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悲劇がおそった町とテンプルナイツの願い

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悲劇がおそった町とテンプルナイツの願い

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第7章 辺境の司祭は何を望む?
「那由他の黄金の脳細胞が言っているのだよ。これは自作自演の匂いがすると!」
 阿頼耶 那由他(あらや・なゆた)は突然推理をし始めた。

「ずばり、司祭が犯人だよ! 司祭は信者が増えないと悩んでいた。そこで魔物達に平穏な町をおそわせた!」
「何のために?」
 キスクール・ドット・エクゼ(きすくーる・どっとえくぜ)は首を傾げて聞いた。
 そんなキスクールに那由他はにやりと笑みを浮かべる。
「この地域は安穏としていて終末論が通じにくい。だから、わざと悲惨な事件を起こして、テンプルナイトが颯爽と事件を納めて信者増大!」
 指を天にびっと指すと、自信満々に言った。
「いや〜、いかにも営業マンが考えそうな事なのだよ」
「那由他ちゃんにはきっと、脳細胞自体ないんだね」
「な!?」
「いい? 司祭はあの魔女とつきあってたの。それでちょっとケンカして、魔女の配下の魔物に取次ぎを頼んでいただけなのそこをあの信者がちょっかい出してきたもんだから
話がこじれたの!」
「む〜!」

「……………………あら、そこの2人とも良い線行ってるわね」
「!」
 薄暗い教会の中、真っ赤な絨毯を頼りにマリア達は進んでいると、前方から声が聞こえた。
「まったく、待ちくたびれたわよ」
 ぱちっと指を鳴らす音が鳴り響くと、そこら中のローソクに火が灯った。
 暗闇から明るみへと声の主が現れる、その主はとんがり帽子にローブ、たすきがけされたベルトに試験管、魔女だった。

「司祭はどこに居るのかしら?」
 セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)は、銃口を魔女へと向けて威嚇する。
 しかし魔女は怖がるどころか、笑って見せた。
「はっはっは。そうね。ワーデル司祭、でてきたらどうかしら?」
 魔女の問いに答える人は居なかった。
 魔女はふっと一息笑うと、手を女性の像へと突き出すと、魔方陣から何かを発射する。
 途端、その女性の像は高い音を立てて崩れ落ちる。その裏から現れたのは紛れもなくワーデル司祭だった。
「司祭……なぜこんな事を……」
 マリアは寂しそうな表情を浮かべて、司祭に聞く。
 司祭は最初にあったときの落ち着きなど嘘化のように、ヒステリックに答えた。
「しょうがなかった!!」

「じゃあ、あなたが――」
「貴様が罪なき民たちを悪魔に差し向けたのか!!」
「あら、悪魔って私の事かしら?」
 すべて企んだのは司祭なのかと聞こうとしたシャノン・エルクストン(しゃのん・えるくすとん)グレゴワール・ド・ギー(ぐれごわーる・どぎー)が口を挟んだ。
「私はただ魔女にそそのかされたんだ!」
「そそのかされた?」
 マリアは鋭い目つきで司祭を睨み付けた。
「あなたはグランツ教の信者を統べる人じゃないんですか!」
「……怖かったんですよ魔女が……ほんと、だめな司祭ですね私は」
「あらあらなんだか私、とことんひどい扱〜い」
「あなたは黙ってなさい」
 再び銃口をセレンフィリティに向けられ、魔女は黙り込んだ。
「何にしても、あなたはグランツ教に居るべき人間ではありません。この事は上に報告します」

「……ちっ」
 マリアの言葉に、司祭は舌打ちをしながら立ち上がった。
「ガキが、調子に乗りやがって!!」
「な、なんだこいつ。様子が変わったぞ!?」
 司祭の口調の変わりようにその場の全員は驚いた。
 穏やかな口調はまるでうって変わり、まるで暴力団のようなしゃべり方だった。
「うまくいけば、お前を抹殺して座を奪って、こんな辺境の地をおさらばしてやろうって思ってたんだが……」
「あなたは……とことん腐っていたのですね!」
「腐っていた? グランツ教がピンチから救ったっていう情報が流れればたちまちグランツ教の信者は増えるんだぞ!
そこまでグランツ教に俺はすべてを捧げたんだ、むしろ俺こそがマグスに――!」
「……」
 マリアは司祭とは口を聞くことに嫌悪を感じ来ていた。
 このまま喋っても、きっとどうしようもないと思い始めていたのだった。
「しかし、まだ取り返しはつく。そうだよな?」
「ふっ。その通りですよ。これもすべて世界の崩壊を止めるためにも信者を増やすためなのですから」
 にこやかな笑顔で、男が1人ゆっくりと歩いてきた。
 その顔にマリア達は見覚えがあった。
 以前の事件でも、邪魔をしたファンドラ・ヴァンデス(ふぁんどら・う゛ぁんです)だった。

