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温泉と鍋と妖怪でほっこりしよう

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 妖怪の山、待ち合わせ場所。

「今日はお誘いありがとうね。友人も連れて来てもいいと聞いたから一人連れて来たわ」
 橋姫の清奈はエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)の誘いを受け友人を連れて待ち合わせ場所に現れた。
「お待ちしていました」
「その方がご友人ですか」
 先に来ていたエースとエオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)は快く迎えた。
「はい、川姫の藍華ですわ。本当に清奈さんを誘って頂き感謝しますわ。何せ、彼女種族柄その……嫉妬心が凄いでしょ。宿の事を話す恋人を見るなり呪うと言ってチラシを破り捨ててそれこそ恋人を襲う勢いでしたのよ」
 川辺に住まう妖怪である藍華は清奈が嫉妬に荒れていた事を悪びれる事無くこの場でばらした。
 エース達が何かフォローの言葉を口にする前に
「藍華、余計無い事は言わないで頂戴な。あなたはいつも流れる川のように聞いた事を誰にでも垂れ流すのだから」
 清奈が友人の口を止めようとするも
「あら、いいいじゃないの橋と川のよしみでしょ。前に話してくれましたわよね。花見で出会った殿方達は、素敵で自分の嫉妬心など気にしなくて最高の花見を過ごせて楽しかったと。わたくしと女々さんに」
 藍華は話し続け、友人に優しくしてくれた殿方に笑いかけるのだった。
「……」
 ばらされた清奈は溜息を洩らし、居心地の悪さを感じていた。
「あの時は俺達も素敵な花見を過ごす事が出来て嬉しかったですよ」
「今日は紅葉も綺麗ですし、散歩に行きましょう」
 エースとエオリアは今度こそフォローを入れた。
「そうね。連れて来るんじゃなかったわ」
 口の軽い友人を連れて来た事を後悔しながら清奈はエース達と共に夕方まで散策する事にした。

 紅葉美しい山道。

「妖怪の山は自然がとても綺麗で素敵な場所ですね。四季の営みがとても綺麗に感じられていい所です……紅葉達も綺麗に色づいて……」
 『人の心、草の心』を有するエースは歩きながら美しく色づいた木々達に話しかけたりしていた。本日は清奈達がメインなので話し込むような事はなかった。
「優しいのね。だから、こんな私でも誘ってくれたのねぇ」
 植物を愛でるエースの姿を眺めていた清奈はぼそりと自分を卑下し始める。
「花が大好きですから。それにこんなという言い方はする必要は無いですよ」
 エースはにこやかに卑下する清奈の言葉を打ち消した。
「……ありがとうね」
 清奈はほのかに笑みながら礼を言った。
 その時、
「誰かこちらに来ますわね」
「妖怪ではなさそうですけど……」
 藍華とエオリアはこちらにやって来る妙な人物を発見していた。
 その人物は防護マスクで顔を覆い、冬山登山の格好をしていた。首にはネームプレートがぶら下がっている。
「もしかしてあの格好は……エース」
 エオリアは会った事はないが心当たりの人物を一人浮かべ、エースの方に振り向いた。
「間違い無いね。聞いた特徴と同じだから」
 エースも同じ考えらしくうなずいた。

