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【若社長奮闘記・番外編】初めての○○

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★ケーキは生クリーム派です!★



 ジヴォートたちが不思議な食材で作られたチャレンジ料理を食べている頃、宿へと戻ったかつみを、先に戻っていたナオノーンが鳴らしたクラッカーが出迎えた。
「誕生日おめでとうございます! かつみさん」
「え? た、誕生、日?」
 驚いて動きを止めたかつみの背を、エドゥアルトが優しく押す。咄嗟に一歩二歩と前へ歩いたかつみだが、その表情は喜びと言うよりは驚き。しかし驚きとも少し違う、何か複雑なものだった。
 ノーンが笑う。
「こういうサプライズに弱そうとは思っていたが、本気で動揺してるな! 驚きすぎだおまえ!」
「だって、だって……」
 誕生日のお祝いどころか、誰かと一緒に過ごすと言うことが初めてなかつみにとって、それは未知の体験だった。
「どんなこと言ったらいいのか。どんな顔したらいいのか、分からないし」
 動揺のままに口を開けば、ノーンが呆れた顔をした。

「こういうときは素直に『ありがとう』でいいんだぞ」

 かつみはその言葉にしばし呆然として、胸のうちでかみ締めて、それから――。

「……ありが、とう」
「どういたしまして」

 良かった。喜んでくれて。
 ナオはかつみの顔を見て自身も微笑み、それからあの人も成功しただろうか、と思いをはせた。


* * *


 今日もたくさん遊んだな、と周囲と談笑しながらジヴォートが宿へと戻る。プレジもそんなジヴォートの後ろにつき従いつつ、口元を緩めて笑っていた。
(……ですが、あまりお腹いっぱいにならないように、とは一体)
 動けなくなるわよ、とちゃかされたものの、プレジはその一言がどうも引っかかっていた。
(変わった食材のようでしたし、たくさん食べると身体に何か弊害が?)
 内心非常に悩みつつも、表にはまったく出さぬまま、一行のバスが宿へと到着。不思議なことに、誰もがぞろぞろとジヴォートとプレジに道を譲っている……ような気配を感じた。
 とはいえ観光中はジヴォートが先頭に立つことも多かったので、それほどおかしなことではないのだが。
 プレジがますます首をかしげていると、ジヴォートがドアを開けた。何かあったときのために、とプレジがいつでもかばえる様に身構える。

 パァンパァンっ!

 何かが弾ける音と、火薬の匂い。

「2人とも、誕生日おめでとう!」
「わっ何? え?」
「ジヴォート様、あぶな……?」

 クラッカーから出た紙くずを全身にかぶりながら、祝われた2人は――あのプレジまでもが――ぽかんとしていた。その驚きように、みんなが笑う。
「ふふふ。びっくりした?」
「2人の誕生日が近いってことで、用意させてもらったのよ」
「ああ、びっくりした。心臓が口から飛び出そうだった」
「はい。俺もです」
「つまり大成功、だな」
 口々に改めて「おめでとう」という言葉を投げかけられ、ジヴォートは驚きから喜びへと感情を切り替えた。だがプレジは戸惑った顔をしていた。こんなにも大勢で祝われたことがない(しかも主と一緒に)ので、喜びよりも困惑の方が強かった。いつも彼の誕生日を祝ってくれるのは、ジヴォートだけだったから。

「おめでとう! プレジ。今年の誕生日はすっげー良い思い出だな」

 そう主から祝いを言葉を受け、そうか、とプレジは気づく。難しいことはない。ただ、そう……いつものように。

「ありがとうございます」
 素直に喜べばいいのだ。

 宿の奥から出てきたケーキの上に乗せられたローソクを、歌に乗って2人で吹き消す。

「本当におめでとう、ジヴォート」
「父さん」
 そんなジヴォートにイキモがプレゼントを渡す。ショッピングモールで買ったものだ。中はシルバーのネクタイピン。手渡した時に、イキモの手が震えていたことには誰もが気づいたが、何も言わなかった。
「本当に、おめでとう」
「うん……ありがとう」
 初めて直接祝え、祝われた親子は自然と抱擁を交わした。プレジはサングラスをつけていて良かったと思いながら見つめていた。

 が。

 ふいにイキモがプレジの方を見たので驚く。今日は驚いてばかりだと驚きながら。

「プレジさん。ありがとうございます。息子を守り育ててくれて。あなたがいてくれて、良かった。どうかこれからも息子をよろしくお願いします」
「いえ、そんな……こちらこそ。ジヴォート様をこの世に生み出していただいて、ありがとうございます」
 イキモの手から、プレジにも箱が渡される。中身は万年筆だ。

「じゃーん、私からはもふもふのキャットシーたちだよ。可愛いでしょ? 名前付けてあげてね」
「ありがとう、ルカルカ。名前か……う〜ん。悩むなぁ」
「私たちからはこれ」
「俺らからはコレっすよ」
「ありがたい、のですが少し量が……っ!」
 その後はプレゼント合戦のようになり、ジヴォートとプレジはプレゼントに埋まった。顔だけをプレゼントの箱から出している2人を見て、みんなが大声で笑う。

「さあっ乾杯しましょう」
「夜はまだまだこれからだぜ!」
「料理も用意してるわよ」
「ケーキ! ケーキ!」

 こうしてアガルタ旅行最終日の夜は更けていく。

「ところでジヴォート。宿題についてだが」
「あ」

 その日、ジヴォートは眠れなかったと言う。


 終わり。