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2023春のSSシナリオ

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 賑やかに過ぎる(と言えば聞こえがいい)休日 2

「ラブぅー! 誰かラブを止めてくれぇー!」
 その頃、路上をラブ・リトル(らぶ・りとる)が全力で走っていた。
 走る事に慣れていないのか、何度も足をもつれさせ、転びそうになったり、すっ転んだりしながらも何とか体勢を立て直し、ラブは走る。
「そんなに叫んでも無駄よ」
 その後ろを、高天原 鈿女(たかまがはら・うずめ)は歩いて着いてきていた。何せラブは何度も転んだりしている為、歩くより速度が遅いのである。
「というか、歩いた方が早いじゃない。行先は解ってるんだから無駄な労力は使わない方がいいわよ、ハーティオン」
 呆れた様に鈿女が言うと、『ハーティオン』と呼ばれたラブが振り返る。
「わ、わかってはいるのだ……しかし何かあったらと思うと……! うむむ……このラブの身体をうまく扱えない事がもどかしい……!」
 そう言ってラブ――の身体になっているコアが今の自身の身体を見る。
 今、何が起きているのか一言で説明するのは難しいが、簡単にネタバレするとおわかりの通りコアとラブが入れ替わっているのである。

――こちらの事の発端は今朝の事。
「ぬおぉぉぉぉぉぉぉ!? わ、私の身体がラブになっているぅぅぅぅぅぅぅ!」
 目が覚めたらラブの身体になっていたコアが叫ぶ。
「い、一体何が! 何が起きたというのだぁ!」
「ハーティオン、うるさい」
 嘆き、騒ぐラブ(中身コア)の後頭部を引っぱたき、鈿女が説明する。

――ラブ(本物)が何処かから『邪剣・体入れ替え丸(説明書付)』という怪しげな木刀を手に入れてきた事。
――その木刀で殴ると殴った相手と意識が入れ替わる、という説明を見て、ラブ(本物)が眠っていたコア(本物)を殴った結果、入れ替わった事。
――気づいたら『優の家で稽古やるっていうから殴り込み行ってくるわね〜(はぁと)』という書置きが残っていた事。

 以上を聞かされ、ラブ(中身コア)はがっくりと膝を着き、
「……そうか! 今ラブはユウの家に向かっている筈! このままではユウ達に何が起こるかわからん!」
とそのまま走り出したのであった。