 「さて役者もそろったし、そろそろ始めるぅ〜? 死のラストゲーム」
 魔女はにやりと笑うと、小さな試験管をそらに放り投げた。
 試験管が空に舞うと同時に、辺りはまばゆい光に包まれた。

 白い光が収まると、マリアは周りの状態に驚愕した。
 そこらじゅうに、【毒虫の群れ】が飛んでいたのだった。
 しかし、これは司祭でも魔女が放ったわけでもなさそうだった。
「まったく……厄介だわ……」
「本当にね。司祭の姿もいつの間にかいないし……」
 ため息をつきながら周りを確認するセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)はため息をつくように言った。
 セレンフィリティはセレアナと背中をくっつけ、いつでも襲われても良いように準備をとっていた。

「おもいっきり、ピンチだよ……まさか司祭がこんなことするなんて」
「ぬぬ、奴はどこに消えた!」
 額に汗をかきながらシャノンはグレゴワールの横についた。
 グレゴワールは完全に司祭の姿を見失っていた。
 しかし、それよりも危険だったのは目の前の毒虫たちだった。

 まったく動かず、ただその場を飛ぶ毒虫たちは、何かのタイミングにあわせるかのように一斉に右往左往動き始める。
「動きだした!」
 セレンフィリティは【【シュヴァルツ】【ヴァイス】】の二丁拳銃で、セレアナも同じ二丁拳銃で近づく毒虫を打ち払っていった。
 グレゴワールのほうは、剣で切り伏せていく。
 どちらも、小さい毒虫を殺すには困難かつ難しいものだった。そのため、何とか自分の身を守るもので精いっぱいだった。


 一方そのころ、魔女は教会の天井すれすれを飛んでいた。
「待ちなさいですわ!!」
 それを御神楽 陽太(みかぐら・ようた)のパートナーエリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)が【空飛ぶ魔法】で追いかけていた。
「待てないわよっ、だって下から狙撃してるお兄様もいるんだから!!」
 魔女は常に下を気にしながら移動していた。
 エリシアに直接追いかけられる中、下から斎賀 昌毅(さいが・まさき)が【しびれ薬】を使い【スナイプ】しようとしているのがわかっているためだ。
 幸いなことに、毒虫たちはマリア達を狙っているため、昌毅達にはおそってこなかった。
「まったく、同じ魔女が居るなんてね……っと!」
「わわっ」
 魔女は突然試験管を、エリシアへと投げつけた。
 エリシアは避けることにはなんとか成功するも、その試験管はエリシアの後ろで爆発した。
 その時、感じた魔力の減少に、エリシアはそれが何なのかすぐに気がついた。
「これ……魔法無力化ですの!?」
「お、ご名答よ。さすが分かる人は分かるのよね〜」
 もし当たっていれば、自分は落ちていたかもしれないとおもうと、エリシアの背筋に寒気がした。
 いま、あんなものを喰らえば、地上に落下は免れないですの!

「ちっ、当たらねえ。おい、那由多にエクゼ! ちょっと、あの魔女の動き止めてこい!」
 昌毅はスナイパーライフルを魔女に向けて構えるも、動きすぎるために照準がなかなか定まらなかった。
「えー、あんな高いところまで飛んでるのを止めるなんて無理なのだ」
「そんなこと言ってる場合じゃないよ、那由他ちゃん!」
 面倒くさがる那由他をキスクールは何とか、持ち上げトラップを仕掛けることにしたのだった。

「くそ……男はどこにいったのだ」
「おや、私をお探しですか?」
 ただならぬさっきを感じ、グレゴワール素早く【歴戦の防御術】で振り返ると【オーパーツソード】で突進してくる【幻槍モノケロス】を防いだ。
 そこには相変わらず意地悪そうな笑みを浮かべたファンドラが居た。
 ファンドラは槍の力を徐々に強めていく。グレゴワールは弾き返せずなんとかその槍を押さえるので必死だった。
「ぐぬう……貴様、契約者でありながら敵の味方をするとは」
「おや、契約者には敵も味方もありませんよ。今更そんなことを言うのですね。そんなことより、毒入りの虫でもいかがですか?」
 先ほどまで力を入れていた槍を突然話すと、ファンドラは横へとよける。
 そこからは毒虫が大量にグレゴワールに飛び込んできていた。
「グレゴさん!」
 シャノンが火術を使いグレゴワールへ飛び込んでくる毒虫を一掃し事なきを得た。
「助かった! しかし……このままだとあの男に近づくことも……」
「なら、あの男に近づかなければ良いんじゃないかな」
「何!?」
 シャノンは一つの策を考え付いていた。
「そのためにはみんなを集めないと」

