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【ぷりかる】水無月スーパーライブ

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【ぷりかる】水無月スーパーライブ

リアクション


サプライズハプニング

 【ぷりかる】の面々が舞台袖に掃ける様を見届けると、十文字 宵一(じゅうもんじ・よいいち)はホッと胸をなで下ろした。
「脅かしやがって……」
 ホールの開場時より客席の警備を行っているが、今のところ騒ぎも異常も見つかっていない。最も警戒していた【ぷりかる】のデビューステージさえも何事もなく無事に終えることができた。
 自分たちの警備が功を奏したのか、はたまた犯人の狙いは別にあるのか。
 現状は相変わらずに予断を許さない状況ではあるものの、グィネヴィア・フェリシカ(ぐぃねう゛ぃあ・ふぇりしか)を守るべく「紫銀の魔鎧部隊」に志願した宵一にとっては、最大の山場を越えた気分だった……のだが―――
「まぁ、グィネヴィアが無事で何より――――――ん?!!」
 2度3度とまばたきを交えて目を見開いた。
 袖に掃けたばかりのソフィア・アントニヌス(そふぃあ・あんとにぬす)グィネヴィアの手を引いて戻ってきたのだ。
「なんで……」
 同じく【ぷりかる】のシェヘラザード・ラクシー(しぇへらざーど・らくしー)楊 霞(よう・か)が2人を追いかけるようにしてステージに上がった所で、デビュー曲のイントロが流れ始めた。
「リーダー!!」
 パートナーのリイム・クローバー(りいむ・くろーばー)も異常を察したようだ。
 一見すればただの「アンコール」。観客の手拍子や煽りが起こるより先にステージに戻ってきていたが、ライブの演出としては十分にあり得ることだが―――
 観客の誰もがそう受け止めて盛り上がる中、宵一リイムは持ち場を離れて正面ステージへと向かい駆け出した。
 ソフィアの様子がおかしい。
 先程よりもダンスにキレがある。小さく縮こまっていた先刻のそれが嘘であったかのような、ダイナミックなステップでイントロパートを踊りきっていた。
 ……と、そこまでは良い。しかしやはりに嫌な予感は的中した。メンバーらのソロパートに入ると、彼女は「真紅の槍」を手に、演舞を披露し始めたのだ。
「(…………最高のパフォーマンスを……最高のデビューステージを…………)」
 槍舞は確かに曲のリズムに合っている、しかしその軌道は何度もメンバーの動線をかすめ、すでに2度ほどグィネヴィアの肩上をかすめ過ぎていた。
「僕は空から」
 リイムは『スレイプニル』を駆り、ステージ上空へ。宵一はステージ袖に回り、陰からグィネヴィアを守ろうと―――
「(…………全力全開で彼女を守る…………)」
「ちょっ……何だこれ?」
 持ちうる力を2000%発揮して彼女を守る。いや自分は決して目立つことなく彼女を陰から守ると決めていた、それなのに―――
 体の自由が効かない。気付いたときにはステージに上がり、『召喚獣:フレースヴェルグ』を呼び出していた。
「宵一が……宵一が思いっきり目立ってまふっ!!」リイムは目を疑いつつも、すぐにその答えに辿り着いた。
「……紫銀の魔鎧?」
 装着者の欲望を増幅させ暴走させる。「陰ながら」という、謂わば彼の理性で制御していた部分が抑えこまれ「彼女を守りたい」という欲望だけが彼を支配しているに違いない。
 『召喚獣』に続き『霊杖【桜姫】』を構えている。もはや形振り構わずに彼女を守る体勢に入っていた。

