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リアクション
【肉牛と乳牛、どっちが好きかでおっぱい派か太腿派か分かるんだって!(嘘です】
漆黒の闇に包まれた街を駆け……ず、のんびりと歩く丑アッシュ。その図体通りの動きは見る者に「力を得てもやっぱりアッシュか」という感覚を湧き上がらせる。
ただでさえデカくてウザいのに、時折「しゅー」と全く緊張感の欠片もなく鳴くものだから、ウザさ倍増である。
「愛と正義と平等の名の下に! 革命的魔法少女レッドスター☆えりりん!
人民の敵は粛清よ!」
その丑アッシュの群れの前に、三人の魔法少女が立ちはだかる。先頭に立った魔法少女、空色のレオタード風魔法少女コスチュームに身を包んだ藤林 エリス(ふじばやし・えりす)が掲げる赤旗を丑アッシュが見た途端、
「ンッシューーー!!」
機関車の如く鼻から息を吐き、丑アッシュが興奮する。
「ふん、聞いた通りね。神聖なる赤旗に反旗を翻す、資本主義の豚め!」
「えりりんちゃん、豚じゃなくて牛だよ?」
「あれ、そうだっけ? まぁどっちでもいいわ、どうせ合い挽き肉にしちゃえば同じ事だしね!」
アスカ・ランチェスター(あすか・らんちぇすたー)に指摘されたエリスが、赤旗として使っていた杖『レッドフラッグロッド』を丑アッシュの群れへ向けると、魔力を集中させる。
「いくわよ! 必殺のシベリア極寒ブリザード!
氷漬けの冷凍牛肉にしてやるわ!」
そして、解き放たれた魔力は全てを凍りつかせる極東の風となって、丑アッシュを襲う。赤いものを見て興奮していた丑アッシュだが、そのあまりの寒さに落ち着く……どころか全身を凍りつかせて活動を停止させられる。
「ンッシュ!! ンッシュ!! ンッシュ!! 」
しかし丑アッシュもただやられっぱなしではなく、鼻息荒く猛然と突進を開始する。
「いぇーい、魔女っ子アイドルあすにゃん登場♪
……あ、こらっ。アイドルの歌は静かに聴かないといけないんだよ?」
アスカの歌も、この時ばかりは丑アッシュの動きを止めるに至らない。効果が薄いと知るや、残念そうにアスカがため息をついて、持っていたマイクを仕舞う。
「もう、まるで汽車ぽっぽみたいな声出しちゃって。
騒ぐ迷惑な客には、お仕置き、しなくっちゃね★」
ふふ、と笑って、アスカが両手に剣を握る。歌姫から剣の姫へと『変身』したアスカが目をパッ、と開き、突進する丑アッシュの群れへ剣を振りかぶる。
「私の斬音剣で、静かにさせてあげる!」
声と共に剣が振るわれるが、聞こえてきたのはアスカの出した声の余韻のみ。だからといって攻撃が外れたわけではなく、ちゃんと切り裂かれた丑アッシュは地面に転がっていた。
「分かったかな? これからはアイドルの歌は、マナーを守って聴こうね♪」
ウィンクをして可愛く決めたアスカが、エリスの見舞う極寒の冷気で凍らされた丑アッシュの解体に取りかかる。
「牛肉牛肉〜♪ えりりんちゃん、私ステーキがいいなー☆」
「私は牛鍋にしたいわね。一通り片付いたら牛肉フルコースのクッキングタイムよ!」
二人の息の合った連携に、丑アッシュは尽く食料となる運命にあるようだった。
「「しゅしゅしゅしゅ」」
しかしそこへ、こんな時にウザさ炸裂、子アッシュが割り込んでくる。子は丑に乗ってお参り、という歌があるように、丑のピンチに駆けつけたとでも言いたいのだろうか。
「万国のプロレタリアート団結せよ!