「まったく、どうしてこうグランツ教の人達って、もう少し穏やかに祈ったりできないの!?」
「できたら苦労はしないのよ……たぶん」
 セレンフィリティの怒りの言葉に、セレアナは毒虫を対処しながら冷静に答える。
 しかし、このままではいつまでも司祭はみつからず自分たちが力尽きる方が先なのは見えてきていた。
「ん? なにかあそこ、みんな集まってない?」
「あ、あなたたちも中央に集まって!」
「えっ?」
 突然シャノンが走り寄ってくると、早口で言った。
 その言葉にセレンフィリティとセレアナは顔を見合った。

「みんな揃いましたね」
「いったい……何を。いやそれよりもこのままじゃ毒虫がみんなここに来ますよ!」
 マリアは上を警戒するように見回しながら言った。
 まだ、そこではエリシアと魔女が追いかけっこをしているようだった。
 あの付近だけはどうやら、毒虫は上がってこれないらしかった。
「それでは……毒虫を呼び込んで!」
「……本気で言ってるの?」
 シャノンの言葉に思わずセレアナは、冷たい視線を送る。
 しかし、シャノンは自信ありげな顔つきでうなづいて見せた。
「もちろんです」
 ひとまず、マリアたちはシャノンの言葉に従い銃声を発し、毒虫たちを集めた。
 当然のように毒虫は群れとなってマリア達に襲ってくる。
 のだが、突然マリアの目の前を炎の滝が上がった。
 数十匹いた毒虫は一気に、燃えてしまった。
「いったい何が……」
「飛んで火に入る夏の虫作戦よ!」
 つまりは、シャノンの火術で一気に毒虫を倒すために、一カ所に毒虫たちを殺そうというものだった。
 ただし、おびき寄せる獲物は自分たちである。
 こうして、なんども繰り返すうち毒虫たちは全滅した。

 一方魔女。
「まちなさいって言ってるのですわ!!」
「だーかーらー待たないって! あなたも相当しつこい! いい加減当たりなさいよ」
 今度は炎の球をエリシアに向けて放たれる。
 かろうじてよけるも、熱さに思わず目をつむってしまった。
 つむった目から視界を戻したとき、エリシアは天井の梁に張り付く二人の姿が見えた。
「?」
 すこしぼやけて見えるものの、その二人は少し離れたところで手招きをしているように見えた。
 エリシアは疑問に思いながらそちらへ向かう。
「あら、しっぽを巻いて逃げるつもり?」
「だ、だれがそんな!」
 エリシアは再び、魔女を追いかけようとするがやはり、手招きを一生懸命する那由多とキスクールの姿が気になり、そちらへと向かう。
「今度は私が追いかける版ってことね……覚悟は良いってことね」
 エリシアを追いかける魔女。
 エリシアは間もなくして魔女を連れてくる形で、二人の元までたどり着いた。
「前に逃げて!」
「え。前ですの?」
 あわててエリシアは前に空飛ぶ魔法を加速させる。
 すると、空から大きな網が降ってきた。
「なっ、なんなの!? こ、こんなの火で!」
 魔女は魔方陣を使い、火を出そうとするが、突然背中に衝撃を受けた。
「やっと、とらえたぜ!!」
 地上ではスナイパーライフルを構える昌毅が立っていた。
 魔女は自分の体が動けなくなっていることが分かると、ようやく何が起きたのか理解した。
「すべて……罠だったのね……しびれ薬を仕掛けるため…の」
 魔女は大きな音を立てて、絨毯の上へと背中から落ちていった。

「あなたは、どうしてこんな事をしたのですの?」
 【龍牙の薙刀】を構え、エリシアは魔女に問い詰める。
「ふふっ……魔女には合わないものを持っているのね」
「答えなさいですの」
「……森の中でひっそり暮らすのに飽きたのよ……」
「それだけのために大勢の人を殺したですの!?」
「それだけじゃないわ……まあ、あなた達みたいにいろんな人に囲まれて暮らすような、恵まれてる人達にはわかんないこともあるのよ」


