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おもちゃに無理やり意思を持たせたらこうなった。

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おもちゃに無理やり意思を持たせたらこうなった。
おもちゃに無理やり意思を持たせたらこうなった。 おもちゃに無理やり意思を持たせたらこうなった。

リアクション



その4




家族向けおもちゃコーナー


 将棋や麻雀、オセロ。他にもボードゲームや野球盤など、いろいろなものが作られているこのコーナーは、一見するとこれといった問題もないように見えた。
 勝手に動いている野球盤や、碁石がぶつかりあっている碁盤などもあるが、銃弾が飛び交っているような危険な状況ではない。

 だが逆にそういう場所だからこそ、コアが潜伏している可能性がある……酒杜 陽一(さかもり・よういち)は、注意深く辺りを見回しながら歩いていた。
「ばうっ!」
「よしよし、なにかあったか?」
「くーん」
「ないか……」
 彼は【シャンバラ国軍軍用犬】を連れ歩いていた。怪しげな匂いには反応するようにさせてはいるが、この場所には特にそういったものはないらしい。
「外れかな……」
 ふう、と息を吐いて口にしていると、
「あれ、陽一じゃない」
 人影が近づいてきていた。
 先ほどまで男の子向けコーナーにいたセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が、偶然にもこの場所に足を運んできていた。
「や、二人とも」
 陽一は軽く手を上げる。
「なにかありました?」
 セレアナが陽一に近づいてきて言う。
「いや、特には。野球盤とかミニエアホッケーとか、そういうのが勝手に動いているくらいだよ」
 陽一は野球盤の得点を見て答える。誰と誰が戦っているのかはわからないが、試合は九回にまでなっていた。
「ここは静かね……さっきの所とは大違い」
 セレンが息を吐いて言う。


「ほら、さっさと入りなさいよ!」
「お尻を蹴らないでよ!」


 三人で話していると、賑やかな声とともに誰かが飛び出してきた。
「陽一さん。それに、セレンさんたちも」
 風馬 弾(ふうま・だん) だ。お尻を押さえながら彼はそう挨拶する。
「ん? 誰かいるの?」
 ひょこ、っとエイカ・ハーヴェル(えいか・はーゔぇる)も顔を出す。三人の姿を確認すると、エイカは息を吐いて入ってきた。
「よかった。ついさっきまでいろいろと危なかったから、ここが比較的静かで助かったわね」
 エイカが言い、弾は曖昧に笑う。
「危なかった?」
 陽一が聞くと、
「着せ替え人形に服を脱がされそうになったり、大量のロボットが目の前を通過して行ったり。さっきなんて、本物の戦車につぶされそうになりましたよ……」
「その戦車、吹雪よ」
 セレンが言う。吹雪さんかあ……と弾はしみじみと口にした。
「呼んだでありますか?」
「うおっ!」
 陽一の近くにある機械の隙間から、突然葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)が顔を出した。
「吹雪さん、なにしてんの」
「スニーキングでありますよ。コアが見つからないように逃げ回っていることも考えて、見つからないように」
 吹雪の後ろからコルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)も顔を出す。
「ダメだわ……入れない」
 コルセアが言う。
「どうしたの?」
 セレアナが聞くと、
「そっち側が塞がってるでありますよ。隙間はあるんだけど、狭くて入れないであります」
 吹雪が答えた。見ると棚やら機械やらが倒れていて、部屋の一角が塞がっているようだった。
「隙間はどこ?」
「ここでありますよ」
 陽一がしゃがみこんで覗く。確かにわずかに隙間があるが、狭そうだ。
「その子はどうなんです?」
 エイカが陽一の隣でお座りしている犬を見る。
「ちょっと無理かな……ま、俺に任せてよ」
 陽一はスキル、【ちぎのたくらみ】を使った。陽一の体が小さくなってゆき、五歳くらいの少年の姿になる。
 そして隙間に体を滑らせ、奥へと入っていった。
「うん?」
 弾がなにかの気配を感じ、振り返る。
「どしたの弾、痴漢でもいた?」
「いや多分気のせいだよ……エイカは一体なんの心配をしてるの?」
 首を傾げながら弾は前を向く。が、弾の後ろにさまざまなものが浮かんでいるのに、気づいているものは誰もいなかった。
「なにもなかったよ」
 陽一が高い声で言う。そして【ちぎのたくらみ】を解除し、元の姿に戻った。
 その瞬間だった。