「ラブのように空を飛べたならばもっと早く着けるというのだが……!」
 ラブ――以降コア、が悔しそうに地面を殴る。
「というか、もう目の前じゃない」
 鈿女の呆れた声に、コアが勢いよく起き上がる。
「なにぃ!? こ、こうしちゃいられん! いざ参るッ!」
 そう言うとコアは何度もすっ転びながら、優の家に駆けこんだ。
「邪魔するぞ!」
「失礼する」
 コアと鈿女が入ると、「あら、またお客さん」と零が驚いたように言う。零は聖夜、刹那と腰掛けていた。
「すまない! ラブは来なかったか!?」
「……ラブは、そなたの事では?」
「そう、だよなぁ……」
 首を傾げながら、刹那と聖夜がコアを指さす。
「ハッ!? そ、そうだ今私はラブなのだ! だ、だが確かに私はラブなのだがラブではないのだ! 私はハーティオンではないのだがハーティオンなのだ! な、何を言っているかわからないかもしれないが! 私も何を言っているかわからんのだ!」
 慌てふためきながらコアが言うが、お前は何を言っているんだレベルの発言に零達は首を傾げるばかりである。
「時間の無駄だから少し黙りなさい」
 鈿女はそう言って慌てるコアの後頭部を引っぱたく。「おぅッ!?」と前のめりにコアが倒れる。
「所で、ハーティオン来なかった?」
「ハーティオンならあそこだ」
 聖夜が指さしたのは、庭に設置されたリング。
「な゛っ゛!?」
 コアが固まる。
 リングの上では、コア(中身ラブ。以降ラブ)は例の木刀を持って模擬刀を持った優と戦っていた。
「えぇーい! くらえぇーい!」
 ラブは木刀をしっちゃかめっちゃかに振り回す。外見はコアだが、中身はラブ。剣術どころか、振り方すら碌に解っていないのである。それでも何とか一撃当てようと無茶苦茶に木刀を振り回していた。
「い、いかん! このままではユウが大変な事になって更なる大惨事に!」
「大丈夫じゃない? ほら」
 慌てるコアであったが、鈿女は冷静にリング上を見ろ、と指さす。
「ああもぅちょこまかと! 大人しく殴られなさいよね……ってひゃん!」
 しっちゃかめっちゃかに木刀を振り回すラブであるが、優はそれを簡単に受け流すと逆に隙を見て一撃を与えていた。
 見た目は無茶苦茶だが、実際は単純な軌道である。完全に優はそれを見切っていた。
 どちらが優位に立っているかは一目瞭然であった。
「し、しかしだな……くっ、割って入ろうにもこの身体に大けがをさせてしまうかもしれん! 私は一体どうすればいいのだ!」
 頭を抱えるコア。
「とりあえず、2人にもお茶用意するわ。緑茶でいいかしら?」
 零が尋ねるが、代わりに鈿女が「構わない」と答えた。それを聞くと、零は用意をすべく奥へと引っ込む。
(……ははぁーん)
 それを、横目でラブが見ていた。
(なぁるほど、今回のオチはあれね。零が用意したお茶をあたしが浴びて錆びて動けなくなってチャンチャン、ってオチね。読めたわ!)
 一体お前は何を言っているんだ。
(そうは問屋が卸さないってのよ! そんなオチになる前に一撃食らわせて入れ替わってやるわ! 錆びオチになるのは優、あなたよ!)
 訳のわからないことを考えながら、ラブは一旦木刀を振り回すのを止めると構えなおした。
「ん?」
 突然行動を止めたラブに、優も模擬刀を構えなおす。
 ラブがじりじり近寄ると、距離を取る様に優も後ずさる。ロープ際まで追い詰められ、優の背にロープが触れる。
「もらったぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」
 その瞬間、ラブが木刀を振り下ろす。狙いは優の頭一直線。
「よっと」
 だがその打撃を、優は横にあっさり避ける。振り下ろされた木刀はロープへ当たり、反動で跳ね上がる。
「てぇッ!」
 今度は優が一撃を放つ。狙いは手首。避けられるわけも無く、模擬刀の一撃がラブに当たる。
 その一撃は反動で跳ね返った木刀に更に勢いをつけ、その上手首の角度まで変えた。
「んなぁッ!?」
 結果、ラブは自分の木刀で自分の頭を殴るような形になった。勢いのついた木刀は固いコアの頭に打ちつけられ、真っ二つに折れる。
 その衝撃に耐えられず、ラブは大の字に倒れ気を失った。
「お、折れたぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
 コアが悲鳴を上げるように叫んだ。
「と、まぁこんな感じだ。無茶苦茶な攻撃でもよく見れば単純だったりするもんだ。視野を広く持って騙されないようにするのが重要だな。わかったか?」
 優はリングから降りると、聖夜に言った。
「成程……っとぉ!?」
 感心したように頷く聖夜の横を、コアが駆け抜けると勢いそのままでリングへと上る。
「お、折れてるではないか……! このまま私は元に戻れないのか!?」
 コアが折れた破片を持ち、叫ぶ。
「安心なさい、ハーティオン。説明書にはこう書いてあるわよ。えっと……『尚、剣が折れてしまった場合でも慌てないで下さい。剣に向かって「神様ボクいい子になります」と百回唱えて一日たつと大概は元に戻ります』……だって」
 説明書を片手に鈿女が言うと、コアは顔を輝かせる。
「剣に向かって唱えればいいのだな!? わかった! 神様ボクいい子になります神様ボクいい子になります神様ボクいい子になります神様ボクいい子になります神様ボクいい子になります神様ボクいい子になります神様ボクいい子になります神様ボクいい子になります神様ボクいい子になります神様ボクいい子になります……」
 コアはその場で跪くと木刀に向かってぶつぶつと唱え出した。まるで祈るようなポーズを取りながら。
「……大概は、って事は例外もあるって事かしら? まあ、それは言わない方がいいわね。お茶御馳走様。それじゃ」
 そんなコアを見て鈿女は呟くと、ポケットに説明書を突っ込み去っていく。
「……で、アレは一体何してるんだ?」
 リング上で祈り唱え続けるコアを優が指さすが、誰も一切事情を聞かされていない。「さあ……」としか言いようが無かった。
「……とりあえず、放っておくか」
 優がそう言うと、皆ゆっくりと頷いた。鬼気迫る様子に、「そっとしておこう」と誰もが思ったのであった。

――その日、日が暮れるまで延々と唱えていたコアであったが、身体が元に戻ったかどうかは定かではない。※ちゃんと翌日元に戻ってました。