 毒虫は消え、魔女は倒され。いよいよ残すところは司祭とファンドラだけとなっていた。
 ファンドラはセレアナとマリアによって遠くから足止めする。
 その間に、司祭はすぐにセレンフィリティ【行動予測】によってわかった。

「あらら、見つかってしまいましたか。うまく隠したつもりだったんですが」
 ファンドラは残念そうに槍を納め、ため息交じりに言った。
 司祭はファンドラを睨み付けた。
「ちっ、どいつもこいつもつかえない」
「この悪魔め!」
「まってください」
 マリアは、剣を振り上げ司祭を殺そうとするグレゴワールドを止めた。
「騎士マリアよ! 今貴様がなすべき事はなんぞ! 貴様らの信仰を侮辱した。この町を渾沌に陥れたこの者をテンプル騎士として討つべきではないのか!」
「そうですね。討つべきです。でも、まだ……死なせるわけには行きません。この人には一生地獄を見てもらいます。牢獄で」
 マリアは決して穏やかでも無く鋭い目つきで司祭を睨み付けながら言った。
 そこには、信者を町の人達を殺した憎しみがある反面、この司祭が事件を起こした原因がグランツ教が絡んでいるかもしれないと思ったからだった。
「くっ、マリアよ貴様はそれでも騎士か!!」
「あー、はいはい。グレゴさんはちょっと黙っててください」
 シャノンはグレゴのマントをつかむと、教会の入り口へと無理矢理連れて行った。


「おい、ファンドラ俺を助けろよ!」
「命乞いですか?」
「お前と俺が居ないと、パラミタは救えないだろ!?」
「……そういう話でしたね。では助けてあげましょう」
 そう言うと、ファンドラは手を上に上げた。
 それは、毒虫を放った辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)への司祭を殺せの合図だった。
 教会の上部から、刹那は暗器で司祭を狙う……。
 ファンドラはすべてが終わったと確信し、後ろへ振り返り帰ろうとしたときだった。
「そこですわっ!」
 突然闇黒の炎が刹那をおそった。
「なっ、なんじゃと!?」
 放ったのはエリシアだった。
 エリシアは【殺気看破】で、刹那の殺気を感じ【ワルプルギスの夜】を放ったのだった。
 刹那はダメージを負いながらも慌ててファンドラの横に飛び降りた。
「ちっ……しくじりましたね?」
「すまんのじゃ」
 苛立ちながらファンドラは、司祭を睨み付けた。
「まあ、良いでしょう。所詮この人達では『パラミタ崩壊』に役立たない……行きましょう」
 ファンドラと刹那はそのまま教会の上部に上がると、追いかける暇もなく消えて言ってしまった。

「あの人達は……どうして何度も……」
 マリアは消えていくファンドラ達を眺めながらぽつりとつぶやいた。
 数人の契約者が追いかけるも、やはりその姿は一瞬にして消えてしまった。

「とりあえず司祭を逮捕よ!!」
 セレンフィリティは大声を上げた。
「ま、まて俺は――」
「安心しなさい。シャンバラの司法書に送るわよ。それでいいわよね」
「ええ……グランツ教で司祭の身は預かりません」
 セレアナの確認に、マリアは少し考えた後に笑顔で答えた。
 テンプルナイツとしてならば、間違いなくこの行為はやってはいけないことだろう。とマリアには分かっていた。
 しかし、公平に物事を進めてもらうにはやはり、それが一番なんだと思ったのだった。
「なんだと!? テンプルナイツがそんなこと――」
 驚きながら声を上げる、司祭にセレンフィリティは銃口を再び向けた。
「きまりね、司法書に連れて行かれるまで時間があるみたいだし洗いざらい吐いてもらおうかしら?」
「ぐぐ……」

 セレンフィリティが問い詰める中で、マリアは聞きたかったことがあった。
「どうして、魔女に頼んだんですか……人を殺す必要も無かったはずなのに」
「ふんっ、なにを今更。おまえ達が魔女を紹介してくれたんだろ。信者を増やすためにってな」
 司祭はマリアを指さして言った。しかし、マリアにはまったく知らないことだった。。
 テンプルナイトの誰かが、ワーデル司祭に魔女を教えて事件を起こすようにそそのかせた?
 私の知らない何かが起きているってことなの?
 マリアの中で一抹の疑問を残したままこの事件は終わりを迎えたのだった。