 やって来たのはエース達の予想通りの人物。
「良かったぁ〜。人がいて」
 名も無き旅団を求める未来人ユリス・カガツであった。
「君は、例の旅団を捜しているユリス・カガツじゃないかい?」
 エースは念のため確認を入れた。何せこれが初対面なので。
「そうさ〜」
 ユリスはのんびりとネームプレートを示しながら返答した。
「どうしてこちらに?」
 ここにいる事情を訊ねるエオリアにユリスは
「結構集まった手記を読んで楽しんでたんだけど、この山にある温泉宿のチラシを手に入れて行ってみたくなって来たのさ〜。あちこち面白くて歩いているうちにおどろおどろした墓場に辿り着いたりとかして道が分からなくなって困っていてさ〜、山で野宿も良いかと思ったら君達に会えて助かったよ」
 それほど危機感のない口調で状況を語るのだった。
「随分、呑気だね」
「ここで野宿は危険だと思いますよ」
 ユリスの呑気さにエースとエオリアは呆れたり警告したり。
「大丈夫さ〜、装備も完璧だし、死にかけた事も数十回あったけど、この通り生きてるからね〜」
 ユリスは間延びした調子で全く心配ある事を言い出した。
「とりあえず、宿の行き方を教えますよ」
 エオリアは迷子中のユリスの手助けを申し出た。
「ありがと〜、で、どっち?」
 ユリスはおそらく笑顔で礼を言い、道を伺った。
「ここから……」
 エオリアは丁寧に道を説明してやった。
 そのおかげでユリスは宿への道を得てのんびりと去った。
 ユリスが去った後、
「随分、変な格好をしている人もいますのね」
 素直な感想を洩らす藍華。
「世の中、広いですから」
 話でユリスがどんな人物かは聞いているため苦笑気味のエオリア。
 しばらく散策を楽しんだ後、宿に戻りエース達は宿泊予定の部屋に案内した。

 部屋。

 散策を終えたエース達は宿に戻り、部屋に到着していた。
「なかなか、素敵な部屋ね。紅葉に……きっと夜になれば月がよく見えるわね」
「晩秋の月を見ながら鍋とはなかなかいいね」
 清奈とエースは広い庭を眺めて楽しんでいた。
 一方、
「……お手間を掛けてしまいましたわね」
 藍華は友人に聞こえないようにこそっとエオリアに声をかけた。
「何の事でしょうか」
 エオリアは藍華が何を言おうとしているのか知っているがあえて言わない。自分が『根回し』でセッティングしたなど執事である自分には当然の事。そもそも皆が楽しめればそれでいいのだから。
「こんなよい部屋、事前に予約しなければ取れるはずがありませんから」
 藍華はエオリアの返答に込められた気持ちを悟りながらも言った。感謝を言葉にせずにはいられなかった。
「……厨房に行って月見の用意をして来ます」
 エオリアは藍華の言葉に笑みで答えてから厨房に行ってしまった。
「……今日は楽しくなりそうですわね」
 藍華はエオリアを見送り、エースと友人の様子を笑みながら見守っていた。
 『調理』を有するエオリアは厨房でお月見団子と超有名銘柄の日本酒を手早く用意する。日本酒は火を通さず生酒でフルーティに美味しく頂く。準備を終えると厨房を貸してくれた礼にと宿の方に酒を差し入れした。
 その後、温泉を楽しんでからゆっくりと部屋で鍋を食べつつ窓の外の風景を楽しむ。
「こうして誰かと鍋を囲むのは楽しいものね。何より外から見えるのが美しい風景というのが落ち着くわ。今日は本当にありがとう」
 清奈は笑顔で鍋を楽しみながら風景に心を和ませ、嫉妬心で荒れた心はどこへやら。
「俺もその素敵な笑顔を見る事が出来て嬉しいです」
 エースの褒め言葉に清奈は
「本当にお世辞が上手ね」
 と言いつつも嬉しそうであった。
 最後は団子や日本酒を軽く飲みながら月見を楽しんだ。
 庭では月見には狐という事でエオリアが連れて来たパラミタギンギツネが月光を受け銀色に輝きながら駆け回っていた。
「やはり、月見には狐さんですね。おかわりはいかがですか?」
 エオリアが徳利片手に声をかけた。
「ありがとうございます。鍋も団子も食べる物が美味しくて満足ですが清奈さんが楽しそうなのが何よりですわ。会う度に嫉妬に満ちた話を聞くのは疲れますから。いつもあのように穏やかであればいいのですけど」
 藍華はお猪口を差し出して注いで貰うなり、ちらりと楽しそうにしている友人に視線を向けた。
「仲がいいんですね」
 と、エオリアは笑顔。余計な事を口にしつつも藍華が友を気遣っている事は見ていて分かるから。
 エース達はまったりと月の美しさを堪能していた。