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雪 汐月(すすぎ・しづく) ベファーナ・ディ・カルボーネ(べふぁーな・でぃかるぼーね) アドラマリア・ジャバウォック(あどらまりあ・じゃばうぉっく)



まったく同じ外見の人と、続けて出会う機会というのは、普通の人の人生においてどれくらいの確立で発生するんだろう。0.の.の後にどれだけ0が続くのかな。
そもそもが、ある程度の数のデーターを集めて、信ぴょう性のある数字として、統計なんかの形にできるメジャーな体験ではないよね。
僕と汐月ちゃんがいた部屋に、いきなり1人め(A)が飛び込んできて、それから、1分もしないうちに2人め(B)がやってきた。
(A)と(B)の2人が並んで立つと、ほんとに鏡の前にいるみたいにそっくりで、着ている服も靴も帽子も同じものらしい。
執事服に黒の革靴、シルクハット。
それでも、2人を見分けるのは簡単で、なぜかといえば、1人は泣いてて、もう片方は不機嫌そうに顔をしかめていたからだ。
別に僕はこの部屋の主ではないけれど、当然の訪問者である2人に、状況説明ぐらいは求めてもいいよね。

「きみらの外見について質問があるんだ。
きみらはクローンか、同型の執事アンドロイドかい。
または、タイムトラベル中に出会ってしまった同一人物とか。
これだけ似ていて、双子や兄弟ってオチはないよね。
変装にしても、身長も体格も寸部たがわぬ同じの姿の人になるのはムリだし。
きみらはまるで、映画で同じ俳優が1人2役をやってるみたいにみえるよ」

「ただの偶然ですよ。
そんなに似てますかねぇ。私にはそうは思えませんが」

しかめっつらをしていた方が、首をひねった。
これで似ていないなら、判定が厳しすぎて、世の中から物まね名人もそっくりさんもいなくなる。

「私に質問されるのでしたら、外見のことなどでなく、なぜ、私がこの部屋にきたのかを問うほうが先ではないでしょうか」

「ごめん。僕はかわい維新。隣にいる存在感がマイナスな子は雪汐月ちゃん。
僕らがこの部屋で今後の活動につて話あってたところへ、きみら(A)と(B)がやってきたんだ」

「よろしい。事情はわかりました。
私はベファーナ・ディ・カルボーネ。これは」

ベファくんはまだ泣きやまない、もう1人の自分を手で示した。

「私はアドラマリア・ジャバウォックでございます。
維新様。汐月様。
ノックもなくお邪魔してしまってもうしわけありません。
先に入ってきたのは私でございます。
お2人がいらっしゃるとも知らず、自分のことだけを考えて、ここへきてしまいました」
アドラマリアちゃんは女の子だ。外見は一緒でも声がベファくんと違う。

「泣かなくて…いい。私も維新ちゃんも…あなたを責めたりしないわ。ここへきた目的は…なに」

汐月ちゃんは、やたらにていねいで腰の低いアドラマリアちゃんが気になるらしい。

「アドラマリアくんがここにいる理由。私もそれは知らないですね」

ベファくんは、ボケのなのかつっこみなのかわからない。じゃ、あんたはなにしにここへきたんだ。

「私は、においにつられましてね。ちょうどノドが乾いていまして。
たまたま好みの飲み物のにおいがすると思ったら、においの元がアドラマリアくんだったんですよね」

真顔でベファくんは言うけれど、アドラマリアちゃんからいいにおいなんて、まるでしないと思う。
無臭だ。
僕の鼻がつまっているのか、ベファくんが壊れているのか、どちらかな。

