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壊獣へ至る系譜:陽光弾く輝石の翼

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壊獣へ至る系譜:陽光弾く輝石の翼

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■ 金色の系図と銀色の楔 ■



 金と銀に光る白い文字が四方の空間に隙間なく、規則正しく並べられられているのは圧巻であった。
 文字一つ一つが小指の爪半分程の大きさであるのを考えれば、どれだけの文字が並んでいるのだろう。
「こ、壊れたりしませんか?」
 移動が望めないのならばと噴水の方から飛んでくる結晶化を促す矢の脅威からこの場所を守ろうと考えているリースは想像以上に広がった文字の多さに矢の的にならないのかと質問を投げかける。
「問題ありません。浮かんでいるのは全て此処に無いものですから『当たる』事はありません」
「こ、此処に無い?」
「先にも説明させていただきましたが、これは何が起こっているかの情報を視覚化させたものです。いくら結晶化できるといっても無いものを凝らせることはできません。ですから考慮しなくても大丈夫です」
 視覚化した文字はここには無い情報の塊。その情報を此処で操作して、本来ある場所の内容を書き換える、言わば遠隔操作。現実に無いものに触れるには手段が必要だ。権限がいる。資格の無い人間に権限を分け与えるには資格者本人か同等の権利を持つ魔導書の認可が必要になる。更に言えば、魔導書は誰かに権限を与えれても、権限を持つことはできない。申請したり手続きや情報を行ったり運ぶことはできても、弄ることはできない。
「一体何故かのような事態が……」
 横たわる破名を覗きこむフレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)に「クロフォードまたお前か……」とベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)は呆れた。
「先に続きこの度起きている事情も解りませぬが、クロフォードさんがお困りなご様子には変わりませぬ」
「あぁ、まぁ、そうだが」
「キリハさん! でしたか?」
 呼ばれて、ダリルと二人命令文の内容を探していた手引書キリハは振り返った。
「はい」
「今は貴女様に助太刀する事に専念させて頂きたく、私達に出来る事であれば何なりとお申し付けくださいませ」
 両手をぐっと握り宣言するフレンディス。
 その横には変わらず不機嫌気味の表情をしているレティシア・トワイニング(れてぃしあ・とわいにんぐ)
「我としてはあそこで暴れている連中を相手にしたいものだが、まず『それ』を何とかせねばならぬのだろう?」
 古代文字をそれと示し、やむを得まいと戦乙女はフレンディスに付き合うことを決めた。
「無論。これが片付いた上で暴れる者が居た際は存分に戦わせて貰うぞ」
 と、体を張る勢いの女性陣にベルクは「止めてももう遅ぇか」と諦めの境地だった。
「絶対に無理するんじゃねぇぞ?」
 と釘を刺すのを忘れないベルクに手引書キリハは「お優しいんですね」と微笑んだ。
「安心してください。トラブルへの対処です。融通が効かないので火傷をするかもしれないですが、危険ではありません」
「そうなのか?」
「はい」
 そんな二人のやり取りの裏で、
「ああ、サクラにモミジ」
 連れ歩くニャンルー兄妹を呼び寄せたレティシアは、ベンチの方を指さした。
「ここは危な……(こほん)もとい、主らはそこのベンチで二日酔いの如くグロッキーな男の護衛任務を与えようぞ」
 結晶化の矢が飛んでくる。リース達が安全を確保しているとは言え、もっと安全な場所に留めておきたい。多分であるがあのベンチ周辺が一番安全そうだとレティシアは判断を下していた。
「えっと、えっとね。パズルを動かせば……いいんだよね?」
 火傷対策に氷術をかけて冷やした革手袋を手に嵌めたネーブル・スノーレイン(ねーぶる・すのーれいん)は、その冷たさに顔を顰めた。
「はい」
「キリハさんの指示に従って?」
「時間がありませんので分担することになります。流石に一斉指示はできないので、ガイドを用意します。パズルと言っても文字の形合わせですからね。口で言うより見て操作した方が早いかなと思うのです」
「うん。 ……あ、でも、間違えたりとかしたら、クロフォードさんが暴走しちゃったり、する?」
 パズルとかガイドに合わてとか聞いて、ネーブルは不安を覚えた。そんな彼女に手引書キリハは両手で自分の胸を押さえる。
「もっと気を楽にしてください。でないと私が緊張してしまいます」
「え……そう、なの?」
「トラブルへの対応は本来クロフォードの役目で、私はいつも見ていただけですから。皆様が緊張すると私も緊張してしまいます」
 そうなんだと、ネーブルは弱々しく笑う少女に自分がしっかりしなければと冷たい手を緩く握った。
 ふ、と。破名の方へ視線を向ける。
「……クロフォード、さん。頑張って……。皆、一生懸命クロフォードさんを助けようとしている、よ?」
 囁きは吐息よりも小さく。ネーブルは祈りを込めた。
「小僧の後始末……か」
 面倒ばかり引き起こす悪魔の後始末というのが些か気に入らないが、興味のある分野だったことが、『ダンタリオンの書』を動かす理由になった。
 他の人間よりは文字について理解があり、問題ないと、これに参加した次第であった。
「貴様は操作せぬのか?」
 口惜しいが専門であるらしい手引書キリハが、説明だけで自分からは何もしない姿に首を傾げた。
「権限を持つことを許されておりません。仮に権限があったとしても触れた瞬間燃え上がります」
 多くを許されているが、これだけは手引書キリハにとって禁忌に等しかった。
 だから他の者の手が必要であったのかと『ダンタリオンの書』は理解する。
 全員の準備が終わったのを確認した手引書キリハは、
「パズル感覚で構いません。簡単な形合わせです。金色の文字を銀色の文字と同じように並び替えていただければと思います」
言うと、彼らの前に文字を運んだ。



 足止めに動く契約者達を敵と見做し、光の矢は増えていく一方だった。
「で、では頑張りましょう」
 安全な場所への移動が駄目なら、ここを安全な場所にしようとリースは考え、ラグエルとセリーナにぐっと拳を握ってみせる。
「あのぴかぴかをどうにかするんだよね?」
「そうねぇ、あの矢に当たると水晶になっちゃうからねぇ」
 ブリザードの氷の嵐で進行方向を変えるのにも限界があるし、別の方向飛んでいった矢のフォローもままならない。
「ラグエルもクロフォードお兄ちゃんの事守るの手伝う」
 見てて、とラグエルは空に向かって指を指し向ける。くるくるーとラグエルは指先に宿らせた魔力で子供らしい柔らかな曲線のルーン文字を空に描き出す。
 すると、ルーン文字の意味を宿らせて、ベンチ周辺を囲むように魔除けのルーンの結界が張られた。
「対象に当たれば水晶になっちゃうからぁ、私はこれかしらぁ」
 エネルギー体の強さがわからない。結界を支えるラグエルを楽にさせる意味でも脅威は減らしたほうが断然得策だろうと、セリーナは、先にリースを結晶化から護ったように虹色の舞で鷺草の花弁を喚び出した。
 これで邪魔は入らないだろう。