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第三章 テロへの制裁

 「貴様ら、何してる!」
 男の問いにクリームヒルトは慌てた様子で、声を出した。
「な、何もしていないわ……わ、私達は学生よ……」
 自分達はか弱い学生であることをクリームヒルトはアピールする。
「ほ、ほら。私達は何も持ってないの、お願い。殺さないで!」
 自分達が何も武装を所持していないことを、クリームヒルト服を脱いで見せつけた。
「ね……だ・か・ら――」
 自らの豊満な肉体を惜しげもなく見せつけつつ、摩耶、ミムと一緒にテロリスト達に歩み寄る。
 クリームヒルトは彼等に豊かな胸を押し付けた。弾力のある胸は、男の腕に当たり厭らしく形を変える。
「ねぇ……良いでしょ?私達、逞しい人って嫌いじゃないの」
 開いた男の胸元に舌を這わせる。
「そうでしょ……摩耶、ミム……」
「ええ、貴方達もその方が良いでしょ……」
 ゴクリと男の唾を呑みこむ音が聞こえた。
「ふふ……いっぱい楽しみましょ……」

 「リリン様。わたくし、少々張り切り過ぎてしまいましたわ……あら、クリム様。お楽しみの所をお邪魔してしまいましたわね」
 乱れた着衣の二人が更衣室の扉を開くと、男達と淫靡に喘ぐ三人の少女達がいた。
「……って、あれ、リリンちゃん?」
「……ま、摩耶様が何やら辱めに遭って……!」
 先ほどまでの自分は何処へやら、憤怒の表情へとリリンキッシュは変貌した。
「……ええい、リミッター解除!摩耶様から離れなさい!」
 『サンダーブラスト』が全裸の男達を焼いた。
「リリン様。如何か落ち着いて下さいまし」
 ふーふーと荒い呼吸でテロリストの男を殴りつけるリリンキッシュ。
「って、ちょ、落ち着いてー!?」
「もう少し遅くても良かったのに、うふふ。楽しめたわね〜摩耶、ミム♪」
「次イくわよ♪」


 「ねえ、それ……あたしに貸してくれる?」
 シャーレットが見ていたのは、生徒が手に持ったボールペンだった。
「……うん」
 こっそりと生徒がシャーレットに手渡しする。
「ありがと……」

 「イタタタタ!」
 突然、シャーレットが腹部を押さえて声を上げた。ゴロゴロとテロリストの方へと転がっていく。
「どうした!?」
 テロリストの一人がシャーレットへと近づいていく。
 それを見て、シャーレットはニヤリと笑った。
「おい、どうした?」
「いたた……た……」
 男の両膝の裏側をシャーレットの手刀が叩いた。
「!?」
 ガクッと男の膝が崩れた。立ち上がりざまに男の服を掴み、バランスの崩れた男を後ろに引き倒す。
「ぐっ!」
 男の首を掴み、先の出たボールペンを首に押し当てる。
「ボールペンって意外と刺さるらしいんだよね、試してみる?」
「っ……」

 「おい!」
 もう一人の男が慌てて、此方に銃を向けるがもう遅い。
「お友達を撃ちたければどうぞ!」
 そうして男はセレアナに背後を見せた。動揺しているのか、近づくセレアナに気付くことが出来なかった。
「リミッター解除」
 『秘めたる可能性』を使用し、『放電実験』をセレアナが行使する。
「寝てなさい」
 男の肩に触れた腕から電流が迸り、男は全身を痙攣させて倒れた。
「貴方も……」
「ギっ――」
 

 「やれやれ……」
 イロイロと片付いた化学実験室でダリルはため息を吐いた。
「結局、ルカ達もリミッター解除しちゃったね!」
 ゴロゴロと端の方に縛り上げたテロリストをルカが転がしていく。
「ああ……あの時に片が付くはずだったのだが……」
 チラッとハデス一行を見やる。
「……うう、面目無いです」
 咲耶が申し訳なさそうに頭を下げる。ハデスは開き直っていた。
「ふん、偶々調子が悪かったのだ。そうに違いない!」