 ケラケラケラ、と、なにか笑うような声が響く。


「なに!?」
「誰かいるの!?」
 セレンたちが警戒していると、
「だ、弾たん、後ろであります!」
 吹雪が叫んだ。弾が「え?」と言って振り返ると、勝手に動いていたボードゲームたちが、弾の後ろに浮かんでいた。
「な、なんだよこれ!」
 弾が叫ぶ。
 笑い声を上げているゲームたちはケラケラと笑いながら光のようなものを発し始めた。
「これは!?」
「なに!?」
 それは皆の周囲に降り注ぐ。
「これは……【ちぎのたくらみ】に似てる?」
 陽一は先ほどまで自分が使っていたスキルと似たような感覚を覚えた。
「ふ、吹雪、体が!」
「わかっているでありますよ!」
 コルセアが吹雪の体の変化を見抜く。彼女の体は、小さくなっている。
「セレン!」
「あたしたちも!?」
 セレンたちも体がみるみるうちに縮んでゆき、陽一、弾、エイカも小さくなっていった。



 そして、気づけば全員が、人形くらいのサイズまでにまで小さくなっていた。
「無事ー!?」
 セレンが大声を上げる。
「なんとか」
 声は次々と返ってきた。全員大きさが変わっただけで、他に異常はなかったらしい。
「それにしても……なんなの、この力」
 セレンは立ち上がって、足元を見る。
 ――彼女はいつの間にか、線で囲われた場所に立っていることに気がついた。
「セレン……警戒して」
 セレアナはすでに何かに気づいているかのようだ。身構え、目の前の光景を見つめている。
「ちょっと……嘘でしょ」
 セレンも振り返った。
 彼女たちの前にはいくつもの駒が並んでおり……それらが全て、こちらに向いていた。
 彼女たちは、将棋盤の上に立っていたのだ。


「うわぁ!」
 コルセアは飛んできた黒い石を回避する。
「ほいっと」
 吹雪も左右から襲ってきた石を飛んで避けた。
「吹雪! ここは、」
「多分、オセロでありますね……」
 吹雪たちは線で囲われた、緑色の場所に立っている。そして、丸い石が彼らに襲いかかってきていた。
 石は大抵が二つセットで、左右、上下に、彼らを挟み込むようにして来ていた。
「挟まれたら負けであります! とにかく回避を!」
「言われなくても!」
 二人はぶつからないように距離を置き、飛んでくる石を避け続けた。


「こら、舐めるな!」
 人形サイズになった陽一を軍用犬がぺろぺろと舐めまわす。サイズ差から、舌で顔を包まれるほどになっていた。
「ここは……なんだ?」
 陽一は足元の部品……どう見ても野球のバットを目にする。
「なるほどな……」
 得点盤が動き出し、スコアを表示する。
「野球盤か」
 ピッチャーから放たれる銀色の玉を、陽一は横っ飛びで回避した。


「エイカ、ここは……」
「うーん」
 弾とエイカの目の前にはいろいろと指示の書いてあるマスと、遠くに見える「ゴール」の文字。
 近くに札束が置いてあり、中心部にはルーレットが置いてある。
「多分、お金持ちになるためのゲームでしょうね」
「なるほどね……僕たちはプレイヤー、というわけだね」
 弾たちに最初のお金が配られる。
「どうするんですか!?」
 弾は声を上げる。
「わかんないけど……とりあえずクリアするかい!?」
 陽一が叫ぶ。彼はしばらく玉を回避していると、勝手に「スリーアウトチェンジ」を宣言されていた。
「クリアしてなんとかなるの!?」
 『香』と書かれた将棋の駒を剣で弾き返したセレンが叫ぶ。
「どうやってクリアするんでありますか!」
 吹雪たちは相変わらず避け続けていた。
「弾さんたちは簡単にクリアできそうですね!」
 コルセアが叫ぶ。
「まあ、ゴールは見えてるからね」
 弾は決心したのか、ルーレットの近くまで行ってそれを回す。
 出た数字に合わせてスタートから歩を進め、最初の指示を見た。