「ちょっ……あれはさすがに……」
 舞台袖で【ぷりかる】を見守ってきたコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)もその異常に気付いた。ダンスのキレは戻っているが、息は荒く、目も血走っている。何より彼女は「見たことのない鎧」を身に纏っていた。
「(…………最高の舞台……全身全霊を尽くして…………)
 体はキレているが、顔には全くと言っていいほど生気がない。やっぱりオカシイ。
「何やってんの! さっさと降ろすのよ!」小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が飛び出した。
 コハクも続いて飛び出したが、戦闘には加わらず、彼女の『百獣拳』が炸裂するのを3歩下がって見届けた。彼の役目は気絶したソフィアを抱いて運び出すことにある。
 「紫銀の魔鎧 type-β」を着ているからだろうか、思った以上に抱え上げるのに苦労したが、彼は見事に舞台袖への帰還を果たした。
 アイドルを抱き抱えて立ち去る男。誤解が解けるまで、いや解けたとしても、だろうか。これをキッカケに自分が命を狙われる事になろとは、この時の彼には知る由もなかった。

「宵一、ごめんっ!!」
 『スレイプニル』を駆るリイムは、滑空の勢いのままに宵一の背に『スタンクラッシュ』を叩き込んだ。
 「紫銀の魔鎧 type-β」を破壊するつもりで放ったが、大きく砕いてヒビを入るに留まった。
 それでも気を失い倒れる宵一を回収して撤収することには成功した。結果誰よりも目立っていた事は彼には内緒にしておくとしよう。


「え〜〜〜〜〜と、」
 さて、どうしたものか。司会進行を担当する五十嵐 理沙(いがらし・りさ)はマイク片手に迷っていた。
 前触れもなく「アンコール」が始まったかと思えば、新人アイドルが槍を手に暴れたり、鎧を着た男が乱入してきたかと思えば即刻退場させられたり。おまけに『召喚獣』まで現れる始末。
 このままではライブは中止になる。
 自分が司会を担当したイベントが中止に追い込まれるなんて、そんな屈辱的なことだけは―――
「以上、企画・出演【ぷりかる】によるアンコール演目『鳥獣戯画』でしたー♪」
「セレス?」
 同じく司会を務めてきたセレスティア・エンジュ(せれすてぃあ・えんじゅ)がウインク一つで合図してきた。
 なるほど、一部始終を『ハプニングの演出』として処理するつもりか。それならば、
「いやー、実は私たちも聞かされてなかったのでね、少し慌ててしまいましたが。というかサプライズを用意しているならせめて共演者には知らせておくのがマナーというか礼儀ですよね、ねぇ、セレス?」
「えっ! あ、そうですね、マナーと礼儀は同じ事ですね」
「私にダメ出し?! そうじゃなくて【ぷりかる】の面々がね―――」
「そうですね、新人が調子に乗ってサプライズなんて用意してるんじゃねーって事ですよね?」
「言ってないよ! そんな風に聞こえたの?! 私すっごい嫌な先輩じゃん!」
「口癖が「若い芽は早めに摘むに限る」の人は凄いですねー、まさかデビューイベントで潰しにかかるなんて」
「そんなこと一言も言った覚えねぇしっ!!」
 意図せぬ流れから漫才に発展してしまったが、それでも会場の混乱は少しばかり収まり始めていた。
 2人が掛け合いをしている最中にヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)が『オープンユアハート▽』で観客たちの心を落ち着かせて回っていた事が十分な助けとなったのもまた事実。
 このライブに賭けているアイドルがいる。今日のライブを心から楽しみにしていたファンがいる。
 せっかくのライブイベントを、こんな形で台無しになんてさせたくない。
 観客たちの注目を今一度自分たちへと向けられるなら漫才でも何でもいい。ここまで来たら意地でもイベントを成功させてやる。
 応援ユニット『ワイヴァーンドールズ』の名にかけて、理沙は身振り手振りを交えながらに「場を繋ぐ言葉」を発し続けたのだった。