「いいにおい、しないよね」

汐月ちゃんに確認してみる。あっさり頷いてくれるのを期待してたのに、彼女はきっぱり首を横に振った。

「するわ…いいにおいではないけど…微かな血のにおい…遠くからでは嗅ぎつけられるほどものではない。
あなたは…吸血鬼、ね」

「どうでしょうかね。なら、これが血のにおいとわかるあなたも、そうなのではないですか」

汐月ちゃんのつぶやきで、ベファくんのどこかのスイッチが入っちゃったらしく、目つきが怖くなってる。

「あの、あの、あの、それは私が粗相をしてしまったが故に、私の衣服についてしまった液体の香りのことではないでしょうか。すべては、私の責任でございます」

まだ泣きやまないアドラマリアちゃんの発言が、さらに事態をややこしくしそうです。
衣服に血がつく粗相ってどんなやねん。
きみの血。それとも、どこのどなたさんの血なの。

「人でも殺しましたか。それで、パニックになって慌てて、この部屋に逃げ込んだ。
アドラマリアくんなら、ありそうな話です」

「……殺したの」

ベファくんも汐月ちゃんも、平然と殺した、殺した、言ってます。
僕とは、住んでるリーグが違う人たちな気がする。

「違うのです。
私は、今回の殺人事件のお話をいろいろなかたからお聞きするうちに、どうやら、その、これらの事件には、あの、現場でお姿を目撃されたようで」

アドラマリアちゃんが伏し目がちに、ちらちらとベファくんを眺めた。

「私がどうかしましたか。
殺人、ですか。
たしか、3匹、死んだそうですね。
それなら、私とは関係ありませんよ」

ベファくんはあっさりと容疑を否定。

「本当でございますか。
私はてっきりベファ様が関係しているのではないかと、余計な心配をしてしまって、もし、そうでしたら、私になにかお力になれることはないかと、つい」

ほっと一息ついているアドラマリアちゃんを僕は追撃する。

「犯人のフリでもして、捜査をかく乱しようとしたわけ。
アドラマリアちゃん、すごいね。
そういう登場人物がいるから、事件はどんどん複雑になって、ミステリが成立するんだよねぇ。
本人に真偽をただすまえに、いきなりかばおうとするとか、まるで母親じゃん。
結局、事態を混乱させただけでなくて、自身の身まで危険が及んじゃったわけだ」

「はい。私を真犯人だと思われたのか、さきほど、いきなり襲われてしまって、私もつい必死で抵抗してしまい、お怪我をさせてしまったようなのです。
なにがなんだかわからなくなって、とりあえず、このお部屋に逃げ込んでしまって」

「……敵はいまもあなたを探しているかも…あなたは、あなたがたは…どうして狙われているの」

汐月ちゃんは、おっとりめの彼女なりに、アドラマリアちゃんが持ち込んできたトラブルに対処してあげようとしている。

「なぜ、狙われているのか。私には具体的な理由はわかりかねますね。
館での生活中、やはり、嘘の証言をして犯人らしくふるまっていたのが、どなたかのおお気に召さなかったようで」

アドラマリアちゃんは、反省してるみたいだけど、嘘つくだけで殺されるなら、僕なんかとっくに死んでると思うな。

「ああ。
そういえば、マジェに遊びにきたついでに、通行人をいただいて、忍び込んだ建物の中で消化のために寝ちゃった事があった気がするんです。
物置か屋根裏部屋だったかな。
夜中に起きて、せっかくなので建物自体を探索していたら、身なりのいい人が胸にナイフを刺して廊下で寝てました。
ちょうど、ノドが乾いていたので、つい何回かザクリとやらせていただいて、ジュースをごちそうになりましたよ。
あれはたしか、博物館だったような、ではなかったような。
マジェでの思い出は他にもあって、ある日、動物園を散策していたら男性の死体がありました。
きちんと処分もせずに道に捨ててあったのです。
夜中でしたかね。
死にたてなら、すこし味見してみようと齧ったらあまりに不味くて、思わず、いらねって、ちぎって、ライオンの檻に投げちゃったんです。
ご招待にはあずかったものの、ここにきても特になにをすればいいのかわからなかったので、ずっとふらふらしていたのですが、みなさんが、私から聞きたいのは、こんな話ですか」

ベファくんののんきな口調の告白後、僕らはみんな沈黙した。