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学生たちの休日12

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    ★    ★    ★

 できあがった料理は、紫月睡蓮によって次々とメイン宴会場である広間へと運ばれていきました。広間の方では、リーズ・クオルヴェルが待ち構えていて、細々と対応をしています。
「何か、天井が騒がしいな。ねずみか?」
 まるで水のように酒をがぶ飲みしていた朝霧垂が、ふいに天井を見あげて言いました。ちょうど、及川翠たちが天井裏で騒いでいるときです。
「て、天井……裏? た、たぶん、気のせいじゃないのかな、ははははは……」
 何やら後ろめたい紫月唯斗が、笑ってごまかしました。まさか、すでに取り返しのつかない状態になっているとは、夢にも思ってはいません。嫌な予感がしたのか、そそくさといったん姿を消します。
「唯斗兄さん、どこですか? 観念して出て来なさい!」
 そんな紫月唯斗を探して、紫月結花が広間を駆け回っています。
「やはり、冬は炬燵に限るな」
 まったりと炬燵でくつろぎながら、ドクター・ハデスがちびちびとお酒を飲み始めています。紫月結花のことは、見て見ぬふりです。どうせ止めても無駄ですから。
「まったく、アルミナたちはどこまで行ってしまったのか」
 炬燵でずずずずとお茶を啜りながら、辿楼院刹那がつぶやきました。
「うちの奴らも、好き勝手にどこへ行ったんだか。まあ、いいか。だいたいあいつらにつきあって、一年間アワビを焼いてばかりいたような気もするしな」
 もうアワビはたくさんだと、セリス・ファーランドがおせちをつまみます。
「お菓子、お菓子♪ プリンはないのかなあ」
 デメテール・テスモポリスは、お菓子集めに夢中でした。どうやら、この屋敷にあるお菓子は、全部自分の物だと思っているようです。
 そのとき、ミリア・アンドレッティの携帯に写メが着信しました。
「こ、これは……」
 その写真を見た二人が、思い切り顔を引きつらせました。
「これが重婚のスキル……。これを見たら、翠ちゃんにも、重婚の本当の意味が分かってしまうわね」
 これだけたくさんの女の人に手を出しているのであれば、デートの相手に困らないはずです。さすがは忍者さんです。
「どうしたのですか、わたくしにも見せてください。……まあ」
 何を見ているのかと、ノルン・タカマガハラがミリア・アンドレッティの携帯を取りあげて写真を見ました。
「きゃー、凄いですわ、凄いですわ」
 顔を赤らめてノルン・タカマガハラが叫びます。
「どうかしたのかな」
 ちょうど料理を運んできたエクス・シュペルティアが、ミリア・アンドレッティたちに訊ねました。
「これを見てくださいませ」
 ああ、ノルン・タカマガハラがエクス・シュペルティアにその写真を見せてしまいました。
「何々、どうしたの?」
 何かを察したのか、リーズ・クオルヴェルや紫月睡蓮、紫月結花、デメテール・テスモポリス、辿楼院刹那ら、女性陣の大半が集まってきてそれを見てしまいます。
「ああ、この写真か。これはあれじゃな、前に紫月が自慢げに打ち明けてくれたときの写真じゃな。次のは、二人でヴァイシャリーに仕事と偽って旅行したときの物じゃろう。ああ、次のは、娘に会いに行ったときの物だと聞いていたのう。大きくなったものじゃ。おや、みんな、どうしたのかな?」
 辿楼院刹那が、次々に写真の解説をしていきました。もちろん、全部口からでまかせです。面白ければいいんです。
「後で家族会議ですね」
 怖い顔で、エクス・シュペルティアが言いました。紫月唯斗、最大のピンチです。けれども、これはまだ上げ底で、まだまだ奈落の底が待ち受けているのでした。
「酒がねえぞ。どこに隠してやがる……そこかあ!」
 宴会場の酒を飲み尽くしてしまい、酔っ払った朝霧垂が壁を蹴り飛ばしました。とたん、何かのスイッチが入ったのか、壁がどんでん返しとなって隠し部屋が現れました。中には、何やら秘蔵の高い酒がならんでいます。隠し酒蔵だったようです。しかも、そこには及川翠たち探検隊が辿り着いていました。