『下半身を露出して捕まる。五百万払う』


「弾……」
「なんかスタート近くからずいぶん変なマスがあるね! なんか古傷をえぐられるんだけど!?」
 弾は所持金の半分を支払って叫んだ。
「古傷もなにも、ちょっと前の話よね……」
「なにも言わないで! 温泉のことはやっと忘れかけてるんだから!」
 息を吐いてエイカもルーレットへ向かう。そして出た数字に合わせて進んでゆき、弾を追い抜いてその次のマスへ。


『政治家になる』


「あは、ラッキー」
「一マス違いでこの差はなんなの!? かたや変態の露出狂でかたや国を動かしてるよ!?」
「とりあえず弾、死刑」
「権力の乱用だ!」



「ずいぶんと楽しそうね!」
 セレンは歩を弾き返して叫ぶ。
「セレン、気をつけて、桂馬!」
「桂馬!?」
 セレンの右側から接近してくる駒があった。身構えてそれを弾き返そうとするが、
「あ、あれ?」
 それはセレンの頭の上を越えていった。
「確か桂馬って……変な動きするんだっけ?」
 将棋で桂馬は特殊な動きをする駒だ。セレンの立っている位置は、偶然にも通り過ぎる位置だったらしい。
「ちゃんとしたルールにのっとってるわけね。なら、王を倒せば勝てる!」
 セレンは叫んで、対処法がわかったことに笑みを浮かべた。
「ルールにのっとってる……?」
 が、セレアナはその言葉になにかを感じた。
「まずい!」
「え?」
 セレアナが叫んで振り返った。セレンもなにごとかと振り返る。
「なに!?」
 将棋のルールとして、相手の陣地に入った駒は裏返しになり、動きが変わるというルールが存在する。セレンたちの横を通り過ぎていった駒のほとんどが裏返しになり、二人を取り囲もうとしていた。



「ルールにのっとってる?」
 吹雪もその言葉を聞いていた。
「コルセア! こっちに来るでありますよ!」
「どうしたんですか?」
 回避しつつコルセアは叫ぶ。
「ルールにのっとってるなら、」
 吹雪はコルセアの近くにまで走りより、コルセアを襲おうとしていた黒い石を手で押さえ、対極の位置に立つ。
「きっと!」
 そうすると、黒い石は裏返しになった。白い石がその場に落ちる。
「そっか! ワタシたちは白なのね!」
 コルセアもそれに気づく。
「となると話は早いでありますよ!」
 吹雪はコルセアとともに、向かってくる石に駆けた。
「フィールド全てを、」
「白くするであります!」
 そして、飛んでくる黒い石を挟み込むように動いた。


「おりゃ!」
 陽一もルールにのっとって、というのを考慮し、バットを握って振るっていた。飛んでいったボールはまっすぐ飛んでゆき、「ホームラン」と書かれた場所に入る。
「さあ、コールドゲームにしてやるぜ!」
 すでに点差は十点差近くにまで開いている。
「へいへい! ピッチャーびびってる!」
 なんかかんか言いつつも、彼も楽しそうにバットを振るっていた。



「また双子が生まれた! もう六人目なんだけど!」
 弾は赤ちゃんを六人抱えて叫んだ。
「そりゃ、弾の大きいのに貫かれれば妊娠もするわよ」
「コメントしづらいこと言わないで! 僕は普通サイズだからね!」
 エイカはお祝い金を弾に渡す。
「あたしなんて独身よ……一生独身のまま、あたしは政治の世界に生きるわ」
 エイカはいつの間にか総理大臣になっていた。
「とりあえず弾、死刑」
「権力の乱用だってば!」
 弾は子供をあやしながら叫んだ。