 会場がざわめいている今こそチャンス! 
「ほら、2人とも! 上がって上がって!」
 ジャケットスーツでビシッとキメたローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)が2人の背を押して「花道ステージ」へと登らせた。観客たちはどうにも混乱しているからか、2人に注目する者はさほどに多くない。
 しかしそれでも大丈夫! ローザマリアには秘策がある。それがこの―――
「おゥ、あのスケートは、よくもフザケたマネしてくれたな、ああ?!」
 前方のオーロラビジョンに典韋 オ來(てんい・おらい)の恫喝シーンが映し出された。対するエシク・ジョーザ・ボルチェ(えしくじょーざ・ぼるちぇ)も鼻先を押し当てながらに、
「剛毅な成りをして根に持つタイプ、と。小っちゃい」
 決して声を張っているわけではないが、殺意を込めた挑発口撃でこれに対抗していた。ちなみにオ來が言った「スケート」とは以前出場した「グィネヴィア杯・フィギュアスケートの部」での競技中交戦の事を言っているのだろう。2人はそこでも「死合・斬り合い」を繰り広げ、結果両者共倒れの引き分け試合を演じたという経緯と因縁がある。
「ハッ、その手には乗らねぇぞ。あたいは「せらぴー」を受けて挑発されても冷静さを保てる様にして来たんだ」
「熊が精神医療を受けた所で、むだムダ無駄」
「だぁ、かぁ、らぁ、その手には乗らねぇって言っているんだクマー!」
「保健所に引き取って処分して貰おうか、この熊女」
 口論から取っ組み合いが始まるまで、その一部始終が流れていた。間違いなく、つい先程の待機中のバックステージでのやり取りだが、撮られていた事にすら気付かなかったのだから、使われ方なんて余計に見当すらつかない。
 突然のムービー垂れ流しに、観客はもちろん当の2人も呆気に取られた様子で―――
「おいコラ、ローザ、こいつは一体どういう事だ?」
「私は、あなた達2人のマネージャー……いえ、ゼネラル・マネージャーよ!」
「……ゼネラル・マネージャー?」
「そう! 2人とも! 欲しい物は、自分の力で勝ち取りなさい!」
 そう言ってローザマリアが指をパチンと鳴らすと、「十字花道のクロス部分」からスモークが一気に噴き出した。
 煙が晴れて、ライトアップされるとそこにはいつの間にこしらえたのやら「特設リング」が設置されていた。
「シャナ(富永 佐那(とみなが・さな))に借りたのよ『特設リング作成キット』」
「……特設リング」
「はっ。最高じゃねぇか。手前ぇとケリ付けるのに、こんな相応しい場所はねぇ」
 2人共に意図を理解した。すでに会場の注目は2人に向いている。その中を2人は顔を突き合わせてリングへと上って行った。
「あたぃにボコられる覚悟は出来てんだろうなぁ?」
「望む所。漸く、白黒付ける事が出来る。取り敢えず、逝け」
 リングに上がるや否やエシクがドロップキックでオ來を蹴り飛ばした。
「んぬらぁああっ!!」反撃のオ來はラリアットを喰らわせると、そこからパワーボムへと繋いで投げ飛ばす。
「熊の太い足は掴みにくい……なるほど、これも立派な防御策」
「誰がだコラァ!!」
 オ來の右足に腕を回して、そこから足四の字固めで痛めつけてゆく。こちらも完全にキマっていたが、熊女なオ來は力技でこれを解いて逃れた。
 技の応酬。互いに確実にダメージを重ねてゆくと、結局最後は息も絶え絶えに両者グッタリでKO。
 辛うじてエシクが起き上がり「わ、私の勝ち……これでデビューは私のもの―――」なんて言っていたが―――
「え? 誰がアイドルデビューだなんて言ったの?」
「………………え?」
まさか……
 2人にとっては非常で残酷、トドメの一撃をローザマリアがマイクを手に、放った!
「以上、【ライラッ・熊(ライラックマ)】によるバトルコントでした〜♪」
 ちゃんちゃん♪ なんてSEも流れて2人がコケる。単に力つきて崩れただけだが、2人同時に「オチた」辺りは、これからの可能性を十分に感じさせたのではないだろうか。
 もちろん「アイドル」としてではなく「バトルコント師」として、ではあるのだが。