禁断の赤き魔道書、ミラクル☆きょーちゃん!」
だがそんな事は許すまじと、マルクス著 『共産党宣言』(まるくすちょ・きょうさんとうせんげん)が魔法少女の名乗りをあげ、地面に何かをばら撒く。
「「しゅしゅしゅしゅ――――」」
食べ物の匂い――チーズだった――に釣られて勢い良くそれらを食した子アッシュが、ばたり、と倒れてそのまま動かなくなる。
「……おや? これほどの効果とは、驚きですね。
ホウ酸を直接摂取したとしても、これほど早く死ぬはずはないと思ったのですが……」
あまりの効き目に、きょーちゃんこと『共産党宣言』は首を傾げる。パラミタでも忌まわしきあの黒い物体Gへの対策として有名なホウ酸は、おおよそ摂取してから半日〜3日でGを死に至らしめる。それがこうも迅速に効果を発揮する理由としては、これはもう「やっぱりアッシュだから」という以外にない、ということにしておこう。
「ともかく、これで少しは数を減らすことが出来るでしょう」
何はともあれ、効果があると分かれば利用するだけ。
異変を解決するため、三人の魔法少女は奮闘するのであった。
「ふぅ、やっと着いたよ〜。
お手製の魔法少女コスチュームを着るのに手間取っちゃった」
息を吐いて、ネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)が魔法少女となんとかアッシュの戦闘区域へ到着する。ネージュは現在、とある事情で魔法少女としての力を封印しており、ものの数秒もあれば着ることの出来る魔法少女衣装も自力で着なければならず、豊美ちゃんの要請があってから現場に到着するまで時間がかかってしまった。
「敵は……牛さんに、ねずみさん?
うーん、でもなんか、かわいくないなぁ」
魔法少女たちに凍らされ、解体され、または毒を盛られる丑アッシュや子アッシュを見て、ネージュがごく一般的な感想を述べる。流石にこの異形の生物を見て「きゃあかわいい」なんて言えるのはそうそういまい。
「それじゃあ、あたしも頑張っちゃおうかな。
魔法少女としての力はあんまり使えないけど、豊美ちゃんの声を聞いて来たんだ。あたしだって『豊浦宮』の魔法少女だもん!」
杖を手に、ネージュが極寒の冷気から逃れようとする丑アッシュに狙いを定め、地面を蹴って駆け出す。まずは魔力弾で丑アッシュの動きを制限し、脚が止まった所へ視界から消えるように跳躍、跨るように丑アッシュの背中に乗ると、
「えいっ」
こきゃっ、となんだか可愛らしげな音が響いて、丑アッシュの巨体が地面に崩れ落ちる。
「あら、あなたも魔法少女なのね。
ちょうどいいわ、これから牛肉フルコースのクッキングタイムにするつもりなんだけど、手伝わない?」
ふぅ、とネージュが息を吐いたところで、それまで盛大に丑アッシュを凍らせていたエリスがやって来て、ネージュに協力を願い出る。
「あ、あたし? うん分かった、頑張るよ!」
「ありがと。これだけの牛が葱背負ってやって来たら、放っておくのはもったいないわよねぇ」
楽しげに微笑んで、エリスが丑アッシュから手際よく肉を剥いでいく。それをアスカが手頃な大きさに切って、『共産党宣言』が焼いていく。
「ふんふんふん♪ これ、結構楽しいねー」
「同志エリス、いくら戦闘後とはいえこのような時間に食べては太りますよ。
そもそもこの肉、食べても平気なのでしょうか……」
肉を刻むのがクセになってきた様子のアスカ、素材の心配をする『共産党宣言』。調理が進むうち、辺りには香ばしい匂いが漂い始める。
「はぁ、いい匂い……。
ハッ、じゃなくて。お皿を用意しないとだね!」
完成しつつある料理を、ネージュが準備よく用意されていたお皿に受け止め、やはり準備よく用意されていたテーブルに並べていく。
「……うーん、なんだかいい匂いがしますー」
しばらくして豊美ちゃんがそこを通りかかると、食欲を刺激する匂いが立ち込めていた。
「あら、そこに居るのは豊美じゃない。どう? 一杯食べてく?」
豊美ちゃんに気付いたエリスが、鍋から一杯よそって豊美ちゃんに差し出す。
「これは一体何ですかー?」
「何って、見ての通り牛鍋よ。材料はまだまだ沢山あるから、お代わりもオッケーよ」
豊美ちゃんがエリスの背後を見れば、冷凍保存された牛肉が山と積まれていた。
「はむはむ……うぅーん、美味しいねー」
「むぅ、流されて結局口にしてしまいました。……しかし、中々に美味でありますね」
アスカと『共産党宣言』も、料理を美味しそうに食べている。
「豊美ちゃん、あたしも最初はどうだろうって思ってたんだけど、食べてみたら美味しかったよ!」
「そ、そうですかー……ネージュさんまで仰られるのでしたら、では……」
恐る恐る、豊美ちゃんが器に口をつける。
「……あ、ホントです、美味しいですー」
「でしょ? ま、戦いばっかりじゃ大変でしょ。ここで少し休憩していけばいいわ」
「じゃあ、そうしますー」
こうして、豊美ちゃんとエリス、アスカ、『共産党宣言』、それにネージュを加えたメンバーは、ぐつぐつと煮える牛鍋を囲んでしばしの間、楽しいひと時を過ごしたのであった。
丑アッシュの説明には、『実は食べると美味しい』という一文が書き足されたとか。
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