているが、セレンフィリティには相手の感情を利用する気は一切ない。極限まで軽装にすることで身軽になって、敵の攻撃を避けるという目的なのだ。
 セレンは定石通り、まず由紀也の機動力を奪うことにした。だが由紀也は既にそれを読んでいた。つい先程まで彼がいた地面が、大きく弾け飛んだ。
 由紀也の銃口がセレンフィリティに向けられる。
 パンッ!!
 一瞬のブレもなく、二つの銃口が火を噴いた。二人のちょうど中央で、弾がぶつかり、弾け飛んだ。周囲に青い塗料が散る。
「やるわね――これならどう!?」
 しかし、セレンフィリティが足を止めた瞬間、その胸を塗料が染め、衝撃で彼女は後方へ倒れ込んだ。
 由紀也は目を細めたまま、硝煙の立ち昇る銃口を持ち上げた。

勝者 麻篭 由紀也


   審判:柊 恭也
○第七試合
ザーフィア・ノイヴィント 対 紫月 唯斗

 唯斗は第一回の御前試合に参加し、あまりいい成績を残せなかった。ありていに言えば、一回戦で負けた。同級生から散々に叩かれ、ハイナからは情けない成績の罰として、しばし奴隷の如くこき使われた。
 二回目は別件で参加しなかったのだが、「逃げた」と言われてまた同級生からは叩かれた。ハイナもしばらくして「なぜ参加しなかったのでありんす?」と訊いてきた。不満だったようだ。
 今度こそはいい成績を――と思ったのだが、「何かやな予感がするなあ……」と妙な寒気を覚える。そういえば、さっきからずっと寒気を感じっぱなしだ。風邪かもしれない。負けたらそれを言い訳にできるだろうかとちょっと考えた。
 ザーフィアはかなり大きな木剣を担いでいた。間合いが広い。懐に入らねばならないが、隙がない。
 しかしザーフィアも、唯斗の出方を待っていたらしい。埒が明かない、と唯斗は駆け出した。
「怪我をしたくなかったら、うまく避けてくれたまえ!」
 ザーフィアは木剣を構えた。その視界から、唯斗が消えた。倒れるように身を引くくし、右腕を軸にザーフィアの背後から足を払おうとした。
「甘い!」
 ザーフィアは木剣を支えに自らも飛び上がった。そして唯斗の背に、思い切り体重をかけて着地する。軽そうに見えて機晶姫だけに、それなりの重量だ。唯斗は潰れた蛙のような声を出した。
 それでも立ち上がろうとする唯斗だったが、それを待っているほどザーフィアも親切ではない。
「しばらく浄土に行っていたまえ」
 頭を思い切り蹴飛ばし、ザーフィアはハッとなった。
「しまった! 殺したら失格か!?」
 試合場の端まで吹き飛んだ唯斗の状態を確認し、恭也があっさり言った。
「大丈夫。生きてる。一応」
 かくて紫月 唯斗は入院し、再び同級生から罵倒される羽目になったそうだ。

勝者:ザーフィア・ノイヴィント 入院:紫月 唯斗


○第八試合
ダリル・ガイザック 対 セリス・ファーランド

 パートナーたちと違い、セリスはごくごく真面目に、修行の一環としてこの試合に参加した。だから武器は木刀だし、戦術も特にない。ただ基本に忠実なだけだ。
 真面目な攻撃だと、一番最初にダリルは思った。彼への上段が失敗すると、すぐさま距離を取り、今度は胴を狙う。
 間合い、距離、呼吸などが一定なのは分かったが、スピードに対応するには時間がかかる。
 胴への攻撃が成功し、本来なら畳み掛けるように一撃を仕掛けるべきだろうが、セリスはまた距離を取った。そしてダリルの足を狙う。
「読み切ったぞ!」
 ダリルはセリスの前から姿を消した。背後に回り、背中に銃を突きつける。
 くぐもった銃声と共に、セリスはばったりと倒れた。背中に真っ青な、小さな跡がついている。気絶はしていないようだが、息が出来ないらしく、セリスは激しく何度も咳き込んだ。
 恭也のカウントが始まったが、シックスまで行ったとき、救護班の白衣の天使こと新風 燕馬が飛んで来て、ダリルの勝利が確定した。
 救護班で手当てを受けたセリスは、フッと笑みを漏らし、「こんなものか」と呟いたそうだ。

勝者:ダリル・ガイザック