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とある魔法使いの飲食騒動

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とある魔法使いの飲食騒動

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◆それは辛い試練だった。それでも俺様は食べる事をやめない

 夢宮 未来(ゆめみや・みらい)ラブ・リトル(らぶ・りとる)は、盛り上がりを見せ始めた観客席からジャーマンポテトを食べ始めたアッシュ達を見ていると、未来はふと斜め前に高天原 咲耶(たかまがはら・さくや)が一人で観戦している事に気が付いた。
「ラブさん、あそこに高天原さんが居ますよ」
 未来はモニターを見ていたラブの服を袖を引っ張ったのだが、「いい所なの」と言われてしまい未来の言葉を聞こうともしなかった。
 少しだけ拗ねた未来は、ラブを放っておいて席から立つと咲耶の隣へと移動した。
「こんにちは。高天原さん。今日はドクターハデスさんは一緒じゃないんですか?」
「あら。夢宮さんこんにちは」
 咲耶は未来を見ると、軽くお辞儀をする。
「ええ。兄さんと一緒に見に行こうって約束したのですが、入院してしまって……」
「えっ!? 入院?」
 咲耶の予想外の言葉に未来は目を丸くした。
 咲耶は未来の言葉に頷くと、事の説明をし始めた……。

△▼△▼△▼

 『大食い大会』が始まる一週間前。
 その日、アッシュは自宅へと帰ろうと繁華街を元気なく歩いている時だった。
「おーい! アッシュくん」
 後ろから聞き慣れた声が聞こえたので、アッシュは振り向くと後ろからフィッツが手を振りながら近づいてくる。
「あー、どうしたんだ?」
「あれ? アッシュくん元気ないね」
 いつもの雰囲気ではないアッシュを見て、フィッツは首を傾げた。
「ああ……うん。ちょっとね。ところで何の用だ?」
「聞いたよ。『大食い大会』に出るんだって? でさ、ちょっと質問があるんだけど、アッシュくんって牛乳飲むとおなかは下るの?」
「……は?」
 真剣な眼差しのフィッツを見ながらアッシュは思わず間が抜けた声を出した。
「だって、今の内臓は偽物なんでしょ? もしかしたら牛乳駄目かもしれないじゃないか」
 そうフィッツは言うと、小さめの牛乳が入っている瓶をアッシュに差し出した。
 とそこへ、二人に風が吹き抜けたのである。
「フハハハハ、我が名は天才科学者、ドクターハデス!」
 アッシュとフィッツの間を通り抜けたドクター・ハデス(どくたー・はです)は、手にフィッツが持っていた牛乳瓶のふたを開けると勝手に中身を飲み干したのだ。
「また前回みたいにドリルを付けに来たのか? 今回はドリルを付けても意味が無いぞ」
 はぁ。と深いため息をついてからアッシュは牛乳を飲んでいるハデスにそう言った。
「ククク……アッシュよ! 偽アッシュに勝つために、大食い大会前に特訓だ!」
 ハデスの言葉に、ぽかんとした表情で何も言えないアッシュをよそにハデスは続きを喋る。
「アッシュよ。大食い大会では、胃袋への高い攻撃力が出てくる事が予想される! そこで! この俺の特訓では、お前の胃袋を鍛えようと思う! さぁ、出てこい! 我が妹咲耶よ! アッシュの胃袋を鍛えるための地獄のフルコースを持って来るのだ!」
「えっ? アッシュさんが大食い大会に勝つために、私の力が必要? わ……わかりましたっ! そこまで兄さんに頼りにされたのなら、腕によりをかけて料理します!」
 いつの間にかハデスの隣にいた咲耶は、ハデスの言葉に感激しハデスの手をそっと両手で包みこみました。
「と言う事で、アッシュは攫って行くぞ。さらば!」
 ハデスは、アッシュの服の襟首を掴むとフィッツに向けて挨拶をしアッシュを拉致したのだった。

 ハデスが借りた繁華街の中にある雑居ビルの一室に閉じ込めらたアッシュは、なぜか椅子にロープで縛りつけられ固定されていた。
 目の前にあるテーブルには、咲耶が作ったフルコース料理が並びますが、それは料理とは言えないグロテスクな物ばかりだった。
「……って、何故俺も一緒に食べねばならないのだっ!」
 アッシュと一緒に椅子にロープで固定されたハデスは、咲耶に向けて言い放った。
「だって。ついでに兄さんにも食べてもらって、私の料理の腕を認めさせてみせます! 何故か、家では料理させてもらえませんからね。さぁ、遠慮せずに二人とも召し上がれ♪」
 ドン。と重い音を立てたテーブルには、また違うグロテスクな料理が蠢いていた。
「が、がふうっ……ってアッシュ! ずるいぞ! お前だけ失神するんじゃない!」
 アッシュの口から魂が抜けだそうとしている事に咲耶は気が付きもせずに、どす黒い料理を半開きになっている口へと突っ込ませたのだった。

そして大会前日の夜。

「わ……我が弟子アッシュよ、よくぞ厳しい特訓に耐えたな。この俺から教えられる事はもうない」
「まぁそりゃこんだけ食わされたら……」
 アッシュは半眼でハデスを見ると、めちゃくちゃになっている調理台を見つめた。
「兄さん、アッシュさんお疲れさまでした。アッシュさん、明日の大会頑張って下さいね」
 咲耶はアッシュを縛りつけていたロープを外しながらそう言った。
「そ……そこそこに……ってあいつ気を失っているな」
「えっ!?」
 アッシュは、咲耶に後ろを向けと指で示した。
 咲耶が後ろを振り向くと、ハデスが気を失ったため椅子ごと床に倒れそうになっていた。
「ちょっと!! 兄さん。……って救急車」
 ほどなくして、ビルの入口に救急車が止まりハデスは近くの病院に入院するはめとなったのである。

△▼△▼△▼

「……と言う事なのです」
 壮絶な内容を話した咲耶は、目尻にたまった涙をハンカチで拭いた。
(うわぁ……)
 それを聞いた未来は、絶句しただけで咲耶に何も言えなかった。
「おおっと! ここで料理人交代のようです!」
 この松崎の言葉に、未来と咲耶は大型モニターへと注目したのだった。