 「それで、この後はどうする?」
 ルカが化学準備室で何かを漁っているダリルを見た。
「コレを使わせてもらう」
 ドンと机の上に複数の瓶を並べた。
「さあ、テロリストと戦争だ」
「ハデス達は生徒達を避難させて!ルカ達は他の生徒を助けに行ってくるよ!」


 「ていっ♪」
 教室の窓ガラスをブチ破り、科学瓶が投げ込まれた。ガラスの容器が割れ、異臭が立ち込める。
「が……ごほっ!……うっ……何――」
 テロリストの二人は同時に口元を抑え、むせ始めた。
「今よ!」
 ルカの声が聞こえ、そして、海が肩に手を触れたのを柚は感じた。
「「リミッター解除」」
 床を蹴り、海が駆け出した。蹴りだした反動で床が軋む。
「『ブリザード』」
 魔法を発動する腕に力を込め、柚は氷嵐の効果範囲をテロリスト達が持つ銃に絞りこむ。
 銃が氷結し、引き金を引いても火薬が発火しない。
「馬鹿な!」
 狼狽するテロリストへ海が正拳を撃ち込む。男は壁際まで転がり、意識を失った。
「三月!」
「分かってるよ!」
「手が――!」
 腕が銃に張り付き、動きの鈍い男に三月が回し蹴りを放ち顎を左手の掌底が叩いた。

 「……良いタイミングでした」
「大丈夫だった?」
 海はルカへと向き直った。
「ええ、柚や他の生徒達も無事です」
「そう、良かった。あ、柚ー?」
 三月と一緒にテロリストを縛り上げる柚をルカは呼んだ。
「はい、何でしょうか?」
 テテテッと柚が近づいてくる。
「私はテロ犯の様子を探る。海と柚は戦う意思を持った生徒を集めてほしいの。ダリルが武器を持ってくるから、そしたら皆で一斉に取り押えましょう」
「はい、海君と一緒に校舎を回ってみます」
「うん、御願いね。これは戦争よ!
 私達に喧嘩を売ると高いって教えてあげましょう」
 ニッコリとルカは闘志を剥きだしにして笑う。
「まあ、待て。ルカ。海達には生徒達の避難をしてもらう必要がある」
「むぅ……確かに」
「先ずは俺達で動くぞ」


 「全員教室のそこの隅へ移動しろ!」
 テロリストが銃を振り、場所を指示する。
 静かに席を立ち、ビクビクしながら生徒達が教室の隅へと動いていく。
「ねえ、僕たちはどうする?」
 振り返るコハクの後ろに美羽はいなかった。
「……美羽?」
「……」
 ただ、指示に従わない生徒がいた。美羽と香菜の二人である。
 二人は生徒達と距離を取り、生徒達が射線から外れる位置へと移動する。
「おい!何してる?」

 「行くよ……香菜!」
「はい」
「「リミッター解除」」
「な!?」
 次の瞬間には、美羽は疾く机の上を駆けていた。
「くっ、撃て!」
 パパパっとマシンガンが火を噴く。木製の机や椅子を削り飛ばし、穴を穿っていく。
 が――、相手はコントラクター。
「当たる訳ないでしょ!」
 美羽が空中を跳ねる。天井に手を突き、身体のバネを使って下へと跳ねる。
 天井に無数の穴が開く。天井に穴が開いた時には、美羽は既に床へと到達、既に体は前方へと動いている。
 上下に素早く動き、美羽はテロリストへと肉薄する。

 「ふっ!」
 机が一つ空を舞った。勿論、香菜が投げた物だ。
「くっ!」
 机により香菜がテロリストの視界から消える。
「何――」
 テロリストが空を舞う机を目で追う間に、香菜は背を低くし、机と机の間を縫うように走り抜ける。
「みんなに迷惑を掛ける人は許しません」
 再び机が空を舞う。
「止まれ!」
 男は反射的に、空を舞う机に向かってマシンガンを撃つ。
 香菜は机とは別の位置から真っ直ぐ接近する。
「「大人しくしなさい!!」」
 少女二人が空を舞い、テロリストの側頭部を鋭く蹴り抜いた。

 「……僕の出番は必要なかったね」
 昏倒したテロリストから武器を外すと、コハクはテロリストをガムテープで縛り上げた。