「え、ええっと……。お宝を探していて、とんでもない物を見つけてしまったー。どーしよー」
 お酒を開けようとしていた及川翠が、もの凄い棒読みで言うと、天井裏で見つけたムフフ本を周囲にばらまいて人々の注意を引きました。それには目もくれず、朝霧垂がうまそうな酒に手をのばしました。
「どーしよーもなにも、これだけの数は持って帰るのは大変だな。だとすれば、答えは一つ、飲むだけだ」
 もの凄く嬉しそうに朝霧垂が言いました。きっと、全て飲み干すつもりです。
「こ、これは……。唯斗ったら、まだこんな本を隠して……」
 すぐさま持ち主を理解したエクス・シュペルティアが眉尻を釣り上げます。
「こんな本を見なくても……」
 なんとなく、不穏なセリフをリーズ・クオルヴェルがつぶやきます。
「なんということ。まったく、油断も隙もないわ。でも、ここパラミタは重婚もオッケーとのことだから、きっと血の繋がった兄妹でも結婚することができるはず。もうのんびりとしてはいられないわ。すぐにでも、この婚姻届に血判を押させなくっちゃ……」
 この展開に、紫月結花がポケットから真新しい婚姻届を取り出して叫びました。
「はっ、この殺気は……」
 何やらただならぬ殺気を感じて、紫月結花が周囲を見回しました。紫月睡蓮が、怖い顔でこちらを睨みつけています。
「結花さん! そーいうのはよくないと思います! 妹を自称するなら、もう少し慎ましくですね……」
「自称じゃないわよ!」
「そういうのは、自動的に自称になるんです。そうに決まってます!」
「だから自称じゃないったら!」
「むー、あくまでも言いはるつもりですね。兄さんの平和は、この私が守ります」
 そう言うと、紫月睡蓮が祈りの弓を取り出しました。
「やるって言うのね、表に出ましょう!」
 そう言うと、紫月結花が紫月睡蓮と共に庭に出てバトり始めました。
「いったい、なんの騒ぎだ?」
 さすがに騒ぎに気づいて、紫月唯斗本人が追加のお菓子を持って現れます。隠れていればよかったものを……。
「わーい、唯斗ししょー。ししょーはもらったー!」
 そう言って、デメテール・テスモポリスが紫月唯斗にだきつきました。もちろん、目的は紫月唯斗などではなく、彼が持っているお菓子です。紛らわしいですね。
「ちょっと、何をしてるのよ! 唯斗は渡さないんだから」
 それに気づいた紫月結花と紫月睡蓮が同時に叫びます。
「成敗!」
 問答無用で、紫月睡蓮と紫月結花とエクス・シュペルティアとリーズ・クオルヴェルが紫月唯斗をシバキ始めました。
「おかしーおかしー、んーっと、プリンもほしーなー。プリンー」
 さりげに、巻き込まれるのを回避したデメテール・テスモポリスが台所へと移動していきました。
「そこの者、科学者とお見受けした。この図版の意味を解析できないであろうか」
 そんな騒ぎをよそに、突然炬燵の中から姿を現して、マスク・ザ・ニンジャがドクター・ハデスに訊ねました。
「はあ、こんな物、世界征服の役になんてたたないじゃないか。ヒック」
 酒に弱いドクター・ハデスが、顔を真っ赤にしながら言い返しました。
「いいか、世界征服という物はだなあ……」
「ええと、また今度話を聞かせてもらおう。ちょっと、そこのおなごたち、この写真について……」
 なんだかくだを巻き始めたドクター・ハデスから逃げるようにして、マスク・ザ・ニンジャはエクス・シュペルティアたちの火に油を注ぎに行ったのでした。
「まあ、適当なところで許してやれ」
 さすがに見かねて、紫月唯斗の秘蔵の酒をがぶ飲みしながら朝霧垂が言いました。
「そうでなくても、紫月の奴は、俺に乗っかってずいぶんと疲れているんだ。俺だって、毎度毎度激しいんで、ヒーヒー言っているけどな。まあ、お互いのタイミングがうまく合わないというか、感じ方が少しずれているというか。やっぱりこれじゃいけないよな。どうだ、紫月、また俺に乗らないか?」
 朝霧垂が言いました。もちろん、イコンのことです。朝霧垂の馬型イコンである黒麒麟は、紫月唯斗のイコンを載せることを前提として作られているイコンなのでした。そのため、よく二人でイコンの合体訓練をしています。
 が、当然、誤解した女性陣は、さらに紫月唯斗をボコボコにしていったのでした。