「セレアナ!」
「くっ!」
 周りの駒の隙間から飛び出てきたのは『飛』の駒だ。将棋の中では移動範囲が広い駒だ。セレアナは突進をなんとか剣で抑えた。
「囲まれてるわよ……どうするの?」
 二人は背を合わせて構える。
 裏返しになった駒も合わせ、彼女たちはほとんど囲まれている。
「ルールにのっとってるんだ!」
 野球盤の上から陽一が叫んだ。
「倒した駒は仲間にできる! そういうルールだよ!」
 すでに試合は終わっていた。『WIN』という文字が陽一の上に輝いている。
「仲間に?」
「それよ!」
 セレアナは叫ぶ。
「倒した駒は自分のものにできるっていうルールよ! 今まで倒した駒は、こっちの味方になっているはず!」
「だったら!」
 セレンは手を掲げた。
「今まで倒したやつ、来い!」
 セレンがそう叫ぶと、彼女たちの頭上から駒が降ってくる。セレンたちが弾き飛ばした駒が、彼女の周りに集まってきていた。
「道を開くわ! 手を貸して!」
 続けて叫ぶ。それぞれの駒はそれぞれの動きで、セレンたちの周りの駒へと突進して行く。
 わずかに開いた隙間から、セレンたちは敵の陣地へと突進していった。見えてくるのは『王』の駒。それを倒せば、勝ちだ。
 王の周りに並ぶ駒を一個一個排除し、道を開く。
「セレン!」
「ええ!」
 飛んできた『角』の駒を弾き、セレアナが叫ぶ。セレンが前に出て、『王』の駒の前に立った。
「チェックメイト!」
「それチェスよ」
 そして叫んだセレンにセレアナが言った。
 


「かどはとった!」
「これでこっちのものであります!」
 吹雪とコルセアは叫んだ。オセロにおいて、四隅は絶対に奪われることがないため、とっておくと大幅に有利になる。そのほとんどを、二人は確保していた。
「そして、」
「ラスト!」
 最後のかども確保する。
 いつの間にかオセロ盤はほぼ真っ白に染まっていた。吹雪たちの圧勝だった。


 そして、吹雪たちが勝利すると、皆の体が光り輝きだす。
「ばう!」
 皆の姿は元に戻った。軍用犬が陽一に駆け寄った。
「みんな、無事だったみたいだな」
 陽一が犬を撫でながら言う。
「なんとかね……危なかった」
 セレンは息を吐いて言った。
「あたしが一代で築き上げた財産が……」
「いやあれただのゲームだから」
 エイカはゲーム中、総理大臣として大金持ちに。弾は決してお金持ちではないが、子沢山だった上、旅行に行ったり食事に行ったりと、幸せな生活を送っていた。
「典型的な『お金持ちだけど幸せになれない』人生だったわ」
 エイカが言い、笑い声が響いた。
「しかし妙でありますね。彼らは一体なにがしたかったんだか」
 吹雪が言う。「確かにね」とセレアナが同意した。
「遊びたかっただけ? 遊んで欲しかっただけというべきか」
 陽一が続ける。
「こういうゲームなんて、今はほとんどやらないからね」
 コルセアもそう言って、地面に転がって今は静まり返っているボードゲームなどを眺めた。
 電子的なゲームや、インターネットの普及。そういったものがあるため、こういった種類のゲームはあまり遊ばれるものではない。
 そういったゲームたちの悲痛な叫びがこの現象だったのだとしたら――なんというか、考えさせられることも多くある。そんな、不思議な現象だった。
「たまーに、こういうので遊びたくなるけどね」
 セレンは言う。「そうだな」と陽一が頷いた。
「機会があったら、みんなでやりましょうよ。今度は僕が大金持ちになってやる」
「負けないわよ。今度こそ弾を死刑に」
「そんな権限ないから」
 弾とセレンのやりとりに、皆が笑った。